順調に伸びる「ふるさと納税」の現状と見え隠れする“歪み”

順調に伸びる「ふるさと納税」の現状と見え隠れする“歪み”

2018.12.21

利用額増大で各自治体の重要な収入源になったふるさと納税

税制であるために、民間ポータルが返礼品を決めにくい構造

過度な返礼品やふるさとと無関係の品物が贈られる現状

2008年からスタートした「ふるさと納税」。自分が生まれ育った自治体に事実上の“寄付”を行うことにより、現住している自治体の住民税が控除される。そして、寄付した自治体から“お礼品”が届くという楽しみもある。

ふるさと納税は、おおむね多くの納税者に受け入れられ、開始から約10年で受入件数・受入額が急増した。まず利用件数についてだが、ふるさと納税が開始された平成21年度の控除適用者数は約3万3,000人だったが、平成30年度は約296万人になった。また納税額は平成21年度で約72億6,000万円、平成30年度は約3,481億円にのぼり、住民税控除額は約2,448億円になったという(自治税務局市町村税課「ふるさと納税に関する現況調査結果」より)。

義援金の役割も持ち始めたふるさと納税

やはり「自分の出身自治体を支援したい」「旅行で気に入ったあの街の手助けをしたい」といった感情と、お礼として贈られる地場特産品の魅力や期待感といった、純粋な気持ちが受入件数・受入額の伸びにつながったのだろう。また、2011年3月に発生した東日本大震災では、義援金の代わりとしてふるさと納税が活用され、多くの寄付が集まった。そもそもふるさと納税は、義援金としての活用は考えられていなかったが、大震災以降、災害支援としての側面も持つようになった。

自治税務局市町村税課による「ふるさと納税に関する現況調査結果」。平成24年に納税額が増えているのは、東日本大震災の義援金の影響

さらに、2015年から導入された「ふるさと納税ワンストップ特例制度」も後押ししたとみられる。ふるさと納税により住民税の控除を受ける際、確定申告が必要だったが、特定の条件を満たせば確定申告なしで寄附金控除を受けられるようになった。そして、ふるさと納税に関わるポータルサイトの役割も大きい。「ふるさとチョイス」「さとふる」「ふるなび」といったサイトにより、ふるさと納税の知名度が高まった。

ただ、ふるさと納税はあくまで税制の一部なので、返礼品は従来、自治体や地元商工会議所が決めていた。ところが、そうした事情にも変化がみられる。民間のポータルサイトが、返礼品選びに関与するケースが増えてきたのだ。

以前、北海道・夕張市が、ふるさと納税ポータルサイトに「夕張メロン」を売り込む過程を聞いたことがあるが、夕張市の地元農家や商工会議所がメロンを返礼品として取り扱うよう後押ししていた。全国的に知名度が高い特産品だし、メロンが売れることによって地元生産者の励みにもなる。ところが、このふるさと納税ポータルサイトでは、メロンをキッチリと取り扱いつつ、さらに特産品がないかと職員を夕張市に派遣。そして、メロン以外の特産品を脚で探し出し、サイトで取り扱うようになった。

北海道・夕張市のHPから。夕張市は財政破綻自治体となっており、ふるさと納税による財源確保に積極的だ

ふるさと納税ポータルサイトの大手、さとふるでもそうした動きがみられた。さとふる 地域協働事業推進部 協働まちづくりグループの伊藤裕志氏も、脚で探してある返礼品にたどり着いた。 

さとふる 地域協働事業推進部 協働まちづくりグループの伊藤裕志氏

伊藤氏は、もともと九州に出向していたこともあり、同地方の“食”について詳しかった。彼は福岡に出向いた際、徹底的にうどんを食べたという。そして巡り会ったのが「あごだし・肉ごぼう天うどん」。伊藤氏はこのうどんに惚れ込み、地元製麺所に掛け合い、ふるさと納税の返礼品として、あごだし・肉ごぼう天うどんをラインアップに加えた。

伊藤氏が自治体職員とともに製麺所でみつけた、あごだし・肉ごぼう天うどん。麺だけの返礼品にするつもりだったが、スープや具材もセットにしたところ、好評を得た(写真:さとふる)
返礼品の一例。「能登に恋」や「奥入瀬ビール」など、産地が伝わりやすい商品名が目立つ

正直、筆者にとってこのチョイスは意外だった。福岡で麺類といえば“とんこつラーメン”と思い込んでいたが、伊藤氏によれば「うどんこそ福岡」なのだそうだ。もちろん、うどんに関しては香川県が圧倒的。そして、埼玉県が香川を猛追している。

うどんに関してはこの2県の独壇場に思えるが、ダークホースが福岡県なのだ。福岡県・博多は貿易港として中国との交易が盛んだった。そのため、うどんやそばがいち早く伝わり、“うどん・そば発祥の地”としてその名を残している。

さて、うどん談義はここまでにして、ふるさと納税返礼品について戻ろう。さとふるの伊藤氏は、偶然、あごだし・肉ごぼううどんに出会い返礼品にすることができたが、そうそううまくいかないこともあるという。地元自治体や商工会議所、生産者などと折り合いをつけなくてはならないので、場合によっては特産を返礼品にしたくないと断られることもあるそうだ。

ふるさと納税の新たなカタチと問題点

単に特産品を返礼品にするのではなく、“人的サービス”を提供する動きも出始めている。たとえば“お墓参り”だ。鹿児島県・和泊町では、シルバー人材を生かして、お墓参りを代行するサービスを開始。さらには、家の清掃などを行うサービスもスタートした。都市圏に住んではいるが、生まれ育った実家が気になるという層に需要があるそうだ。

一方、ふるさと納税に関する問題も生じている。まず、問題となっているのが「過度な返礼品」により、ふるさと納税の本来の意義を希薄にしていること。総務省は、自治体による“返礼品競争”を是正するべく、制度を見直しすることを検討し「寄付額の3割を超えない」ことを目安にした。また、返礼品競争により生じる、本来のふるさと特産との乖離についても是正の方向だ。先日、大阪府泉佐野市が地場特産品ではない牛肉を返礼品に扱っていることが問題視されたばかりだ。

ただ、これに関しては、擁護する意見もある。自治体によっては、地場特産品に乏しく、思うように寄付金が集まらないといった事情もあるからだ。そうした自治体は、ほかの地域の特産品に頼らざるをえないこともあるが、本来のふるさとという趣旨からは確かに外れてしまうというジレンマも生じる。また、都市圏の自治体の納税が控除され、税収が減ってしまうという問題も発生している。

とはいえ、ふるさと納税は、地方の自治体にとってもはや大事な財源だ。今後、各自治体がふるさと納税をいかに活用できるか、総務省と自治体、そして特産品の生産者、さらにポータルサイト事業者らの関係が重要になるだろう。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。