YouTube Musicの時代だから、復活する「Winamp」に期待すること

山下洋一のfilm@11 第1回

YouTube Musicの時代だから、復活する「Winamp」に期待すること

2018.11.19

iTunes以前にデジタル音楽革命を起こしたWinampが2019年に復活予定

開発者が自分たちの欲しいソフトウェアを形にしたのがWinamp

2019年版はモバイルとストリーミングでモダンなアプリに

Winamp」が復活する。AOL時代のようにブランド名だけで存続するような復活になる可能性は否めない。でも、Winampはかつて、Pandoraにも、Spotifyにもなれる存在だった。1990年代後半にWinampを使っていた1人としては、多くのギークを魅了したトガったWinampの復活を期待せずにはいられない。

爆発的に成長した独立時代、AOL傘下になって衰退

Winamp復活を報じたTechCrunchの「Winamp returns in 2019 to whip the llama's ass harder」によると、新生Winampはモバイルとストリーミングに活路を見いだそうとしている。Winampの権利を取得したRadionomy社のAlexandre Saboundjian氏 (CEO)は、デスクトップ版について「すでに勝負はついた」と言い切っている。音楽の楽しみ方の主流がモバイルとストリーミングに移行しているのだから、それらをターゲットにするのは当然だ。ただ、それだけでは「Winamp」という名前で、Winampを思わせるデザインのメディアプレーヤー・アプリが登場するだけで終わりそうな不安を禁じ得ない。では、Winampを冠するのに何が必要なのかというと、オリジナルWinampが備えていたカルチャーだと思うのだ。

Winamp 6の公開に備えて、まずは開発版のリークがユーザーの間に広まっている不安定な現状への対策として、公式ベータ版のWinamp 5.8を10月末に公開、開発が実際に進んでいることをアピールした

今では、「Winampを使ったことがない」という人も多いと思うので、まずはその歴史を簡単に紹介しよう。

Winampは、ユタ大学の学生だったJustin Frankel氏とDmitry Boldyrev氏が、MP3デコードエンジンをWindowsユーザーインターフェイスに統合したシンプルなオーディオプレーヤー(ソフトウェア)から始まった。バージョン1.0のリリースは1997年、音楽はCDで聴く時代に、学生を中心にMP3形式のオーディオファイルが普及し始めた頃だ。MP3なら数百曲・数千曲の音楽を全てPCに入れて管理できる。CDを入れ換えることなく、手軽に音楽ライブラリを楽しみたい……そんなWindows PCユーザーのニーズに応えたプレーヤーだった。

Winampは最初のMP3プレーヤーソフトではない。しかし、Winamp以前にあったMP3プレーヤーは、オーディオデコーダー然としていたり、音楽プレーヤーとして使いにくいツールばかりだった。Winampは、今で言う音楽を聴く"体験"にフォーカスして作られた最初のMP3プレーヤーと言える。Winampを作った理由について、Frankel氏は「自分が欲しいソフトウェアを作った」と述べている。その後、Winampは数多くのファイル形式に対応、プラグインを使った拡張、スキンによる外観のカスタマイズ、幅広いUSBデバイスのサポートを追加していく。

今でこそOSベンダーが提供するメディアプレーヤーでも不自由を感じないが、音楽CDが主流だった20年前は、違法ダウンロードに結びつけられてMP3が危険視され、著作権保護技術が施されていないデジタル圧縮ファイルのサポートは限定的だった。そうした中でWinampは、AOLに買収されるまで、小さな開発チームが自分たちが欲しいと思ったプレーヤーを形にし続け、不自由を自由に変えてきたから、多くのギークから支持され、ユーザーを爆発的に増加させた。

つまり、環境や常識に囚われず、自分達もユーザーの1人である開発者が、自分達が欲しいと思っているソフトウェアを形にしてこそWinampなのだ。

開発していたNullsoftが1999年にAOL傘下に収まってから、トガっていたWinampが瞬く間に丸くなった。AOLは同時期に当時のネット音楽サービスでトップだったSpinnerも買収し、Nullsoftと開発チームを統合した。うまく機能すればWinampに音楽サービスを融合させる相乗効果が期待できたが、2つのチームはなじまなかった。Nullsoftはわずか4人。ユーザー数はWinampの方が多かったが、すでに大規模なチームになっていたSpinnerが予算やプロジェクト運営の主導権を握るようになって、Nullsoftはかつてのように自分たちのアイディアを形にできなくなくなった。

AOLにおいてもFrankel氏は、中央サーバを持たないファイル共有クライアント「Gnutella」を開発するなど、常識にとらわれないエンジニアであり続けた。そんなFrankel氏をAOLは煙たがるようになり、Frankel氏もAOLインスタントメッセンジャーの広告をブロックするプログラムを書いたり、AOLによるNullsoft買収の4年目のアニバーサリーに「WASTE」という暗号化を用いたファイル共有ネットワーク・ツールをリリースしたりするなど、AOLに反旗を翻すような行為を繰り返した。

開発者だけではない。そもそも当時Winampを好んだ音楽ファンやギーク達は、Time Warnerと合併して巨大メディア企業化するAOLを嫌悪する傾向が強く、NullsoftがAOL傘下になったことで急成長のコアとなったユーザーが離れ、Winampコミュニティも骨抜きになった。エピソードを1つ紹介すると、WinampのインストールにAOLのサービスをバンドルしようとしたAOLに対してFrankel氏が激怒。「WinampのユーザーはAOLなんか求めていない! 彼らはAOLのことをクソだと思っているんだよ!」と言い放った。2003年末、Winamp 5のリリースを見届けてFrankel氏はAOLを離れた。

当時Winampはメディアプレーヤーの強力な製品ブランドになっていたため、Frankel氏が去ってからもアクティブユーザーが増え続け、10周年となる2007年に約9,000万人にまで伸びた。しかし、音楽市場に変化を起こす影響力を持ったユーザーはWindows市場にも浸透し始めたiTunes (とiPod)へと移っており、ピークを過ぎてからWinampは急速に衰退し、2013年にNullsoftが開発および配布終了を発表した。

成熟市場ではユーザーが少ないが、Winamp 5.8でも必要な容量は35.9MBと軽量であるため、グローバル規模では今も約3,000万人が利用している

目指すのは「音楽版のYouTube」

Winamp 6.0がどのようなソフトウェアになるのか、Radionomyは断片的なヒントしか公表していない。Radionomyは、誰でもネットラジオを開設できるオンラインラジオ配信のプラットフォームを運営する。数万規模のステーションが登録されており、同社がWinampを買収した際には共に取得したSHOUTcast (約50,000のネットラジオ局を抱える)の方が欲しかったとも言われた。

Saboundjian氏は、モバイルにおいてユーザーがオーディオプレーヤー、ネットラジオ、ポッドキャストなど複数のアプリを切り換えながら使っているのをWinamp 1つにまとめるとしている。その点に関しては賛否両論だ。FacebookがMessengerを分離したように、1つのアプリが多機能であるより、サービスごとにアプリが独立していた方がモバイルでは使いやすいという声もある。90年代後半にMP3プレーヤーが求められたほど、今日のモバイルユーザーが十徳ナイフのような音楽/オーディオ・アプリを強く求めているとは思えない。

Radionomyがネットラジオをもっと普及させたいと考えているのであれば、同社はWinampのイメージに囚われず、自分たちが欲しいモバイルアプリやサービスを形にした方が、よりWinampらしいWinamp 6になるのではないだろうか。

日本でラジオはオールドメディア化して縮小傾向にあるためイメージしにくいと思うが、欧米でラジオは今でも健在だ。英国だと90%以上の人がラジオを聴き、若い世代も例外ではない。欧米では音楽を中心にたくさんのラジオ放送を受信でき、様々な番組を楽しめる。ニッチなトピックを含めて自分好みの番組を見つけられるから、多くの人の生活にラジオがとけ込んでいる。だから、より多くの番組を、多デバイスに提供できるネットラジオに対する需要は大きい。

誰でもラジオ番組を持てるRadionomyが狙っているのは、音楽をかけられて、Podcastのように自由な「音楽版のYouTube」のような存在だ。それなら「YouTube Musicがすでにある」という声が聞こえてきそうだが、残念ながらYouTube MusicはYouTubeが高品質なビデオコンテンツを作り出すユーチューバーを生み出したような存在にはなっていない。むしろRadionomyはそこにフォーカスしてWinampをデザインした方が、かつてのWinampのようにユーザーコミュニティの支持を得られる可能性があるように思う。

RadionomyはWebサイトなどに「Cast、Play、Sell」というスローガンを掲げている。メディアプレーヤーより、もっとソーシャルなソフトウェアをイメージさせる。音楽ファンだけではなく、アーティストや配信者のチャンスを広げるプラットフォーム。WinampがMP3音楽プレーヤーの草分けとなった時も、人々が音楽に触れ、音楽を話題にする環境を作ったことが、ユーザーの爆発的な拡大につながった。現在の開発チームも、そんなイメージで「Cast、Play、Sell」を掲げていると期待したい。

Nullsoftは「It really whips the llama's ass! (ラマの尻をしばく)」というスローガンでWinampをインターネットコミュニティにアピールした。Winamp 6のメーリングリストの登録を呼びかけるWebページで「登録プロセスではラマに危害は及ばないが、いずれしばく!」とRadionomy

「山下洋一のfilm@11」は、シリコンバレーを中心にテクノロジー企業の勃興を追い続けてきた筆者が、独自の視点で米国の”今のリアル”を切り取る連載コラムです。

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NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu