店舗総合支援へと動き出したUSEN、田村社長の考える魅力的な飲食店とは?

店舗総合支援へと動き出したUSEN、田村社長の考える魅力的な飲食店とは?

2018.12.13

音楽配信事業から店舗総合支援へと舵を切るUSEN

同社の持つ空きテナント情報やヒトインフラのリソースを活用

自動化を進めつつも、飲食店が残さなければならない“人のぬくもり”

スタッフの雇用難が続く飲食店、人手不足による黒字倒産も増加

USENが音楽配信依存からの脱却を図っている。同社は「お店の未来を創造する [店舗総合サービスのNo.1プレイヤーへ]」というビジョンを掲げ、飲食店の開業支援やPOSレジの提供、損害保険販売、電力、ガスの小売りなど幅広いサービスを展開。2018年10月30日には、飲食店向けのセルフオーダーシステム「U-Order」をリリースした。

U-Orderは、テーブルなどに設置するタブレットタイプのセルフオーダーシステムだ。来店客が自らタブレットで注文をするため、店員は注文と用件伺いの手間を省くことができる。現在(2018年11月27日 取材時点)は、食べ放題と飲み放題を対象としているが、順次アラカルトメニューにも対応していくという。

メリットはPOSレジなどと接続する必要のない「独立タイプ」である点。レジと連動していないと不便なのでは? と思うかもしれないが、既存のレジ環境に依存しないため、導入の障壁が低いのだという。

USEN 代表取締役社長の田村公正氏は、U-Orderが生まれた背景について次のように話す。

「最近、飲食店では、日本人だけでなく中国人をはじめとする外国人スタッフの雇用も難しくなってきています。我々も、お客さまから人手不足を解消したいというご相談をいただくことが増えました。音楽配信事業を中心に、さまざまなお店と50年向き合ってきた当社としても、お客様の力になりたいと考え、省人化を実現するU-Orderの開発を決めました」

USEN 代表取締役社長の田村公正氏

売り手市場なのは、何も新卒採用だけではない。今はアルバイトの雇用すら困難を極める時代なのだ。優秀な人材は、国籍問わず引く手あまた。そのうえ、ようやく採用できたかと思ったら、すぐに仕事を辞めてしまうケースも少なくないという。

「日本語をまだ完璧にマスターしていない外国人スタッフが接客をすると、お客さまとのミスコミュニケーションが起きることがありますよね。例えば、“タンタンメン”と“タンメン”を聞き間違えてしまったり。そうなると、クレームにつながることも少なくありません。クレーム自体は会社側が処理すればいい話なのですが、問題はせっかく採用した外国人スタッフが辞めてしまうことです」

同社がセルフオーダーシステムを開発した背景には、店舗の作業効率化だけではなく、外国人スタッフを“守る”という目的もあったのだ。母国語の通じない環境で仕事をするのは、簡単なことではない。責任を感じてしまうのか、向いていないと思ってしまうのか、コミュニケーションがうまくいかないことによって、辞めてしまう外国人スタッフも少なくないそう。

「来店された方が自分で注文を入力するので、聞き間違えのようなミスコミュニケーションも減るでしょう。単純な省人化だけでなく、従業員を守るツールとしても、課題解決の一助になればいいですね」

慢性的な人手不足が続いた結果、最近では「黒字倒産」に陥る店舗も増えてきているそうだ。そんな現状を少しでも変えるべく、田村氏はU-Orderの効果に期待を寄せる。

50年以上の営業経験が店舗総合支援への扉を開く

店舗の悩みを解決すべく、セルフオーダーシステムを開発したUSEN。しかし、USENといえば、店舗向けに音楽を配信する事業のイメージが強い。いつから音楽以外の事業に力を入れるようになったのだろうか。

「私が社長に就任した2013年ごろから徐々にシフトしているイメージですが、頭のなかでは10年以上前から考えていました。その背景にあるのは、音楽市場を取り巻く環境の変化。今の若い世代には『お金をかけて音楽を聴く』という文化をなかなか理解できない人も多いのではないでしょうか。USENは著作権の問題がクリアになっているので店舗BGMにはぴったりだと思いますが、今後その世代の人たちが独立して自分のお店を開いたとき、コストを払ってまで店舗でBGMを流すことにはシビアになるはずです。そこで、音楽ビジネスを柱にしながらも、第2、第3の柱をどうやって作っていこうか考えるなかで、開業からお客様の店舗の一生涯に寄り添うという戦略にシフトしていこうと決めました」

USENが掲げる「バリューサークル」。店舗ライフサイクル上のさまざまな領域でサービスを展開する

1998年に6000億円近くあったCDの生産金額は、今や1500億円程度。インターネットの普及によって無料で音楽が聴けるようになった現代では、BGMに対してコストを支払うという考えが生まれにくいのかもしれない。

そのような環境のなかで、次の柱として「店舗総合支援」を選んだ理由を、田村氏に聞いてみた。

「我々には、50年以上、店舗のお客さまとお付き合いしてきた経験に基づく情報とリソースがあります。例えば、USENをご契約くださっているお客様が閉店する際、解約のご連絡があるのですが、それによって私たちは未来のテナント情報が手に入るのです」

店をやむなく閉めるときには、それまで契約していたUSENも解約する。その連絡を受けることで、USENはどこよりも早く、将来の「空きテナント情報」を知ることができるというわけだ。そして、その情報をもとに、これから開業を考えているオーナーとのマッチングを行うことも可能だという。

USENは手に入れた情報をもとに、店舗物件検索や内装相談などができるメディア「canaeru」を運営している

「立地や内装がよければ、そのまま“居ぬき”でほかの経営者に売却することができます。テナントで入っているお店は、内装をすべて原状回復してから出ていかないといけないのですが、工事のコストは数百万円することも少なくありません。買い手が見つかれば、冷蔵庫やキッチンなどの設備も売れる可能性があるので、次のビジネスを始めるときの手元資金にできるのです」

将来の空きテナント情報は、買い手だけにメリットがあるものではなく、売り手としてもメリットがあるのだ。さらに、店舗総合支援に役立つのは、情報だけではない。

「USENには1000人の営業と750人のエンジニアがおり、北海道から沖縄まで、全国150拠点で活動しています。我々は“ヒトインフラ”と呼んでいるのですが、何かあった際にお客様の店舗へすぐに駆け付ける体制がしっかりと構築できているのです。他社でこれほどのネットワークを持っている会社はないのではないでしょうか」

店舗営業でヒトインフラを構築してきたUSENには、情報が集まるだけでなく、全国の店舗とのネットワークがある。従来の事業によって、店舗総合支援の土台はできあがっていたといえるだろう。

担当者単位で見れば、従来の仕事を進めるなかで、顧客の課題解決を行い、すでに総合的なサポートを実践していた社員もいるかもしれない。しかし、それを会社の大きなビジョンとして描くことで、全社的に店舗総合支援へと舵を切ることになったのだ。

業務の自動化が進むなかで求められるバランス

店舗総合支援の事業を進めるUSEN。田村氏は今後の店舗のあるべき姿について、どのように考えているのだろうか。

「最近は、無人店舗やキャッシュレス決済が登場するなど、テクノロジーの進化が目立ちます。コンビニなどは利便性の高さが大事なので、オートメーション化の流れはますます加速していくと思いますが、飲食店のなかには“人のぬくもり”を必要とする店舗もあるはず。そのような店舗では、オートメーション化と人が介在するサービスのバランスが大事になっていくのではないでしょうか」

「自動化」と「人の手」、どちらかに寄り過ぎても成功できるとは限らない。サッと食べるだけのファストフードであれば無人化してもいいだろうが、比較的長い時間滞在する居酒屋などの場合は今後も人間が介在するだろう。とはいえ、人手不足の問題を解消するためには、ある程度の機械化、自動化は避けられないはずだ。これからは、2つのバランスが魅力的な店舗を作るのだと田村氏は考える。

「もちろん、大将と女将さんが2人で切り盛りしているカウンターの小料理屋に、タブレットの注文システムは不要です。ただ、そのようなお店でも奥に接待用の個室がある場合、来店客はわざわざ女将さんを大きな声で呼ばなければなりません。呼び出しベルの場合もありますが、一度要件を伺いに行く手間が発生します。そのようなシーンでは、タブレットのオーダーシステムがあっても違和感はないでしょう。自動化と人のぬくもりのバランスを見極めながら、今回リリースしたU-Orderをはじめ、我々の開発したシステムを必要に応じて導入してほしいですね」

U-NEXTとUSENが経営統合して「USEN-NEXT GROUP」が生まれたのが2017年の12月1日。2018年にはライバル会社だったキャンシステムをホールディングスの傘下に迎え、USENは今まさに大きな転換期を迎えている。

音楽配信のUSENから店舗支援のUSENへ。音楽配信事業で培った店舗営業の経験を、開業支援や経営サポートの面で活かしながら、店舗の一生涯に寄り添うサービスを展開する同社は、その実現に向けて、着実に歩を進めているといえよう。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。