加湿器の給水方式を本気で再考したシャープ、子育て経験がヒントに

モノのデザイン 第47回

加湿器の給水方式を本気で再考したシャープ、子育て経験がヒントに

2018.11.27

シャープの加湿器、今秋の新製品は給水方式がユニーク

家庭での使い勝手を追求したハイブリッド給水の秘密

機能とデザインを融合させた開発の裏話を聞く

シャープから今秋発売された、加湿機の新製品「HV-H75/H55」。デザインはもちろん機構に至るまで従来製品から刷新しており、特に2通りの方法を用意した給水方式がユニークだ。これまでにありそうでなかった新しいスタイルの加湿機を提案する、本製品のプロダクトデザインに着目し、デザイン担当者に話を伺った。

シャープ IoT HE事業本部 国内デザインスタジオの吉野あゆみ氏(右)と、同社 グローバルHE事業本部 海外デザインスタジオの張ジニー氏

”ハイブリッド”な給水方式が生まれたワケ

従来はタンクに水を入れる一般的な給水方式を踏襲していたシャープの加湿機。新製品では、植木に水遣りをするように上から注ぐスタイルに生まれ変わった。この方式自体は既に他メーカーでも採用されているもので決して目新しいわけではないが、本製品がユニークなのは、2通りの方法で給水ができる"ハイブリッド"な仕様であること。シャープ IoT HE事業本部 国内デザインスタジオの吉野あゆみ氏は、このようなスタイルに行き当たった理由や経緯を次のように語った。

「新製品でコンセプトにしたのは、"家族誰でも使いやすい"ことです。というのも、企画担当者が子育て中ということもあり、忙しい人のために加湿機を作りたいという思いがありました。製品デザインのストーリーを考え始めた時、子どもが手伝ってくれるぐらいに簡単に給水ができるうえ、ご高齢の方でも楽に水を注げて、かつ手入れがしやすい加湿機という方向性が固まっていきました」

2018年9月に発売されたシャープのプラズマクラスター加湿機「HV-H75/H55」。ほぼA4サイズの設置面積ながら、最大化質量750mL/h(HV-H75)と、加湿能力も業界トップクラスのパワフルさ。そして何より、2通りの給水方法に注目したい

実際、消費者のアンケート調査からも、加湿機の購入時にもっとも重視するポイントとして"給水のしやすさ"が多数挙げられるという。同社ではこれを受け、試作段階でリビング環境におけるユーザビリティ調査を重ねたところ、上から水を注ぐスタイルがもっとも給水しやすいという結論に至った。「とはいえ、タンクの容量自体は4Lもあります。いろんな給水方法があったほうが家族で使うには使いやすいだろうということで、ハイブリッド給水方式を採用することにしました」と、同社グローバルHE事業本部 海外デザインスタジオの張ジニー氏。

通常どおり、底部にはトレー式のタンクを備え、上面にある給水口からも水が注げる仕組みを採用

新規の機構だけに想定外の課題

しかし、ひと言でハイブリッド給水方式と言ったところで、社内に前例が無かった方式だけに、開発は容易ではなかった。実現するにあたってもっとも議論されたのは、水の注ぎ口の位置だ。製品では最終的に本体正面から向かって右サイドに注ぎ口を備えているが、デザインでの理由から、当初は正面に正対して手前側に給水口を設けることを目指していた。

「上から注ぐ際に、どちら側から、どのようにやるのがいちばん使いやすいか? かなり話し合いました。デザイン的に言うと、見た目としてわかりやすいのはやはり正面。ところが、風が前方に向かって吹き出す構造では、うっかり水が跳ねた場合に身体にかかってしまうことがわかりました」(吉野氏)

上から水を注ぐスタイルでは、左側から風が吹き出る仕組みのために、水が跳ねるのをどのように回避するかに苦慮した

張氏も水が飛び跳ねる問題に苦戦を強いられたと話す。「給水口を右サイドに移動した後も、水が跳ねないように天面の給水皿の大きさとか深さを工夫しました。注水した後に水が残らないような設計にする必要もあり、それでいてデザイン的にはきれいな曲面を保ちたい。機能と美観を両立させるのに大変苦労しましたね。給水皿は光沢のある陶器をイメージしているので、実は素材と仕上げを変えたりしているんです」

お手入れのために取り外しができる構造になっている給水口は、あえて光沢のある素材を採用し、陶器のような印象に仕上げられている

取り回しやメンテナンスにも工夫

本製品は、幅27.2×高さ45.5×奥行22センチと、加湿機としてはかなりコンパクトなサイズ感でありながらも、加湿量750ml/hのHV-H75では適用床面積(木造和室~プレハブ洋室)が12.5~21畳とパワフルな加湿能力を持つ。設置面積に関しては、底面がA4サイズ未満に収まっており、コンパクトでありつつも高い加湿性能を発揮できるという、消費者のわがままな要望を満たしてくれる商品だが、サイズ設計はどのようにして決められたのだろうか。

製品内覧会でのサイズのデモンストレーション。設置面積はA4サイズに収めた

「給水トレーに関しては、フィルターが水を吸い上げられる能力が前提となるので、それによってだいたいの高さが決まります。そしてもう1つ意識したのは、洗面台に収まる高さ。日本の標準的な蛇口の高さから設定していきました。本体の高さ自体は、上から直接給水するスタイルのため、ふつうよりも高めです。給水方法とサイズ感の両面から老若男女問わずに使いやすいようにこだわりました」と吉野氏。

張氏も「加湿量を出すためには風路も関係します。仕様上は、4Lのタンク容量で考えていたので、それを実現するために給水トレーの大きさや形状を何回も測って、技術的な寸法を守りつつ、やわらかいデザインに仕上げるよう試行錯誤しました」と続ける。

給水タンクの高さは標準的な洗面台の蛇口の高さに収まるサイズに設計。加湿機と空気清浄機と一体型の機種では、後方にあるような形状とサイズのものが多く、給水しにくいという声が多かった

本製品はパーツを取り外して、本体の内側に手を入れて直接手入れが行えるのも特長。この構造を実現するにあたって、技術担当者とは安全性の面でかなり議論を交わしたという。取り外しやすいという要件を満たしながらも、尖りがちな本体内側に設置するパーツで手をケガしてしまっては問題だからだ。

本体はパーツを取り外して、内部に手を入れて清掃ができる設計に。デモンストレーションのようにタオルで上から下まで直接拭くことも可能

また、給水口に注いだ水が跳ね返るのを防ぐために、実は操作部の下に跳ね返り用の板を設けている。そもそもは機能的な目的で設けたものだったが、これが見た目にもスタイリッシュになる効果をもたらしたという。

「給水トレーの内部にも水の跳ねを防ぐためのプレートを設けたのですが、これによって風路が安定して、風の流れを整えるという思わぬ効果につながりました。また、加湿フィルターの色ははじめから水色なのですが、プレートが外側から水色のフィルターを見えなくしてくれて、かつ水の量が見やすくなるなど、今回は図らずしも機能美につながっていった箇所が多くありました。ふつうにデザインしているだけだと気づかない発見が多かったです」(吉野氏)

水が跳ね返るのを防ぐために設けられたプレートだったが、風路を安定させて、外側から水色のフィルターが透けて見えるのを抑える効果もあり、図らずしも機能美につながった

一方、張氏がデザイン上で意識した点として挙げたのは、シャープ独自の技術である"プラズマクラスターイオン"の表現だ。

「プラズマクラスターは弊社独自の技術。デザインの中でわかるように、風が出る部分は透明のルーバーを採用して、美しい局面の形状できれいな風が出ているイメージを表現しています。その上で、イオンが適用床面積の条件をクリアできるよう効率よく届けられなければならないため、角度が厳密に計算されているなど、技術者とかなり検討しました」(吉野氏)

美しい曲面で、プラズマクラスターを含むクリーンな風と空気のイメージを表現しながら、規定のイオン放出濃度を満たす必要があり、かなり計算して設計されたというルーバー部分

シンプルでわかりやすい洗練された操作部のインターフェースも好印象だ。「タンクが外から見えないデザインでありながら、上からも水を注げるという給水方法を採用しているため、水位を操作部側でわかるようにしたというのがこだわりです。満水になると、表示ランプだけではなく音でも知らせてくれます。家族の誰もが使いやすそうな操作部にしたかったので、文字やピクトグラムもできるだけわかりやすいものに変更しました」(張氏)

シンプルでありながらわかりやすい操作性とデザインが両立されている操作部

冬物家電なのに「ブルー」を採用した裏話

そして最後に、製品のカラーラインアップは白物家電の定番色であるホワイトと水色の2色。だが、加湿機と言えば、一般的には冬の季節家電だろう。従来はピンク色というのが定番で、社内からは「寒々しいのではないか?」と反対の声も少なくなかったという。しかし、最終的にデザインチームの意見が採用されるに至った。インタビューに答えてくれた2人は、その際の裏話として次のように明かした。

「これまでは白に加えてピンク色というのが定番でしたが、今のトレンド感からはブルーのほうが絶対に受け入れられるとデザインチーム側が強く主張しました。プレゼンの時には、サンプルとなるファブリックを見せたり、水色のセーターを着用したり(笑)。デザイン上は、蛍光灯の下で見た時にも冷たさを感じさせないように、光の反射を考慮するなど詰めていきました」(吉野氏)

「本体はブルーですが、暖かみを持たせるために、形に丸みを持たせています。さらに、寒々しい印象にならないように、給水トレーにフロスト加工を施し、乳白色にしてバランスをとりました」(張氏)

見た目がスッキリとしている上に、コンパクトに仕上げられた新製品。加湿器の正統進化を成し遂げ、そこからさらにハイブリッドな給水スタイルや、内部を細部まで直接お手入れできる機構など、外観だけでは想像がつかない機能性も持たせた。製品化に至るまでプロセスは、お話を伺った限りでも、筆者の想像を上回るこだわりに満ちたものだった。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu