“日本のなかの外国”ニセコで進むゲレンデの安全管理

“日本のなかの外国”ニセコで進むゲレンデの安全管理

2019.01.30

日本のブランド雪「ジャパウ」を求めニセコに集まる外国人

スキースクール向けのTREK TRACK BIのおもな役割とは?

「いびつな観光産業」が浮き彫りになっているニセコ地区

北海道・ニセコ地区。スキー・スノボの名所であるこの地区は、多くの外国人スキーヤーが訪れる場所でもある。なぜならば「日本の雪」、とくに北海道の粉雪は世界屈指の“ブランド雪”として知られているためだ。「ジャパンパウダー」(ジャパウ)という名で親しまれている。

晴れていたと思ったら、急に降雪になる。実は“雪が降りやすい”ことが、新雪を味わいたい外国人スキーヤーを惹きつけるひとつの要因

バックカントリーを目指す外国人スキーヤー

だが、大きな課題もある。それは、外国人スキーヤーが多いからこそ起きる問題だ。「バックカントリー」といわれる、ゲレンデ以外の場所を滑るスキーヤーが外国人には多いため、遭難の危険が高いのである。確かに“ふわふわの新雪”を滑るバックカントリーの魅力は大きいだろう。だが、一歩間違えれば、遭難する確率が高いことも否めない。つい先日もポーランド国籍の7人が富良野のバックカントリーで遭難し、救助されたばかりだ(全員無事に救助された)。

こうした遭難の対策として、昨シーズン、新潟県のかぐらスキー場で導入されたのが博報堂アイ・スタジオの「TREK TRACK」。これは、デバイスの位置情報を遠隔地から確認できるというもの。万が一遭難してしまった場合、位置情報やSOSを緊急連絡先(スキー場管理者など)に知らせることができる。スキーの現場だけではなく、夏の登山でも活用されている。

スクール加入で貸与されるTREK TRACK BI

信号を発信することで遭難対策になるTREK TRACK BI

そのTREK TRACKに「TREK TRACK BI」が追加された。「BI」とは「Business Intelligence」の略で、その名のとおりB2B向けのサービスだ。これまでのTREK TRACKは、個人が借用を申し出て、それを受けてスキー場などからデバイスが貸与されるというスタイルだった。だがTREK TRACK BIはスキースクールなどにデバイスを提供し、そのスクールが利用者に貸すというスタイルを採る。つまり、これまで任意に申し込まれていたデバイス使用が、スクールに入会することでサービスの一環として貸与されることになる。

スクールのインストラクターもほぼ外国人。スクール入会時、参加者はTREK TRACK BIを装着する

このTREK TRACK BIの運用を始めたのは「二セコHANAZONOリゾート」(以下:HANAZONO)と、キロロリゾート内 「キロロマウンテンクラブ」だ。これらのエリアはバックカントリースキーが盛んな地区で、ゲレンデ以外の滑走範囲も広大。それだけに、スキーヤーの遭難という事故がいつ起こるかわからないという側面を持ち合わせている。

さらに、前述したように、「ジャパウ」を求めて来日した外国人は特にバックカントリーの新雪を楽しみたいという欲求が強い。オーストラリアやニュージーランドなどから訪日した彼らは、長期休暇を利用して長く滞在し、そしてバックカントリーといった“少しムチャ”な区域での滑走を楽しむ。ニセコはそうした外国人スキーヤーにとって“天国”ともいえる場所なのだ。

そうした訪日客の特性や立地にあるからこそ、ニセコやキロロでのTREK TRACK BIの活用が大きな意味を持つ。ただ、TREK TRACK BIは、単に遭難しそうなスキーヤーのためのデバイスではない。こどもたちの居場所を3Dで可視化することにより、保護者に安心してもらうというのがおもな役割だ。

ゲレンデの様子を立体表示(左)。デバイスを身につけたスキーヤーの航跡もチェックできる。また、「Go Pro」と連動させ、スキーヤーの視界を映すことも可能だ

家族で来日して、こどもをスクールに預け、それを管理者がチェックできるので、保護者が安心できるというわけだ。

TREK TRACK BIの導入を決めたスキー場の声

日本ハーモニー・リゾート ジェネラルマネージャー 上林宣夫氏

実際にTREK TRACK BIを導入したHANAZONOに話を聞いてみた。HANAZONOを運営する日本ハーモニー・リゾートのジェネラルマネージャー 上林宣夫氏は「これまでHANAZONOで、遭難事案は起こっていない」と前置きしたうえで、導入の背景を語った。

「これまで遭難事案が起こってなかったとしても、やはり、スキー場運営の事業者は安全管理・迷子防止へのオペレーションが不可欠」であり、「バックカントリーを楽しむ外国人が増えれば増えるほど、こうした対策に力を入れなければならない」のだという。

現状はまだTREK TRACK BIを導入したばかりなので、スキースクール向けで使っているが、いずれはバックカントリーの安全確保に用途を広げる可能性もあるだろう。

また、管理外の領域を滑ることを、HANAZONOは肯定も否定もしていないそうだ。これは各スキー場のスタンスによるらしい。同じ北海道のスキー場でも、ゲレンデ以外での滑走をよしとしないところもあれば、HANAZONOのように「ゲレンデ以外の滑走は、推奨はしないけれども、止めもしない。あくまで自己責任」(上林氏)というスタンスのところもある。

冬期のニセコが抱えるもう1つの課題とは

歩行者は、ほぼ外国人というニセコの通り

さて、ニセコには外国人が多いと前述したが、どのくらいなのだろう。夜間にニセコの街を散策して目視したところ、“外国人9割、日本人1割”ぐらいに感じた。飲食店は外国人であふれ、ある店員さんによると朝まで予約が詰まっているとのことだ。また、飲食店が少ないためか、街の中心に位置する「セイコーマート」には、30~40人の外国人がレジ待ちで列を作っていた。以前、あるスキー雑誌の編集長にインタビューした際、“冬のニセコは日本にある外国”と表現していたが、まさにそれを実感した。

実はここに問題もあるように筆者は感じた。「観光客の構造がいびつ」なのではないかと思う。「観光客が集まる冬期のニセコはいい。夏期になると観光客がグッと減ってしまい、宿泊業や飲食店などの雇用維持が断続的になってしまう」と、ニセコ関係者は話す。そのためには、日本人観光客に冬期以外にもきてもらうための観光資源が重要だと指摘する。

これだけ外国人観光客に支持されているニセコだ。筆者はてっきり成功を収めているリゾート地なのだと思い込んでいたが、多くの課題が積み上げられていた。今後もニセコがジャパウを楽しむ観光地であり続けるためには、夏場の集客にも力を入れなければならないだろう。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu