NTTドコモが2018年度の第3四半期決算を発表した。売上高を示す営業収益は3兆6,541億円、営業利益は9,020億円で増収増益だった。増収増益を支えたのは、ドコモ光などの光通信サービス収入であり、モバイル通信サービス収入は197億円減となった。
同社は2019年度第1四半期(4~6月)に、2~4割の値下げを含む新料金プランの提供を予定している。そのため主力の携帯事業はさらなる減益となる見込みで、今後の戦略に注目が集まっている。決算会見での吉澤和弘社長の発言から、同社の戦略を読み解きたい。
「分離プラン」は今後の端末販売数にどう影響?
今期の決算では、携帯電話契約数が前年同期比2%増の7,752万契約となり、解約率は同8ポイント減の0.55%まで下がり、ARPU(1ユーザー当たりの月間平均収入)も同80円増の4,830円と多くの指標で拡大したが、端末販売数自体は597万6,000台と同47万6,000台の減少だった。
しかし、吉澤社長は「落ちているとは思えない」という認識。減少は、「ケータイ補償で端末交換などの数が減ったから」(吉澤社長)だという。とはいえ、今期は端末販売自体を維持したものの、それが継続するかは不透明な状況だ。
その背景にあるのが「分離プラン」だ。端末代金と通信料金を分離し、端末代金を割り引いて通信料金で補填するという料金プランを禁止するというもので、総務省が1月17日に「緊急提言」としてまとめており、従来以上に「完全分離」という形で徹底が求められている。
高まる「値下げ圧力」、総販売数は落ちる見込み
完全分離と合わせて政府から通信料金自体の値下げ圧力が強まったことも影響し、ドコモでは、2019年度第1四半期に新料金プランを発表する予定だ。人によって2~4割の値下げになる規模で、最大4,000億円の減収を見込む。プランの発表は第1四半期早々にも行うが、実際のプラン提供はその後になる、と吉澤社長は説明する。
ユーザーのプラン変更タイミングなどもあって、4,000億円という最大規模になるのは2020年度というのが同社の予測で、開始当初の19年度はそれよりは低くなる見込みだが、いずれにしても大幅な減益に繋がることは間違いない。
それに加え、完全分離によって端末代金への割引が難しくなる。もともと、最近の料金プランは端末代金のサポートという形で通信料金を割り引くプランが一般的だが、こうした手法が否定されるため、「正価で買い取ってもらうのが基本」(同)とする。
現在、ハイエンド端末だと10万円を超える端末もあるが、これに対して値引きがなくなるため、端末販売への影響は大きいと見られる。吉澤社長も「お客さんから見たときに端末の値段は高くなる」「全体としての(端末の)総販売数はある程度落ちるのかと思っている」という認識だ。
購入補助偏重からの転換、中古端末推進には否定的
こうした状況に対して吉澤社長は、docomo withで4万円以下の端末を提供しており、ミドルレンジの端末をさらに拡充するという方策を示す。さらに、買い替えサイクルがさらに延びるとみており、端末を長く使ってもらえるような施策を打ち出し、ドコモユーザーの長期利用を目指す考えだ。
また、高齢者を中心にスマートフォン移行が進みきっていない点を挙げ、スマホの使い方や便利な利用法などを説明してリテラシーの向上を図って移行をさらに進展させたい考えで、こういった点で、全国のドコモショップの貢献に期待を寄せる。
「フラッグシップの端末はそれなりの値段はするので、アイデアで買いやすくできないか」と吉澤社長。同時に、「まったく端末の購入補助がないというのはありえない」(同)という見解も示し、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行での端末優遇を想定する。また、発売後1~2年経った端末については「世の中の商慣習に沿う形での値引き」はありえるという認識だ。
「過度な端末補助にはならないだろうし、するつもりもない」とも説明しており、ドコモでは、今後も新しい端末の購入施策について検討を続けていく姿勢が見てとれる。
総務省では、中古端末市場の活性化を目指して施策を打ち出している。しかし、吉澤社長は従来と変わらずドコモとしての中古端末の取り扱いについては否定的だ。基本的には、4万円以下のミドルレンジの端末の取り扱いを増やし、端末販売へのインパクトを抑える方針を示す。
ちなみに、最近話題になっている中国ファーウェイの問題については、ドコモ自身はネットワークで製品を採用しておらず、端末のみを販売している。「政府の動きはしっかりと受け止め、注視をしている。そこに動きがあれば対応する」と吉澤社長。現状は同社の調達ルールに基づいており、LTE対応のスマートフォンなどの端末は販売継続という方針に変更はないとしている。
KDDIはドコモの料金値下げに対抗する構え
こうしたドコモの戦略に対して対抗意識を見せるのがKDDIだ。1月31日の決算会見に登壇したKDDIの高橋誠社長は、「ドコモが(KDDIの料金プランよりも)さらに踏み込んできたら対応していきたい」という考えを示す。
KDDIは、分離プランとなるピタットプラン・フラットプランを2018年から提供しており、これによって「3,800億円ぐらい還元してきた」(高橋社長)。これによってau通信ARPA(1ユーザー当たりの月間売上)は減少を続けてきたが、2018年度第3四半期には減少幅は同0.7%で下げ止まり、第4四半期には反転する見込み。これは、キャンペーンの影響が一巡し、大容量データの利用者増などが増加した結果だとしている。
高橋社長は、すでに提供しているピタットプラン・フラットプランで分離プランはカバーしており、ドコモの2~4割値下げするという新料金プランの動向を見守る考え。3,800億円という同社と同等のプランであれば静観の構えだが、これをさらに上回る値下げ幅であれば対抗していく意向だ。