かつての腕白少年も今やベテランの風格…ホンダが新型「インサイト」を発売

かつての腕白少年も今やベテランの風格…ホンダが新型「インサイト」を発売

2018.12.13

ホンダが3世代目となるハイブリッド車「インサイト」を発売へ

やんちゃな男の子が社会人に? 「インサイト」のデザイン史

ホンダらしさを感じるパッケージングのうまさ

ホンダは2018年12月14日に新型「インサイト」を発売する。初代インサイトは後輪の上半分を覆い隠す「ホイールスカート」など、主張の強い近未来的なデザインが目を引いたが、3世代目となる新型は一転してオーソドックスなカタチとなった。今回は、そんなインサイトのデザイン史を振り返ってみたい。

2018年12月14日に発売となる新型「インサイト」。グレード別の価格は「LX」が326万1,600円、「EX」が349万9,200円、「EX BLACK STYLE」が362万8,800円。燃費はJC08モードでLXが1リッターあたり34.2キロ、EXが同31.4キロだ

まるで“やんちゃな10代”のように自己主張した初代

1999年にハイブリッド専用車としてデビューしたホンダ「インサイト」は、コンサバティブなノッチバック(※)セダンとして誕生したトヨタ自動車「プリウス」とは正反対ともいえる近未来的なスタイリングだった。そのインサイトも、時代を経るに従い徐々に落ち着いたデザインとなっていったのだが、その様子はまるで、やんちゃだった男の子が、だんだんとまともな社会人になっていく過程のようだった。

※編集部注:ノッチバックとは、エンジンルーム、客室、トランクルームが独立していて、横から見ると凸型になるオーソドックスなクルマのカタチのこと

世界初のハイブリッド車として1997年にデビューしたトヨタのプリウスは、トランクリッドのあるノッチバックの4ドアセダンスタイルだった。今はかなり先進的で挑戦的なスタイリングのプリウスだが、初代はコンサバティブそのもの。言葉は悪いが、まるで“華のない”見た目だったのだ。少年漫画に出てくる学級委員をクルマにしたら、きっとこんな感じだろうなあ……という雰囲気だったといえば伝わるだろうか。

優等生然とした初代「プリウス」(画像提供:トヨタ自動車)

対して、1999年にデビューしたインサイトは、プリウスとはまるで逆方向のスタイリングを採用していた。3ドアのハッチバックで、乗車定員は2人。とにかく、効率を追求し尽くす考え方で、ものすごく挑戦的な姿となっていたのだった。

やんちゃな男の子然とした初代「インサイト」(画像提供:本田技研工業)

初代インサイトのボディデザインは、徹底して空気抵抗を減らす方向で行われている。その象徴となっているのが、リヤフェンダーに取り付けられた「ホイールスカート」と呼ばれるカバーだ。ホイールの露出を避けて空気の流れを綺麗にする手法は、競技用ソーラーカーなどではよく見かけるものだが、市販車ではまれな採用例となった。さらに、ホイールもディッシュタイプで空力重視、リヤウインドウは3次元形状となっているなど、隅々まで空力デザインが徹底されていた。

アルミと樹脂を多用したボディも特徴的だ。もちろん、これは軽量化が目的だった。ホンダはすでに「NSX」でアルミボディのノウハウを得ていたから、そのテクノロジーを流用したのだ。NSXがアルミの板材を多用したのに対し、インサイトではアルミ押し出し材の採用比率を上げている。アルミ押し出し材を使ってフレーム構造を成立させ、そこにアルミ板材や樹脂パネルを組み合わせることで、軽量なボディを作り上げた。

風洞実験中の初代「インサイト」。徹底して空気抵抗を減らすボディデザインで、後輪の上半分を覆う「ホイールスカート」が特徴的だ(画像提供:本田技研工業)

もちろん、エンジンやモーター、内装品などでもホンダは効率を追求した。搭載したのは1リットル3気筒のエンジンだ。結果として、燃費は当時のガソリン自動車として世界最高となる35.0km/L(10・15モード)を達成。「燃費」という一点に対する徹底したこだわりは、思春期の少年少女が譲れないものを持って突っ張る姿のようだった。

ホンダは2006年にインサイトの生産を終了した。インサイトがラインアップから消えたとき、多くの人は「このクルマはホンダの実験だったのだ」と感じ、再び世の中に登場することはないと思ったはずだ。しかし、その予想は裏切られる。

2代目「インサイト」は“リクルートスーツの新入社員”?

ホンダは2009年に2代目のインサイトを発表する。しかし、そのクルマは初代インサイトとは似ても似つかぬ、ごくごく普通の格好をしていた。初代が2人乗りの3ドアハッチバックだったのに対し、2代目は5ドアハッチバックスタイルで登場したのだ。リヤホイールの「スカート」もなくなっていた。

初代に比べれば“ごくごく普通”のデザインとなっていた2代目「インサイト」

これは完全にトヨタのプリウスを意識したモデルであり、「インサイト」という名前だけを引き継いだモデルにも見えたのだが、一方、その中身はと言えば、やはりインサイトそのものだった。かつては自己主張が強く、突っ張っていた若者が、就職試験のためにリクルートスーツを着て就職活動を実施し、無事に企業に入社して新入社員になった。そんな姿だったのが2代目インサイトだと言えるかもしれない。

2代目インサイトは1.3リットルの4気筒エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドモデルとして登場。インサイトがハイブリッド専用車であるという基本的な部分は変わっていなかったのだ。しかし、非常に興味深いことが起きる。それは、発表から3年後となる2011年のこと。なんと、ホンダはインサイトに1.5リットルモデルを追加したのだ。

ハイブリッド車はエンジン+モーターという複雑な構造をもつため、2種類のエンジンを持つことは非常にまれなケースだ。しかし、インサイトはそれを行った。実は、この出来事の裏には「CR-Z」というクルマの存在がある。2010年に登場したCR-Zは、インサイトよりも高い出力を得るため、1.5リットルのエンジンを積んでいた。ホンダはCR-Zのシステムを使い、インサイトに1.5リットルモデルの「エクスクルーシブ」を追加した。

1.5リットルのエンジンを積んだハイブリッド車「CR-Z」(画像提供:本田技研工業)

普通の新入社員だったインサイトは、1.5リットルエンジンを手に入れたことで、「燃費重視」と「走り」という2つの顔を持つ存在となった。

しかし、2009年から2014年まで生産された2代目インサイトは、またも姿を消す。まるで突然の退職、そして失踪といったような感じだ。さすがに、2度も生産が止まったクルマが再び登場するとは誰も思っていなかったのだが、それは現実となった。

新型「インサイト」から感じる“ベテラン社員”の落ち着き

3ドアハッチバックの突っ張ったスタイルで誕生したインサイトは、2代目で5ドアスタイルを取り入れ、普通のクルマに近づいた。そして、3代目となる今回の新型では、ついにノッチバックセダンという“真面目な”デザインを採用した。新入社員のようだった2代目インサイトからみると、まるでベテランの領域。たぶん、身を潜めている間に考え方が大きく変わったのだろう。

真面目なノッチバックセダンとして登場した新型「インサイト」

初代インサイトが登場したとき、ハイブリッドというのはとても珍しいクルマだった。しかし、それが今や、ハイブリッドは当たり前の時代になった。「ハイブリッドでるあること」を強調するために突っ張っていたインサイトだが、今の時代にハイブリッドであることを際立たせても意味がない。とはいえ、3代目となる新型インサイトの落ち着きぶりには、かなり驚いたというのが本音だ。

「インサイト」は3世代目でかなり落ち着いたという印象だ(画像提供:本田技研工業)

新型インサイトのプレスインフォメーションの冒頭には、「燃費世界一への挑戦から生まれたインサイトは、魅力世界一のミドルセダンへと進化する」と書いてある。

この言葉が、新型インサイトの全てを物語っていると言えるだろう。新型インサイトのボディサイズは全長4,675mm、全幅1,820mm、全高1,410mm。ちょうど「アコード」と「シビック」の中間に位置するサイズだ。価格帯も326万~362万円(税込み)とまさにアコードとシビックの間に入る。また、アコードにはハイブリッドがあるが、今のシビックにはハイブリッドが存在しないので、新型インサイトは「シビック ハイブリッド」の役目も果たしていると言える。

ホンダ「アコード」(画像提供:本田技研工業)
ホンダ「シビック セダン」(画像提供:本田技研工業)

新型インサイトでなんといっても感心させられるのは、そのパッケージングだ。ハイブリッドはエンジン車にモーターやバッテリーを追加しなくてはならないので、増える部品をクルマの中に収めるのが難しい。にも関わらずホンダは、室内やトランクルームを圧迫することなく、新型インサイトのパッケージングを成立させている。

パッケージングのうまさが感じられる新型「インサイト」(画像提供:本田技研工業)

当時は珍しかったハイブリッドを使いながら、従来同様の機能性を実現したのが初代インサイトだった。その誕生はかなり衝撃的なもので、世の中にインパクトを与えた。今や、見た目は普通のクルマになったインサイトだが、その中身が、初代同様に挑戦的なものであることには変わりない。目立たないながらもホンダらしさにあふれたクルマ、それがインサイトなのだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu