BMWデザインの秘密とは? ドイツ本社で唯一の日本人デザイナーに聞く

森口将之のカーデザイン解体新書 第8回

BMWデザインの秘密とは? ドイツ本社で唯一の日本人デザイナーに聞く

2018.11.16

「Z4」と「8シリーズ」に共通するキドニーグリルの革新

オマージュと新たな意匠が溶け合う新型「3シリーズ」

スポーツカーよりも制約が厳しい実用車のデザイン

日本でも根強い人気を持つ外国車ブランドのBMW。魅力のひとつがスポーティーなデザインにあることは確実だろう。では、BMWのデザインはどのように生まれるのだろうか。ドイツ本社のデザイン部門で30年にわたり活躍する日本人デザイナーが、最近登場した3車種を題材にプロセスを語った。

BMWのスポーティーなデザインはどのように生まれるのか(画像は「8シリーズ クーペ」)

ドイツ本社で活躍する唯一の日本人デザイナーが来日

BMWのデザインについて話を聞くのに、もっともふさわしいと思える方が日本にやってきた。ドイツBMWのデザイン部門でエクステリア・クリエイティブ・ディレクターを務める永島譲二氏だ。

永島氏(画像)は米国ミシガン州ウェイン州立大学大学院でデザイン修士課程を修了すると、ドイツのオペルでキャリアをスタート。フランスのルノーを経て1988年にBMWに入った

永島氏のBMWにおける経歴を見ると、1996年発表の「Z3」(現在の「Z4」の前身)、同年発表の4代目「5シリーズ」(現行型は7代目)、2005年発表の5代目「3シリーズ」(現行型は6代目)をはじめ、多くの市販車・コンセプトカーのデザインに関わっている。今回は、同氏がコンセプトカーに携わった「Z4」と「8シリーズ」、そして、多くのクルマ好きが気になっているであろう次期「3シリーズ」について話を聞くことができた。

ヘッドランプの並びを変えた新型「Z4」

まずは、BMWとトヨタが共同開発を行った車種としても知られる新型「Z4」についてだ。3代目となる新型Z4は、今年8月に米国で発表となった。永島氏はコンセプトカーのデザインに携わっている。

永島氏がデザインに携わった「Z4」のコンセプトカー(画像)は、2017年の東京モーターショーに登場した

新型Z4とコンセプトカーを比べると、ディテールには違いが見受けられるものの、基本的なフォルムはほぼ同じだ。デザインの進行過程でコンセプトカーを披露し、評判をリサーチしたのではないかと予想できる。自動車業界ではしばしば見られる手法だ。

新型「Z4」(画像提供:BMW Group)

一方、旧型との違いとしては、電動開閉式ハードトップが廃止となり、初代と同じソフトトップに戻っている点が目立つ。ディテールの新しさは、永島氏の説明で理解できた。

「ヘッドランプはこれまで、ほかのBMWと同じように横に並べていましたが、新型では縦に並べました。丸型にはこだわらず、同じ形を2つ並べる考え方にしたのも変更点です。もうひとつ、キドニーグリル外側の尖ったポイントが下に移動していることも特徴といえます。これは、後で説明する8シリーズにも共通するのですが、スポーツカーについては、こういう造形でいこうと決まりました」

新型「Z4」のフロントマスク。従来のBMWでは、グリルの左右両端の頂点(横に張り出しているカド)が中央より上に位置していたのだが、「Z4」と後述の「A8」では、その頂点が下に移動している(画像提供:BMW Group)

躍動的なボディサイドにも注目

ボディサイドでは、ドアの前の「エアブリーザー」と呼ばれるスリットが目を引く。近年登場した他のBMWにも見られるこのデザインには、クルマの横の面を強調するという役割もあるが、ここから空気を抜くことで、空力特性を高めるという機能的な目的もあるそうだ。躍動的な印象を与えるボディサイドの造形については、永島氏の言葉を引くことにする。

「旧型ではフロントからリアに向けて下がっていくラインを用いていましたが、新型では逆に上がっています。今回説明する3台に共通することですが、このラインの動きは、駆動輪である後輪を強調するためのものです。ラインに接する面をねじることで、ハイライトがリアに向けて強くなっていくようにもしています。こうした面の使い方は、現在のトレンドでもあります」

新型「Z4」のボディサイド。ラインがクルマの後部にかけて上がっていっていることが確認できる(画像提供:BMW Group)

リアを見てみると、リアコンビランプは薄くなって高い位置に付き、「L」字型を描いている。これは3次元造形を取り入れたデザインだが、似たような処理はSUVの新型「X4」(日本では2018年9月に発売)にも見られる。

新型「Z4」のリアコンビランプは「L」字型を形成する(画像提供:BMW Group)

「6シリーズ」を継ぐも方向性は異なる「8シリーズ」

続いては、先日発表されたばかりの「8シリーズ」だ。このクルマは「6シリーズ」の後継車だが、方向性はやや異なり、グランドツアラーから本格スポーツカーへとシフトしている。日本で発売となったのは2ドアクーペのみだが、ドイツではカブリオレが発表済みで、今後は4ドアのグランクーペも登場予定だという。ラインアップは6シリーズと同じになるわけだ。

「6シリーズ」の後継車だが、よりスポーティーなデザインをまとう「8シリーズ」(画像提供:BMW Group)

8シリーズのスポーティーな性格はプロポーションからも伝わってくる。全長を短く、全幅を広く、全高を低くしたボディは、水平に近かったルーフラインが前席を頂点としたスロープとなり、リアウインドーからトランクリッドまでが一直線につながった。

「Z4でも説明しましたが、フロントマスクはキドニーグリルの頂点が下に移動しています。ボディサイドはエアブリーザーから後ろをえぐることで重量感を減らしながら、リアフェンダーに向けて力強いショルダーを描いていて、カッコよさと安定感を表現できていると思っています。台形だったリアウインドーは下部を絞り込み、張り出しを強調しました。リアコンビランプはブレードを連想させる3次元造形のL字型で、点灯すると『L』が強調されるようになっています」

「8シリーズ クーペ」のボディサイドからは、リアフェンダーを強調したいというBMWの意思が伝わってくる(画像提供:BMW Group)

新型「3シリーズ」には懐かしい表現も

最後は、BMWの主力車種であり、2018年10月のパリモーターショーでデビューした新型「3シリーズ」だ。

BMWの主力車種「3シリーズ」の新型(画像提供:BMW Group)

新型3シリーズを語る上で、最初に永島氏が言及したのは、このクルマをデザインすることの難しさだった。BMWの主力車種ということで注目度が高い上、売れることが宿命づけられたクルマでもあるからだ。しかし、そんな中でも、新型には新しい造形をいくつも取り込んでいる。

「ヘッドランプの下側にボディカラーが食い込んでいるのが分かるでしょうか。実は、4代目の3シリーズをイメージしたのです。また、初代3シリーズやその前身の『02シリーズ』のように、左右のキドニーグリルの枠がつながっており、横から見ると上が突き出した『シャークノーズ』と呼ばれる形状にしてあります。グリルをつなげたのは、内部に安全装備のセンサーを取り付ける場所が必要という理由もありましたが、3シリーズは新型で7代目と代を重ねているので、オマージュ的な表現を入れてみました」

オマージュと新たな意匠が混じりあう新型「3シリーズ」のデザイン(画像提供:BMW Group)

ボディサイドには、リアドアガラス後端のラインが下りきる直前で曲がり、前に向かっていく「ホフマイスターエッケ」と呼ばれる処理が施してある。「ホフマイスター」は昔のチーフデザイナーの名前、「エッケ」はコーナーの意味で、やはり02シリーズあたりから使っているBMWの伝統だ。

ここの曲率は構造的に小さくできないので、世代が変わってもほぼ一定なのだそう。しかし、新型3シリーズではこの部分を鋭くしたいと考え、ピラー側に黒いガーニッシュを追加した。さらに後ろに行くと、リアパネルを矢尻型にサイドに回り込ませている。こちらは、車体寸法が大きくなる中で、クルマをコンパクトに見せるための技術だそうだ。

クルマをコンパクトに見せるためのデザインも取り入れている新型「3シリーズ」(画像提供:BMW Group)

これまで、ドアハンドルの高さにあったキャラクターラインは、より高い位置に移動させるとともに、ドア下方のラインをリアに向けてせり上げてある。ただし、Z4や8シリーズのような面を使った表現は控えめだ。永島氏によれば、実用車はスポーツカーと違い、車体寸法の制約が大きいことがその理由だという。3シリーズでいえば、日本のガレージやパーキングのサイズも考慮しているそうだ。

