モナバーで発見した「人と人をつなぐ」仮想通貨のポテンシャル

モナバーで発見した「人と人をつなぐ」仮想通貨のポテンシャル

2018.11.26

モナコインをコンセプトに営業を開始したBAR「モナバー」

手続きの煩雑さが仮想通貨決済普及の足かせに?

投げ銭を通じて生まれる仮想通貨のコミュニケーションとは

仕事終わりのサラリーマンが家路を急ぐ20時過ぎ。JR高円寺駅を南に下り、パル商店街を歩いていると、不思議な看板が目に入ってくる。

MONA BAR TOKYO ――。

看板には、穏やかなほほえみを浮かべる白い猫のようなキャラクター「モナ―」が描かれており、そこそこの存在感を放ちながら商店街の一角に佇んでいる。

BARと書かれているということは、お酒が飲める「BAR」なのだろう。隣で飲んでいる人から「あなたのココロのスキマ、お埋めしますドーン!!!!」なんて言われそうな“場末感”を醸し出しているが、同時に「なんだか気になる」不思議な魅力があった。

はたして、店内はいったいどうなっているのだろうか。ちょっとしり込みしてしまう雰囲気ではあったが、覚悟を決めて入店してみることにした。筆者には、やると言ったらやる「スゴ味」があったのだ。

MONA BAR TOKYO(モナバー)の外観。商店街を歩いていると、某掲示板でおなじみのキャラクター「モナー」が現れる
店内へと続く階段

仮想通貨を広めるべく、ホットサンド屋からモナバーへ

いざ、店内に足を踏み入れると、入り口の怪しさからは想像できないほど、オシャレで清潔感のある内装が目の前に広がる。ところどころにモナーの顔が見え隠れするが、店内に置かれたウッド調のテーブルやイス、観葉植物を見る限り、まるで隠れ家的なカフェといった感じだ。

モナバーの店内

「もともと、MUSTANG TOKYOという、ホットサンドのお店を5年くらいやっていました。昼は今でもホットサンド屋さんですが、2018年の7月28日から、夜だけ仮想通貨のモナコインをコンセプトにしたモナバーに切り替えて営業しています」

モナバーの代表を務めるモナ子さん(仮名)は、店舗の形態をそう説明する。なるほど、ホットサンド。それならばオシャレさにも納得だ。そして、モナバーは、某掲示板の「モナー」そのものではなく、仮想通貨の「モナコイン」をコンセプトにしたBARらしい。

モナバー 代表のモナ子(仮名)さん。既存のお客さんを困惑させないよう、まるっきり仮想通貨のお店にするのではなく、夜の時間帯だけ店舗形態を変えたが、久しぶりに来店したお客さんからは「変な組織にのっとられたのかと思った」と言われたという。しかも今回、取材はOKだったが、顔出しと本名の公開はNGだった。もしかして、ほんとうは怪しい組織の一員なのかもしれない……

しかし、ホットサンドとモナコイン、両者はコンセプトも客層も大きく異なるうえに、共通項もないように思える。夜だけとはいえ、なぜモナバーをスタートさせたのだろうか。

「2017年の夏ごろから個人的な趣味で仮想通貨を触っていたのですが、これが非常に興味深くて。ちょうどホットサンドのお店が5年経過したこともあり、なにか新しいコンセプトがほしいと考えていたので、モナコインをテーマにしたお店をオープンさせることにしたのです」

新しい風を吹き込ませるべく、夜間の店舗形態を一新したモナバーだが、おそらく一番メジャーな仮想通貨はビットコインのはず。なぜ、モナコインをチョイスしたのだろう。

「モナコインは、仮想通貨のなかでも、投げ銭などのコミュニケーションが特に活発に行われている通貨です。その投げ銭のおもしろさを少しでも伝えられたらと思って、モナコインを選びました」

モナコイン保有者の間では、SNSなどで仮想通貨をチップ代わりに渡す「投げ銭」の文化が定着しているらしい。そこでモナ子さんは、仮想通貨に触れたことのない人にも、投げ銭の魅力を伝えたいと考えたわけだ。ちなみに投げ銭は、SNSのなかでも特にTwitterでの利用が多いという。アカウントを持っていれば、誰でも簡単にモナコインのやり取りができるのだとか。

すると、おもむろにスマホでTwitterを起動したモナ子さん。「試しにやってみましょう」と、操作を始める。

「モナバーをオープンする前は、ほとんどモナコインを持っていなかったのですが、今は結構持ってるんです。取引所で買ったのではなく、ほとんどみんなからもらったコインなんですよ。ちょっと送ってみますね」

“みんなからもらった”というモナコイン。クラウドファンディングのようなことをしたのだろうか。

「いえ、違います。例えば、『新しいメニューです』とつぶやくと、『いいね』を押す感覚で、みんなが投げ銭してくれるんです」

モナ子さんはあっけらかんと話す。みんな、そんな簡単に自分のお金を渡せるのだろうか。「いいね」はお金がかからないからバンバン押せるが、その要領でお金を渡すという感覚は、貧乏な筆者からすると、イマイチ理解できない。

「えっと、Twitterのアカウントは……、やすかマギカさん? あれですか、まどマギから取ってるんですかね?」

え、……ええ。その通りです。すみません。僕と契約してNewsInsightを読んでよ!

なんてやり取りをしていると、筆者のTwitterに<@MONABAR_TOKYOさんから@yasuka_magicaさんにお届け物です! つ[3.9mona]>という通知が届く。ものの10秒足らずで、モナ子さんはやすかマギカに3.9MONAを送り終えていたのだ。

3.9MONAが届いた

簡単にモナコインを渡す様子を目の当たりにして、非常に感心したやすかマギカだが、これだと取材に来てモナコインを受け取って帰るという、図々しい奴に思われてしまうではないか。どうすれば返せるのだろう。

「いえいえ、全然大丈夫なので、持っておいてください。今のレートだと3.9MONAで500円くらいですが、去年暴騰した時は1MONA2000円近くまでいったんです。なので、これだけで1万円くらいの価値になるかもしれません」

「自分のお金を渡す感覚がわからない」と考えていた自分が恥ずかしくなるくらい簡単に、モナ子さんは言った。まるで握手をするような気軽さで仮想通貨を渡す。これが投げ銭の文化なのだ。

ちなみに、今回いただいた3.9MONAには「ありがとう(サンキュー)」の意味が込められているという。ほかにも、0.114で「いいよ」など、語呂合わせで送ることが多いそうだ。受け取ったモナコインは、モナコインちゃんbotというアカウント(@tipmona)を使うことで、ほかの人に送ったり、取引所の口座があれば日本円にしたりすることもできる。残高を問い合わせることも可能だ。

3.9MONA受け取った後、残高を確認したら、ほんとうにやすかマギカは3.9MONA保有していた

投げ銭で仮想通貨の輪を広げることが、利用シーン拡大につながる?

投げ銭を目の前で見せてくれたモナ子さん。しかし、その文化を理解してもらうことは簡単はないと、身をもって感じている。

「モナバーに来てくれた友人にも、たまに3.9MONAを渡すのですが、みんな全然意味をわかってなくて。そのまま放置している人も多いと思います。夏は3.9MONAで1000円くらいの価値があったので、ビール1杯くらい飲めたんですけど」

「モナビール」というオリジナルのビール

仮想通貨の投機的イメージから、モナコインの活用を躊躇してしまう人が多いのかもしれない。どうすれば、そのイメージを払しょくできるのだろう。

「使える飲食店が増えていけば、手に入れたモナコインをクーポンのようにいろいろな場所で使えるんですけどね。仮想通貨決済を開始しても、途中でやめてしまうお店は少なくないので、なかなか普及は難しいでしょう。飲食店の決済では、国際送金のような仮想通貨ならではのアドバンテージを発揮しづらいですし」

モナ子さんが見せてくれたように、投げ銭はオンラインですぐに実行することができる。それは世界中どこにいても変わらない。銀行で国際送金する場合の手数料や手間を考えれば、仮想通貨に期待できるポテンシャルは大きいだろう。

しかし、飲食店決済の場合、国際送金のような利用者メリットはあまりない。さらに、現状仮想通貨はいわば外貨のような存在であるため、「仮想通貨専用の店舗向け決済サービス」などを導入していない限り、売上で手に入れた仮想通貨は自分で日本円に変える必要があるのだ。

「モナバーでは、『もにゃ』や『coinomi』と呼ばれるモバイルウォレットで仮想通貨の支払いをお願いしており、モナコインとビットコインのほかに、ネムとビットゼニーでの支払いが可能です。ただし、仮想通貨でお支払いいただいた場合、店側は取引所で売上を円に変えなければなりません。手数料もかかりますし、レートも上下しますし、そのうえ、なかには海外の取引所でしか交換できない仮想通貨もありますし、正直めっちゃ面倒ですね(笑)」

手数料や価格の変動によって、売上の半分ほどしか手元に残らないということも少なくない。モナ子さんは下がっている通貨がある場合、日本円にせず、そのまま寝かせているという。

「ただ、モナコインはちょっと特殊で、保有者が愛着を持っている通貨なんです。もっとモナコインを広めたいとか、みんなで使いたいとか、知らない人に興味を持ってほしいとか、そういうことを考える人が多い気がしますね。モナバーとしても、『モナコインが好きでたまらない』という狭い層に対して、少しでも利用シーンを提供できればと考えていたので、それ自体はある程度実現できています。次はもっと投げ銭の文化を広げていきたいですね」

実際モナバーでは、地方在住のモナコイナー(モナコイン愛好者をこう呼ぶらしい)が、休日にわざわざ足を延ばして来店するケースも多いそうだ。

店内には、遠方から訪れたモナコイナーが楽しめるような、遊び心を感じるアイテムも(クリックしてアップ画像表示)

そう考えると、モナコインのように、通貨に対する愛着があれば、活発な交流や利用シーンが生まれるような気がする。仮想通貨ファンが投げ銭などでユーザーの輪を広げていくうちに、モナバーのような場所が生まれる――。それが繰り返されていくことで、少しずつ利用者と利用場所は増えていくはずだ。ファンが増えれば、国際送金のようなアドバンテージがなくても、仮想通貨の決済は普及していくのではないだろうか。

「仕事の依頼」や「遠隔地からのおごり」も!? 仮想通貨が生むコミュニケーション

投げ銭を広げていきたいというモナ子さんだが、来店した友人にモナコインを渡す以外では、どのようなやり取りがあるのだろうか。

「いくつかあるのですが、例えば『オダイロイド1号(@odairoid_001)』というTwitterのアカウント。誰かがお題と報酬を提示し、お題に答えたユーザーのなかで、リツイートといいねの総数が多かった上位5人に報酬が配られるというものです」

提供されるお題は、「新しいサービスの名前を考えてください」というアイデア募集や、「大金持ちにやってほしいことは何?」といったアンケートなのか大喜利なのかわからないものまで幅広い。

「このオダイロイドも、現状、狭いコミュニティのなかの人しか知らないので、もっといろいろな人に知ってもらいたいと考えているところです。自分で買う場合、仮想通貨はリスクを避けられませんが、1円も出さずにちょこちょこ仮想通貨を集められたら楽しいですよね」

オダイロイド1号のTwitterページ

また、仮想通貨を保有している人は、「オダイロイドポータル」から、お題の投稿も可能。答える側だけでなく、募集する側としても参加できるのだ。

「モナバーでは、仮想通貨のウォレットを疑似体験できる『モナチップ』という、ブラウザ上で動くポイントシステムを採用しているんですが、このプログラム部分をお店のオープン前に作る必要がありました。最初はクラウドソーシングサービスで制作を依頼したのですが、納期と金額の条件が合わなかったので、イチかバチかTwitter上で『近々オープンするモナバーで、こういうのやりたいんだけど、200MONAで誰かプログラムを作ってくれませんか?』と募集してみたんです。すると、6~7人が立候補してくれて。しかも、クラウドソーシングでは2カ月かかると言われたのですが、1週間でお願いすることができました」

ドリンクを注文するともらえるモナチップ。自分のTwitterアカウントと同期したウォレットに貯めておくことができる。集めたチップは、モナバーオリジナルの缶バッジやマグカップなどと交換可能だ

立候補してくれた人のなかには、即日作れると言ってくれた人や、なんと高校生もいたという。

Twitter上でプログラマーを探すなんて、ひと昔前までは現実的でなかったかもしれないが、今は仮想通貨の活用による仕事の依頼も不可能ではない時代なのだ。特に今回のようなケースでは、下手な企業に依頼するよりも低コストかつスピーディに対応してくれる気がする。少なくとも、素人を寄せ集めた「名ばかり情報システム部」が社内にある場合、Twitterの超高校級プログラマーのほうが頼りになるのではないだろうか。

モナチップで交換できるグッズ

そのほか、投げ銭によって生まれたコミュニケーションとして、モナバーでは、こんなことも。

「お店に来た人が<いまモナバーにいます>とTwitterで投稿すると、それに気づいたモナコイナーの人が、<あの子たちにおごってあげて>とモナコインを送ってくれることがあるんです。来店していたほかのお客さんの分まで払ってくれて、『今日はおごりだー』って感じで。もちろん滅多にあることではありませんが、そういうつながりが生まれることも、モナコインの魅力だと思います」

お店に飾っているイラスト。これらも、モナ子さんがTwitterのオダイロイドで描いてほしいと募集したものだという。期限が1週間だったにも関わらず、10件以上のイラストが届いた

2017年末のバブルがあったこともあり、投機的なイメージが先行しがちな仮想通貨。だが、今回モナ子さんの話を聞いて、モナコインの魅力は、投げ銭から生まれるコミュニケーションではないかと感じた。

世界中からアイデアや技術的な協力を得ることができるだけでなく、今後さらに、投げ銭の文化が普及すれば、おもしろい動画や芸術的なイラストの投稿によって、仮想通貨の収入を得られるようになる可能性もあるだろう。

投げ銭によって生まれる、そんな「人と人のつながり」こそが、仮想通貨の持つ真の価値なのかもしれない。

MONA BAR TOKYO

【住所】東京都杉並区高円寺南3-58-29 2F
【営業時間】
月/火
20:00~24:00 (L/O 23:30)
金/土/日/祝
19:00~24:00 (L/O 23:30)
【定休日】
水/木
【TEL】03-5307-7055
【仮想通貨決済】
モナコイン/ネム/ビットコイン/ビットゼニー
【クレジット】
VISA/Master/JCB/American Express/Diners Club/Discover
※喫煙不可 (電子加熱式タバコ可)

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携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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