LINEが銀行業に参入、スマホ世代を取り込み金融サービスで存在感

LINEが銀行業に参入、スマホ世代を取り込み金融サービスで存在感

2018.11.28

「LINE Score」で信用情報サービスに乗り出すLINE

みずほ銀行と提携、2020年には銀行業に進出を計画

スピード感やチャレンジ精神、IT業界の文化を金融業界へ

「LINEの金融サービスはだいたい出そろった」。LINEの代表取締役CEOである出澤剛氏は、11月27日の新サービス発表会でこう語った。決済サービスの「LINE Pay」をはじめ、この1年は特に矢継ぎ早にサービスを強化、拡大してきたが、新たにスコアリングサービス「LINE Score」を発表して信用情報サービスに手を広げ、そして銀行業として「LINE Bank」を2020年に開業する。

LINEとみずほの協業によるLINE Bankが2020年に開業へ

矢継ぎ早の新サービス LINE PayはWeChat Payと提携

2018年になってからだけでも、LINEは1月にテーマ投資のフォリオと提携。新会社LINE Financialを立ち上げて金融サービスへの取り組みを本格化した。3月にはLINEウォレット、4月には損保ジャパン日本興亜ホールディングスと提携。5月には野村ホールディングスと合弁契約。7月には仮想通貨交換所BITBOX、8月にはLINE Pay店舗用アプリ提供開始とQRコード決済最大5%還元を開始。10月にはLINEほけん、LINEスマート投資を開始。11月にはマイカード、LINEクーポン、LINE家計簿をそれぞれ開始した。

LINEの金融サービス

国内だけではない。グローバルでも、LINE Payを提供する東南アジア3カ国・地域の台湾、タイ、インドネシアでサービス強化。特に台湾でインターネットバンキング、インドネシアで大手銀行と提携している。

ユーザー数の多い東南アジアでもLINE Payをはじめ金融サービスを提供している

そうしたサービス強化に向けて、みずほフィナンシャル専務執行役やオリエントコーポレーション専務執行役員などを歴任した齊藤哲彦氏を、LINE Financialの代表取締役社長CEOとして招聘。12月から舵取りを任せる。

LINE Financialの代表取締役社長CEOに就任する齊藤哲彦氏

こうした取り組みのひとつのキーとなっているのがLINE Payだ。最近のQRコードを使った決済サービスとしては古参に当たる2014年からサービスを提供。QRコード、プラスチックカードに続いて非接触決済のQUICPayに対応することで対応店舗を拡大。11月22日にはスマートフォン決済利用可能店舗を100万カ所まで増加させた。

今年、多くのサービスを提供したLINE Pay

とりあえずの目標を達成した形だが、出澤社長はさらに個人店舗などを始めとした小規模店での利用拡大に向けて開拓を加速させる考えだ。

LINE Payの長福久弘取締役COOは、「挑戦の多い年だった」と2018年を振り返る。100万カ所の対応箇所の拡大だけでなく、3.5~5%という高い還元率、各種キャンペーンで、ユーザーの利用拡大にも取り組んだ。

加盟店向けには、初期費用、決済手数料無料に加え、集客、販促、経営、経理といった「決済の枠を越えた店舗に必要不可欠なサービスを提供していきたい」(長福氏)考えだ。

手数料無料化だけでなく、さまざまなサービスを店舗向けにも提供する

さらに「決済革命は次のステージへ」(同)と意気込んで発表されたのが、さまざまな提携だ。まずはJapanTaxiと提携して、決済用タブレットをタクシー内に設置し、LINE Payでの支払いに対応する。キャッシュレス化が遅れているタクシー業界で、2020年までに全国のタクシーで4台に1台となる5万台を対応させる計画だという。

JapanTaxiが対応するキャッシュレス対応タクシーでLINE Pay支払いに対応する

年末の忘年会シーズンを狙って「LINE Payでわりかんキャンペーン」も実施する。QRコードを読み込むだけで割り勘ができるということだが、詳細は今後発表する。

QRコード読み込みで割り勘できるというサービス。詳細は後日発表される

そして大きなトピックがインバウンド向けの施策だ。訪日観光客が拡大している中、国別で訪日客の多い東南アジアの国々で、台湾は2,100万、タイは4,400万、インドネシアは2,200万のユーザーを抱えるLINE。これに日本を加えた4カ国・地域でLINE Pay Global Allianceを結成。これまで各国バラバラだったLINE Payについて、まずは訪日客が自身のLINE Payを使って日本で決済が行えるようにする。

訪日観光客が増加する中、特にアジア圏からの観光客が多い

韓国では、親会社のNAVERが提供するNAVER Payと連携することで、同様にNAVER Payユーザーが日本のLINE PayのQRコード決済を可能にする。さらに、中国ではテンセントが提供するWeChat Payと提携する。

日本ではソフトバンク系列のPayPayが中国Alipayと提携しているが、その対抗馬としてLINE PayがWeChat Payをサポートする。WeChatは、LINEと同様にチャットアプリとして、決済からSNSへの連携が小売店にとっても付加価値をもたらすとしており、「より多くの小売店に対し、より多面的な付加価値を与えられる」(テンセントWeChat Pay事業部副総裁・李培庫氏)とアピールする。

テンセントWeChat Pay事業部副総裁・李培庫氏
多くのユーザーを抱える各サービスが国内のLINE Payに対応することで、インバウンドでのキャッシュレスが進展する

LINE Pay Global Allianceは、2019年早期にも開始する予定で、LINE PayはWeChat Payのアクワイアラーとして加盟店審査も行い、さらなる加盟店拡大にもつなげていく考えだ。

なお、現時点でインバウンド向けの施策であり、日本のLINE Payユーザーは基本的に海外で使うことはできない。今後の対応も検討するが、特にWeChat Payの場合、中国国内でLINEの通信がブロックされているため、当面対応はできない見通しだ。

PayPayが100億円を還元する大型キャンペーンを実施するが、これまでのキャンペーンを継続していくことで対抗する。QRコード決済の利用者拡大に向けて、PayPayのキャンペーンは活性化につながるとみて歓迎の意向だ。

LINEがつくる銀行の正体

LINEはコミニュケーションサービスであり、ユーザーがやりとりする相手、その頻度などの情報をLINEは抱えている。メッセージ内容などの秘密情報は得られないが、それでも「ある種の特徴やある程度の人間関係、傾向の分析ができ、行動の傾向データを把握できる」と出澤社長は話す。

従来の信用評価に対して、オンラインなどの情報や行動傾向のデータを加えるのがLINE Score

こうしたオンラインの行動傾向データに属性情報を掛け合わせてスコアを算出するスコアリングサービス「LINE Score」も提供する。ビッグデータ解析によって、従来の信用情報だけではない、「今の時代にあった、個人にフィットした信用情報をスコアリングする」(出澤社長)というもので、これを活用したさまざまなサービスを提供する考えだ。

もちろん、単にLINEを使っているだけではスコアは算出されず、ユーザー同意が必要

第1弾サービスとして、「LINE Pocket Money」を提供。これは個人向けローンサービスで、従来の信用情報に加えてLINE Scoreを活用することで、「より解像度の高いデータが活用できる」(同)としている。

まずは個人向けローンのLINE Pocket Moneyを提供
LINE Scoreと金融機関の信用評価を組み合わせる
スコアリングデータは、利率や利用可能額にも活用する
今後、さまざまなサービスとLINE Scoreを連携させる

そして最後に発表されたのが、みずほフィナンシャルグループと提携し、それぞれの子会社であるLINE Financialとみずほ銀行が両社でLINE Bankを設立する。19年春に新会社を立ち上げ、2020年には開業を目指す。

LINEとみずほフィナンシャルグループでLINE Bankを設立する

みずほ銀行はLINEのメインバンクの1社でもあり、これまでも付き合いがあった。みずほ銀行自身がLINEを使ったサービスを提供しており、3年前からの付き合いの中、ここ1年ほどで銀行設立に向けた話し合いを進めてきたという。

メガバンクは、若者の新規口座開設数でインターネットバンキングに後れを取っており、特にデジタルネイティブ層へのリーチに不安があった。LINEはこうした層に強く、相互補完できる。ある程度の競合は織り込みつつ、こうした「デジタルネイティブ世代への接点を持つことが第一の目的」(みずほフィナンシャルグループ 執行役副社長 リテール・事業法人カンパニー長の岡部俊胤氏)。

みずほフィナンシャルグループ 執行役副社長 リテール・事業法人カンパニー長の岡部俊胤氏

みずほは、決済、与信といった銀行にまつわるプラットフォームを有しており、オリコのリスク管理を含めた部分でLINEを支えることも目的とする。岡部氏は「黒子」という表現を使うが、みずほはLINE以外にもこうした黒子役での事業展開を今後進めていくという。その試金石ともなりそうだ。

出澤社長は、金融サービスの提供において、「日常的に一番使う、生活に密着するのは銀行業」と指摘。その中で、現在の銀行には「我々の観点からすると、ユーザーにとって改善の余地がある」としており、そうした現在の銀行の課題を解決することを目指す。

「今の金融サービスは10年前、20年前に考えられた設計で、なんとかインターネット対応しようとしている」と出澤社長。そうした古い設計から将来に向けるのではなく、「5年後を見据えて、その時に当たり前の金融サービスを提供する銀行を作る。5年後から逆算して、5年後に必要なサービスは何かと考えている」と話す。

LINEの代表取締役CEO・出澤剛氏

みずほ側にとっても、LINEの持つビッグデータによるデータビジネスを踏まえたビジネス研究も視野に入れるとともに、岡部氏はLINEとの協業によるスピード感やチャレンジ精神といったIT企業の文化を取り入れたい、という考えを示している。また、LINE Bankからみずほ銀行への移行によるユーザーの拡大も期待する。

こうした一連の金融サービスによって、出澤社長は必要なサービスが出そろったという認識を示す。LINE Bankの詳細は現時点で明らかではないし、LINE Scoreを活用したサービスもまだそろっていないが、出澤社長は「大きな意味で金融業界は動いてきている。その中で動かざるをえない状況」と指摘し、サービスを強化・拡大していく計画だ。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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