BMWデザインの秘密とは? ドイツ本社で唯一の日本人デザイナーに聞く

森口将之のカーデザイン解体新書 第8回

BMWデザインの秘密とは? ドイツ本社で唯一の日本人デザイナーに聞く

2018.11.16

「Z4」と「8シリーズ」に共通するキドニーグリルの革新

オマージュと新たな意匠が溶け合う新型「3シリーズ」

スポーツカーよりも制約が厳しい実用車のデザイン

日本でも根強い人気を持つ外国車ブランドのBMW。魅力のひとつがスポーティーなデザインにあることは確実だろう。では、BMWのデザインはどのように生まれるのだろうか。ドイツ本社のデザイン部門で30年にわたり活躍する日本人デザイナーが、最近登場した3車種を題材にプロセスを語った。

BMWのスポーティーなデザインはどのように生まれるのか(画像は「8シリーズ クーペ」)

ドイツ本社で活躍する唯一の日本人デザイナーが来日

BMWのデザインについて話を聞くのに、もっともふさわしいと思える方が日本にやってきた。ドイツBMWのデザイン部門でエクステリア・クリエイティブ・ディレクターを務める永島譲二氏だ。

永島氏(画像)は米国ミシガン州ウェイン州立大学大学院でデザイン修士課程を修了すると、ドイツのオペルでキャリアをスタート。フランスのルノーを経て1988年にBMWに入った

永島氏のBMWにおける経歴を見ると、1996年発表の「Z3」(現在の「Z4」の前身)、同年発表の4代目「5シリーズ」(現行型は7代目)、2005年発表の5代目「3シリーズ」(現行型は6代目)をはじめ、多くの市販車・コンセプトカーのデザインに関わっている。今回は、同氏がコンセプトカーに携わった「Z4」と「8シリーズ」、そして、多くのクルマ好きが気になっているであろう次期「3シリーズ」について話を聞くことができた。

ヘッドランプの並びを変えた新型「Z4」

まずは、BMWとトヨタが共同開発を行った車種としても知られる新型「Z4」についてだ。3代目となる新型Z4は、今年8月に米国で発表となった。永島氏はコンセプトカーのデザインに携わっている。

永島氏がデザインに携わった「Z4」のコンセプトカー(画像)は、2017年の東京モーターショーに登場した

新型Z4とコンセプトカーを比べると、ディテールには違いが見受けられるものの、基本的なフォルムはほぼ同じだ。デザインの進行過程でコンセプトカーを披露し、評判をリサーチしたのではないかと予想できる。自動車業界ではしばしば見られる手法だ。

新型「Z4」(画像提供:BMW Group)

一方、旧型との違いとしては、電動開閉式ハードトップが廃止となり、初代と同じソフトトップに戻っている点が目立つ。ディテールの新しさは、永島氏の説明で理解できた。

「ヘッドランプはこれまで、ほかのBMWと同じように横に並べていましたが、新型では縦に並べました。丸型にはこだわらず、同じ形を2つ並べる考え方にしたのも変更点です。もうひとつ、キドニーグリル外側の尖ったポイントが下に移動していることも特徴といえます。これは、後で説明する8シリーズにも共通するのですが、スポーツカーについては、こういう造形でいこうと決まりました」

新型「Z4」のフロントマスク。従来のBMWでは、グリルの左右両端の頂点(横に張り出しているカド)が中央より上に位置していたのだが、「Z4」と後述の「A8」では、その頂点が下に移動している(画像提供:BMW Group)

躍動的なボディサイドにも注目

ボディサイドでは、ドアの前の「エアブリーザー」と呼ばれるスリットが目を引く。近年登場した他のBMWにも見られるこのデザインには、クルマの横の面を強調するという役割もあるが、ここから空気を抜くことで、空力特性を高めるという機能的な目的もあるそうだ。躍動的な印象を与えるボディサイドの造形については、永島氏の言葉を引くことにする。

「旧型ではフロントからリアに向けて下がっていくラインを用いていましたが、新型では逆に上がっています。今回説明する3台に共通することですが、このラインの動きは、駆動輪である後輪を強調するためのものです。ラインに接する面をねじることで、ハイライトがリアに向けて強くなっていくようにもしています。こうした面の使い方は、現在のトレンドでもあります」

新型「Z4」のボディサイド。ラインがクルマの後部にかけて上がっていっていることが確認できる(画像提供:BMW Group)

リアを見てみると、リアコンビランプは薄くなって高い位置に付き、「L」字型を描いている。これは3次元造形を取り入れたデザインだが、似たような処理はSUVの新型「X4」(日本では2018年9月に発売)にも見られる。

新型「Z4」のリアコンビランプは「L」字型を形成する(画像提供:BMW Group)

「6シリーズ」を継ぐも方向性は異なる「8シリーズ」

続いては、先日発表されたばかりの「8シリーズ」だ。このクルマは「6シリーズ」の後継車だが、方向性はやや異なり、グランドツアラーから本格スポーツカーへとシフトしている。日本で発売となったのは2ドアクーペのみだが、ドイツではカブリオレが発表済みで、今後は4ドアのグランクーペも登場予定だという。ラインアップは6シリーズと同じになるわけだ。

「6シリーズ」の後継車だが、よりスポーティーなデザインをまとう「8シリーズ」(画像提供:BMW Group)

8シリーズのスポーティーな性格はプロポーションからも伝わってくる。全長を短く、全幅を広く、全高を低くしたボディは、水平に近かったルーフラインが前席を頂点としたスロープとなり、リアウインドーからトランクリッドまでが一直線につながった。

「Z4でも説明しましたが、フロントマスクはキドニーグリルの頂点が下に移動しています。ボディサイドはエアブリーザーから後ろをえぐることで重量感を減らしながら、リアフェンダーに向けて力強いショルダーを描いていて、カッコよさと安定感を表現できていると思っています。台形だったリアウインドーは下部を絞り込み、張り出しを強調しました。リアコンビランプはブレードを連想させる3次元造形のL字型で、点灯すると『L』が強調されるようになっています」

「8シリーズ クーペ」のボディサイドからは、リアフェンダーを強調したいというBMWの意思が伝わってくる(画像提供:BMW Group)

新型「3シリーズ」には懐かしい表現も

最後は、BMWの主力車種であり、2018年10月のパリモーターショーでデビューした新型「3シリーズ」だ。

BMWの主力車種「3シリーズ」の新型(画像提供:BMW Group)

新型3シリーズを語る上で、最初に永島氏が言及したのは、このクルマをデザインすることの難しさだった。BMWの主力車種ということで注目度が高い上、売れることが宿命づけられたクルマでもあるからだ。しかし、そんな中でも、新型には新しい造形をいくつも取り込んでいる。

「ヘッドランプの下側にボディカラーが食い込んでいるのが分かるでしょうか。実は、4代目の3シリーズをイメージしたのです。また、初代3シリーズやその前身の『02シリーズ』のように、左右のキドニーグリルの枠がつながっており、横から見ると上が突き出した『シャークノーズ』と呼ばれる形状にしてあります。グリルをつなげたのは、内部に安全装備のセンサーを取り付ける場所が必要という理由もありましたが、3シリーズは新型で7代目と代を重ねているので、オマージュ的な表現を入れてみました」

オマージュと新たな意匠が混じりあう新型「3シリーズ」のデザイン(画像提供:BMW Group)

ボディサイドには、リアドアガラス後端のラインが下りきる直前で曲がり、前に向かっていく「ホフマイスターエッケ」と呼ばれる処理が施してある。「ホフマイスター」は昔のチーフデザイナーの名前、「エッケ」はコーナーの意味で、やはり02シリーズあたりから使っているBMWの伝統だ。

ここの曲率は構造的に小さくできないので、世代が変わってもほぼ一定なのだそう。しかし、新型3シリーズではこの部分を鋭くしたいと考え、ピラー側に黒いガーニッシュを追加した。さらに後ろに行くと、リアパネルを矢尻型にサイドに回り込ませている。こちらは、車体寸法が大きくなる中で、クルマをコンパクトに見せるための技術だそうだ。

クルマをコンパクトに見せるためのデザインも取り入れている新型「3シリーズ」(画像提供:BMW Group)

これまで、ドアハンドルの高さにあったキャラクターラインは、より高い位置に移動させるとともに、ドア下方のラインをリアに向けてせり上げてある。ただし、Z4や8シリーズのような面を使った表現は控えめだ。永島氏によれば、実用車はスポーツカーと違い、車体寸法の制約が大きいことがその理由だという。3シリーズでいえば、日本のガレージやパーキングのサイズも考慮しているそうだ。

ちなみに、新型3シリーズの空気抵抗係数(Cd値)は0.24と8シリーズの0.33を上回る。実用車では燃費の要求も厳しいためだ。

実用車にはスポーツカーよりも多くの制約があり、それらがデザインにも影響を及ぼす(画像は新型「3シリーズ」、提供:BMW Group)

デザイナーとしては面を強調したいところだが、3シリーズのような車種ではなかなか難しいと話していた永島氏。その点、SUVであればカテゴリーの歴史が浅く、まだ決定的な形というものも存在しないので、冒険できる可能性は残されているというのが同氏の見解だ。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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