ゴーン失脚で今後はどうなる? 日産20年史の“光と影”

ゴーン失脚で今後はどうなる? 日産20年史の“光と影”

2018.11.28

ゴーン流経営の功罪を振り返る

自動車大再編で日産とルノーが組んだ理由

ゴーン不在で気になる日産/ルノー/三菱自連合の舵取り

11月19日の午後、一般紙が流した「ゴーン日産会長、逮捕へ」の号外に「えー! 何で」と驚いたのが始まりだった。同日夕刻、羽田空港に日産自動車のビジネスジェット機で降り立ったカルロス・ゴーン氏を東京地検特捜部が逮捕。容疑は金融商品取引法違反だった。

ルノー/日産/三菱自連合の総帥に何があったのか?

日産自動車の西川廣人社長は同日夜10時、単独で記者会見に臨み、「高額報酬の虚偽記載など、ゴーン会長による業務上の不正が内部調査でわかった」ことを明らかにした。

11月19日の夜10時から始まった日産の記者会見

3日後の11月22日には日産が臨時取締役会を開催。有価証券報告書の虚偽記載で逮捕されたゴーン容疑者の会長職を解任し、代表権を外すことを全会一致で決めた。

日本ばかりか世界中に衝撃を与えたゴーン逮捕という仰天ニュース。日産の救世主であり、ルノー、日産、三菱自動車工業による国際企業連合体のトップに君臨する「経営のプロ」が突然、失脚する事態となった。

ゴーン氏の日産における不正は、まさに公私混同であり、高額な報酬を実際は倍以上も受け取り、それを隠していたことで世間をあぜんとさせた。

カルロス・ゴーン氏と日産に何があったのか。筆者はゴーン体制に移行する前から日産を取材し、同社の“光と影”をウォッチしてきた。

日産で何が起こっているのか

「プロ経営者」としてのゴーン氏に対する評価はまぎれのないものであるが、約20年もの間、トップに君臨し続けたことによる権力の集中は、日産のガバナンス(企業統治)に機能不全を引き起こしていた。

一方、ルノーと日産の関係に目を移してみると、日産はルノーに救済を求め、同社の傘下に入った経緯があるわけだが、ルノーのバックにフランス政府がいることからも、いつ「ルノーと日産が統合」されるのかという懸念がくすぶり続けていたのである。

2016年末には、日産が三菱自に34%を出資し、「ルノー・日産・三菱自」の3社連合という新たな枠組みが始動した。世界覇権を視野に3社連合を主導したゴーン氏だったが、同氏がトップの座に居座り続け、権力を振り回していることに対する排除の論理が、一気に噴出したというのが今回の動乱だろう。

ゴーン長期政権、その功罪

1999年3月27日、日産は東銀座にあった当時の本社で臨時取締役会を開き、ルノーとの資本提携を決定。日産の塙義一社長とルノーのルイ・シュバイツァー会長(当時の両社トップ)が直ちに提携調印を行った。「日産とルノー、力強い成長のために。」という文字を背にして両トップが握手してみせた提携会見には、筆者も出席していた。

当時、経営危機にあった日産は、再建の助けを外資に求めた。ダイムラー・クライスラーやフォードとも水面下で交渉していたのだが、ルノーとの資本提携に踏み切ったのは、ルノーが日産の自主性を尊重し、両社のシナジー(相乗)効果を推進するとしたことが決め手だった。

1990年代末、世界的に進んだ自動車業界の大再編では、GMやフォードのように、他社を吸収統合したり、完全にグループ傘下に収めたりする手法が主流だった。そんな中、ルノーは日産の独自性を尊重するとの配慮を示したのである。

実際は、経営破綻寸前に追い込まれていた日産が、再生の望みをかけたのがルノーだったのであり、当時のマスコミも一斉に「日産、ルノーに身売り」と報じた。しかし、ルノーとの提携を決断した当時の塙社長は、「日産、ルノーの基本認識は、日産のアイデンティティを従来のまま保つとともに、将来のために利用し合うこと。だから、従来の合併とは異なる、新たな国際企業連合体なんです」と筆者の取材に答えてくれたのを思い出す。

両社が提携した1999年の6月に、ルノーが日産に送り込んだのがカルロス・ゴーン氏だ。当時は弱冠45歳だった。

ブラジル・ミシュラン社長から北米ミュシュラン社長を歴任し、ヘッドハンティングされたルノーでは上級副社長として辣腕を振るったゴーン氏。「コストカッター」の触れ込みで来日すると、直ちに日産のCOO(最高執行責任者)に就任し、「日産リバイバルプラン」(NRP)を策定して企業再生に乗り出した。

その後の日産は、NRPを2年前倒しで達成し、約2兆円あった有利子負債を4年で完済するなどの「V字回復」を成し遂げた。ゴーン流の経営術は、自動車業界のみならず経済界全体で高い評価を受けた。

ゴーン氏の手腕で日産は「V字回復」を成し遂げた

ゴーン経営を特徴づけるのが「コミットメント(目標必達)経営」だ。分かりやすい公約を掲げ、その達成に向けて全社でまい進していく。旧・日産の組合問題や官僚体質のしがらみを断ち切り、国内工場の閉鎖や大量リストラも断行したゴーン氏だが、タテ割りだった日産の体質を読み切り、縦横を連係させるためのクロスファンクショナルチームを各部門で展開するなど、その手際は鮮やかだった。

日産COOに着任した当初のゴーン氏は現場も大事にする人で、「カーガイ」を自称し、「フェアレディZ」を復活させて日産ファンを感激させたりもした。「私はルノーのためではなく、日産のために来た。全力で日産を再建する」との言葉通りに職務を遂行していたのだ。

ゴーン氏が復活させた「フェアレディZ」

ゴーン流経営の陰りと三菱自の救済

ゴーン氏が最も輝いていた時期は、2005年頃ではなかろうか。NRPを推進し、日産の業績とグローバル販売を成長させた経営者としての手腕は、世界中で評判となっていた。ルノーがシュバイツァー会長の後継にゴーン氏を指名したことで、2005年にゴーン氏は、日産社長とルノー会長兼CEOを兼務することになる。名実ともに両社のトップに立った同氏は、「ルノー・日産連合は、世界で巻き起こった自動車業界の大再編以降、最も成功した国際連合となった」と胸を張った。

だが、その後の日産は2008年のリーマンショックで赤字転落し、1年で黒字には回復したものの、ゴーン流「コミットメント経営」には陰りが見られるようになっていった。ゴーン氏が日産社長として最後に打ち出した中期経営計画「パワー88」は、世界シェア8%と売上高営業利益率8%の2つの「8」を目指すものだったが、2016年3月の終了時で未達に終わったのだ。この頃には、内外から「ゴーン流経営も色あせてきた」との声が聞かれるようになっていた。

そういった声を掻き消すかのように、ゴーン氏は大胆な一手を繰り出す。三菱自動車を日産の傘下に収めたのだ。

日産と軽自動車の開発で提携していた三菱自は2016年春、「燃費不正問題」で一気に業績を悪化させた。これに手を差し伸べたのがゴーン氏率いる日産であり、その年の12月には日産が三菱自に34%を出資した。これにより、ルノー・日産連合に三菱自が加わり、ゴーン氏は三菱自の会長も兼務して、3社連合で世界覇権を狙うというパフォーマンスを改めて打ち出したのである。

ゴーンの変節とトップの座への執着

しかし、日産のトップとして19年、ルノーのトップとしても13年を経たゴーン氏の長期政権を不安視する声は、日産のみならず、ルノーやフランス政府などからも上がってきていた。その不安は、日産とルノーの「ねじれ現象」を背景とする。

日産とルノーの資本構成には、ひずみがあった。ルノーが日産に43.4%を出資している一方で、日産のルノーに対する出資比率は15%であり、日産はルノーの議決権を持っていなかったのだ。そんな状況の中、企業としての体力では、日産が生産、販売、売上規模、時価総額の全てではるかにルノーを上回っていた。こうした「ねじれ現象」を内包するアライアンスを、ゴーン支配でまとめていること自体への懸念が、不安の声となって噴出したのだ。

ルノーの後ろ盾となっているフランス政府は、同国の雇用や経済に好影響を与える「ルノー・日産の統合」を望んでいた。しかし3年前、ルノーおよびフランス政府との交渉に臨んだ際に日産サイドは、「フランス政府は、日産の経営に関与しないことで合意した」と発表。これは「日産の経営判断に不当な干渉を受けた場合、ルノーへの出資を引き上げる権利を持つ」ことを確認したもので、日産にとっては“伝家の宝刀”を得たといってもよかった。

ゴーン社長と西川副会長兼CCO(チーフコンペティティブオフィサー、両者とも当時の肩書き)のコンビで、フランス政府による日産への関与を防いだというのが当時の図式だった。しかし、2018年に入り、ゴーン氏のルノートップ再任(2022年まで)が決まったとき、再任条件としてフランス政府が「ルノー・日産の統合」を突きつけたことが、ゴーン氏に変節を促したとの見方がある。

ルノーのトップに再任されたゴーン氏は、ルノーと日産の資本構成の「不可逆的な見直しを」と発言するようになった。当然、日産ではルノーとの統合、すなわち「ルノーへの吸収合併」に対する不安が再燃した。これが、内部通報のトリガーとなったというシナリオが推測されているのである。

痛手を負った日産/ルノー/三菱自アライアンスの今後は

今回、日産で起こった動乱は、「ゴーン失脚」というスキャンダルの側面だけを見るべき事象ではない。日産が今後、どのような方向で生き抜いていくのかということが大きなポイントだ。

100年に1度の大転換期を迎えている自動車産業では、自動運転や電動化、コネクティッドカー、カーシェアリングなど、新世代の技術や新たなモビリティサービスが重要性を増している。自動車業界の中では、IT企業との連係やAIへの取り組み加速などにより、新たな競合関係が生まれた。1990年代末の経営危機をルノーとの連合で乗り切った日産としては、今や三菱自も加わった3社連合という枠組みをリーダーとして牽引し、激動の時代を生き抜いていくのが賢明な判断になるだろう。

今回のゴーン問題は、日産にとって1990年代末以来の難局だ。これを乗り越えられるかどうか、当面は西川社長の手腕にかかっている。

花盛りの「着席保証列車」が短期的なマーケティングになる可能性

花盛りの「着席保証列車」が短期的なマーケティングになる可能性

2018.12.12

大手私鉄が着席保証列車の運用を次々に開始

着席保証列車ならではのデメリットが存在する

将来的に座席指定特急に取って代わられるのでは?

おもに朝夕の通勤時間帯を走る、座席指定制または定員制の列車(以下、着席保証列車と総称)が今、花盛りだ。12月14日には東急電鉄(東急)大井町線~田園都市線の急行に「Q SEAT」が登場し、7両編成中1両だけながら、混雑が大変激しい田園都市線に「必ず座れる」列車が走り始めると話題になった。また、九州の西日本鉄道(西鉄)も、座席指定制の列車を導入すると表明している。

東急大井町・田園都市線を走り始めた「Q SEAT」。本格運用は12月14日からだが、すでに編成に組み込まれている。ただし、本格サービス開始までは、ロングシートでのみの運用

これで、大手私鉄のうち、「運賃以外の特別料金を支払って座席を確保する列車」がないのは、現時点で相模鉄道(相鉄)、阪急電鉄(阪急)、阪神鉄道(阪神)だけとなった。JR各社も、定員制の通称「ライナー」を各線で運転している。それだけ、着席へのニーズが高く、鉄道各社の沿線価値向上への取り組みが熱心であるということだ。

近年の傾向としては、終日にわたって運転される観光・ビジネス向けの「特急」とは異なり、リクライニングシート装備の座席指定特急専用車両ではなく、着席保証列車運用時のクロスシートと、そのほかの一般的に運用される時のロングシートとの転換が可能な座席を装備した車両が増えていることがある。量産された車両としては、1996年デビューの近鉄「L/Cカー」が嚆矢といえるが、これは着席保証列車用ではなく、日中は居住性向上のためクロスシート、ラッシュ時は収容力アップのためロングシートとして、両立させることが目的であった。

この座席に目をつけたのが東武鉄道(東武)だ。2008年に運転を開始した東上線の「TJライナー」は、近畿日本鉄道(近鉄)とは反対にラッシュ時にクロスシート状態とし、座席の数だけ発売される着席整理券(区間により310円または410円)を購入すれば、着席を確実に保証するというものである。この「TJライナー」が成功を収め、同種の列車として京王電鉄(京王)「京王ライナー」や、西武鉄道(西武)・東京地下鉄(東京メトロ)・東急・横浜高速鉄道を乗り入れる「S-TRAIN」、西武「拝島ライナー」、冒頭の東急「Q SEAT」と、着席保証列車を採用する会社が続いた。これらは、東武や小田急電鉄(小田急)などが実施している、座席指定特急を通勤時間帯にも運転するという方向性とは別な経営戦略として、広まりをみせている。

通勤客の人気が非常に高い東武東上線の「TJ ライナー」。首都圏大手私鉄の着席保証列車として、先陣を切った
「京王ライナー」は京王で初めて、特別料金を収受する列車。最近では高尾山への観光輸送にも活用されている
左がクロスシート、右がロングシート(ともにイメージ、京王電鉄プレスリリースから)

着席保証列車の弱点は?

実は、着席保証列車ならではのデメリットが存在する。これらの着席保証列車用の車両には、座席以外にも会社を問わない共通点が多い。各社とも通勤型車両を基本として設計されており、ロングシートでの運用時を考慮して、扉の数は片側4カ所。つり革や荷物棚も、通勤型車両と大きな違いはない形で取り付けられている。乗降扉部分と客室も壁で分けられてはいないため、車内の環境としては通勤型車両に近い。

また、転換式座席自体にも設計の苦労が垣間見られる。まず、背ずり。クロスシート状態ならよいが、ロングシート状態の時は、背ずりが窓を背にする状態となる。つまり、あまり高くしすぎると窓をふさぐ形になってしまうため、むやみに高くはできない。一般的に列車の窓は、空調が完備している現在では、明るさや眺望などの点から大きい方が好まれるものだ。

ロングシート状態を考えると、背ずりを傾ける「リクライニング機構」は取り付けづらい。必然的にクロスシートであってもリクライニングシートではないということになる。通勤時の30分程度の乗車ならよいとしても、それ以上となると、やはりリクライニングシートの座席指定特急の方が好ましいということになろう。両者が併存している例としては西武池袋・秩父線があるが、料金の差が小さいこともあり、やはり秩父まで行くとなると「S-TRAIN」よりもリクライニング可能な特急の方が人気がある。「S-TRAIN」は東京メトロや東急東横線へ直通することで、秩父方面に向かう座席指定特急と“運行範囲”という面で差別化を図っている。

土休日のみ東急東横線内を走る、西武40000系「S-TRAIN」。埼玉県と神奈川県を結ぶ足だ

そしてロングシート状態では、一般的な通勤型車両のロングシートより、座席そのものの座り心地は優れているとしても座席定員自体は少ない。通路幅も狭くなるため、立ち乗り客が多くなり混雑し出すと、乗降扉付近に人が溜まりがちになるという傾向にある。

みなとみらい線・東急東横線・東京メトロ副都心線・西武池袋線・東武東上線を結ぶロングシートの「Fライナー」も運行されている。こちらは通常の乗車券で利用可能だ。左が西武池袋線に乗り入れる車両、右が東武東上線に乗り入れる車両。東武東上線の「Fライナー」は通勤型車両50070系で、「TJライナー」用の50090系も、座席以外はこの車両がベースとなっている

「効率」の面で着席保証列車はどうか?

着席保証列車は、非常に高い需要をつかんでいることは事実だが、鉄道会社の収益への貢献という面ではどうだろうか。むろん、それまで「運賃のみ」を支払って乗車していた客が追加料金も支払うことになり、経済的な効果はある。さらに、着席保証列車そのものにも誘客効果があるだろうから、増収につながっていることは予測できる。

ただ問題なのは、高い需要がありながら、それを効果的に取り込んでいるかどうかだ。

例えば西武の「S-TRAIN」「拝島ライナー」用の西武40000系の座席数は、10両編成で440席となっている。車椅子やベビーカーや大型トランク用のスペース「パートナーゾーン」、身障者対応の大型トイレが設置されているとはいえ、1両あたりにすると44席しかない。片側4カ所の乗降扉部分に、通勤型車両と同じだけ立席スペースが取られているため、座席に割り当てられる床面積が狭いのだ。

これに対し、同じ西武の座席指定特急用車両10000系の座席数は、7両編成で406席だ。1両あたり58席で、全席リクライニングシートなど、設備面では「S-TRAIN」に勝る。収受できる料金面での差がないのなら、10000系の方が経営効率としては優れているし、利用客の「受け」もよいのは明白だ。仮に「S-TRAIN」の運用を10000系「ニューレッドアロー」タイプの10両編成に置き換えると30%以上座席数を増やせる計算になる。さらに、2019年春に新型特急001系「Laview」が投入されると、さらに差は広まるだろう。

2019年春にデビューが予定される、西武001系「Laview」。近未来的なスタイルと高い居住性を誇る

着席保証列車用の車両は、急行などほかの列車にも兼用できるので、運用効率を高めれば初期投資の回収が早くなる。しかしながら、人気を得て利用客が増えれば、座席指定特急の方が、需要側も供給側も好ましいということにはなりはしないか。西武や東武(東上線以外の主要路線では座席指定特急を運転している)のように比較の対象がある会社はもちろん。京王や東急のように着席保証列車のみを運転している会社であっても、座席指定特急に投資して十分な利益が見込まれるのなら、そちらの方が好ましいと考えてもおかしくはない。

また、着席保証列車用の車両が片側4扉になっている理由としては、地下鉄への乗り入れやホームドアへの対応である。しかし、京王新宿駅や東急渋谷駅のように、ホームドア設置済みの駅でも、着席保証列車発着時は一部の扉のみ開閉して、利用客を整理している例もある。

今年になって小田急「GSE」や西武「Laview」のように、乗降扉の位置を工夫してホームドアに対応する座席指定特急用車両が現れた。柵そのものが上下する昇降式ホーム柵も実用化の域に達している。昇降式の柵ならば、扉の位置が異なる車両にも対応可能なので、片側4扉が決定的な条件ではなくなる。小田急「MSE」は2カ所の扉ながら、地下鉄千代田線への乗り入れで、2008年以来10年の実績を持っている。

着席保証列車の将来は?

こうしたことを考え合わせると、当面、着席保証列車は京王、東急、西鉄のように“それまで着席を保証する列車がなかった”鉄道会社では、まだ広まりをみせると思われる。相鉄は東急、JR東日本との相互直通運転を開始する時点が、ひとつのきっかけになるのではないか。「S-TRAIN」のように他社との直通運転で“販路”を広げ、活路を見出す例も増えていくことだろう。

ただ、実績を重ね需要がさらに高まるにつれて“グレードアップ”、つまり座席指定特急への”格上げ”を求める声も高まり、その方向へ進むことも視野に入れたい。そちらの方が、鉄道会社の収益面でも効率的であるからだ。

西武、東武のように、同じ会社内で着席保証列車と座席指定特急の両方を運転している会社では、その傾向が早く現れるのではないかと予想している。地下鉄への乗り入れも、ホームドアへの対応も、すでに大きな課題ではなくなっている。西武の新型特急001系「Laview」は、地下鉄有楽町線、副都心線への乗り入れも考慮した設計であると、西武サイドも認めている。そう考えると着席保証列車は、座席指定特急に取って代わられ、その寿命は比較的短いかもしれない。

現在の着席保証列車用車両も、車体構造自体が通勤型車両と同じであり、もし完全な通勤型車両へ改造するとしても座席の交換程度で済むだろう。着席保証列車は「短期的なマーケティングである」と割り切り、本格的なリクライニングシート車への取り替えを図る会社が出てくることも十分に考えられるのだ。

“駅”ならではの市場で飲料を販売するJR東日本WBの独自路線

“駅”ならではの市場で飲料を販売するJR東日本WBの独自路線

2018.12.12

産地を強調した果汁飲料が目立つJR東日本の自販機

出勤時の需要を狙いうちした充実のスープ飲料

鉄道駅がおもな市場である飲料ベンダーの強みと弱み

普段から何気なく利用している飲料の自動販売機。大手飲料メーカーが設置している自販機では、全国一律で商品が提供されているのがほとんどだが、独自路線で商品選択をしている飲料ベンダーがある。JR東日本ウォータービジネス(以下、WB)だ。

街中の自販機の場合、日本コカ・コーラなら「コカ・コーラ」「綾鷹」「ジョージア」、キリンビバレッジなら「生茶」「午後の紅茶」「FIRE」、サントリー食品インターナショナルなら「伊右衛門」「ペプシコーラ」「BOSS」といったお馴染みのラインアップが販売されている。

ところが、出張や旅行などで、新幹線や在来線を利用する際、駅の自販機で飲料購入時に「オヤッ」と感じることがある。上述した街中の自販機ではあまり見かけない飲料がディスプレイされており、しかもメーカーもバラバラだからだ。特に産地を前面に押し出した飲料が多い。もっとも有名なのは「愛媛みかん」。これは果汁飲料で有名なPOMジュースとタイアップした「acure」(アキュア)ブランドの製品だ。acureとは、JR東日本WBが販売する飲料の主力ブランド。このほかにも、「From AQUA 徳島ゆず×ジャスミン」「青森りんご つがる」「青森りんご きおう」といった飲料がある。

左から「愛媛みかん」、「From AQUA 徳島ゆず×ジャスミン」、「青森りんご つがる」。産地を強調した果汁飲料が多い

スープの取り扱いが多いJR東日本WBの自販機

そして、JR東日本WBのラインナップのもうひとつの特徴が、スープ類。定番の「濃厚deli コクとろ コーンポタージュ」「じっくりコトコト とろ~りコーン」「濃厚deli オニオングラタン風スープ」のほかに、「じっくりコトコト 濃厚デミグラススープ」や「トマトのスパイシースープ」、そして「しじみ70個分のちから」まである。さらに今秋、「ふかひれスープ」まで加わった。スープ類のラインナップをこれほどそろえている自販機飲料ベンダーはなかなか見かけない。

スープや味噌汁といった飲料が多く並んだ自販機。スープコーナーの上には「自販機のスープ飲料は異端か!?」というキャッチが貼られている。これは2019年1月31日まで実施されるキャンペーンの告知のため。右は新投入された「フカヒレスープ」

だが、1台のacure自販機に、これらのスープ類すべてが用意されているわけではない。JR東日本WB 営業本部 商品部 齋藤誠氏は、「駅の特性を考えて商品のラインアップを決めています」と話す。たとえば住宅街の駅。朝出勤する際に、遅刻しそうになったら朝食を抜くことがあるだろう。そうした場合に、手軽に朝食気分が味わえるコーンスープ類などの需要が高くなる。また繁華街近くの駅では、お酒を飲み過ぎた人が多いと考え、しじみ汁を用意する。スープというわけではないが、近くに学校が多く存在する駅では、夕方になると炭酸飲料が多く売れるらしい。これは、下校時に学生たちが炭酸や甘めの飲料を購入しているためで、それを考えて炭酸・果汁飲料などを多く並べる戦略を採るのだという。

JR東日本WB 営業本部 商品部 齋藤誠氏

工夫を凝らした自販機で独自の販売効率を追求

では、どうやって駅ごとに最適な飲料のデータを入手しているのだろうか。それは「Suica」で購入した情報をビッグデータとして利用しているからだ。Suicaの登場以来、小銭で飲料を購入せず、Suicaのタッチで済ます人が多くなった。そうした情報を無線LANで収集し、「この駅ではこういう需要がある」という判断に活用する。もしJR東日本の駅でacureの自販機を見かけたら、商品ディスプレイ左上部分に注目してほしい。無線LANアンテナを確認できるだろう。ただ、こうしたデータ収集は「いたしかたなく」というのが本音だそうだ。JR東日本WBの飲料販売チャネルは、ほぼ自販機。対面販売の機会が少なく、POSデータの収集が行いにくいという事情がある。

Suicaでの購入データを蓄積して、商品ラインナップの参考にする。右の写真のディスプレイ左上に黒い突起が確認できる。これが、無線LANアンテナだ

このように、JR東日本WBは飲料ラインアップだけではなく、自販機にも工夫がされている。その代表例が「イノベーション自販機」だろう。これは、商品ディスプレイ部分にタッチパネルを採用した自販機。「acure pass(アキュアパス)」というスマートフォンアプリを導入すれば、事前に飲料を選択しておき、イノベーション自販機にスマホをかざすだけで購入できる。また「LINE」「Facebook」「Twitter」などでURLを家族や友人に送れば、本人でなくとも飲料を入手可能だ。

ただ、このイノベーション自販機にも泣き所はある。まず、上述した機能があまり知られていないこと。そして高齢者や外国人の多くが購入の仕方で悩む場合がある。以前、若者がイノベーション自販機で飲料を購入した際、遠巻きで見ていた外国人から驚嘆の声が上がったのを見たことがある。とにかく知名度を高めるには、まだまだイノベーション自販機の設置台数を増やしていく必要がある。

先進的な技術が投入されたイノベーション自販機。ただそれだけに、「購入の仕方がわからない」という層が生じるジレンマもある

そしてJR東日本WBの最大の強みは、路線での販売をほぼ寡占できること。以前、新潟に取材した際、東京駅で「谷川連峰の天然水From AQUA」を購入。新潟では偶然「JR東日本ホテルメッツ」に宿泊したが、客室には谷川連峰の天然水From AQUAがサービスウォーターとして2本置いてあった。さらに復路の新潟駅でacureブランドの「朝の茶事」を1本、そして東京駅に着いてから朝の茶事をもう1本購入。つまり、1泊2日の行程で、JR東日本WBの飲料を5本飲んだことになる。まさに“線”で販売していることの好例だろう。

一方、弱みもある。それは、独自に飲料を生産できず、純粋なオリジナル商品に乏しいこと。オリジナル商品となると天然水From AQUAぐらいで、ほかは飲料メーカーから仕入れたり、共同企画したりとなる。前述した濃厚deliシリーズはダイドードリンコ、じっくりコトコトシリーズはポッカサッポロフード&ビバレッジから仕入れている。acureブランドのスープ、ふかひれスープは永谷園と、朝の茶事は伊藤園との共同企画だ。設置自販機が“線”に限定されているので、大量生産する拠点が必要ないというのが純粋なオリジナル商品が少ない理由だ。ただ言い換えると、それだけに小回りの利いた仕入れが可能となり、駅ごとのニーズに合わせた商品選択が行えるのだと思う。

左は永谷園と共同企画したフカヒレスープ。右は伊藤園と共同企画した朝の茶事

さて、最後に「ごく一部の人に御社がなんて呼ばれているか知っていますか?」と、少々脱線した質問を投げてみた。すると、齋藤氏もインタビューに同席した同社 企画本部 企画部 小室塁氏も「もちろん知っていますよ。『ウォータービジネス』だけに“水商売”と呼ばれていることですよね!?」と、“ニヤッ”と笑みを浮かべながら答えた。以前は、企業名の改称という意見もチラホラあったそうだが、今は立ち消えた。両氏とも「あだ名で呼んでもらって親しみを覚えてもらう方が、企業としてはありがたいですから」と結んだ。