「LINEの金融サービスはだいたい出そろった」。LINEの代表取締役CEOである出澤剛氏は、11月27日の新サービス発表会でこう語った。決済サービスの「LINE Pay」をはじめ、この1年は特に矢継ぎ早にサービスを強化、拡大してきたが、新たにスコアリングサービス「LINE Score」を発表して信用情報サービスに手を広げ、そして銀行業として「LINE Bank」を2020年に開業する。
矢継ぎ早の新サービス LINE PayはWeChat Payと提携
2018年になってからだけでも、LINEは1月にテーマ投資のフォリオと提携。新会社LINE Financialを立ち上げて金融サービスへの取り組みを本格化した。3月にはLINEウォレット、4月には損保ジャパン日本興亜ホールディングスと提携。5月には野村ホールディングスと合弁契約。7月には仮想通貨交換所BITBOX、8月にはLINE Pay店舗用アプリ提供開始とQRコード決済最大5%還元を開始。10月にはLINEほけん、LINEスマート投資を開始。11月にはマイカード、LINEクーポン、LINE家計簿をそれぞれ開始した。
国内だけではない。グローバルでも、LINE Payを提供する東南アジア3カ国・地域の台湾、タイ、インドネシアでサービス強化。特に台湾でインターネットバンキング、インドネシアで大手銀行と提携している。
そうしたサービス強化に向けて、みずほフィナンシャル専務執行役やオリエントコーポレーション専務執行役員などを歴任した齊藤哲彦氏を、LINE Financialの代表取締役社長CEOとして招聘。12月から舵取りを任せる。
こうした取り組みのひとつのキーとなっているのがLINE Payだ。最近のQRコードを使った決済サービスとしては古参に当たる2014年からサービスを提供。QRコード、プラスチックカードに続いて非接触決済のQUICPayに対応することで対応店舗を拡大。11月22日にはスマートフォン決済利用可能店舗を100万カ所まで増加させた。
とりあえずの目標を達成した形だが、出澤社長はさらに個人店舗などを始めとした小規模店での利用拡大に向けて開拓を加速させる考えだ。
LINE Payの長福久弘取締役COOは、「挑戦の多い年だった」と2018年を振り返る。100万カ所の対応箇所の拡大だけでなく、3.5~5%という高い還元率、各種キャンペーンで、ユーザーの利用拡大にも取り組んだ。
加盟店向けには、初期費用、決済手数料無料に加え、集客、販促、経営、経理といった「決済の枠を越えた店舗に必要不可欠なサービスを提供していきたい」(長福氏)考えだ。
さらに「決済革命は次のステージへ」(同)と意気込んで発表されたのが、さまざまな提携だ。まずはJapanTaxiと提携して、決済用タブレットをタクシー内に設置し、LINE Payでの支払いに対応する。キャッシュレス化が遅れているタクシー業界で、2020年までに全国のタクシーで4台に1台となる5万台を対応させる計画だという。
年末の忘年会シーズンを狙って「LINE Payでわりかんキャンペーン」も実施する。QRコードを読み込むだけで割り勘ができるということだが、詳細は今後発表する。
そして大きなトピックがインバウンド向けの施策だ。訪日観光客が拡大している中、国別で訪日客の多い東南アジアの国々で、台湾は2,100万、タイは4,400万、インドネシアは2,200万のユーザーを抱えるLINE。これに日本を加えた4カ国・地域でLINE Pay Global Allianceを結成。これまで各国バラバラだったLINE Payについて、まずは訪日客が自身のLINE Payを使って日本で決済が行えるようにする。
韓国では、親会社のNAVERが提供するNAVER Payと連携することで、同様にNAVER Payユーザーが日本のLINE PayのQRコード決済を可能にする。さらに、中国ではテンセントが提供するWeChat Payと提携する。
日本ではソフトバンク系列のPayPayが中国Alipayと提携しているが、その対抗馬としてLINE PayがWeChat Payをサポートする。WeChatは、LINEと同様にチャットアプリとして、決済からSNSへの連携が小売店にとっても付加価値をもたらすとしており、「より多くの小売店に対し、より多面的な付加価値を与えられる」(テンセントWeChat Pay事業部副総裁・李培庫氏)とアピールする。
