『モンスト』初のプロツアーを終えて、王者が感じた“一強の終焉”

『モンスト』初のプロツアーを終えて、王者が感じた“一強の終焉”

2019.01.09

3カ月にわたって開催されたモンストのプロツアー

2018年12月29日には上位4チームによるファイナルが行われた

大会終了後のインタビュー内容も紹介する

2018年12月29日、東京・秋葉原にあるアキバ・スクエアにて、「モンスターストライク プロフェッショナルズ 2018 トーナメントツアー(モンストプロツアー)」のファイナルが開催された。ツアーは、10月13日の東京を皮切りに、仙台、大阪、福岡、名古屋で行われ、『モンスターストライク(モンスト)』のプロ8チームのなかから、予選のタイムアタックポイントとトーナメントの順位ポイントを合わせたポイントの合計数が多い上位4チームがファイナルに進出する。

大会ではスマホアプリ『モンスターストライク スタジアム』を使用。4人1チーム制で、プレイヤーは順番に自分のモンスターをボスモンスターにぶつけて倒していき、相手とステージクリアの時間を競う。

プロツアー1戦目、東京会場の様子

王者・壁ドンズとツアー後半に追い上げたGVが激突

今回、ファイナルに進出したのは、東京会場、仙台会場で連勝した今池壁ドンズα、名古屋会場で優勝したGV、大阪会場で優勝したアラブルズ、福岡会場で優勝したはなっぷの4チーム。ツアー序盤は、7月に行われた「XFLAG PARK」内のモンストグランプリで優勝した今池壁ドンズαが、その実力を遺憾なく発揮し、圧倒的な強さで連勝を決めた。

だが、ツアーが進むにつれ、ほかのチームが対策と練習を重ね、ポイントの差をジワジワと縮めてくる。特に2位通過となったGVは、最終的に今池壁ドンズαと10pt差の102ptと、高ポイントを獲得(大会ごとに、タイムアタックでは1~8pt、トーナメントの順位では4~30ptが付与される)。会場ごとの順位も2位2回、3位1回と抜群の安定感を見せた。

左からアラブルズ、今池壁ドンズα、GV、はなっぷ
会場は秋葉原UDXにあるアキバ・スクエア。ツアーファイナルはすべて有料シートだったが、オープン前から長蛇の列ができるほどの人気

ファイナルは変則トーナメント方式。まずは1位通過の今池壁ドンズαと、2位通過のGVが対戦し、勝った方が決勝に進出する。その敗者は、3位通過のアラブルズと4位通過のはなっぷの勝者と対戦し、そこで勝利したチームが決勝に進出するというものだ。決勝以外は3戦2先勝ち抜けのBO3方式で、決勝のみ5戦3先勝ち抜けのBO5方式で行われた。

さらに通過順位上位チームは、ステージの選択権(ステージごとにギミックや登場するボスキャラが異なる)か、ピックの(先攻・後攻)選択権(試合では同じキャラクターを使用することができないので順番に取り合う。1、4、5、7枚目を先攻が、2、3、6、8枚目を後攻が選択する)のどちらかが与えられる。変則トーナメント方式と書いてはいるが、これまでのツアーの結果を尊重したうえで、下位チームにも十分なチャンスがあるバランスのとれたルール設定と言えるだろう。

2戦目までは圧倒的なポイント差を付けていた今池壁ドンズαだったが、5戦終了してみれば、2位GVとの差はわずか10pt。力が拮抗しているのがわかる
変則的ながら、ツアーの成績上位チームにアドバンテージが与えられている絶妙なバランスのトーナメント

初戦となった今池壁ドンズαとGVの対戦では、上位通過の今池壁ドンズαがステージ選択権を選び、得意の「冥黒の女王」ステージを指定するも敗北。しかしながら自力を見せつけ、2戦目、3戦目を連取し、決勝へ駒を進めた。

2試合目は3位アラブルズと、4位はなっぷの一戦。この2チームは、モンストグランプリ、モンストプロツアー通じて1度も対戦をしたことのない組み合わせだ。こちらも通過順位通りの結果となり、アラブルズがはなっぷを下した。

今池壁ドンズα対GVの一戦
アラブルズ対はなっぷの一戦

3試合目は、初戦を勝ち上がったアラブルズと敗者復活を狙うGVとの対戦だ。これまでの戦績ではGVがアラブルズに2戦2勝しており、順位的にもGVが優位。実際の対戦も波乱はなく、GVが2連勝し、相性の良さをみせた。

GV対アラブルズの一戦

その結果、決勝は初戦と同じく、今池壁ドンズα対GVというカードとなった。

決勝戦は、BO5になるだけでなく、ステージ選択がなくなり、「翠緑の生命体」「水駆ける天叢雲の皇子」「冥黒の女王」「天地開闢の始神」「妖光の狐少女」というステージの順番で行われる。通過順位上位の今池壁ドンズαには、ピック選択権が与えられた。

1本目は今池壁ドンズα、2本目はGVと初戦と同様に両チーム一歩も引かぬ熱戦となったが、3本目の「冥黒の女王」ステージでリベンジとばかりに今池壁ドンズαが奪取し、リーチをかけると、その勢いのまま4本目も取り、モンストプロツアーの初優勝を決めた。

モンストグランプリに続き、モンストプロツアーの優勝も決めた今池壁ドンズα。左からべーこん選手、pkrn選手、そふぁ。選手、なんとかキララEL選手
ファイナルの内容はYouTubeからもチェックできる

他チームの成長スピードに王者もヒヤリ

表彰式では優勝トロフィーと盾、そして優勝賞金1000万円が授与された。直後には優勝者チームインタビューも行われたので、その様子も合わせてお伝えする。

――優勝おめでとうございます! 圧勝にも見えましたが苦戦したところはありましたか。

なんとかキララEL選手(以下、キララ):今日は本当に熱量の多い大会で、僕らもほかのチームも、いつもやらないようなミスが多かったですね。お互いいつも通りできていなかったので、相手のスキをついてパッと倒してしまおうと思い、それが結果的にうまくいきました。でも、やはり自分たちがやりたいことができていないというのは変わらないので、そこが一番苦戦したところですね。

――モンストプロツアーの初戦に比べて、チームもお客さんもかなり雰囲気が変わってきた感じがしました。自分たちのチームやほかのチームの変化は感じられましたか。

キララ:初戦の東京大会では僕らが勝利したのですが、お客さんの盛り上げ方に関して「プロと呼べるのは自分たちだけじゃん」と内心思ってました。あ、ほかのチームには内緒ですよ(笑)。で、2戦目の仙台大会が終わってから、次の大阪大会まで1カ月の期間が空いたんですね。その間に海外の大会とかもあったのですが、その1カ月間で、ほかのチームもプロ意識が目覚めてきたような感じがして。ピックの選び方だったり、戦い方だったり、お客さんとの接し方だったり。それを見たとき、「おお、なんかプロっぽい」って思いました。自分たちのチームもその間にうまくなっている自覚はあったんですけど、ほかのチームの伸び方がすごくて。正直、決勝直前も不安はありました。

pkrn選手(以下、pkrn):僕も同じ印象ですね。回を追うごとにプロとしての気持ちの持っていき方が変わってきたなと感じました。

開場から試合開始までの間は選手が観客席に訪れ、ファンと一緒に写真を撮影したり、サインをしたりと、ファンサービスにも努めている

そふぁ。選手(以下、そふぁ):モンストグランプリとか、いままでの大会って一発勝負だったじゃないですか。プロツアーでは同じステージを何度も何度もやっていくので、各チームのカラーが出てくるようになりましたね。このチームはこういう勝ち方をする、このチームはこういうピックをするといったように。そのあたりは「刺さると負ける」と脅威に感じました。福岡では実際負けましたし。

べーこん選手(以下、べーこん):そうですね。作戦を決めるときに相手の想定をするんですけど、それを超えてきている感じですね。今回は結果的に僕らが勝ちましたが、この大会は王者としてではなく、挑戦者のつもりでやってきました。

――今日の試合で一番印象に残ったシーンはなんでしょうか。

べーこん:3点バンカーと、ユミルの上に入ったやつとか、pkrnが本当によく決めてくれました。

そふぁ:最後の試合のSS(ストライクショット)とか、翠緑のフィニッシュのショットとか、あれって練習していたショットではなかったんですよね。あの場で判断して、しかも勝敗が決まるところで決めたのはすごいなって思いました。

キララ:本当に今回はやりたいことができてなかったんですけど、イレギュラーからのリカバリーができていたなと思います。

――プロツアーが行われていた3カ月は、どんな時間だったのでしょうか。

べーこん:モチベーションを維持するのが本当に大変でした。

キララ:例えば自分たちが「これが良い!」と戦略を決めたとして。でも、それに対して、「こっちの方が良いんじゃない?」とか「こっちの方が早いよ」ってなってくるわけですよ。で、結局パーティが1転、2転、3転、4転して、酷いときは11転くらいするんです。やっぱり「これじゃない」ってなって、気がついたら「これって2カ月前に通った道じゃん」ってなったりして。まあ、そのこと自体は大変なんですけど、正直楽しくなってきていますね(笑)。

そふぁ:負けたときの反省が辛かったですね。ミスをしたのか、作戦が悪かったのか、それを考えるのが辛かった。

――今回、1位の今池壁ドンズαと2位のGVはどちらも中部地区の代表チームですが、中部地区が『モンスト』に強いというのは何か理由があると思いますか。

キララ:味噌じゃないですかね。赤味噌ですね。
(一同笑い)

――では、来年あたり今池壁ドンズαが赤味噌のCMキャラクターになっているかもしれませんね。

キララ:なるかもしれませんね。味噌メーカーがスポンサーに付いてくれるかもしれません。でも、僕らを見て『モンスト』を始めてくれた人もいるんですよ。アラブルズのKEVIN選手なんかは、僕らをみて大会出るぞってなったみたいです。

――今年はグランプリとプロツアーを優勝して、ほかのチームはより一層「打倒今池壁ドンズα」に燃えるとみられますが、いかがでしょうか。

キララ:2年前からそうなので。でも、べーこんが言った通り、自分たちは挑戦者だという気持ちを持って、来年のプロツアーのファイナルに出場したいです。

ツアーファイナルに出場した4チームによる記念撮影

***

2018年の『モンスト』のeスポーツシーンは今池壁ドンズαで始まり、今池壁ドンズαで終わった1年となった。しかし、ほかの7チームのプロチームも着実に力をつけてきている。

また、元M4(モンストうまい4人組)で解説を担当したS嶋氏が、最後の総括で、明言は避けつつも、新戦力の参入もほのめかしていたことからも、2019年はさらなる混戦、熱戦に期待できそうだ。1月26・27日の「闘会議2019」では、ジュニア大会の開催も予定されているので、そちらも目が離せない。

元M4(モンストうまい4人組)で解説を担当したS嶋氏が、来年に向けてのさらなる展開をほのめかした
その面倒な組織カルチャー、印鑑が原因ですよ

藤田朋宏の必殺仕分け人 第4回

その面倒な組織カルチャー、印鑑が原因ですよ

2019.03.18

印鑑業界による印鑑文化の優位性アピールが話題

会社経営者として感じる、捺印作業の面倒さ

「サイン文化」と「印鑑文化」で変わる組織カルチャー

行政手続きのオンライン化を目指す「デジタル手続き法案」をめぐり、全日本印章業協会がアピールした「印鑑のメリット」が話題になっている

「代理決済できるという印章の特長が、迅速な意思決定や決済に繋がり、戦後の日本経済の急速な発展にも寄与してきた」(原文ママ)というものだ。

「ハンコならこっそり代理決済ができる」などと、身も蓋もなく自ら印鑑廃止を後押ししてしまいかねない意見が出てしまったことは興味深い。
でも僕は、ただのバイオテクノロジー屋なので、ITを活用した効率化しますよ業界の回し者でもなければ、印鑑業界の人を敵に回すメリットだってないので、特にこの点について深く言及しないし、「日本における今後のハンコをどうするべきか」なんてことを掘り下げて云々するつもりもない。

ただ、日本を含む4カ国でスタートアップを立ち上げた経験から、企業の組織カルチャー形成に、承認方法としての「印鑑」と「サイン」の違いが、とても大きな影響を与えているのではと実感した話を書いておきたい。

日々、何かと多すぎるハンコ作業

まず共有しておきたい事実は、日本で会社を経営すると、毎日ものすごい数の代表印や銀行印や社印を押さなければいけないということだ。(会社の印鑑って3種類あるの知ってました?)

お客さんと契約してお金をいただくときに契約書に捺印するのはイメージできると思うが、その後もお金が銀行口座に無事入るまで、受領やらなにやら契約書だけでなく、さまざまな書類にとにかく捺印をしまくる必要がある。

また、家賃を払う、プリンターのトナーが切れる、実験試薬を買うなどなど、とにかく会社を運営する活動の一つ一つに対して、それぞれ細かくおびただしい数の印鑑を押す。法人が国や地方自治体に税金を払う時はもちろん、社員のあれこれも、例えば社員の誰かが結婚したり引っ越したりするだけでも印鑑を押しまくる。自分で会社をやってみてつくづくわかったが、とにかく捺印の数が膨大だ。

しかも、びっくりすることに、民間企業も市町村も、同じことをするために、それぞれがまったく違うフォーマットの書類に捺印を求めてくる。

こうして、大量な上にフォーマットがまったく違う書類を毎日渡されて、決められた位置に決められた種類の捺印をすることは、仮に契約書や書類の中身をまったくチェックしないで無責任に捺印したとしても、結構な時間を必要とする作業だ。

捺印にかける時間が惜しい

しかもうわの空で押していると、銀行印を押すべきところに代表印を押し間違えてしまったり、インクが簡単にかすれてしまったりするのが印鑑だ。人生において、こんな捺印ミスなどという程度のことで書類を作り直してもらう羽目になった回数を考えただけで、こんな単純な作業に失敗する情けなさとと、書類を作ってくれる従業員への申し訳なさで、どこかに隠れてしまいたい気持ちになる。

そう、僕は毎日、隠れてしまいたい気持ちになっているのだ。

なぜ、日本から印鑑はなくならないのか

我々の会社のように、たとえ社長だろうがあっちこっちに、営業に謝罪にと、せわしなく飛び回わることで、なんとか会社の体を保っているような規模の企業の方が世の中には多いと思う。そんな"貧乏暇なし社長”がこの捺印という物理的作業に忙殺される時間というのは、正直いって無駄以外の何物でもない。

にもかかわらず印鑑を押すという文化が日本に残っているのは「捺印するという作業」は、誰かに頼めてしまうからなのだと思う。多くの会社において「捺印をし続けるという作業」を自分でやっている社長はあまり居ないのかもしれず、ここが、すべて自ら書かなければいけないサインとの最大の違いなのだろう。

ちなみに、僕の場合は「捺印をし続けるという作業」だけを人に頼むような仕事の依頼の仕方は好みではないので、あちこちに会社を立ち上げては、担当者に「代表取締役」の役職ごと譲るようにしている。

海外の「サイン文化」は印鑑以上に面倒?

冒頭にも書いたが、僕は日本以外の3カ国でも会社を経営している。言うまでもなく日本以外の国は、承認の証としては「サイン」が一般的だ。

日本の会社同士の契約書の場合は、代表者の名前の脇に代表印と社印を、契約書を閉じた裏面に割印を一カ所押す形式であることが多い。つまり、二者間の契約であれば、先方用の契約書と当方用の契約書をあわせて、計4カ所の代表印と計2カ所の社印を押せばよい。

ところが、海外の契約書は、すべてのページにサインをしなければならない。海外の契約書は「実際にそんなことは起きないって」ってくらい、ありとあらゆる場面を想定した契約書になっていることが多く、とにかく契約書が長い。

感覚として、同じような内容の契約をするのに、日本の会社同士の契約の5倍~10倍のページ数になっても驚かない。

つまり、ちょっとした契約書でも軽く100ページを超えてくるわけだが、このすべてのページに手書きでサインをすることを想像して欲しい。契約書の中身を読んでただただサインを書き続けていると、「こんな作業に時間を使い続けてていいのだろうか」という自問の気持ちが芽生えてくる。

その組織カルチャーの差、ハンコとサインの差が原因ですよ

言うまでもなく、サインは誰かに代わりに書いてもらうことはできない。では、サインを書く物理的な時間を減らすために、何が起こるのかというと、「権限委譲」が進むのである。

日本の会社だと当たり前のように社長の名前で締結する規模の契約でも、海外の会社だと担当部長あたりの名前で契約を締結してくる。

もしかしたら、日本の会社のカルチャーだとそれは失礼なことに当たるのかもしれないが、サインを前提とした会社において、会社のすべての契約を社長名義で契約していたら、社長の一日は「サインを書く」という作業だけで終わってしまう。だから、どんどん権限委譲をしていくしかない。

日本の大企業の合意形成や意思決定のあり方を分析する文脈において、「日本の会社は権限委譲が進んでいない」とか、「プロジェクトごとの意思決定者の所在がよくわからないから、スピード感が遅くなってグローバル競争に負けてしまう」などという指摘を頻繁に見る。

特に近年流行りの「日本企業のホワイトカラーの生産性を高めましょう」という議論の多くでは、日本企業のこういった特殊性の原因を、日本人の歴史的・文化的背景や、国民性が理由であると結論づけている。

だからもっぱら、風通しがよく責任範囲が明確で、意思決定の早い会社にするために、せっせと組織構造をいじったり、管理職に研修をしたりと、コンサル屋さんが儲かるだけの努力に大きなお金を払うことになっているのだが、大きな効果が得られているようにみえない。

僕の考えは、特殊性の理由がちょっと違っていて、「その組織カルチャーの差って、捺印とサインの差が本質的な原因ですよ」と、わりと確信に近い自信を持っている。

捺印の作業だけを誰かに頼むのではなく、捺印をする権限ごとどんどん頼んでしまえばいい。ハンコにウンザリしている世の中の社長さん、そう思いません?

(藤田朋宏:ちとせグループ 創業者 兼 最高経営責任者)

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鋭すぎる言葉で物議を醸す「子供部屋おじさん」論議

カレー沢薫の時流漂流 第32回

鋭すぎる言葉で物議を醸す「子供部屋おじさん」論議

2019.03.18

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第32回は、実家暮らしの男性に降りかかる「子供部屋おじさん」論議について

「子供部屋おじさん」という言葉が注目されている。言葉自体は2014年あたりからあったそうだが、今また脚光を浴びているそうだ。

「○○おじさん」「○○おばさん」という呼称には、「アイカツおじさん」のように秀逸かつもはや「Sir」級の「称号」と言って良いものもあるが、大体が蔑称である。

その中でもこの「子供部屋おじさん」の蔑視ぶりたるや、である。意味はわからなくても本能で「馬鹿にされている」と察することができる。

「子供部屋おじさん」とはどんなおじさんを指すかというと、成人しても親元を離れず実家の「子供部屋」で暮らし続けるおじさんのことである。「パラサイトシングル」を、言われた相手の血管が切れるように魔改造した言葉だ。言葉としては「上手いこと言うな」と感嘆するしかない。

単に「実家住みのおじさん」という意味ではなく、「いい年をして親から自立せず、自分では何も出来ない、中身は子どものままのおじさん」という痛烈な批判が込められている。

この「子供部屋おじさん」は、ひきこもりやニートとは違い、仕事はちゃんとしている場合が多い。だが逆に「実家を出ようと思えば出られるのに出ない」という点が余計「甘え」と見なされ、ここまでの鬼煽りを食らう羽目になったとも言える。

このように世間からみっともないと思われがちな「実家住みの成人」だが、本当に彼らは社会の病巣であり、親から見れば寄生虫なのだろうか。

一人暮らしは今や「修行」かもしれない

子供部屋おじさん含むパラサイトシングルにも言い分はある。まず「実家から出るメリットが見いだせない」という理由だ。

実家が持ち家の場合、一人暮らしをするよりも実家住みの方が経済的には圧倒的有利だ。親側からしても、純粋に寄生されるのは厳しいが、生活費などを入れてもらえるなら、逆に助かるという場合もある。

また職場からの距離も実家から通った方が近いと言うなら、わざわざ経済的負担を負いながら、場合によっては遠距離通勤をする「一人暮らし」というのは「修行」という意味しかなく、昨今盛んに言われる「コスパ」「合理化」という観点から見ると「正気か」というような無駄でしかない。そのため、インフルエンサー的な人が一発「まだ一人暮らしで消耗してんの?」と言えば、容易に世論が傾いてしまいそうな気がする。

しかし「修行という意味しかない」と言っても、その「修行」に意味がないわけではない。一人暮らしが人間に自立と成長を促すのは確かである、自分のことは全て自分でやらなければいけないのだから当然だ。

逆に、衣食住が保証された実家で、お母さんにご飯と身の周りの世話を全部やってもらっていたら確かに子供となんら変わりないし、もし仮に結婚して家を出たとしても、今度は嫁に母親と同じことを求めるだろう。

結果として、「見た目は中年、中身は子供、価値観は団塊」というバランス感覚皆無の生物が爆誕することになりかねない。そういった意味では、いかに合理的でなかろうが、一人暮らしをする意味はあると言える。

だが、親の方が子どもに「実家にいてほしい」と望むケースもある。

前に「増加する共倒れ家庭」という、タイトルからして明るい要素皆無のテレビ番組を見たことがある。老齢一人暮らしの父親の元に、非正規雇用で自活できない息子が帰ってきて、そのせいで生活保護が打ち切られ、ますます困窮するというマジで暗い所しかない話だった。

しかし、父親の方が息子に対し「迷惑だから出て行ってほしい」と思っていたかというと、そうではなく「自分が老齢で何があるかわからないので居てほしい」と言っていたのだ。

このように、高齢の親からすれば、子供がいてくれるのは「安心」という面もある。ほかにも、介護のために実家に戻って来た者もいるのだから、一概に「子供部屋おじさん」とバカにすることはできない。

「子供部屋おじさん」がここまで燃える理由

そして、この「子供部屋おじさん」に今更激烈な反応が起こっているのは、「おじさん」と性別が限定されているからだろう。

当然「子供部屋おばさん」だって存在する。私も結婚して家を出るまで実家にいたし、成人すぎても小学校入学の時買ってもらった学習机を使っており、もちろん身の周りのことは母親を越えてババア殿にやってもらっていたという、どこに出しても恥ずかしくない「子供部屋おばさん」だった。親は私を家から出すのに相当勇気がいったと思う。

しかし、バカにされているのは専ら「子供部屋おじさん」の方で、言葉自体も「ブサイク」には「ブス」ほどの破壊力がないように、「おばさん」より「おじさん」の方がどう考えても「強く」感じる。

「子供部屋おばさん」にパンチが足りないのは言外に「女はまあ実家住みでもいいんじゃね?」という見逃しがあり、逆に男には「男のくせにいつまでも親の世話になってみっともない」という、男女差別があるせいではないだろうか。

ネットを開けば、ジェンダー問題で毎日ひとつは村が燃えている昨今である。「子供部屋おじさん」が、そっちの観点でアンコール炎上しても不思議ではない。

当然だが、一家の家計を支え、親の介護をしながら家事までやっている「子供部屋おじさん」もいれば、ろくに家に金もいれず、親に三食用意してもらっている「子供部屋おばさん」もいる。もちろんこれはおじさん・おばさんを入れ替えたって言えることだ。

男だから、女だから、で言い切りが出来ないように「実家暮らし」という属性一つでは何も断言することは出来ないのである。

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