全然“OK”ではなかった「Googleのセクハラ問題」

カレー沢薫の時流漂流 第17回

全然“OK”ではなかった「Googleのセクハラ問題」

2018.11.26

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第17回は、国内外で波紋を呼んだ「Googleのセクハラ問題」について

近年、日本でもやっと「セクハラ」が問題として大きくとりあげられるようになった。

言わずと知れたIT企業と「Gの法則」

それ以前は「セクハラ」という言葉はあったものの、セクハラを訴える女は「冗談の通じない奴」であり「笑顔で受け流すのがデキる女」という風潮ですらあった。

それが今では、セクハラがニュースとして扱われたり、セクハラによる左遷や降格処分が行われたりする。まだまだ十分ではないが、セクハラは笑って済ませられる問題ではないと周知されるようになってきた。

それに対し「そんなことを言われたら何も話せない」という反論も良く見るが、そもそも職場で仕事以外の話をする必要はないのだ。そこに性的な話が必要というのは、「株式会社TENGA」とか以外ではありえないだろう。

しかし、これでも日本はまだ遅れており、欧米などはもっとセクハラに厳しいだろうし、そもそもセクハラや職場における性差別自体が少ないのでは思っていた。だが、「そんなことはなかったぜ」ということがわかるニュースが飛び込んできた。

日本では「OK Google」より「ググれカス」でおなじみのあの「Google」が、この2年でシニアマネージャー以上の役職につく13人を含む48人を、セクハラを理由として解雇していると発表したそうだ。これだけ聞くと、セクハラに対し毅然な態度を取り、「セクハラ野郎は役職付きでも絶対許さないマン」としてふるまっているように見える。

当のGoogleも「ますます基準を厳格化」していくと宣言しているのだが、よくよく考えると「解雇規模のセクハラをする人間が50人近くいたとか、どんなソドムの市だよ」という話だ。学校で言えば1クラスの人数より多いし、その4分の1が役職付きというのは完全に「ヤバい会社」である。

それに、何事も表沙汰になるのは「氷山の一角」に過ぎなかったりするので、G(昆虫名)の法則でいくと、実際にはその30倍、Googleではセクハラが横行していたかもしれない、ということだ。

無間地獄のようで「まだマシ」な現在

世界を代表するIT企業の内情が一部の人間にとっての酒池肉林であったことには驚きを隠せないし、私も生粋のアソドロイドユーザーとして残念である。だが、それ以前にもアソドロイドユーザーを落胆させアイフォーンのカタログを手に取らせる事態が起こっていたのだ。

アソドロイドの父と呼ばれているアンディ・ルービン氏も、実はセクハラ問題が原因で2014年にGoogleを退職している(本人は否定)。その際、Googleは氏に対し9000万ドルの退職金を払っていたという報道がされたのである。

9000万ドルと言われてもピンとこないだろうが「約100億円」である。ますますワケがわからなくなってしまったが、とにかく途方もない金額だ。これでは解雇されようがノーダメージも良いところだし、罰どころか「女王様のビンタ」級の「ご褒美」と言っても過言ではない。

誰だって100億あげると言われたら「セクハラしてない」とツッぱるよりその場で辞めるだろう。Googleはセクハラした者を全く罰する気はなく、「処した処した」というポーズを取りたかっただけ、と思われても仕方がない。

それに対して、Googleは「セクハラによる解雇者に退職金を払ったことはない」と言っているが、アンディ氏は「セクハラが問題で退職した」と言われているだけで解雇者の中には含まれていない。そして、本人はセクハラの事実自体否定している。

つまり、セクハラの解雇者には退職金を払っていないが、「アンディ氏に100億円払ってない」とは言っていないのである。そもそもセクハラを理由に48人解雇したという話も、アンディ氏の問題が報道されてから「でもうちはセクハラ野郎を48人も解雇してるんすよ」と言い出したことである。

Appleの社員でさえ「これはクロやろ」と同情を禁じ得ない事態に、当のGoogle社員は「俺たちが頑張って稼いだ金がセクハラ野郎の懐に入っているのか」と、自分がホストに貢いだ金が本カノの顔に打つヒアルロン酸代に消えたと知った太客の如く激怒、1000人以上の従業員が世界各地で抗議行動を行った

そのプラカードには決め台詞の「OK Google」を揶揄して「NOT OK GOOGLE」という文字も見られたそうだ。それが上手いのかどうかはわからないが、とにかくGoogleが全然OKじゃなかったのは確かなようだ。

日本では上記のセクハラ問題が原因でこの抗議活動が起こったという報道がされているが、もともとシリコンバレーのIT企業では男女の待遇差がエグく、それにこのセクハラ騒動が合わせ技となり大きな抗議活動になったという。どうやら欧米では、職場での男女格差が日本より少ないというのもただの思い込みだったようだ。

このように、セクハラを含むハラスメント問題は世界的に大きな問題と言えるが、最近では「何でもハラスメントだと騒ぐハラスメント」という「ハラスメント・ハラスメント(ハラ・ハラ)」というのもあるらしい。

まさに地獄が「紹介します『地獄』です」と新しい地獄を連れて来た、という状態だが、ハラスメントに対する一番の下策は「黙って我慢する」なので、まず「それはハラスメントだ」と声をあげることが大事であり、言われた方もそれ自体がハラスメントだと感じたら「それはハラ・ハラ」だと声をあげればよいだろう。

無間地獄のようにも見えるが、黙って地獄を我慢しなければいけない世の中よりはまだマシかもしれない。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
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