ちなみに、新型3シリーズの空気抵抗係数(Cd値)は0.24と8シリーズの0.33を上回る。実用車では燃費の要求も厳しいためだ。

実用車にはスポーツカーよりも多くの制約があり、それらがデザインにも影響を及ぼす(画像は新型「3シリーズ」、提供:BMW Group)

デザイナーとしては面を強調したいところだが、3シリーズのような車種ではなかなか難しいと話していた永島氏。その点、SUVであればカテゴリーの歴史が浅く、まだ決定的な形というものも存在しないので、冒険できる可能性は残されているというのが同氏の見解だ。

損なのか得なのか? ユーザー目線で考えるトヨタのサブスク「KINTO」

損なのか得なのか? ユーザー目線で考えるトヨタのサブスク「KINTO」

2019.02.20

トヨタがクルマの月額定額サービス「KINTO」を開始

「カローラ スポーツ」が3年で192万円強

このサービスをトヨタが始めることの意義

トヨタが提案する新しいクルマとの関係、それが愛車サブスクリプションサービス「KINTO」(キント)だ。簡単にいえば3年契約の自動車購入プランだが、最大の魅力は“明朗会計”とでもいうべき月額負担のみで、クルマのある生活を手にすることができるところ。この新たな販売形態は、我々にどんなメリットをもたらすのだろうか。ユーザー目線で考えてみた。

トヨタがクルマのサブスクリプションサービス「KINTO」を始める

「プリウス」が月々4万9,788円から乗れる新サービス

トヨタは2019年2月5日、愛車サブスクリプションサービスの運営会社として株式会社KINTOを設立すると発表した。新サービス「KINTO」の名称は、西遊記に登場する「筋斗雲」からインスパイアされたもの。必要な時にすぐに現れ、思いのままに移動できる便利さや自由さを表しているとのことだ。

KINTOの愛車サブスクリプションサービスは3年契約で、毎月定額料金を支払えば、クルマを期間限定で所有できる。単に車両代が定額なのではなく、月々の料金には、登録時の諸費用および税金、メンテナンス費、任意保険、毎年の自動車税までが含まれている。このほかの負担といえば、ガソリン代や洗車代、必要な人には駐車場代くらいで済んでしまう。複雑なクルマのコストをシンプル化したことは同サービスの特筆すべき点といえるだろう。

サービスメニューは、トヨタ車対応の「KINTO ONE」とレクサス車対応の「KINTO SELECT」の2つが用意されている。

KINTO ONEで選べるのは、「プリウス」「カローラ スポーツ」「アルファード」「ヴェルファイア」「クラウン」の5車種。全てハイブリッド仕様となる。選択できるグレードは制限されるが、ボディカラーは自由に選べる(有償色は追加料金)。オプションはパッケージされたものから選択することになるようだ。サービス開始が3月1日からなので、詳しい仕様やオプションパッケージの追加料金などは明かされていないが、最も安いプリウスの場合、月額(税込み)4万9,788円~5万9,832円で手にすることができる。ボーナス併用払いを利用すれば、月々の負担を減らすことが可能だ。

KINTO ONEは「プリウス」(画像)などトヨタ車5車種からクルマを選べる。月額料金は4万9,788円~5万9,832円

KINTO SELECTでは「ES」「IS」「RC」「UX」「RX」「NX」から1台を選ぶ。車種はセダン、クーペ、SUVと豊富だ。選べるのはハイブリッドモデルのみとなる。3年契約であることに変わりはないが、KINTO ONEと違うのは、これら6車種のうち、1台に3年乗るわけではなく、6か月ごとに乗り換えができるところ。月額料金は194,400円と高めだが、こちらも全ての費用が“コミコミ”となっている。

KINTO SELECTは「UX」(画像)などレクサス車6車種からクルマを選べる。月額料金は19万4,400円だ

新車に半年ごとに乗り換えられるのはかなり贅沢といえるが、残念なのは、グレードとカラー、装着オプションまでが完全指定となってしまうこと。これは、納期などの事情を考慮した結果だという。ちなみに、KINTO SELECTは2月6日に始まったばかりだが、2月13日の時点で、すでに契約者が現れているというのには少し驚いた。

なぜハイブリッド車だけのラインアップなのか

車両のラインアップを見て気になったのは、全てがハイブリッド車である点だ。トヨタが先頃、KINTOについての説明会を東京で開催したので、この点について質問してみると、株式会社KINTOの小寺信也社長からは、「DCM(車載通信機)搭載車のみに限定した」との回答が得られた。もちろん、人気や需要を踏まえた点もあるだろう。しかし、リアルなところでは、エコカーに適用される減税の恩恵を考慮したという事情があるのかもしれない。

ただ、トヨタはKINTOがDCM搭載車のみであることを、ユーザーメリットとして還元する手立てについても検討している。それが運転のポイント化だ。通信機能を用いた運転の評価を行い、安全運転やエコ運転など、その乗り手がクルマを大切に扱っていると判断できれば、それを利用料金の値引きという形で還元する手法である。さらに、このデータを、KINTO利用車両の中古車販売時の品質保証にも役立てるようだ。

このほか、KINTOでは販売や追加サービスについても様々な構想を検討している模様。小寺社長によれば、中古車版のKINTOも将来的には検討してみたいアイデアだそうだ。また、地域によっては、冬期のマストアイテムであるスタッドレスタイヤについても、オプションとして対応できるように考えているとのことだった。

KINTOにラインアップされたのは、「クラウン」(画像)などDCMを搭載する車両のみ。いわゆる「コネクティッド技術」を利用すれば、ドライバーの運転を評価し、その評価に合わせたポイントを付与することができる 

KINTO ONEとKINTO SELECTのどちらのサービスも、まずは東京地区から試験的に始めて、今年の夏以降には全国に展開し、秋口にはサービス対象車を拡大していく計画だという。サービス拡大に合わせて、それぞれの車種や仕様など選択肢も増えていくようだ。

KINTOのユーザーメリットとしては、3年間の車両代および維持費というコストを明確化できる点に加え、購入プロセスを簡素化できる点が挙げられる。最終的な契約では販売店に出向く必要があるが、車両のセレクトや見積もりなどはWEBで済ますことが可能だ。ワンプライスのため、値引きを引き出す営業マンとの駆け引きも不要となる。

注目すべきは、自動車任意保険が料金に含まれていることだろう。基本的な対物・対人だけでなく、フルカバーの車両保険である点にも言及しておきたい。また、全年齢に対応しているので、保険料が高くなる若い人ほど大きなメリットが享受できる。車両保険の免責は5万円なので、もしもの際、負担が最小限で済むのも嬉しい。

KINTO ONEで「アルファード」(画像)を選んだ場合の月額料金は8万5,320円~9万9,360円。これは登録時の諸費用や任意保険などを含む価格だ

気になる“お得度”を「カローラ スポーツ」で考える

ただ、やはり気になるのは、同サービスの“お得度”だろう。そこで、今回はグレード構成が分かりやすい「カローラ スポーツ」を例にとって考えてみたい。

対象車である「カローラ スポーツ」のエントリーグレードである「ハイブリッドG“X”」の車両価格は241万9,200円。これに対し、「KINTO ONE」の月額料金の下限は5万3,460円なので、年間で64万1,520円、3年間の総額は192万4,560円とそれなりの金額になる。

比較対象としやすいのが、車両価格の一部を据え置く残価設定型ローンだ。とあるトヨタ販売店のWEBサイトを訪れ、車両本体のみで「カローラ スポーツ」を購入した場合の残価設定ローン(3年契約)を試算してみると、頭金なし、金利4.5%で月々4万7,400円となった。残価設定ローンの場合、一定額を据え置くので、最終回に据え置き額を支払わなければ、クルマは返却しなくてはならないので条件は似ている。これにメンテナンス代、自動車任意保険、2年目以降の自動車税などが加わることを考えると、もしかしたら、KINTOはお得なのかもと思えてきた。

ただし、普通にクルマを購入する際には、値引きや付属品のサービスがある(可能性がある)ことは、忘れてはいけないポイントだ。金利だって、キャンペーンなどでもっと条件が良いこともある。とはいえ、自動車保険のことを考えると、少なくとも若者は、KINTOをトヨタからの魅力的な提案と受け取るかもしれない。

KINTO ONEで「カローラ スポーツ」(画像)を3年間乗る場合、料金は“コミコミ”で192万4,560円だ

トヨタがわざわざ自社でサブスクリプションサービスを展開する狙いは、新たな自動車ユーザーの掘り起こしだけでなく、販売店のネットワーク維持と収益確保にもある。仮にトヨタのクルマを使ったサービスであったとしても、他社のサブスクリプションサービスやリースなどでは、必ずしもトヨタの販売店を利用するとは限らないからだ。

また、KINTOは定額販売なので、販売に必要な人件費が削減できるし、販売後もメンテナンスによる定期的な入庫がある。これがメンテナンスによる収益を生み出し、KINTOユーザーとの関係を築く時間ともなる。その販売店をKINTOユーザーが気に入れば、3年後、次のクルマを選ぶ際、新車購入かKINTOの新契約になるのかなど選択肢は色々あるものの、とにかく同店の顧客となる可能性があるのだ。

また、KINTOは値引きなしのワンプライス販売なので、同サービスが普及すれば、トヨタの収益率向上に寄与するのはもちろんのこと、3年後の中古車価格の向上にもつながるかもしれない。

クルマの月額定額サービスは損なのか得なのか

結局のところ、KINTOは得なのか、損なのか。高級車をコロコロ乗り換えるKINTO SELECTは別格として、KINTO ONEの詳しいメニューが明かされるまで明言しづらい点はあるが、トヨタ自身も手探り状態であり、割高と思われないような価格設定に苦心していることは感じられた。

まだまだテスト段階ともいえるKINTOだが、購入プロセスの簡素化、完全月額定額による分かりやすい価格設定などにより、本来であればまとまった資金が必要となる愛車購入を検討してもらいやすくする上で、トヨタにとって新たなオプションとなるのは間違いなさそうだ。また、3年契約なので、ユーザーはライフスタイルに合わせてクルマを選べるという利点もある。

ただ、自動車自体の完成度は年々高まっており、ユーザーの平均保有期間と自動車の寿命は長くなっているのが現実でもある。コスト面で考えれば、1台を長期保有した方がトータルで安く済むのは間違いない。また、KINTOは定額サービスであるがゆえに、目先のコストだけに捕らわれた結果、身の丈に合わないクルマを選んでしまう危険性もあるだろう。

とはいえ、KINTOというサービスの登場が、とりあえず一度、クルマを持ってみようと考えるきっかけになるケースはあるはずだ。“所有”にこだわらない時代に、まずはクルマと向き合ってみるという機会を作り出すだけでも、トヨタがKINTOを始める意味は大きいのかもしれない。

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2019.02.20

クルマ向上委員会「輸入車一気乗り編」のプロローグ

安東さんがジャガー「F-PACE」から乗り換えるクルマは?

“駐車場問題”で心が折れた…重視したのはクルマの横幅

年に一度、神奈川県・大磯を舞台に開催される日本自動車輸入組合(JAIA)の試乗会。たくさんの輸入車を一度に楽しめる同イベントを、安東弘樹さんに取材してもらった。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

夜には「バラいろダンディ」(TOKYO MXで放送中、安東さんは火曜レギュラー)の生放送が控える2月5日、朝から夕方までの間に安東さんが乗ったクルマの台数は、アストンマーティン「DB11」やテスラ「モデルX」などを含む計8台。最初のクルマはジャガーのステーションワゴン「XF スポーツブレイク」だ。

ファルコンウィング(ドア)を広げたテスラ「モデルX」を背にポーズをとる安東さん。編集部からは「ヒーロー風に」と注文させてもらった

早速、「XF スポーツブレイク」の話に入りたいところなのだが、実は試乗の開始直後、安東さんからあるクルマの購入を決めたという話を聞いたので、まずはプロローグとして、そちらから取り掛かりたい。というのも弊紙では、安東さんがクルマ選びに悩む様子を以前から追っていた経緯があるので、その結果をご本人から直接聞いた以上、本連載にてお伝えしておきたいと思ったからだ。

大前提として、安東さんは現在、ポルシェ「911 カレラ 4S」とジャガーのSUV「F-PACE」を所有しているのだが、TBSを退職してフリーとなって以降、クルマ(F-PACE)で仕事現場(特に東京都内)に通勤する機会が増えると、深刻な“駐車場問題”に直面することとなった。つまり、横幅が1,935mm、高さが1,665mmと大柄なF-PACEだと、基本的には立体駐車場に入れられないなど、クルマをとめておく場所を探すのに苦労が多いのだ。

購入検討リストに入っては消えていったクルマは、マツダ「アテンザ」やミニ「クラブマン」など枚挙に暇がない。そんな安東さんのクルマ選びが、ついに結論に達したと小耳に挟んだので、「XF スポーツブレイク」に乗り込んですぐ、そのあたりの話を聞いてみた。

クルマ選びが決着!

