西野亮廣から、挑戦者達へ― 著書『新世界』に込めた想い

西野亮廣から、挑戦者達へ― 著書『新世界』に込めた想い

2018.11.28

新著『新世界』を発売した西野亮廣さんに取材!

今、働くうえで重要なのは「お金」ではなく「どれだけドヤれるか」

相方へ、就活生へ…本では記されなかった“想い”を語る

キミが一歩踏み出すのに必要なのは「強い気持ち」なんかじゃない。「情報」だ――。

絵本やビジネス書を書いたり、国内最大級の有料会員制コミュニティ「西野亮廣エンタメ研究所」を運営したりと、話題に事欠かないキングコング・西野亮廣氏。冒頭のメッセージは、11月16日に発売された同氏の新著『新世界』に記されたものだ。

同著では、「なかなか一歩を踏み出しきれずにいる人」に向けた、“今知るべきお金と信用”を理解するためのノウハウが記されている。今回は、同著で西野氏が伝えたかった、もしくは伝えきれなかったメッセージの数々を聞いてきた。

西野亮廣氏。当日は「7000冊の本にサインを入れる」という気が遠くなるような作業の中、取材に応じていただきました

「挑戦する人たち」を後押したい

――『新世界』はどういった人たちに読んでもらいたいと思い、執筆されたのでしょう?

西野亮廣氏3冊目のビジネス書『新世界』。11月16日に発売し、20日時点で3刷13万5000部!

西野亮廣氏(以下、西野):自分みたいな、挑戦して、下手をすれば「村八分」に遭っているような人に届けばいいな、と思って書きましたね。

そういった方々の気持ちは、痛いほどよくわかるので(笑)。今回に限らず、僕の本はそういった人に向けて書いたものが多いです。

――では、あまり読者の年齢層は限定していないのですね

西野:そうですね。広い年齢層に受け入れられるようになっていると思います。例えば20歳前半の人を考えると、彼らって「上からも横からも潰されてしまう」じゃないですか。

若くて挑戦しようとしている人たちが、上の人たちから潰されてしまったら面白くない。そういった人たちが潰されてしまわないように、「ここさえ押さえていれば突破できるよ」という方法論を学べるような本にしました。

オンラインサロンに入るメリットって?

――著書でも触れられている西野さんのオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」に入ると、どのようなメリットがあるのでしょう?

西野:基本的には、僕が毎日サロンに記事をあげてるので、それを読んで欲しいですね。「読み物」として、月額1000円の会費を払う価値のあるものを書いています。

余裕があればサロンのイベントに参加すると、メンバー同士のつながりができるので、それも強みだと思います。そこで仲間を作れば、次に自分がアクションを起こす時に協力者がいる状態になります。それと、例えば初対面の人でも「同じ中学校」だったり、共通の知り合いがいる人って、話が盛り上がるじゃないですか。そういう意味では、僕のオンラインサロンに入っていれば、共通言語が多くなるので、初めましてでも距離を縮めやすいというのも特徴ですね。

今選ぶべき、「自分にポイントが入る会社」って?

――『新世界』では、「社員に利用されない会社は廃れる」という意見が書いてありましたが、西野さんが思う「良い会社」とは、どういう会社なのでしょう?

西野:社員に「ポイントが入る」会社はいいな、と思いますね。反対に、働いても「ポイントが入らない会社」はよくない。例えば、社長のワンマン経営で、お金で社員を釣って「アレしろコレしろ」と指示を出すだけの会社では、会社にはポイントが入るけど、社員にポイントが入らない。

指標の1つとして、「フォロワーが増えるかどうか」が挙げられます。例えば幻冬舎の箕輪(厚介)さんの話が代表的です。箕輪さんは今あれだけ活躍していますが、彼が個人でいろいろな活動をすることにOKを出したのは、会社ですよね。

もし幻冬舎が個人の動きを制限してしまっていたら、箕輪さんは今のような影響力を持てていないかもしれない。さらにいうと、「窮屈だからこんな会社辞めてしまおう」と思っていたかもしれません。

――つまり良い会社とは、「社員の才能を開花させられるような環境」といったイメージでしょうか

西野:そうですね。才能があるなら、その才能を使いたいと思うのは当たり前です。でもせっかく優秀な人が入社したとしても、組織の歯車にしかなれないようだと、そこで得られるものが少ない。そうなると、社員はすぐに辞めてしまうかもしれないし、会社にはそもそも優秀な人が入ってこなくなってしまう。

個人でやりたいことがあったら、積極的にチャンスを与えてくれる会社が良いですよね。

――では、もし西野さんが今、就活生だったとしたら、どの会社に入りたいと思いますか?

西野:フリーランスになるでしょうね。でも、もしどこかに入る、という話だと……DMM.comさんとかですかね。社員にチャンスが与えられる会社ですし、やはり今はそういう面白そうなところに、才能が集まってきている。「あそこに行ったら、自分が主役になって面白いことをできそう」と思われる会社は、これからもっと成長していくでしょうね。

西野亮廣から相方「カジサック」へ

――「一歩踏み出す」と言えば、相方の梶原さんも、芸能界から「YouTube」の世界へと踏み出しました。その挑戦を横で見てて、どう思いますか?

西野:まぁ、「遅いよ」ってのが一番ですね(笑)。とはいえ、その挑戦はめちゃくちゃいいなと思っています。正直彼は、「2019年末までに登録者数が100万を越えなければ、芸人を引退します」と言っていますが、これにはもはや誰も興味ないと思うんですよ。

キングコング・梶原さんは10月1日、「新米YouTuber・カジサック」として本格的に活動を開始しました。(チャンネル登録者数は11月27日時点で約49万人)

西野:僕も、すでに芸人を辞めていますし。でも、芸人を辞めても僕の活動が特に変わっていないことは、世間にバレてしまっています。だから、あれ(梶原さんの宣言)にはなんのフックもないと思うんです。

ただ、そんなことはどうでもよくて。何よりも、自分がやりたいことを自分の意思でやっているので、それが色っぽいですよね。失敗したら自分の責任ですし、もし失敗しても学ぶことがある。そういうことを、彼はこれまでしてなかったから、今回の挑戦は応援しています。

どれだけ「ドヤれるか」が人材確保のカギ

――『新世界』では、西野さんがすでに執筆された『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』という2冊のビジネス書に続き、「現代の信用とお金」について書かれています。今回は特に「オンラインサロン」についての話が多かったように思いますが、それはなぜでしょうか?

西野:オンラインサロンの仕組みは、現代の働き方を考えるうえで重要な要素だと思ったためです。よく、知り合いの経営者から「給料を多く払っているのに、社員が辞めていく」という悩みを相談されるのですが、これは、オンラインサロンを運営している僕としては、当たり前の話なんですよね。

今、多くの人たちは「お金」よりも「充実感」、さらにいうと「どれだけドヤれるか」ということを重要視しているんです。「これだけ大きなプロジェクトに関わった」とか、「こんなにスゴイものを作った」とか、そういったドヤれる経験に価値を見出しているんです。

特に現代では、「アイツの活動は面白いな」と思ってもらえたら、お金は後からつくれるようになりました。インスタグラムのフォロワーが100万人いたら、そこに仕事が生まれるように。フォロワーを増やすためには、完璧なルックスだったり、完璧な作品だったり、何かしらの発信できることが必要になります。

だからこそ、オンラインサロンの運営者にも、経営者にも、「いかにしてドヤらせてやれるか」という視点が必要だと思います。そこで、経営者にオンラインサロンの知識を入れておいてほしいと思い、その話を書きました。

――では『新世界』は経営者に読んでほしい本でもあるということですね

西野:はい。ただ、それはあくまで目線の1つです。就活生にとっては、「ダメな組織」「いずれダメになる組織」の傾向を知るキッカケにもなると思います。その知識があれば、会社選びを間違えない。

折角行きたい会社に行っても、そこが2、3年後に潰れたら、それまでの努力が無駄になってしまいます。そうならないためにも、今の若い人たちは「お金と人の流れが変わってきている」ことを理解する必要がある。それらを理解するうえで、わかりやすいのがオンラインサロンなんです。

「発信の価値」が徐々に上がってきている

――「お金と人の流れが変わってきている」という話でいうと、西野さんが開催する「サーカス!」というイベントでは、“客だけでなく、制作スタッフもお金を払っている”のだとか。このような流れの変化は、なぜ生まれるのでしょうか?

西野:意味がわからないですよね(笑)。なぜ、制作スタッフがギャラをもらうのではなく、お金を払うのか。ただこれは、現代における「発信することの価値」を考えると、わかることなんです。

以前、「サーカス!」とは別に、僕のオンラインサロンで、音楽のイベントをしました。そのイベントは、お客さんよりもステージの出演者の方が高いお金を払うシステムで行いました。そうすると、イベント後の満足度はどちらが上か。結果は、応援する「客」よりも、応援してもらってスター気分を味わえる「出演者」だったんです。

これは先ほどの「どれだけドヤれるか」という話にもつながりますよね。本でも書いたように、将来は「制作スタッフや出演者が有料で、お客さんが無料」というイベントも開催できると思っています。

弾けた「オンラインサロン」バブル

――確かに、時代の潮流を感じるためにオンラインサロンの仕組みを学ぶことは重要だと思います。これからもオンラインサロンのブームは続くでしょうか?

西野:業界でいうと、オンラインサロンはもう下火のイメージですね。小規模のサロンは増えているようですが、全体を見るとサロンの会員って、徐々に減ってきてるんです。オンラインサロンのバブルはもう、弾けた感じはしますね

だから、もし僕が今大学生だったとしたら、サロンオーナーにはなりません。今からYouTuberを目指す人が、ヒカキンさんを超えられないように、もうオンラインサロンの勝敗はついたと思っています。

――では『新世界』で伝えたかったのは、「オンラインサロンのつくりかた」ではない、ということですね

西野:そうですね。オンラインサロンをこれからつくる、というのは難しいです。ただ、すでにあるサロンに入るのは賛成です。そこで「ここなら勝てるかも」というポジションを見つけて、新たな挑戦をするのはいいと思います。

例えば、芸人の渡辺直美ちゃんっているじゃないですか。彼女は今とても人気ですが、ずっとテレビで戦っていたら、今のようにはなってなかったと思うんです。テレビの枠は、もうすでにほとんど埋まってしまってますから。

彼女は、Instagramのような「自分が戦えるポジション」を見つけられたから、今の人気があるのだろうと思っています。

重要なのは「ストーリーを見やすくすること」

――西野さんは、「ディズニーを倒す」と自身の夢を発信し続けています。しかし、「一歩が踏み出せずにいる人」の中には、なかなか自身の夢や目標を発信できずにいる人も多いことかと思います。SNSの時代で“信用を勝ち取る”ためには、批判覚悟で、夢や目標を発信していった方がいいのでしょうか?

西野:やり方は人それぞれだとは思いますが、大事なのは「自分のストーリーを見やすくすること」。目標を掲げるというのは、その1つの手段にすぎません。

僕のオンラインサロンを例に考えるとわかりやすいかもしれません。サロンって、どのくらい入会者が減るかっていう数字が日割りで出るんですよ。どんな時に増えて、減っているか、というのもわかります。

わかりやすいのが、自分が勝っている時って、伸びないんです。でも、勝とうが負けようが、挑戦して「これどうなるの?」と思われるようなタイミングって、一番伸びるんです。

これって、マンガと一緒ですよね。主人公が強い敵と戦って「勝つか負けるか」というストーリーがあるから「続きを読みたい」と思う。主人公がずっと勝ち続けていたら、面白くないじゃないですか。

つまるところ、人はストーリーに反応しているんです。「これからの物語どうなっていくの?」と思わせられれば、応援してくれる人たちは増えます。

だから、もし何かアクションを起こしたい、と思った場合には「どうすれば自分のストーリーが見やすくなって、キャッチーになるのか」を考えて欲しいですね。その1つが、目標を掲げるということ。たとえ目標を達成できなくても、そこから這い上がるストーリーをどう作っていくかが重要です。

――では最後に、読者にメッセージをお願いします

西野:この本を読んで、どう思うかはお任せします。ただ読んだ後には、感情が高ぶって、何かしらのアクションを起こしたくなると思います。そうなったら、ソロバンをはじくのは一旦止めて、感情に従って行動してほしいですね。

――ありがとうございました

【西野亮廣氏の新刊情報】

『新世界』(KADOKAWA)

著者:西野亮廣
定価:1,500円(本体1,389円+税)
発行部数:3刷13万5000部(11月20日時点)

バカと付き合うな(徳間書店)

著者:西野亮廣、堀江貴文
定価:1,404円(本体1,300円+税)
発売日:10月26日
発行部数:5刷19万部(11月26日時点)

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LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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