「技術の東芝」は再び“明日”を作れるか、リストラ軸に再建計画

「技術の東芝」は再び“明日”を作れるか、リストラ軸に再建計画

2018.11.09

爪あと残る決算内容も、3年で業界トップの収益体質を宣言

5か年の再建計画、まずは人員削減や拠点削減を含むリストラ

メモリ売却後の成長事業を構築すべく、「技術の東芝」へ立ち返り

東芝が発表した全社変革計画「東芝Nextプラン」は、”つなぎ”の計画ではなく、東芝の完全復活を目標としたものだ。

「3年で業界トップの収益体質」を宣言

東芝 代表執行役会長兼CEO 車谷暢昭氏。銀行出身で、今年4月に東芝へ

中期経営計画を発表した際、車谷暢昭代表執行役会長兼CEOは「2020年度までに赤字事業を撲滅し、すべての事業でROS(売上高経常利益率) 5%以上を目指す。そして、最初の3年(2021年度)で、業界トップレベルの収益体質に移行する」と宣言する。2021年度には、売上高3兆7,000億円、営業利益2,400億円、ROSで6%以上、ROE(自己資本利益率)で約10%を目標に掲げ、2023年度のターゲットとして、売上高4兆円、営業利益率8%以上、ROSで10%、ROEで15%レベルにまで高める計画だ。

現時点の通知表とも言える2018年度通期の業績見通しは、5月15日の前回公表値を修正。売上高は前年比8.8%減の3兆6,000億円と据え置いたものの、営業利益を100億円下方修正し前年比14.3%減の600億円、継続事業税引前利益は1,300億円下方修正し400億円の赤字だ。当期純利益は1,500億円下方修正し前年比14.0%減の9,200億円とした。

2023年度までの業績目標。特に営業利益率は大幅な伸びを目指す

決算内容には、大なたを振った爪痕が残る。最終利益には、メモリ事業売却で得た1兆円を超える売却益が大きく反映されている。一方で、米国での液化天然ガス(LNG)事業をENNエコロジカルホールディングスに売却し、英国で展開していたNuGenを清算して、海外原子力新規建設事業から撤退。この影響で1,000億円規模の損失が発生している。

2018年度業績見通しで1.7%だった営業利益率を、3年で6%以上に、2023年度には8%以上とし、「業界トップレベルの収益体質」を実現することができるのか。車谷会長兼CEOの手腕に注目が集まる。

非注力事業から撤退し、7,000人の人員を削減

東芝Nextプランの柱になるのは、「構造改革」、「調達改革」、「営業改革」、「プロセス改革」の4つの改革だ。

「構造改革」では、先に触れたように、液化天然ガス(LNG)事業をENNエコロジカルホールディングスへ売却し、英国で展開していたNuGenの解消による海外原子力新規建設事業といった非注力事業からの撤退。加えて、今後5年間で7,000人の人員減少を図る。さらに、15%の生産拠点を対象にした閉鎖および再編や、国内外約400社にのぼる子会社の25%削減も実施する。

一部部門での早期退職優遇制度を実施し、2018年度も、1,000人強の人員削減を予定している。

車谷会長兼CEOは、「東芝の将来に向けては、事業および人員の適正化が前提となるが、東芝には、2年、3年かかる足の長いビジネスがあり、人員を一気に適正化することができない。それをすれば、企業価値の損失につながる。これから、年間3,000人~4,000人の(定年退職など)自然減が発生するタイミングに入ってくる。一部部門での早期退職優遇制度を実施するが、基本的には、自然減が中心になると考えている」と人員削減の計画を明らかにした。。

2つめの「調達改革」に関しては、「東芝は、競合他社に比べて原価率が高い。いわば改善余地が存在する」と指摘。素材や電気・電子部品といった直接材と、通信費、オフィス賃料といった間接材の双方にメスを入れ、約650億円の改革効果を見込む。最終の2023年度までには1,000億円の効果に達するという。

3つめの「営業改革」では、価格を含む契約条件の再確認と適正化、低収益製品の棚卸しなどの営業リターン改善により、約300億円の改善機会を追求する。ほか、CRMの活用による営業体制の強化による顧客およびマーケットとの関係強化などを通じて、営業活動の効率化、営業体制の強化、プロジェクト受注時における審査の強化に取り組む。

そして、4つめの「プロセス改革」では、IT基盤の整備に挑む。次世代IT投資計画として、2023年度までに1,100億円の投資を計画しており、老朽化したシステムの80%以上を刷新し、90%以上のサーバーをクラウド化するという。「CPSテクノロジー企業への変革を支えるにふさわしいIT基盤の構築を図り、グループ全体で業務を効率化し、生産性の改善を図る」という。

リチウムイオンなど、メモリ売却後の柱を模索

削減の一方で、成長分野への投資はどうだろうか。

2023年度までに8,100億円の設備投資を行うほか、主要研究開発テーマに対しては、2023年度までに9,300億円を投資する計画だ。

車谷会長兼CEOは、「M&Aへの投資よりも、自らが持つ技術や設備への投資を優先する。これまではメモリ分野への投資が優先され、次の成長が見込める分野に対して投資ができていなかった。10年後、20年後の東芝に向けた投資も行っていく」と話す。

成長領域のひとつに位置づけるのがリチウムイオン二次電池事業。ここでは、東芝が推進するのSCiBの特徴が生かせる市場を開拓。2030年に4,000億円規模の事業に成長させることを目指す。また、パワーエレクトロニクスでは、モビリティと産業システム市場に注力。さらに、精密医療分野では、重粒子線治療をはじめとして、予防から治療までの各フェーズにおける要素技術を保有している強みを生かし、がんの超早期発見と個別医療治療の実現を目指すという。

リチウムイオン二次電池を有望視
パワーエレクトロニクスと精密医療にも注力する

「現在、自社の技術者4万2,000人のうちデジタル技術者は7,000人だが、全員をデジタル技術者にしたい。デジタル文化を組織の隅々まで実装する必要がある」として、技術者のデジタルシフトを推進することに加え、社員全体を巻き込んだデジタルトランスフォーメーションを図る考えを示した。

その一方で、火力、システムLSI、産業モータ、モバイルHDDといったモニタリング対象事業は、事業構造転換により、収益を改善させることを基本方針とした。改善がみられない場合には、一部領域においては撤退を含め検討するという。

「明日をつくる技術の東芝」は戻るのか?

東芝の今後の企業像として、車谷会長兼CEOは、「世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業になる」と位置づけた。

CPSとは、フィジカル空間である現実世界における多様なデータを、IoTなどを通じてデジタルデータとして収集し、これをサイバー空間で、AIなどを活用して蓄積、分析。その結果を活用して、社会課題の解決や産業の活性化につなげるというコンセプトだ。日本では経済産業省などが、この言葉を積極的に使用しており、先頃開催されたCEATEC JAPANも、「CPS/IoTの総合展示会」を標榜していた。

「GAFAなどの巨大なサイバー企業は、既存の業界を、データの世界にリプレイスし、デジタルの世界のデータを独占し、巨大な事業を生みだしてきた。だが、もはや、サイバー世界だけの事業モデルは限界にきている。フィジカルサイドにいかないとこれ以上のデータは取れない。ここが、これからのサイバー事業の本丸だと思っている。フィジカルのデータを効率的に取得し、社会を最適化する。これを成し遂げた企業が次のフェーズで勝つことになる。東芝はそうした企業になりたい」(車谷会長兼CEO)

これまでの東芝にはない、新たな姿が描かれることになる。

今回の会見の冒頭、東芝の車谷会長兼CEOは、「私は企業にはそれぞれにDNAがあると思っている」と切り出し、次のように話している。

「2018年4月に東芝に入社してから、すべての支社、工場をまわり、数1,000人の従業員と話をしてきた。その活動を通じて、東芝の強さの源泉はなにか、DNAはなにかということを探してきた。その結果、東芝という会社は、人の物真似ではなく、他社の技術をM&Aで取得するということでもなく、革新的な独自の技術開発を基盤としたベンチャー型の事業モデルで発展してきたテクノロジー企業であることに気がつかされた。東芝は、143年間、革新的な技術開発力をテコに、社会に貢献してきた企業である。それが東芝のDNAである。東芝には、からくり儀右衛門といわれた田中久重、日本のエジソンといわれた藤岡市助という2人の創業者によるベンチャースピリットがある。これを復活させて、多くの社会課題の解決に取り組み、社会に貢献したい」

今こそ2人の創業者、田中久重と藤岡市助のスピリットを蘇らせたいと話す

かつて東芝が1社提供していた日曜夕方の国民的アニメ「サザエさん」では、毎回、「明日をつくる技術の東芝がお送りいたします」とサザエさんが語り、横にいるタラちゃんが「いたしまーす」と言って、番組が始まっていた。

東芝はテクノロジー企業であり、それを成長基盤として社会貢献をするのが東芝の存在意義とすれば、まさに、このサザエさんの言葉が、東芝Nextプランの方向性をひとことで表現するキーワードなのではないだろうか。

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LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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