編集部(以下、編):次のクルマ、決まったそうですね?

安東さん(以下、安):そうなんです、メルセデスの「オールテレイン」にしました。最終的に「ヴェラール」と悩んでたんですけど、やっぱり駐車場に入らないんで……。実はメルセデスって、以外に幅は、そんなにないんですよ。(全幅が)ヴェラールは1,930mmなんですけど、オールテレインは1,860mmしかありません。ちなみに、「Sクラス」でさえ1,910mmです。

「オールテレイン」とは、メルセデス・ベンツの「E220d 4MATIC オールテレイン」(画像)というクルマのこと。Eクラスのステーションワゴンをベースとするクロスオーバー車で、2.0L直列4気筒のディーゼルエンジンを搭載する。最高出力は194ps、最大トルクは400Nm。サイズは全長4,950mm、全幅1,860mm、全高1,495mmだ。公式サイトで見ると、車両本体価格は893万円となっている
「ヴェラール」(画像)はSUV専門メーカーであるレンジローバーから2017年に新登場したクルマ。弊紙ではモータージャーナリストの御堀直嗣さんに試乗して頂いたことがあるので、こちらの記事をご覧いただきたい

:実は年末に遅刻したんですよ。しかも2件。所属している事務所で打ち合わせや雑誌の取材などを行う事が多いのですが、その立体駐車場にF-PACEが入らないので、いつもは近場のコインパーキングを利用して打ち合わせなどをするのですが、その日は近くの駐車場が全く空いてなくて。どうにもならなくて、1キロ以上も離れたところにとめて、そこから歩いて事務所に向かったら遅刻してしまいました。それが1件目。

もう1件は共演者のライブ。場所が代官山だったのですが、空きが有っても立体駐車場では「サイズが大きすぎる」と断られるところばかりで……。1カ所、「空」と表示されている平置きの駐車場を見つけたんですけど、そこは1台ごとにバーで区切られている所で、よく見ると「横幅1,900mm以上はご遠慮ください」って書いてありました。結局、かなり離れた、しかも超高額な駐車場にとめた挙句、開演時間に少し遅れてしまいました。

:“横幅問題”が身にしみたわけですね。

:ええ、クルマを3台所有できるなら、1台は横幅を気にせず選んでもいいんですが、家を改装して(3台目のクルマをとめておく)駐車場を作れないことも分かりましたから……()。

※編集部注:安東さんは自宅の庭を改装して3台目のクルマのために駐車場を作るつもりだったが、建築法上の理由で断念した。このあたりの事情は以前、本連載でお伝えした通り。

:F-PACEを買い換えるということですか。

:F-PACEって、とってもいいクルマで、(駐車場問題以外には)何の不満もなかったんですけどね。オールテレインが5月に納車なので、それまで、計2年8カ月で手放すことになりますね。もっとも、走行距離は計算上、5月には9万キロ前後になるので、買い換え時ではあるかもしれません。

安東さんがとても気に入っていると話すジャガー「F-PACE」

:納車待ちでウキウキしてますか?

:そうですね。ただ、あまりにもF-PACEが気に入ってるんで、少し複雑ですけど。それと、人に自分の所有車を言うときに「メルセデス・ベンツです」というのが、若干その……。何に乗っているんですかと聞かれて、「メルセデス・ベンツです」と答えると伝わりきらないというか、「Eクラスのオールテレインです!」まで、全て言いたい、というか()。

※編集部注:「メルセデス・ベンツ」だから買ったのではなく、こだわって選んだクルマが「メルセデス・ベンツ」だったということを伝えたいけど、クルマにあまり興味がない人には伝わらない、というニュアンス。

安:テレビ局やスタジオなどの現場にクルマで行く時は、事前にマネージャーが先方に車種を聞かれるわけです。マネージャーはクルマもナンバーも把握しているので、それを先方に伝えるんですけど、車種を聞かれた時に5月からは「安東は“ベンツ”です」って答えることになるのですが、「あー、フリーになったからねー」みたいな感想をもたれるのかなと思うと……。

実は、実際の購入金額はF-PACEよりもオールテレインの方が低いんです。少し複雑で、F-PACEの方が「何円から」というカタログの表記ではオールテレインよりかなり安価なのですが、オプションや諸経費を含めると、実は、F-PACEはかなり価格が上がってしまったので、最終金額は逆転するのです。これはオールテレインにほとんどの装備が標準で付いていることが大きいです。

※編集部注:クルマの値段を見る場合、ほとんどオプションが付いていない状態での価格表記なのか、“コミコミ”での価格表記なのかには注意する必要がある。例えば、サンルーフやシートベンチレーションのような「あったら嬉しい装備」のみならず、カーナビなどの「ぜひとも付いていて欲しい装備」すら付いていない“素”の状態で、かなり安く見える値段を提示している場合もあるからだ。

:オールテレインとポルシェ、しばらくはこの2台体制ですか?

:ですね。ドイツ車2台、しかもベンツとポルシェっていうと、人によっては反感を買うかもしれませんけど(笑)。「ポルシェ 911 カレラ4Sの右ハンドルのマニュアルトランスミッション(MT)です!」とか、いちいち全部説明したいくらいですよ! 2台とも、結構マニアックだと思うんですけどね。

ただ、クルマに詳しくない方には、「ベンツとポルシェ」としか言いようがないので、「フリーになると違うな」などと思われるんでしょうね(笑)。かといって、その都度、「メルセデスですけど、社員時代に乗っていたクルマより安いんです」とか言うのも変だし。難しいですね。

「オールテレイン」の気になる点は?

:オールテレインの少し気になるところは、最低地上高(地面からクルマの最も低い部分までの距離)が140mmで、それって“普通”なんですよね(※)。「E 220 d」のステーションワゴンは115mmともともと低いので、それでも25mm上がってはいるんですけど。

※編集部注:もっと高くてもいいのに、という意味。クロスオーバーSUVだと200mm前後のことが多いので、確かに高くはない。

:オールテレインはエアサス(エアサスペンション)で車高が上げられるんですけど、それでも20mmしか上げられなくて。(車高上昇時の)160mmって、これでも下手したら“普通のクルマ”なんですよ。さらに、車高は時速35キロを超えると、(自動的に)下がっちゃうんですよね。

メルセデスとしては、本当に速度が出せないような道でしか、車高を上げさせたくないと考えている、ということなんでしょうね。メルセデスは他のメーカーより、そういった部分でマージンをとるので。この手のクルマは200mm位の最低地上高にしているメーカーが多いのですが(スバルやボルボなど)、メルセデスとしては、そこまで上げた時の安定性を担保できない、ということなのかもしれません。

:クルマづくりの話で、メルセデス・ベンツは乗り手をあんまり信用していなくて、逆にBMWは乗り手に委ねる、というような言葉を聞いたことがあります。

:よく言われてますよね。

:車高についても、メルセデスが考えている以上に、乗り手に上げたり下げたりして欲しくないから、クルマ側である程度は制御する、ということなんでしょうか?

:そこが残念といえば残念ですね。

ジャガー「XF スポーツブレイク」で箱根ターンパイクを疾走する安東さん

かなり吟味して購入を決めたのだから、おそらく、オールテレインが届くのを楽しみにしているのだろうとは思うのだが、「ちょっと気になる点」として最低地上高に言及するところなどは、クルママニアの安東さんらしい観点という気がした。MT車のシフト操作を喜びと語る安東さんだけに、自分で運転するクルマに関することは全て、自分で考え、自分で決めて、(最低地上高の調整も含め)自分で操作したいのだろう。

さて、クルマ選びの顛末をお伝えすることできたので、編集部としてもひと安心だ。次回からはいよいよ、JAIA試乗会の模様をレポートしたい。最初に乗るクルマは(すでに乗ってはいるが)、ジャガーのステーションワゴン「XF スポーツブレイク」だ。ジャガーのSUV「F-PACE」を気に入って乗っている安東さんだけに、この2台の比較も気になる。

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