自治体を直撃する人口減に対し“移住”で活路を見いだす霧島市

自治体を直撃する人口減に対し“移住”で活路を見いだす霧島市

2019.01.18

人口減を抑制する施策に積極的に取り組む霧島市

霧島市への移住を決意した市民の経済活動の一端

移住を後押しする霧島市の観光資源を巡ってみる

全国には1,700以上の自治体(市区町村)が存在する。それぞれの自治体には特色もあり課題もあるが、都市圏以外の自治体、いわゆる地方自治体には共通の問題がある。それは“人口減”だ。都市圏への人口流出、少子高齢化が起因となっている自然減により、地方自治体の人口減は加速している。2045年には自治体の半数が維持できないというショッキングな分析もある(日本創成会議)。

では、この人口減を少しでも抑制するために、地方自治体は何をするべきか。「子育て支援」「大企業誘致による雇用創出」といったところが思い浮かぶが、やはりもっとも基本的なのが「移住の促進」ではないだろうか。移住については、どの地方自治体も注力しているが、積極的に推進しているのが鹿児島県・霧島市だ。

霧島市は過去5年間、九州の自治体で移住者数ナンバーワンとなっている(2016年に行われた西日本新聞社による、各自治体のアンケート結果より)。移住先として霧島市が選ばれている理由で真っ先に思い浮かぶのが移住者に対する補助金。霧島市でも、市外からの転入で中山間地域(平地から山間地にかけての傾斜地)に住宅新築を行えば、100万円が補助される。だが、補助金に関しては、額や条件の違いこそあるとはいえ、どこの地方自治体も実施していることだ。

では、移住者はなぜ霧島市を選んだのか……。実際に霧島市に飛んで、移住者の現状を確かめてきた。

まずは移住者の声を聞いてみる

最初に向かったのは、割烹&CAFEを運営する「露乃樹さこう」。築90年の古民家をリノベーションして誕生した食事処だ。古民家とあって、いわゆる“田舎”という雰囲気が満喫できる。ところが、出てきたランチは、山の幸・海の幸が豊富な彩り鮮やかなものだった。店舗の外見からは「もっと野趣あふれるメニューかな」と思ったが、いい意味でその期待は裏切られた。それもそのはず、料理長は京都の懐石料理店で長年修業した人物だ。雅なメニューには納得できる。

古民家をリノベーションしたお店。レトロな雰囲気が漂っている。右は「露乃木名物だしかるかん」

続いて話題だというジェラート店「ジェラテリアクオーレ」へ。ご年配の方やこども連れの家族、カップルとひっきりなしに入店し、10種類以上のフレーバーが並ぶ冷凍ディスプレイの前で、何を選ぶか悩んでいた。こちらの店主は、関東地方でパティシエとして働いていたそうで、ソフトクリームに興味がわいたそうだ。そして、霧島市でのジェラート製造・販売に踏み切った。その理由のひとつに、霧島市の素材の豊富さがある。乳製品はもちろんのこと、各種フルーツ生産が盛んなことも移住のきっかけになった。

三叉路のあいだに建っているお店。多くの客が来店し、夕方には品切れになるそうだ。右は霧島市の素材で作られたジェラート。左から「キャラメルパンプーキン」「焼きいも」「霧島茶ソルベ」「クオーレ ミルク」
クルマ修理店のガレージをリノベーションした「CAFE 510」

そして最後は「CAFE 510」へ。店主は東京生まれ東京育ちだが、霧島市出身の奥さんと東京で出会い、結婚を機に霧島市に移住。店内は満席でスタッフは忙しく、お話をすることはできなかったが、活気を感じることができた。

3店巡ってみて気づいたのは、どこも多くの店が集まる立地ではなかったこと。都市圏では、ある程度店舗が集まることで、地区全体の集客につながるイメージがある。露乃樹さこうにいたっては、道路を挟んだ正面は閉鎖した映画館。数メートル先には完全な廃屋が残されていた。それなのに多くのお客が訪れ、活況を呈していた。移住ということになると、経済活動に不安を覚えるが、話題になれば遠方からのお客も来るということが実感できた。そして三者とも“霧島の食材”“霧島の自然”に魅せられ、移住を決意したことが伝わってきた。

左から霧島市役所 企画部 地域政策課 中山間地域活性化グループ 藤田友成氏、霧島市役所 企画部 地域政策課 貴島俊一氏

とはいえ、霧島市役所 企画部 地域政策課 貴島俊一氏によれば、中山間地域の人口減少は歯止めがかかっておらず、市全体の人口は微減傾向にあるという。ただ、貴島氏は、霧島市が鹿児島空港へクルマで20分かからない立地にあることが大きな光明だと強調した。鹿児島市ならまだしも、薩摩半島南部にある指宿市から鹿児島空港にアクセスするのは大変だ。そうしたこともあって、鹿児島県内各地から霧島市に移住する動きが目立っているそうだ。

大規模工場と伝統の産業が同居する霧島市

これまで巡った店舗は完全なる個人商店だが、霧島市は企業誘致にも積極的だ。その象徴ともいえるのが、京セラだろう。同社は霧島市と立地協定を締結しており、約4,500人が働く工場を稼働させている。そもそも、京セラ創業者の稲森和夫氏は、鹿児島県鹿児島市出身。鹿児島県に多額の寄付をするなど、郷里に対する情にあふれている。また、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングも2,000人規模の工場を霧島市で稼働させている。

延べ床面積29,232.18 平方メートルという広大な京セラ 鹿児島国分工場。付近の城山公園から全貌が確認できる

一方、伝統的な産業も盛んだ。有名なのは焼酎と黒酢。今回の取材では、昔ながらの壺によって黒酢を醸造する坂元醸造を拝見した。坂元醸造は創業約200年の老舗で、5万本以上の壺により黒酢を生産している。霧島市には多くの壺酢醸造所があり、その壺の総数は約10万本といわれているが、その半数を坂元醸造が占めていることになる。

5万本以上の壺を保有する坂元醸造。なかには200年前の創業時から使われている壺もある

なぜ、霧島市で黒酢の生産が盛んなのか。担当者によると、良質な地下水と蒸し米、米麹が入手しやすいからだという。そして何よりも、九州の南端という立地がカギとなる。燦々と降り注ぐ陽光により暖められた壺が、良質な黒酢生産に最適なのだという。以前、坂元醸造の壺を他所に運び、黒酢生産を試みた人がいたそうだが、うまくいかなかったとのことだ。

今回、大規模工場の取材はできなかったが、京セラ4,500人、ソニー2,000人のなかには、移住者も多くいるに違いない。また、伝統産業が盛んなので、そうした産業に興味を持つ若者にとって、移住のきっかけになるかもしれない。

霧島市最大の財産は豊富な観光スポット

さて、移住を促すかもしれない観光資源の多さも霧島市の財産だ。まずは桜島。正確には所在は鹿児島市なのだが、霧島市からも眺められる。むしろ鹿児島湾(錦江湾)越しの雄姿を楽しもうと思ったら、霧島市側からのほうが迫力はあるかもしれない。

噴煙を上げる鹿児島のシンボル、桜島。ここ最近は比較的におとなしいそうだ

建造物についても見所が多い。まずは「霧島神宮」。6世紀に造られ、建国神話の主人公「ニニギノミコト」を祀っているという。荘厳な社殿は霧島市のシンボルだ。

また、JR九州・肥薩線「嘉例川駅」も隠れた人気スポットだ。こちらは霧島神宮とは比べるまでもなく新しいが、それでも築116年を誇る県内最古の駅舎だ。印象的だったのは、ホームに入ると20代前半の女性が複数いたこと。しかも彼女らは一眼レフを手にしていた。ボディサイズからするとミラーレス一眼だろうが、“若い女性はスマホで撮影”と思い込んでいたので新鮮な光景だった。

いわずと知れた観光スポット「霧島神宮」。日本初の新婚旅行をした坂本龍馬夫妻が、訪れている。右は「嘉例川駅」。カメラを持った女性たちは、駅舎のほかここに停車をする「特急 はやとの風」もお目当てだったようで、しきりに線路の先を凝視していた。ただ、残念ながらこの日は運行はなかった

また、霧島市といえば温泉で有名だが、体験取材に訪れたのは「家族湯」という様式。家族湯とは首都圏では聞き慣れないが、霧島市で発祥し、今や西日本に広がっている温泉様式のことだ。湯船(露天付きもある)と個室がセットになっており、“家族でくつろげる”からというのが家族湯の由来だ。

家族湯は基本的に個室と湯船がセットになっている。利用したのは「かれい川の湯」の「かわせみ」という貸し切り湯。ちなみに霧島市には、家族湯施設がそこかしこにある

このほかにもまだまだ観光スポットはあるが、ここまでにしておこう。黒豚や和牛、野菜類などの食材、豊富な観光資源、空港に近く都市圏への移動に有利なことなど、移住促進のための要素は多い。これらをいかに移住に生かすか、それがカギになりそうだ。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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