「家電のパナソニック」に悩み続けた津賀社長、企業価値の核心を刷新する一部始終

「家電のパナソニック」に悩み続けた津賀社長、企業価値の核心を刷新する一部始終

2018.11.20

「家電のパナソニック」とは? 自問自答を続けた津賀一宏社長

「家電業」から「くらしアップデート業」へ、この転換がパナの答え

家電が壁にぶつかった時代だからこそ、チャンスがあると自信

10月末から11月はじめにかけ、東京・有楽町の東京国際フォーラムで、パナソニックが創業100周年を記念して開催した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」。その開幕の基調講演に登壇したパナソニックの津賀一宏社長は、晴れやかな顔をしていた。

津賀社長は、この日を迎えるまでのしばらくの間、ある悩みを抱えていた。笑顔の理由は、その悩みを解決できたからだ。

「家電のパナソニック」に悩み続けた

晴れやかな顔で講演する津賀社長

津賀社長が悩み続けてきたのは、「パナソニックはなんの会社を目指すのか」ということであった。ずっと、それを自問自答し続けてきたという。

実際、今年がはじまったばかりの1月、業界が新年を迎えるイベントとして毎年恒例となった「CES 2018」(CESは米ラスベガスで開かれる世界最大の家電見本市)の会場で、筆者は「パナソニックはなんの会社を目指すのか」と質問したことがあった。津賀社長はその時、「いま、それを自問自答している」と話していた。

今回の基調講演でも、「私が社長に就任して6年が経過したが、実は、ここしばらくの間、パナソニックという会社がいったい何者なのか、私自身が見えなくなり、自問自答する日々を過ごしていた」と振り返っている。

この日の基調講演のテーマは、『次の100年の「くらし」をつくる ~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~』であった。まさに、この時この場所で、その答えを示す決意があったのだ。

パナソニックは「家電のパナソニック」ではない?

津賀社長はなぜ、「何の会社になるのか」という自問自答を続けてきたのだろうか。

「家電のパナソニックという時代は分かりやすかった。しかし、いまのパナソニックは、自動車の車載電池や車載エレクトロニクスにも進出した。さらに、他社の工場ラインにもソリューションを提供し、様々な場面に事業を展開している。気がつくと、パナソニックが何者なのかが見えなくなっていた」(津賀社長)

パナソニックの2017年度業績を見ると、全社の売上高は7兆9,822億円。このうち、家電事業を担当するアプライアンス社の売上高は2兆5,884億円で、売上構成比は32.4%だ。

この全社売上には社内カンパニー制による、各カンパニー間の内部調整等も加味されている。単純に調整前の各カンパニー合計の売上高は、8兆8,106億円と計算できる。ここから逆算すると、アプライアンス社の売上構成比は29.0%で、3割を切る水準になる。車載関連や住宅関連、BtoBソリューションが7割を占める事業体であることからみれば、家電メーカーのパナソニックという表現は、会社の姿を正しく表しているものではない。

全社の売上高は7兆9,822億円。調整前の各カンパニー合計の売上高だと8兆8,106億円。家電のパナソニックにおいて、家電事業を担当するアプライアンス社の売上構成比は30%前後という水準

津賀社長は、「家電という製品が、ひとつの壁にぶつかっているのも事実。この壁をどう乗り越えていくのか。かつて、家電が登場したときには、それによって、生活がぐっとアップデートされた。しかし、世の中に家電が数多く供給され、余った時間が生まれ、その余った時間をどう過ごすのかというところで、テレビやビデオ、ゲームといった、コンテンツを楽しむための家電という時代に入ってきた。では、その次はどうなるのか。自問自答してみると、家電を使っているお客様との距離が開いてきたのではないかと感じた」と話す。

家電自体の在り方が変わり、パナソニックはそこに距離感を感じていたというわけだ。

「家電業」から「くらしアップデート業」へ

こうした背景で自問自答の答えを求めるにあたって、津賀社長は次のような考えに至ったという。

「事業として上手く行っているから良いということではなく、パナソニックという会社が、社会において何の役に立てるのかが大切。私が考え続けたのは、パナソニックという会社が、この世の中に存在している意義とは何なのかということ。その結果、わかったのは、今日よりも明日、明日よりも明後日、一人ひとりのくらしを少しでもより良くしていくこと、少しでもよりくらしやすい社会をつくりあげていくことが、パナソニックの存在意義ということだった」

津賀社長は、「この存在意義は、創業当時も、いまも、これから先の未来も決して変わることはない」と断言する。

その結果として、津賀社長はパナソニックの今後の目指す姿を、「くらしアップデート業」という言葉で表現してみせた。

そして、「100周年というこのタイミングで、私が自問自答に陥ったことは、決して偶然ではないと感じている。いまは、この自問自答のトンネルを完全に抜けることができた」と言い切った。そして、「パナソニックは、もうブレない。『くらしアップデート業』という存在意義を全うするために、強い意志と信念を持って、これから先の100年という未来に向けて、これまで以上に熱く、希望を持って、大胆に事業を展開していく」と宣言した。

「くらしアップデート業」で「くらし」が変わる

パナソニックが目指す「くらしアップデート業」とはなにか。津賀社長の言葉から、その意味を考えてみたい。

従来の家電は、使えば使うほど性能や機能が世代遅れになっていくし、性能や機能が高すぎると、使いこなすのが難しくなっていく。くらしアップデートは、使えば使うほど理想のくらしに近づく?

前提にあるのが、これまでの家電業のように、完成品を提供する時代ではなくなったということだ。

これまでの家電づくりは、生活者をマスとして捉えて、より機能性の高い製品を提供するというものだった。細部に至り完璧とも言えるレベルまで製品で仕上げ切ってから、世の中に提供していた。4つの機能がついた家電よりも、5つの機能がついた家電の方が求められていたりもした。

「機能をたくさんつけることは、技術的にはこれからも可能だ。それによって、価値をあげていくことができる。だが、その一方で、複雑すぎて、多くの機能を使いこなせないといわれる。そこで、もっとシンプルに操作できたり、機能を理解できたりする製品をつくろうとすると、付加価値がない安物家電を作るという間違いを起こすことになる。それは、我々が目指しているものではない。こうしたことをこれまでに繰り返してきた」(津賀社長)

一方で時代は変化し、いまでは、テクノロジーの進化にともなって一人ひとりの価値観が重要視され、一人ひとりに快適なものを提供することも可能になる時代に入った。

「一人ひとりが求めるものが異なる。そして、一人の人でも、昨日と今日では求めるものが異なる。昨日聞きたかった音楽と、今日聞きたい音楽は違う。これまでは多様性といったものに対応することができなかったが、これからは多様性に対応でき、今日という日に合わせて、更新し続けることができる。そこに新たな役割がある」(津賀社長)

言葉としての「くらし」も再定義する。これまでの家電が指していた、家の中でのくらしを指すのではなく、「人が過ごしている、あらゆる時間」を「くらし」と定義する。「くらしアップデート業」が対象とする領域は家電よりも幅広い。住宅関連事業で取り組む住空間全体や、車載事業で関わりがある移動する環境、工場やオフィスなどの働く環境を含めた時間のすべてが、パナソニックの「くらし」となる。

くらしアップデートを実現する「Home X」

そして、先にも触れたように、完成品を提供する時代ではなくなるという点が重要だ。

「アップデートが求められるこれからの時代は、安全面などをクリアできてさえいれば、『あえての未完成品』とも言える段階で世の中に出していくべきだ。これは、不良品ではなく、使ってくれる人の手に渡ってからも、その人向けに成長する余白を持たせた状態のものを指す」(津賀社長)

「あえての未完成品」とは?

その具体例としてあげられるのが、先般パナソニックが発表した「Home X」である。

Home Xは、家そのものをインテリジェントなもう一人の「家族」とし、日々の新しい体験を提供し、より自分らしい生活を創るというコンセプトを掲げる住宅向けソリューション・プラットフォームだ。人それぞれの生活スタイルに合わせて、家電や住宅設備の機能をHome Xに統合することで、一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな生活提案を行う。

■ 参考動画:Home Xがあるくらし (パナソニック提供 4分33秒)

そのHome Xのコンセプトによる製品の第一弾が、「Home Display」である。

Home Displayは、無線LANやセンサを搭載したHome Xプラットフォームに対応したタッチスクリーン型ディスプレイだ。家族が集まる場所に配置し、Home X対応機器と連携して、家(=Home X)が家族を理解しながら、住めば住むほど新しい機能が利用できるようになり、一人ひとりのライフスタイルに合わせて、「くらし」をアップデートする。

リビングなどにタッチスクリーン型ディスプレイを配置する「Home Display」

例えば洗濯機と連携し、家族の会話から、泥汚れの子供が帰ってきたことを知ったHome Xが、泥汚れはもみ洗いをしてから洗濯機に入れるといいことや、泥汚れに最適な洗剤はどれなのかを提案したりする。またテレビと連携し、家族がどんなスポーツが好みなのかを知ったHome Xは、そのスポーツの番組放送がまもなく開始という時に、放送が始まることを知らせてくれたりする。電動の雨戸シャッターや蓄電池システムと連携すれば、台風の接近にあわせて、自動でシャッターを閉めて風雨や飛来物に備え、さらに蓄電池への充電を開始し停電に備えてくれたりする。

家や家電が、「それを使っている人に合わせるように進化していく時代になる。サービスも、それを活用している人に合わせて、更新され続けるようになる」というわけだ。

津賀社長は、くらしアップデートが求められる時代が到来することで、「人の気持ちや嗜好性と、そのタイミングとを掛け合わせることで、これまでにない新たな体験価値を提供することができるようになる」と話し、顧客のニーズのあり方の変化が、提供する企業側にとって危機ではなくチャンスであるという認識を示す。また、「せっかく最新の家電を手にしても、新製品が出た途端に、その家電が古くなる。そんな時代は終えなければならない」とも語る。

「家電」の考え方そのものを、パナソニック自らが変えていくことになる。

体験で得られる価値が、パナソニックの本質的価値に

津賀社長は「『くらしアップデート業』という営みこそが、パナソニックの核心に存在する、世の中への”お役立ち”の本質なのだと確信している」と語り、「持てる価値を機能や性能だけでなく、お客様が体験して得られる価値を高めたい。これを実現するためには、もっとお客様にくらしに寄り添う、お客様のくらしと対話するといったことが必要だ。パナソニックは、お客様の理想のくらしに一歩近づけるように、こういう方向性でこれから事業や開発を進めたい」と続ける。パナソニックのこれからは、これまでとは価値の置く場所から大きく変わっていく。

最後に津賀社長は、「人の幸福から離れて、生き残る会社はない」と述べ、次のように語る。

「パナソニックは、その時代に生きる人々にとって、いま、求められていることは何なのか、この先に、必要とされることは何なのかを徹底的に考え、人々のくらしをほんの少しでも良くしたいと心から願ってきた企業である。”ものづくりをしたかった”というより、”人々のくらしを良くしたい”という想いが先にあり、この想いを実現させるために必要だったのが、ものづくりだった」

しかし、家電をつくるだけでくらしを豊かにすることに限界が見えたのが、いまの時代だ。そこに「くらしアップデート業」というパナソニックが目指す新たな姿があった。

くらしアップデート業への第一歩を踏み出したバナソニックから登場する「家電」は、これまでの「家電」とは大きく変わっていくことになりそうだ。

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2019.06.17

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カレー沢薫の時流漂流 第47回

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2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
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