一社独占の食洗機市場、切り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、切り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu