サントリー公式VTuber 燦鳥ノムさんがもたらす“ファンとのつながり”

サントリー公式VTuber 燦鳥ノムさんがもたらす“ファンとのつながり”

2019.01.10

サントリーが採用した公式VTuberは119歳の女性

企業公式だが、ゲーム実況や歌ってみた動画などマルチな活躍を見せる

話を聞いているなかで「ノムさんが愛される理由」が見えてきた

人類が知らない未開の文明は存在するのか?

その問いに対する筆者の答えはYES。なぜならば、「存在しない」ということを証明できないからだ。深海や地底、宇宙も含めれば、まだ人類が調査できていない場所は多い。というか、実際、先日「水の国」からやってきたというお嬢さんとお話してきたのだから、やはり、答えはYESである。非常に麗しい、119歳のお嬢さんだった。

119歳、水の国出身のバーチャル淑女

「冷蔵庫からこんにちは。水のように清らかに、太陽のようにみんなを照らす。サントリー公式バーチャルYouTuber(VTuber)の燦鳥ノムと申します。『燦々と輝く太陽』の『燦』に、お空を飛ぶ『鳥』で、さんとりと読みます♪」

サントリーまでもが手を出した。そう、今や6000人以上が鎬を削るVTuberだ。ノムさんは、サントリー公式VTuberとして活動する1899年生まれ、119歳のお姉さんである。

サントリー公式VTuberの燦鳥ノムさん。マンガ『夜桜四重奏 〜ヨザクラカルテット〜』や、ライトノベル『デュラララ!!』のイラストを手がけたヤスダスズヒト氏が、キャラクターデザインを担当した

還暦ダブルスコア目前のノムさんだが、外見はなんともエレガント。丁寧な言葉遣いやおっとりした性格も好感が持てるし、年齢を感じさせない不思議な魅力があるではないか。その愛らしさはいったいどこから来るのだろう。

以前、ロート製薬の根羽清ココロさんに話を伺ったときは、初めてのVTuber取材に面食らった部分もあるが、同じ轍を踏む筆者ではない。もう驚かないぞ。よし、じゃあ早速、サントリー公式VTuberになった経緯など、ノムさんにいろいろと聞いちゃおう。

「私が公式VTuberになったきっかけはスカウトですね。いろいろな飲み物について知りたくて、探しに出たところ、こちらの世界で最初に着いたのがサントリーという会社だったんです。そこで出会ったサントリーの人にスカウトされまして、公式のVTuberをさせていただくことになりました」

なるほど、採用のきっかけはスカウト。たしかに、山奥で湧き出る水のごとく澄んだルックスのノムさんは、“水と生きるサントリー”をブランドメッセージに掲げている同社にぴったりだ。さすが、サントリー。目の付けどころが違う。

しかし「こちらの世界」ということは、ノムさんはどんな「こちらではない世界」からやってきたのだろうか。

「私の出身地である『水の国』です。お水がとっても豊かで、綺麗なところなんですよ」

水の国……。あ~、知ってる。知ってる。超知ってる。ベネチアだ。……違う? 山梨県の南アルプス市とか、そのへん? ……あ、どちらも違う。では、水の国とは……?

「水の国は、とっても大好きな故郷なのですが……、飲み物がお水以外ないんですよね~。だから、初めてこちらの世界にきたときは、本当にいろいろな飲み物があることに驚かされました。わぁいいなぁ、贅沢だなぁ~と。ワァラ」

ワ? え? 何? ワァラ? water(すごくいい発音で)? え? ……あ、w←これ? これのこと? いわゆる、「ワラ」ってことか。水の国では「ワァラ」と発音するわけだ。そういえば、根羽清ココロさんも「ねばー」という口癖があった。なんというか、皆さんとても個性的である。

結局、水の国がどこなのかは不明だったが、まぁいいとしよう。

ノムさんのw(ウォァルァ)動画。本場の発音はこの動画からどうぞ。ちなみに、こちらの世界で使われる「www(草生える)」は、水の国で「水湧く」と表現するらしい。大草原は大瀑布? 大噴水?

「ほかのVTuberの皆さんも個性的ですよ。動物みたいなお耳が生えている方や、動物そのまま? の方もいらっしゃるんです。日々、驚きの連続ですね!」

たしかに、狐だったり猫だったり、馬にゴリラに、6000人いる“しゃべる個性”のなかで自分の立ち位置を確立することは、そう簡単なことではないのだろう。そのあたりでも、きっとさまざまな工夫や苦労をしているに違いない。

積極的にコラボにも挑戦! 意識するのは視聴者の満足

2018年8月のデビューから約半年、ノムさんのYouTube公式チャンネルでは、チャンネル登録者数が6万人を突破し、動画数はすでに40近い。次はこれらの動画について聞いてみよう。

「毎回いろんな企画を考えて動画を作っています。自分で自分のCMを作ってみたり、新しいキャラクターを開拓したり……。それに、『ゲーム実況』や『歌ってみた』にも、どんどんチャレンジしています!」

サントリー公式VTuberだからといって、サントリーのPRだけをしているわけではない。観る人が楽しめるように、さまざまな動画に挑戦しているのだ。ただし、動画の途中にサントリーの飲料をノムノムして(ノムさんは飲み物を飲むことをこう言う)、その魅力を伝えることは怠らない。

幅広いジャンルの動画を公開しているノムさんだが、特にお気に入りなどはあるのだろうか。

「最初に歌わせていただいたEveさんの『ドラマツルギー』はとても印象深いですね。初めて聴いたときに、いい意味でグサッと心に刺さりました。また、ときのそらさん、富士葵さんと一緒に歌った『檄!帝国華撃団』も心に残っており、自分でもついつい聴き返してしまいますw(ワァラ)」

ノムさんのお気に入り動画「ドラマツルギー」
VTuber3人がコラボした「檄!帝国華撃団」

お気に入りの「ドラマツルギー by 燦鳥ノム【歌ってみた】」は、82万回再生を記録するほどの人気コンテンツだ。たしかに、天然水のごとくクリアな歌声に、ノムさんの踊りで彩る映像美は、一見の価値がある。実際、圧倒的クオリティの動画に対する賞賛のコメントが相次いだ。

また、『檄!帝国華撃団』のように、ノムさんはほかのVTuberと共演するケースも多い。親しみを感じやすい性格だからか、きっとノムさんの周りには人が集まってくるのだろう。

「お友だちはたくさんできましたね。企画で共演したほかのVTuberの方と仲良くなれただけでなく、動画を観てくださる方のコメントが本当にうれしくて。勝手に皆さんのことをお友だちのように感じています」

動画に対するコメントは毎回数百件にものぼり、Twitterのリプライなどを含めると、数えきれないほどのメッセージがノムさんのところへ届く。

「コメントを読むと『頑張らなくっちゃ!』と燃えますね。なかには『こんな企画が見てみたい』といったコメントをいただくことも多くて、なるべく取り入れるようサントリーの人と相談しています」

取材中、楽しそうに話すノムさん

常に読者の要望に応え、楽しませようと努力するノムさん。まさに、YouTuberの鑑のような存在である。

「どの動画も、観た方が楽しい気持ちになれるものだといいなと思っています。わたくし自身どの企画も楽しんでやっているので、それが伝わっていれば嬉しいですね」

ノムさんは視聴者のために動画を作る。たとえ、それが命をかける動画であっても、きっと一歩も引かないだろう。それが帝国華撃団なのだから。

生放送を経験したノムさんが次に目指すものは?

最近では、初の生放送を経験したノムさん。サントリー「クラフトボス ホット」のTV CMに出演している、ゆりやんレトリィバァさんとの共演を果たした。生放送では、ゆりやんレトリィバァさんがバーチャル世界に入り込み、VTuberとしてノムさんと「女子会」を実施。視聴者の恋愛相談や大喜利などを行った。

生放送中のワンシーン

「生放送はすっごく楽しかったです!! リアルタイムで皆さんとやりとりをするのが初めてだったので、最初は焦っちゃいましたが、とても刺激的でした。ゆりやんレトリィバァさんもステキな方で……。ぜひまた一緒に生放送やりたいです!」

ノムさんは生放送を経て、また1つベテランVTuberへと近づいたといえよう。

次々に新しいことにチャレンジしているのが印象的だが、今後の目標などはあるのだろうか。

「目下の野望は、CM出演です! まだ予定はないみたいなんですけど、サントリーの人にお願いしてますw(ワァラ)」

ノムさんは動画で自作CMを考えるほど、CM出演を切望しているようだ。熱烈アピールむなしく、まだ実現できていないようなので、この記事を読んだサントリーの担当者は、ぜひもう一度ノムさんのCM出演を前向きに検討してほしい。

ノムさん、一首詠みます

ところで、そもそもノムさんは、さまざまな飲み物について知りたくて水の国を飛び出してきたはずだ。動画でいくつかサントリーの商品をノムノムするなかで、忘れられない飲み物との出会いなどはあったのだろうか。

「最初にノムノムしたのが『伊右衛門』だったので、思い出に強く残っています。わたくし短歌が趣味なんですが、伊右衛門を飲むと一首詠みたくなりますね~」

なるほど。では、せっかくなので、「今後の決意表明」をテーマに一首詠んでいただいた。


あたたかな 言葉くださる 皆さまの 太陽そして オアシスであれ ――

すでに活躍しているVTuberと企業がコラボするケースは増えてきたが、その場合、一時的な盛り上がりはあれど、継続性はそこまで高くない。公式VTuberを起用して新たなファンを確立すれば、企業との長期的な接点を生み出すことができるだろう。実際、動画に寄せられたコメントのなかには、「ノムさんがきっかけで最近はなんとなくサントリー商品を選んでしまう」といった内容も見受けられた。

しかも、119歳に水の国出身と、ステータスのインパクトも抜群。一度見たらなかなか忘れることはできない。さらにノムさんは、動画のクオリティやビジュアル、声、性格など、さまざまな理由で愛されている。筆者も今回ノムさんの話を聞いて、多くのファンから愛されていることに納得した。穏やかな性格に物腰の柔らかさ、それでいて視聴者を楽しませようとするサービス精神も持ち合わせている。まさに“心のオアシス”のような存在なのだ。

そんなノムさんであれば、目下の野望である「CM出演」も不可能ではないだろう。地上波でもノムさんの活躍を見てみたいところだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。