VRは普及するか? カギを握るのは“遊び場”の創出

VRは普及するか? カギを握るのは“遊び場”の創出

2016.07.25

台湾のHTCは今月、VR(バーチャルリアリティ)を体験できるゴーグル型端末「HTC Vive」の日本におけるオフィシャルパートナーを発表した。販売パートナーにドスパラなどを迎え、製品体験の場を設けるなど日本市場の開拓にも余念がないようだ。ハイエンドなVRゴーグルとしては、HTC Vive、米国Oculusの「Oculus Rift」、ソニーの「PlayStation VR」の3機種による主導権争いが始まっているが、今回は各社の戦略を基に、VRがキャズムを超えて広く普及するための課題と、私たちの日常体験にもたらす可能性を考えてみたい。

7月7日に行われたHTC Vive発表会の模様

ゲームソフトがなければ家庭用ゲーム機がただの飾り物になるように、VRゴーグル普及にとっても大きなカギを握っているのは間違いなくコンテンツだ。コンテンツを供給するゲーム開発会社、コンテンツ開発会社とのパートナーエコシステムの構築は、VRゴーグルを扱う企業にとって急務だといえる。

ゲーム開発会社との強固な関係性が魅力のPlayStation VR

今年10月13日に発売を予定しているソニーのPlayStation VRは、PlayStationというゲームプラットフォームで長年培ってきたゲーム開発会社との強固なパートナーエコシステムを武器に、コンテンツのラインナップ拡充を目指す。パートナー企業はグローバルで230社以上にのぼり、年内に50本以上のゲームタイトルを発売する見込みだという。

端末価格は44,980円と3社の中で最も安く、すでに第1次予約分が完売するなど、注目度の高さが伺える。家庭用ゲームの世界を牽引してきたPlayStationがVRの世界にどのようなインパクトをもたらすのか注目したいところだ。

HTCは全方位対応を前面に

一方、BtoC、BtoB、インキュベーションと3方向の戦略でパートナーエコシステムを構築しようとしているのが、今月7日にHTC Viveの販売を開始したHTCだ。同社はゲームなどのコンテンツ開発会社だけでなく、放送、通信、システムインテグレータなど幅広い分野とのパートナーシップを推進するとしており、コンテンツ開発企業などに支援を行うアクセラレーション・プログラム「VR VCA」も発表している。

HTCはコンテンツ開発企業への支援も行っていく

加えて、活用の幅も家庭での個人利用だけでなく、自動車などのプロダクトデザイン、不動産や小売などの空間デザイン、観光名所や博物館など文化施設での利用、学校など教育機関への導入など幅広く想定し、あらゆる産業との連携を目指している。個人のエンターテインメントだけでなく、様々な産業や社会全体にVRによって新しい体験を創出することで、VRに求められるあらゆるニーズに応えていこうというのがHTCの考えだ。

発表会ではスクウェア・エニックス、バンダイナムコエンターテインメント、コロプラネクスト、電通、大日本印刷などがHTC Viveの採用事例を紹介した。こうした各方面の大手企業とHTC Viveが、どのようなシナジーを生み出していくかにも注目したい。

この2社に対して、世界に先駆けて製品を世に送り出し、以来オープンソースとしてコンテンツ開発の機会を広くデベロッパーに開放してきたのが、2014年にFacebookが20億ドルで買収した米国のOculus Riftだ。長らく開発者向けキットのみを販売してきたが、今年3月にはついに製品版の販売を開始した。

オープンソースに無限の可能性を見出したOculus Rift

オープンソースの利点は、コンテンツ開発会社にあらゆる開発の自由を提供することであり、コンテンツや活用法に無限の多様性が生まれるということだが、一方でそれは、Oculus Riftがプラットフォームではなくテクノロジーとして普及拡大していくことを意味している。ユーザーを束ねて大きな市場を生み出していくためには、Oculus Riftを活用した強力なコンテンツプラットフォームが創出される必要があるが、オープンソースであるが故に、それもまた市場の動向に委ねられているといえるだろう。

このように、3社は三者三様の戦略でVRゴーグルを活用するためのコンテンツ供給を目指そうとしている。それぞれの戦略がどのように結実し、私たちのエンターテインメントや日常の体験を変えていくのか、注目していきたいところだ。

VR普及の前提条件とは

しかしながら、VRゴーグルという端末が普及への第一歩を踏み出すためには、VRゴーグル故の高いハードルが存在する。それは、VRゴーグルが提供する体験の面白さは、実際に体験したものにしか理解することができないということだ。スマートフォンゲームなどであれば、画面の様子を動画で伝えることで消費者にイメージを伝達することができるが、VRは実際にゴーグルを装着して目の前に広がる景色を見たり、コントローラを操作してその挙動を体験したりしなければ、それが面白いのかどうかを判断できないのだ。

VRゴーグルは衝動で気軽に購入できるほど安価な買い物ではない。HTC Viveは99,800円(税抜)、Oculus Riftが599ドル、最も安価なPlayStation VRも44,980円(税抜)する。興味本位で購入できるような商品ではないだけに、消費者の購入意欲をどのように喚起するかが各社にとって大きな課題となってくる。

こうした課題に対して、HTCはパートナー企業と共同でHTC Viveのコンテンツを体験することができるスペースを展開するとしており、混雑対策のためにネット予約も導入するという。ソニーは既存ゲーム機で築いた強力な流通網を駆使して、PlayStation VRを体験できる場を設けていくことが予想される。こうした場を通じて、VRゴーグルがもたらす体験の面白さを多くの人に伝えられれば、「高価でも欲しい」という強い購入意欲を消費者の中に生み出すことも可能だろう。

HTCが展開する体験スペースのイメージ

VRゴーグルに対する購入意欲を喚起するために必要なのは、端末を売る前にまず“体験の場”を生み出すことだ。それは、消費者向けにサービスを提供している企業や、公共施設、教育の場にソリューションを提供しているベンダー企業にとって、大きなビジネスチャンスが生まれていることを示唆している。つまり、VRゴーグルの体験機会そのものが、新たなビジネスになりうるのだ。

体験そのものがビジネスに

バンダイナムコエンターテインメントは、ダイバーシティ東京プラザ(東京都江東区)にHTC Viveを使ってVRゲームを体験することができる施設「VR ZONE Project i Can」を展開。VRゴーグルを活用した多くの有料アトラクションを用意している。いわばVRを使ったゲームセンターのようなイメージだ。気軽に訪れて、VRを活用した新しいエンターテインメントを楽しむことができる場の提供は、アミューズメント業界の新たなビジネスになりうる。

「VR ZONE Project i Can」では、地上200メートルの高所を体験できる「極限度胸試し 高所恐怖SHOW」、スーパースターになりきれる「スーパースター体験ステージ マックスボルテージ」、往年の人気アニメ『装甲騎兵ボトムズ』に登場するスコープドッグを実際に操縦し、バトルを楽しむことができる「VR-ATシミュレーター 装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」などが体験可能だ

また大手広告会社の電通は、サンシャイン60展望台(東京都豊島区)の集客施策として、VRゴーグルを装着した状態で東京の上空を空中散歩することができる「TOKYO弾丸フライト」というコンテンツを導入し、VR体験を集客のカンフル剤として活用する広告・PRビジネスの新たな可能性を試している。大日本印刷はフランス国立図書館と協力し、天球儀の世界をVRで体験することができる「Globes in Motion」を開発。歴史的な文化施設や観光スポットは、過去の世界を体験したり、通常では触れることができない展示物を動かしたりと、来訪者に特別なVR体験を供給できるだろう。教育現場ではVRによる新たな学びの体験が生まれるかもしれない。

サンシャイン60展望台で展開された「TOKYO弾丸フライト」。その名の通り、砲台のようなシートでVRを体験できる

そして、スクウェア・エニックスは、スマートフォンゲーム『乖離性ミリオンアーサー』の世界をVRで体験することができるデモンストレーションを、ファン向けのイベントやこの春に行われた「ニコニコ超会議」で実施した。スマートフォンという2次元の世界で行われるゲームを3次元で楽しめる点が来場者に非常に好評だったという。このように、既存のコンテンツをVRによって3次元化し、ファンとのエンゲージメントを深めるという活用法にも効果がありそうだ。

VR体験の入り口として、遊び場の創出を

様々な事例を紹介してきたが、実はVRが消費者に普及するカギを握っているのは、端末の普及拡大だけではなく、それを体験する機会の拡大なのではないだろうか。つまり、誰でも気軽に楽しむことができる“VRのゲームセンター”を様々なジャンルで生み出すことができれば、VRの魅力が多くの人に理解され、そこから個人向けVRゴーグルの普及やコンテンツ開発への参入企業増加といった波及効果が生まれるということだ。VRを活用してどのような“遊び”を生み出せば、多くの消費者が遊んでくれるか。それを考えることがVR普及の第一歩だ。

目の前に見たことがない広大な景色が広がり、その中で自分自身が主人公となり様々な体験をすることができるVRは、私たちにこれまでにない驚きと面白さをもたらしてくれる。その体験を高価な端末を購入しなくても楽しむことができる機会が広がっていけば、VRがコンテンツ体験の新たなスタンダードになる可能性も高まっていきそうだ。冒頭に挙げたように、VR普及のカギは間違いなくコンテンツだ。それを個人向けだけでなく、広く大衆向けに提供できるか否かに、VRの将来が懸っているといっても過言ではないだろう。

日本の家電メーカーは復活できるのか? カギを握る海外市場の熟成度

日本の家電メーカーは復活できるのか? カギを握る海外市場の熟成度

2016.07.25

2016年は、日本の家電産業にとって、大きな節目を迎えた1年になったといえるだろう。シャープと東芝の2つの家電事業が、海外資本の企業のもとで再スタートを切ることになったからだ。

016年4月2日、台湾の鴻海精密工業は、シャープを約3,888億円で買収することで正式に調印した。10月5日までに払込が完了する予定であり、なるべく早いタイミングで払込が行われる方向で調整が進められている。

「目のつけどころがシャープ」のキャッチフレーズが浸透しているように、白物家電を中心に、ユニークな製品でファンを掴んできたシャープ。1912年の創業以来、104年の歴史を持つ企業が、大手電機メーカーとして初めて海外資本のもとで再生を図ることになる。いみじくも、社名となったエバー・レディー・シャープペンシル(現在のシャープペンシル)を発売した1916年からちょうど100年目の出来事となった。

白物家電のDNAは海外資本で生き残れるか

東芝本社ビル

そして、2016年6月30日、東芝は、白物家電事業を世界第2位の白物家電メーカーと言われる中国の美的集団(ミデアグループ)に売却した。白物家電事業を担当する東芝ライフスタイルの株式の80.1%を、美的集団に約537億円で譲渡。東芝も一部出資を維持するものの、連結対象からは外れることになる。

1894年に、日本初の電気扇風機を発売したのを皮切りに、冷蔵庫や洗濯機、アイロン、電子レンジなど、東芝は日本初の家電製品を作り続けてきた歴史を持つ。その歴史ある家電事業は、中国企業のもとで継続することになった。

シャープも東芝も、白物家電製品には引き続きぞれぞれのブランドを使用することが決定しているが、海外資本の傘下という点だけをとっても、これまでとは異なる環境のなかで開発、製造、販売が行われることになるのは明らかだ。長い歴史を持つ両社の白物家電事業のDNAが、今後も継続されるのかが気になるところだ。

2007年頃のシャープは「アクオス」ブランドを前面に展開していた

では、日本の白物家電事業は、なぜ、海外企業に売却されるといった事態に陥ってしまったのだろうか。

それにはいくつかの理由があるが、最大の理由は、日本の家電メーカーが、国内市場へのこだわりがあまりにも強かったという点だろう。つまり、それが家電事業の成長を鈍化させ、成長戦略を邁進したグローバルカンパニーとの差になってしまったのだ。

日本の大手総合家電メーカーは、日立、パナソニック、東芝、三菱電機、シャープの5社。これらのメーカーは、すべて海外で白物家電事業を展開しており、国内集中でビジネスを展開してきたわけではない。東芝を例にすれば、同社の白物家電事業の約3割は海外ビジネスであり、中国、インドネシア、タイの生産拠点を活用しながら、アジア市場で事業を展開してきた。パナソニックもアジア市場に留まらず、欧州市場にも洗濯機、冷蔵庫などの製品を投入している。

だが、海外家電メーカーが、本当の意味でのグローバル戦略を軸として展開していたのに比べると、日本のメーカーは海外事業においても日本中心という姿勢は崩してこなかった。

各国の生活習慣を生かしたサムスン

例えばグローバルカンパニーの雄で韓国サムスン電子。地域専門家制度という独自の仕組みを導入し、これによって海外における家電事業のベースを一歩一歩地道に作り上げてきた経緯がある。

地域専門家制度とは、サムスンがターゲットとする国に人材を派遣。半年から1年間にわたって現地で生活を行い、その国の生活習慣や文化、トレンドなどを熟知する。この間、具体的な業績目標は設定されず、現地での生活は自由だ。だが、会社の業務とは関係のないところで自分の力で人脈を築き、文化を学ぶことを課せられる。

ここで目指しているのはその国に住む人と同じか、それ以上に文化やトレンドに精通している人材になることだ。そうした人材が自らの経験をもとに、その国に最適化した製品の企画、開発に携わり、それぞれの国に適したマーケティング戦略を立案する。まさに、その国に根づいた形での製品企画を行うことにつながっている。サムスンが白物家電の重点分野において、世界各国でトップシェアを獲得しているのも、こうした取り組みが見逃せない。

白物家電製品は、生活に密着した製品であり、主食や食べ物の嗜好、生活様式、気候や文化などによって、それぞれの国ごとに最適化した製品が求められる。欧米が靴を履いたまま生活するのに対して、日本は靴を脱いで生活するため、求められる掃除機の質は大きく異なる。中国では上着と下着を別々に洗濯することが常識であったり、東南アジアでは洗濯機に乾燥機能が求められなかったり、水は必ず煮沸してから冷蔵庫に大量のペットボトルを保存することが習慣になっている国があるといったように、各国ごとに日本とは異なる生活様式のなかで、家電製品が使われている。それぞれの国にあわせた製品開発は、必須だといえる分野だ。

これに対して、日本の家電メーカーは、あくまでも日本中心の手法を貫いた。アジア、中国地域には生産拠点を置き、そこで生産を行う体制を構築してはいたものの、海外生産拠点では、あくまでも日本向けの生産が中心だったり、日本でヒットした製品を海外へと展開する戦略を軸としていたため、これを海外で生産、海外ニーズを取り込むことは後回しとなったり、といった状況が見られた。

長年にわたって、日本で成功した製品は、海外でもヒットするという誤った認識が蔓延していたことも、海外展開の遅れにつながった。

2005年に開設された中国・上海の中国生活研究センター

パナソニックは、2005年から中国・上海に中国生活研究センターを設置し、独自の生活研究をベースに、中国のユーザーニーズに対応したり、機能を割り切った製品を市場に投入したりといったことを開始。従来から発売していた幅60cmの冷蔵庫が、約3割の家庭には置けなかったことを知り、これを55cmにすることで販売を拡大するといった成果もあげてきたが、主流となる低価格帯製品の展開には遅れ、市場シェアは限定的ともいえる状況だ。パナソニックの世界シェアは、エアコンが約9%、洗濯機は約6%、冷蔵庫は約3%だが、その多くは日本市場での実績がベースとなっている。

海外で低下していった価格競争力

そして、コモディティ化した家電製品は、グローバルでは低価格化が進展。また、家電製品の普及率が低く、成長が見込まれている新興国市場においてもやはり低価格製品が普及戦略の中心となるなかで、国内事業にこだわる日本の家電大手は、付加価値モデルが中心の事業構造となっており、こうした動きに追随できず、価格競争が進展するなかで収益を悪化させる事態に陥った。

これに対して、サムスンやLG電子、ハイアールは、コモディティ化した製品を相次いで投入している。これらのメーカーに共通しているのは、世界共通で展開できるプラットフォームを用意して、その上で各国ごとの仕様を実現するという構造を採用していたことだ。これが低価格品の販売台数が増加しても、利益率の確保につながっている。大量部材調達、大量生産のメリットが生かせる構造を敷いていたことが、日本の家電メーカーとの違いだったといえる。

実は、ハイアールや美的集団が、1社で生産する白物家電製品の年間生産台数は、日本の年間市場規模全体を遥かに凌ぐ規模になっている。これらの企業は、それだけの規模でビジネスをしており、それが競争力のベースとなっているのだ。

これに対して、日本の家電メーカー各社は、家電が普及しつくした日本市場を対象にビジネスを行ってきただけに、数量の成長は限定的とならざるを得ない。しかも、他国に比べて家電メーカーが多い国でもある。エアコンを例に取れば、日立、パナソニック、東芝、三菱電機、シャープの5社のほかに、ダイキン、富士通ゼネラルという専業メーカーも加わる。これらの企業が、飽和状態となっている国内市場でのパイを取り合っているという構図だ。

海外市場の変化がポイント

だが、これは決してマイナス面だけに作用するものではない。

最も品質や機能性に対する要望が高い日本市場で鍛えられた日本の家電メーカーは、高い品質と付加価値を持った製品開発では先行し、プレミアム家電と呼ばれる市場も作り上げた。

日本から優れた家電製品が数多く登場している点は、紛れもない事実である。これをさらに生かしていくことが、日本の家電復活のポイントになるはずだ。市場が成熟すれば、次に求められるのは付加価値である。中長期的にみれば、日本の家電メーカーが活躍できる場は決して少なくない。そのためには、次の時代に向けたグローバル展開を行える体制づくりを、いまから行っておく必要があるだろう。その点では、海外資本参加に入った、シャープ、東芝も絶好のポジションを得られる可能性があるといえる。

【三井住友フィナンシャルグループ】収益の持続的成長を実現させるメガバンクのM&Aとは?

【三井住友フィナンシャルグループ】収益の持続的成長を実現させるメガバンクのM&Aとは?

2016.07.24

【三井住友フィナンシャルグループ】収益の持続的成長を実現させるメガバンクのM&Aとは?

会社の概要

 2002年に三井住友銀行が自らを子会社とする完全親会社として設立したのが三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMFG)<8316>である。

 現在、SMFGの傘下にある会社は、「三井住友銀行」(銀行)、「SMBC信託銀行」(信託銀行)、「三井住友ファイナンス&リース」(リース)、「SMBC日興証券」「SMBCフレンド証券」(証券)、「三井住友カード」「Cedyna」(クレジットカード)、「SMBCコンシューマーファイナンス」(消費者金融)、「日本総合研究所」(システム開発、シンクタンク業務)である。

3大メガバンクグループ

 1968年に「都市銀行」に分類された13行(第一銀行、三井銀行、富士銀行、三菱銀行、協和銀行、日本勧業銀行、三和銀行、住友銀行、大和銀行、東海銀行、北海道拓殖銀行、神戸銀行、東京銀行)が合併などを繰り返し、現在は「三菱東京UFJ銀行」「三井住友銀行」「みずほ銀行」「りそな銀行」(及び「埼玉りそな銀行」)が都市銀行とされている。このうち、規模の大きな3行(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)は一般に日本のメガバンクと称されている。メガバンク3行とりそなホールディングスを含めた4行の売り上げ、純利益、時価総額をグラフにまとめたのが下表である。メガバンクの規模がいかに大きいかがよく分かる。

■メガ3行(+準メガ1行)比較

 銀行においては、金融システムの安定のために一定以上の自己資本比率を保つことが求められている。国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率などに関する国際統一基準をバーゼル合意という。88年に最初に策定され(バーゼル1)、日本でも92年から適用されている。04年に改訂され(バーゼル2)、世界的な金融危機を契機に10年に再度改定された(バーゼル3)。金融危機の経験を踏まえ、自己資本比率規制が厳格化されることとなったほか、定量的な流動性規制や、過大なリスクテイクを抑制するためのレバレッジ比率が新たに導入される予定である。バーゼル3は世界各国で13年から段階的に適用されている。

 海外営業拠点を有する金融機関に適用される国際基準と海外営業拠点を有しない金融機関に適用される国内基準では求められるハードルが異なっている。

【国際基準】
【国内基準】
自己資本比率 ≧ 8% 自己資本比率 ≧ 4%
Tier1比率 ≧ 6%
普通株式等Tier1比率 ≧ 4.5%

 なお、メガバンク3行の15年3月期の自己資本比率(バーゼル3)は下表の通りである。いずれも国際基準を超えていることが分かる。

■自己資本比率(バーゼル3)

■SMFGの行った主なM&A
年月 内容
2004.7 消費者金融サービスを行うプロミス(売り上げ3909億円)の株式17%を取得。買収金額は、第三者割当増資の引き受け分633億円及びプロミスの自己株式処分の引き受け分308億円の計941億円
2005.7 クレジットカード事業を行う三井住友カードの株式をNTTドコモに株式譲渡(500億円)、及び第三者割当増資(480億円)の引き受けにより、34%を売却
2005.9 ベンチャーキャピタル業務を行うエヌ・アイ・エフベンチャーズ(売り上げ127億円)の株式20.1%を公開買付にて135億円で取得
2006.7 ソフトウェア開発を行うさくら情報システムの株式34%をオージス総研に売却
2006.9 証券業を行うSMBCフレンド証券(売り上げ523億円)の株式59.65%を株式交換(33億円)にて取得
2008.2 クレジットカード事業を行うオーエムシーカードの株式4.43%をダイエーから103億円で取得。その他、ダイエー保有のオーエムシーカードの株式27.72%を信託財産として取得
2008.5 ベトナムで銀行業を行うVietnam Export Import Commercial Joint Stock Bankの株式15%を取得。取締役を派遣しており、持分法適用会社となっている
2009.1 三井住友FGの100%子会社である日本総合研究所は、システム構築を行う日本総研ソリューションズの株式50%をNTTデータに売却
2009.10 リテール証券業務を行う日興コーディアル証券(売り上げ425億円、純資産4000億円)の株式100%をシティグループから5450億円で取得。
※純資産のうち2010億円は取引対象外であるため、実質的な純資産は2000億円ほど
2011.5 クレジットカード事業を行うセディナ(売り上げ2327億円)の株式32.51%を株式交換(392億円)で取得
2012.4 消費者金融サービスを行うプロミス(売り上げ2384億円)の株式79.29%を第三者割当増資引受(1200億円)及び株式交換(1240億円)にて取得
2012.6 個人向け金融サービスを行うオリックス・クレジット(売り上げ314億円)の株式51%をオリックスに310億円で売却
2013.5 インドネシアで銀行業を行うPT Bank Tabungan Pensiunan Nasional Tbk(以下、BTPN)の株式24.26%を取得。その後、14年3月に追加出資を実施し、出資比率を40%とした。出資額合計は1500億円ほど(15億ドルを1ドル100円で計算)
2013.10 子会社である三井住友銀行が信託業務を行うソシエテジェネラル信託銀行(フランス)の株式100%を取得。その後、同信託銀行はSMBC信託銀行に改称
2015.3 香港で銀行業を行う東亜銀行に1000億円程度の追加出資を行った。持分は9.68%から17.50%に増加、取締役を派遣しており、持分法適用会社となっている
2015.7 子会社である三井住友銀行は、カンボジアで銀行業を行うACLEDA Bank Plcの株式を6%取得。これにより保有比率は18.25%となり、持分法適用会社となっている
2015.11 子会社であるSMBC信託銀行は、シティグループが日本で展開する個人向け銀行事業(リテール事業)を450億円で買収
2016.4 子会社である三井住友ファイナンス&リースがGeneral Electricグループが日本で展開するリース事業を5750億円で買収

 ※株式交換による投資額=SMFG株式の割当予定数×株式交換効力発生日のSMFG株式の時価で算定

(1)消費者金融を買収

 三井住友銀行は04年に消費者金融サービスを提供するプロミスの株式を20%弱取得した。これに先駆け、ライバルである三菱東京UFJ銀行は同じく消費者金融サービスを提供するアコムと資本業務提携している。三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行は共に不良債権問題を処理し、今後の収益増加に向けた前向きな成長戦略を描く材料として、2行が選択したのが消費者金融との提携である(みずほ銀行は消費者金融と提携していない)。個人向け無担保ローン市場は比較的高い利ザヤを見込め、新たな収益の柱になると判断したのが理由である。プロミスの株式を取得した際に三井住友銀行が発表したリリースには以下のように記載されている。

『SMFGでは、①コンシューマーファイナンス事業は、利息返還請求の高止まりに加え、上限金利規制や貸金業者に対する総量規制の導入に伴う市場規模の縮小といった厳しい事業環境に直面しているものの、依然として、相対的に利ざやが厚く、継続して安定した利益水準が見込める事業であり、中長期的に、個人消費を支えるリテールビジネスのラインナップの一つとして重視していきたいと考えていること、②お客さまの選好の相違等により銀行と消費者金融会社は補完関係にあるため、プロミスがSMFGの顧客基盤拡大に寄与するものであること、及び③プロミスの審査その他のノウハウは SMFGのコンシューマーファイナンス事業戦略上不可欠であることから、プロミスグループをコンシューマーファイナンス事業における中核的存在の一つとして位置づけております』

(2)信託銀行を買収

 13年にフランスの信託銀行を買収するまで、他のメガバンクと異なりSMFGは信託銀行を有していなかった。SMFGでは富裕層ビジネスを重要な戦略分野と位置付けてきたが、ソシエテジェネラル信託銀行の4000億円に上る富裕層の預かり資産を引き継ぎ、プライベートバンキング(富裕層向け事業)を強化し、相続や資産承継のニーズも取り込むことが買収目的である。

(3)海外への投資

 SMFGが14年5月に公表した中期経営計画におけるビジョンの一つに「アジア・セントリックの実現」が掲げられている。SMFGではアジアにおけるビジネス戦略をグループ全体の中長期的な最重要戦略と位置付け、業務基盤の構築を進めており、その手段としてM&Aを積極的に用いている。

今後のM&A戦略

(1)収益性の高い事業の買収

 SMFGの中期経営計画の経営目標の一つに「健全性・収益性を維持しつつ、トップライン収益の持続的成長を実現」が挙げられている。しかし、海外経済の減速によりアジア向け融資が伸び悩んでいること、マイナス金利政策の導入などにより、銀行の収益性は低下しているのが現実である。「収益の持続的成長」を実現させるためにも、国内外問わず、収益性の高い事業を積極的に買収することが想定される。

(2)信託業務の強化

 SMFGは13年に信託銀行を買収したことで信託業務に参入し、シティグループの国内リテール事業を買収したが、SMFGの信託業務は他のメガバンクに比べてまだまだ脆弱であると言える。三菱東京フィナンシャルグループ及びみずほフィナンシャルグループの有価証券報告書では信託銀行が報告セグメントの一つとなっているが、SMFGの有価証券報告書では信託銀行が報告セグメントとなっていないことからも明らかである。主な信託銀行の資本金を比べてみると、三井住友信託銀行(資本金3420億円)、三菱UFJ信託銀行(資本金3242億円)、みずほ信託(資本金2473億円)に比べ、SMFG傘下のSMBC信託銀行は275億円と非常に小さいことが分かる。信託銀行最大手の三井住友信託銀行はSMFGと起源は同じではあるが設立の経緯から別グループを形成しており、両グループが統合することは現時点では想定しづらい。SMFGが信託業務を強化するためには他の信託銀行を買収することが考えられる。

■資本金

SMFGの財務分析

 ではSMFGの財務を検証してみることとする。

■経常収益/損益推移

■総資産/純資産推移

 SMFGが設立した03年3月期からの財務情報の中で、リーマンショックが生じた09年3月期、及び影響を受けた10年3月期に注目したい。リーマンショックが生じた09年3月期は金融危機の影響で投資家のリスク回避による株価低迷などが原因で、経常収益(売り上げ)及び利益が大幅に減少した。10年3月期においてもリーマンショックの影響で資金需要の低迷、海外投資家のリスク回避などにより引き続き経常収益は大幅に減少した。しかし09年3月期に、収益の低迷が持続することを見越して引当金を積み増したこと、厳しい経済環境を踏まえて保守的に対応するため繰延税金資産を取り崩したことなどにより、経常収益が大幅に減少したにも関わらず、10年3月期の利益は増加している。将来を見越して保守的な会計処理を迅速に行ったことで損失の長期化を防いだことがうかがえる。

 しかし、16年3月期の利益は6400億円台で、15年3月期の利益7500億円に比べ1000億円以上の減少となっている。また、これにより2期連続で前年比減少となっている。今後、将来の利益減少を防ぐため、上記のようなM&A戦略が実施されることになるであろう。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部