LINE Pay Global Allianceは、2019年早期にも開始する予定で、LINE PayはWeChat Payのアクワイアラーとして加盟店審査も行い、さらなる加盟店拡大にもつなげていく考えだ。
なお、現時点でインバウンド向けの施策であり、日本のLINE Payユーザーは基本的に海外で使うことはできない。今後の対応も検討するが、特にWeChat Payの場合、中国国内でLINEの通信がブロックされているため、当面対応はできない見通しだ。
PayPayが100億円を還元する大型キャンペーンを実施するが、これまでのキャンペーンを継続していくことで対抗する。QRコード決済の利用者拡大に向けて、PayPayのキャンペーンは活性化につながるとみて歓迎の意向だ。
LINEがつくる銀行の正体
LINEはコミニュケーションサービスであり、ユーザーがやりとりする相手、その頻度などの情報をLINEは抱えている。メッセージ内容などの秘密情報は得られないが、それでも「ある種の特徴やある程度の人間関係、傾向の分析ができ、行動の傾向データを把握できる」と出澤社長は話す。
こうしたオンラインの行動傾向データに属性情報を掛け合わせてスコアを算出するスコアリングサービス「LINE Score」も提供する。ビッグデータ解析によって、従来の信用情報だけではない、「今の時代にあった、個人にフィットした信用情報をスコアリングする」(出澤社長)というもので、これを活用したさまざまなサービスを提供する考えだ。
第1弾サービスとして、「LINE Pocket Money」を提供。これは個人向けローンサービスで、従来の信用情報に加えてLINE Scoreを活用することで、「より解像度の高いデータが活用できる」(同)としている。
そして最後に発表されたのが、みずほフィナンシャルグループと提携し、それぞれの子会社であるLINE Financialとみずほ銀行が両社でLINE Bankを設立する。19年春に新会社を立ち上げ、2020年には開業を目指す。
みずほ銀行はLINEのメインバンクの1社でもあり、これまでも付き合いがあった。みずほ銀行自身がLINEを使ったサービスを提供しており、3年前からの付き合いの中、ここ1年ほどで銀行設立に向けた話し合いを進めてきたという。
メガバンクは、若者の新規口座開設数でインターネットバンキングに後れを取っており、特にデジタルネイティブ層へのリーチに不安があった。LINEはこうした層に強く、相互補完できる。ある程度の競合は織り込みつつ、こうした「デジタルネイティブ世代への接点を持つことが第一の目的」(みずほフィナンシャルグループ 執行役副社長 リテール・事業法人カンパニー長の岡部俊胤氏)。
みずほは、決済、与信といった銀行にまつわるプラットフォームを有しており、オリコのリスク管理を含めた部分でLINEを支えることも目的とする。岡部氏は「黒子」という表現を使うが、みずほはLINE以外にもこうした黒子役での事業展開を今後進めていくという。その試金石ともなりそうだ。
出澤社長は、金融サービスの提供において、「日常的に一番使う、生活に密着するのは銀行業」と指摘。その中で、現在の銀行には「我々の観点からすると、ユーザーにとって改善の余地がある」としており、そうした現在の銀行の課題を解決することを目指す。
「今の金融サービスは10年前、20年前に考えられた設計で、なんとかインターネット対応しようとしている」と出澤社長。そうした古い設計から将来に向けるのではなく、「5年後を見据えて、その時に当たり前の金融サービスを提供する銀行を作る。5年後から逆算して、5年後に必要なサービスは何かと考えている」と話す。
みずほ側にとっても、LINEの持つビッグデータによるデータビジネスを踏まえたビジネス研究も視野に入れるとともに、岡部氏はLINEとの協業によるスピード感やチャレンジ精神といったIT企業の文化を取り入れたい、という考えを示している。また、LINE Bankからみずほ銀行への移行によるユーザーの拡大も期待する。
こうした一連の金融サービスによって、出澤社長は必要なサービスが出そろったという認識を示す。LINE Bankの詳細は現時点で明らかではないし、LINE Scoreを活用したサービスもまだそろっていないが、出澤社長は「大きな意味で金融業界は動いてきている。その中で動かざるをえない状況」と指摘し、サービスを強化・拡大していく計画だ。