敗北宣言!? 「コルタナはアプリやスキルでかまわない」というMicrosoftの真意

山下洋一のfilm@11 第4回

敗北宣言!? 「コルタナはアプリやスキルでかまわない」というMicrosoftの真意

2019.01.28

Windows 10のプレビュー版で検索ボックスからCortanaを分離

スマートスピーカー市場で競争しない道を選んだMicrosoft

CortanaはMicrosoftの強みを発揮できるデジタルアシスタントに

「コンシューマ向けMicrosoft 365」発表への布石か?

Googleの「Google Assistant」やAmazonの「Alexa」に対抗するデジタルアシスタントとして、鳴り物入りで登場した「Cortana」が、このところ存在感を薄めている。Microsoftによるスマートスピーカーが登場せず、Windows 10 Mobileからの撤退でCortanaが活躍できる場が1つ減り、そしてWindows 10でも1月中旬にInsider Previewビルドで検索ボックスからCortanaを分離した。

そうした中、1月後半にMicrosoftが少数のメディア関係者を集めて行ったミーティングにおいて、CEOのSatya Nadella氏がCortanaの位置づけが変わったことを認めた。スマートスピーカー市場でAlexaやGoogle Assistantとシェアを競うことはない。Cortanaはアプリやスキルで充分であると断言した。

1月のプレビュー版(Insider Preview)でWindows 10デバイスの重要なツールである検索ボックスからCortanaを分離。それぞれの機能を目立たせる改善としているが、Cortanaの役割り縮小と見る向きも

Cortanaは負けたのか?

The Vergeが「CortanaをAlexaやGoogle Assistantの競合と見なさなくなったMicrosoft」と報じるなど話題になったのでご存知の方も多いと思う。そうしたニュースのタイトルや、切り取られたNadella氏の発言だけを読むとMicrosoftの敗北宣言のようにも映る。

だが、MicrosoftはCortanaをあきらめたわけではない。デジタルアシスタント普及の第1ラウンドが終了し、そこでポイントを取れなかった反省から、より長期的な視点でデジタルアシスタントに取り組み始めた。「Microsoftの強みを活かせるデジタルアシスタント」を起点に、戦略を大胆に見直した。キーワードは「選択」と「プラットフォーム」である。

「ソフトウエア企業であるという理由だけであらゆる分野に参入しようとして、Microsoftは多くの失敗をしたと私は感じています。TAM (Total Addressable Market: ある製品の最大市場規模)が大きいというのは参入の理由になります。しかし、貢献できる何かユニークなものがなければうまく行きません」(Nadella氏)

参入する分野や市場、開発する製品、開発手法などを選択する際に基準となるのが企業のアイデンティティであり、Nadella氏はそれを「ユニーク」と表現していた。Microsoftの"強み"とも言えるが、もう少し広義であるように思う。現在、Microsoftの強みはビジネスおよびエンタープライズの側にある。その強みを活かせることが、コンシューマ側の選択に影響する。

「コマーシャルに大きな強みを持ちながら、相乗効果を持たせられるところにはコンシューマ側にも足場を築いていますが、参入するカテゴリーについては我々がユニークさを発揮できるか、慎重に見極めなければなりません」(同)。

たとえばXboxはコンシューマ向けの事業だが、Azureによる開発環境や実行基盤がゲーム市場において年々役割を広げており、Microsoftがコンシューマ向けに事業を展開する価値がある。その視点で、スマートスピーカーはMicrosoftがユニークさを発揮できるカテゴリーではないと判断した。

すでに形になっているのが、昨年8月に一般プレビューが始まったCortanaとAmazonのAlexaの相互接続である。AmazonのEchoシリーズのスマートスピーカー/ディスプレイにCortanaのスキルを提供し、Echoデバイスで「Alexa, open Cortana」 というように頼んでCortanaを呼び出してもらって、EchoデバイスでCortanaを利用する。相互接続なので、Windows 10デバイスでCortanaにAlexaを呼び出してもらうことも可能だ。

「Alexaユーザーが呼び出せるようにCortanaを価値のあるスキルにした方が良いのか、それともAlexaと (スマートスピーカー市場で)競争すべきなのか。Microsoft 365ユーザーのために、Cortanaがそうしたスキルになる必要があると判断して前者を選択しました」(同)

AmazonのAlexaとの相互接続を実現したMicrosoft、Google Assistantなどスマートスピーカーの他のデジタルアシスタントとも同様の連係を実現する準備があるとしている

使い続ける理由が必要

重要なのは「これからもユーザーがCortanaを使い続ける理由」だ。それがあれば、Alexa経由で人々はCortanaに接続する。逆に、Cortanaを使う理由がなかったら接続に価値はない。

Microsoftは、同社の強みである生産性を向上させるソリューションとして、デジタルアシスタントをデバイスではなくプラットフォーム、つまりMicrosoft 365に統合された存在に変えようとしている。

好例がBuild 2018で披露した「モダンミーティング・デモ」だ。会議に参加する人がミーティング・ルームに入ると、デジタルアシスタントが入室した人を自動認識して挨拶する。会議中も発言者を認識し、発言を分類しながら自動的に文字に起こして議事録を作成。リアルタイムの翻訳も可能だ。またミーティングから出てきたToDoも自動的にメモしてタスク化してくれる。

これらはデジタルアシスタントを導入したからといって実現するソリューションではない。プラットフォームとデジタルアシスタントの統合的なデザインによって可能になる。

それはビジネスの話であって、コンシューマ向けにCortanaの存在感が薄れていることに変わりはないと思うかもしれない。では、このように考えてみたらどうだろう。それほど遠くない将来に、コンシューマ向けのMicrosoft 365が登場する、と。

これからは「アンビエント・コンピューティング」

OutlookやTo-Doといったツールへのデジタルアシスタントの統合は、ビジネスに限らず、広く一般のユーザーの生産性向上にも貢献する。その先に同社はモバイルの次の大きな波として「アンビエント・コンピューティング」の到来を見すえている。

デジタルアシスタントが重要な役割を担う「アンビエント」とは何か。次回は、Nadella氏が「これからのOSはハードウェアを起点としない」とミーティングで述べた真意を読み解く。

山下洋一のfilm@11」は、シリコンバレーを中心にテクノロジー企業の勃興を追い続けてきた筆者が、独自の視点で米国の”今のリアル”を切り取る連載コラムです。

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NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu