「技術の東芝」は再び“明日”を作れるか、リストラ軸に再建計画

「技術の東芝」は再び“明日”を作れるか、リストラ軸に再建計画

2018.11.09

爪あと残る決算内容も、3年で業界トップの収益体質を宣言

5か年の再建計画、まずは人員削減や拠点削減を含むリストラ

メモリ売却後の成長事業を構築すべく、「技術の東芝」へ立ち返り

東芝が発表した全社変革計画「東芝Nextプラン」は、”つなぎ”の計画ではなく、東芝の完全復活を目標としたものだ。

「3年で業界トップの収益体質」を宣言

東芝 代表執行役会長兼CEO 車谷暢昭氏。銀行出身で、今年4月に東芝へ

中期経営計画を発表した際、車谷暢昭代表執行役会長兼CEOは「2020年度までに赤字事業を撲滅し、すべての事業でROS(売上高経常利益率) 5%以上を目指す。そして、最初の3年(2021年度)で、業界トップレベルの収益体質に移行する」と宣言する。2021年度には、売上高3兆7,000億円、営業利益2,400億円、ROSで6%以上、ROE(自己資本利益率)で約10%を目標に掲げ、2023年度のターゲットとして、売上高4兆円、営業利益率8%以上、ROSで10%、ROEで15%レベルにまで高める計画だ。

現時点の通知表とも言える2018年度通期の業績見通しは、5月15日の前回公表値を修正。売上高は前年比8.8%減の3兆6,000億円と据え置いたものの、営業利益を100億円下方修正し前年比14.3%減の600億円、継続事業税引前利益は1,300億円下方修正し400億円の赤字だ。当期純利益は1,500億円下方修正し前年比14.0%減の9,200億円とした。

2023年度までの業績目標。特に営業利益率は大幅な伸びを目指す

決算内容には、大なたを振った爪痕が残る。最終利益には、メモリ事業売却で得た1兆円を超える売却益が大きく反映されている。一方で、米国での液化天然ガス(LNG)事業をENNエコロジカルホールディングスに売却し、英国で展開していたNuGenを清算して、海外原子力新規建設事業から撤退。この影響で1,000億円規模の損失が発生している。

2018年度業績見通しで1.7%だった営業利益率を、3年で6%以上に、2023年度には8%以上とし、「業界トップレベルの収益体質」を実現することができるのか。車谷会長兼CEOの手腕に注目が集まる。

非注力事業から撤退し、7,000人の人員を削減

東芝Nextプランの柱になるのは、「構造改革」、「調達改革」、「営業改革」、「プロセス改革」の4つの改革だ。

「構造改革」では、先に触れたように、液化天然ガス(LNG)事業をENNエコロジカルホールディングスへ売却し、英国で展開していたNuGenの解消による海外原子力新規建設事業といった非注力事業からの撤退。加えて、今後5年間で7,000人の人員減少を図る。さらに、15%の生産拠点を対象にした閉鎖および再編や、国内外約400社にのぼる子会社の25%削減も実施する。

一部部門での早期退職優遇制度を実施し、2018年度も、1,000人強の人員削減を予定している。

車谷会長兼CEOは、「東芝の将来に向けては、事業および人員の適正化が前提となるが、東芝には、2年、3年かかる足の長いビジネスがあり、人員を一気に適正化することができない。それをすれば、企業価値の損失につながる。これから、年間3,000人~4,000人の(定年退職など)自然減が発生するタイミングに入ってくる。一部部門での早期退職優遇制度を実施するが、基本的には、自然減が中心になると考えている」と人員削減の計画を明らかにした。。

2つめの「調達改革」に関しては、「東芝は、競合他社に比べて原価率が高い。いわば改善余地が存在する」と指摘。素材や電気・電子部品といった直接材と、通信費、オフィス賃料といった間接材の双方にメスを入れ、約650億円の改革効果を見込む。最終の2023年度までには1,000億円の効果に達するという。

3つめの「営業改革」では、価格を含む契約条件の再確認と適正化、低収益製品の棚卸しなどの営業リターン改善により、約300億円の改善機会を追求する。ほか、CRMの活用による営業体制の強化による顧客およびマーケットとの関係強化などを通じて、営業活動の効率化、営業体制の強化、プロジェクト受注時における審査の強化に取り組む。

そして、4つめの「プロセス改革」では、IT基盤の整備に挑む。次世代IT投資計画として、2023年度までに1,100億円の投資を計画しており、老朽化したシステムの80%以上を刷新し、90%以上のサーバーをクラウド化するという。「CPSテクノロジー企業への変革を支えるにふさわしいIT基盤の構築を図り、グループ全体で業務を効率化し、生産性の改善を図る」という。

リチウムイオンなど、メモリ売却後の柱を模索

削減の一方で、成長分野への投資はどうだろうか。

2023年度までに8,100億円の設備投資を行うほか、主要研究開発テーマに対しては、2023年度までに9,300億円を投資する計画だ。

車谷会長兼CEOは、「M&Aへの投資よりも、自らが持つ技術や設備への投資を優先する。これまではメモリ分野への投資が優先され、次の成長が見込める分野に対して投資ができていなかった。10年後、20年後の東芝に向けた投資も行っていく」と話す。

成長領域のひとつに位置づけるのがリチウムイオン二次電池事業。ここでは、東芝が推進するのSCiBの特徴が生かせる市場を開拓。2030年に4,000億円規模の事業に成長させることを目指す。また、パワーエレクトロニクスでは、モビリティと産業システム市場に注力。さらに、精密医療分野では、重粒子線治療をはじめとして、予防から治療までの各フェーズにおける要素技術を保有している強みを生かし、がんの超早期発見と個別医療治療の実現を目指すという。

リチウムイオン二次電池を有望視
パワーエレクトロニクスと精密医療にも注力する

「現在、自社の技術者4万2,000人のうちデジタル技術者は7,000人だが、全員をデジタル技術者にしたい。デジタル文化を組織の隅々まで実装する必要がある」として、技術者のデジタルシフトを推進することに加え、社員全体を巻き込んだデジタルトランスフォーメーションを図る考えを示した。

その一方で、火力、システムLSI、産業モータ、モバイルHDDといったモニタリング対象事業は、事業構造転換により、収益を改善させることを基本方針とした。改善がみられない場合には、一部領域においては撤退を含め検討するという。

「明日をつくる技術の東芝」は戻るのか?

東芝の今後の企業像として、車谷会長兼CEOは、「世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業になる」と位置づけた。

CPSとは、フィジカル空間である現実世界における多様なデータを、IoTなどを通じてデジタルデータとして収集し、これをサイバー空間で、AIなどを活用して蓄積、分析。その結果を活用して、社会課題の解決や産業の活性化につなげるというコンセプトだ。日本では経済産業省などが、この言葉を積極的に使用しており、先頃開催されたCEATEC JAPANも、「CPS/IoTの総合展示会」を標榜していた。

「GAFAなどの巨大なサイバー企業は、既存の業界を、データの世界にリプレイスし、デジタルの世界のデータを独占し、巨大な事業を生みだしてきた。だが、もはや、サイバー世界だけの事業モデルは限界にきている。フィジカルサイドにいかないとこれ以上のデータは取れない。ここが、これからのサイバー事業の本丸だと思っている。フィジカルのデータを効率的に取得し、社会を最適化する。これを成し遂げた企業が次のフェーズで勝つことになる。東芝はそうした企業になりたい」(車谷会長兼CEO)

これまでの東芝にはない、新たな姿が描かれることになる。

今回の会見の冒頭、東芝の車谷会長兼CEOは、「私は企業にはそれぞれにDNAがあると思っている」と切り出し、次のように話している。

「2018年4月に東芝に入社してから、すべての支社、工場をまわり、数1,000人の従業員と話をしてきた。その活動を通じて、東芝の強さの源泉はなにか、DNAはなにかということを探してきた。その結果、東芝という会社は、人の物真似ではなく、他社の技術をM&Aで取得するということでもなく、革新的な独自の技術開発を基盤としたベンチャー型の事業モデルで発展してきたテクノロジー企業であることに気がつかされた。東芝は、143年間、革新的な技術開発力をテコに、社会に貢献してきた企業である。それが東芝のDNAである。東芝には、からくり儀右衛門といわれた田中久重、日本のエジソンといわれた藤岡市助という2人の創業者によるベンチャースピリットがある。これを復活させて、多くの社会課題の解決に取り組み、社会に貢献したい」

今こそ2人の創業者、田中久重と藤岡市助のスピリットを蘇らせたいと話す

かつて東芝が1社提供していた日曜夕方の国民的アニメ「サザエさん」では、毎回、「明日をつくる技術の東芝がお送りいたします」とサザエさんが語り、横にいるタラちゃんが「いたしまーす」と言って、番組が始まっていた。

東芝はテクノロジー企業であり、それを成長基盤として社会貢献をするのが東芝の存在意義とすれば、まさに、このサザエさんの言葉が、東芝Nextプランの方向性をひとことで表現するキーワードなのではないだろうか。

「コミケ有料化」の経緯と“DB”の哲学

カレー沢薫の時流漂流 第20回

「コミケ有料化」の経緯と“DB”の哲学

2018.12.17

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第20回は、盆暮れにやってくるオタクの祭典「コミケ」の有料化について

来年の話になるが、2019年からコミケことコミックマーケットが有料化するそうだ。

このニュース、「ガタッ」と席を立った人と興味ゼロな人、真っ二つだと思う。私だって「渋谷ハロウィン有料化」と言われたら、「別にいいんじゃないすか、知らんけど」と答えるだろう。

コミケの「入場料」、参加者の反応は

まずコミケとは同人誌即売会の事である。よく知らない人からすれば、アニメや漫画のキャラクターを使った破廉恥極まる漫画、すなわちDB(ドスケベブック)が並んでいる場所というイメージがあるかもしれないが、その印象はまったく間違っていない。

しかしDJB(ドスケベじゃないブック)もあるし、手作りのグッズやアクセサリーを売っている人もいる。また企業の参加も多く、もはや、どんたくやねぶたに並ぶ大きな「祭」と言っていいだろう。

そのコミケだが、東京オリンピックの影響を受けて、長らく会場として使っていた東京ビッグサイトが使えなくなり、中止になるのではという噂があった。結局、中止されることはなかったが、東京ビッグサイトと青海展示場の2か所を会場とし、期間を4日にして開催される予定のようだ(従来は3日)。

しかし、従来のコミケより規模を縮小することには変わりなく、収益は例年より減るのに、警備費などの費用がいつもよりかかると予想されており、DBなどを売る側である「サークル」から徴収する「サークル参加料」だけでは採算がとれないので、買う側である一般入場者側からも金をとることにしたようだ。

これに関しては概ね「仕方ない」という反応が多いそうだ。虎穴に入らずんば虎児を得ずと同じように、入場料を払わなければDBを得られないと言われれば払うしかない。また、そうしないとコミケ自体が成り立たないと言うなら、参加者として協力せざるを得ないだろう。

だが、オタクが金を惜しまないのはあくまでDBもしくはDJB本体に対してだけだ。DBを買う時に「値札を見る」というのは「集中力に欠ける」としか言いようがない。表紙の破廉恥極まる推しの姿以外が視界に入るようではまだ青い。

また、同人誌即売会で売られる本というのは「数に限りがある」。よって目当ての本というのは「買えるか買えないか」でしかなく、「いくらか」は関係ない。

たとえページ数に対し割高な値段であろうとも、どうせ明日には転売野郎が同じ商品を法外な値段でオークションに出すのだ。それだったら相場の何倍だろうが、「目が眩むほど推しを破廉恥に描いてくださったご本人」の懐に入ってくれた方がありがたい。むしろその金を元手にもっと描いて欲しい。

別の例で言えば、ライブのチケットでも、まずチケットが取れたことが嬉しく、チケット代がいつもより安いとか高いとかはあまり考えないだろう。しかしイープラスなどに払う「手数料」までどうでも良いかというと、「てめえはダメだ」という人も多いのではないか。

コミケも、その入場料でDBが1、2冊多く買えたと思えば、惜しいと感じなくもない。そのため、コミケ有料化自体は容認しても、それを引き起こした東京五輪に対して怨嗟の声をあげている者はいるようだ。

門外漢からすれば「どう考えても東京五輪の方が重要じゃないか」と思うかもしれないが、これは「野球中継でDB(ドラゴンボール)が見られない」のと同じことなのだ。野球という名の東京五輪に興味がない者にとっては、そのせいでDB(ドラゴンボール)という名のDB(ドスケベブック)が買えないとなると、東京五輪を苦々しく思わずにはいられない。

DBとDJBの境界線

だが有料化によるメリットもあるようで、特に「年齢確認が楽になる」といわれている。

当然だが、DBは18歳未満には売ってはいけない。よって、販売時には身分証明書を提示するというのが一応の決まりになっているが、混雑時に一人ひとり確認するのは手間だし、だからと言って確認せず18歳未満に売ってしまったら、売った方が怒られる。

2019年開催のコミケでは、入場料を払った時点で入場者にはリストバンドが渡され、それが2会場の入場券の代わりになる。入場料支払い時点で年齢確認を行い、リストバンドの色などで18歳以上か未満かわかるようにすれば、いちいち売り場で確認しなくても済む。

この18歳以上を示すリストバンドは、私もコミケじゃない同人誌即売会で利用したことがある。入場料を払う時ではなく、入場待機しているところに係の人が回ってきて、「18禁本を買う予定の18歳以上の方は挙手してください」というシステムだった。

「我々はスポーツマンシップに則りエロ本を買います」と選手宣誓をしろということになるが、同人誌即売会に来ておいてDBを買うことを隠したいというのは、ヌーディストビーチに来ておいて「脱がなきゃダメ? 」と言っているようなものだ。

続々と手があがり、その場で免許証などによる年齢確認が行われ、確認が済んだ者には「エロ本買えますリストバンド」が渡された。これは売り場での年齢確認制より格段にスムーズであり、1分1秒を争う会場内では実に便利であった。

コミケでなくても、「ゾーニング」は大きな問題となっている。有料化と2会場化を機に、DBとDJBの線引きがさらに厳格化していくのかもしれない。

なぜTBSラジオは「スペシャルウィーク」をやめるのか

なぜTBSラジオは「スペシャルウィーク」をやめるのか

2018.12.17

聴取率争いに自ら終止符? TBSラジオの決断

ラジコの普及で重要性を増すリアルタイムの聴取者数

「ノンリスナーのリスナー化」がラジオ業界の至上命題

TBSラジオが「スペシャルウィーク」をやめる――。11月29日(木)深夜の「木曜JUNK おぎやはぎのメガネびいき」(毎週木曜深夜25時からTBSラジオで生放送)でこの件が話題になった時は、初耳だったので驚いた。なぜ、こういう決断に至ったのか。TBSラジオのスペシャルウィークは今後、どうなるのか。TBSラジオの三村孝成社長に聞いた話も交えてお伝えしたい。

TBSラジオは12月8日(土)、AM波を送信している戸田送信所(埼玉県戸田市)の使用電力を再生可能エネルギーに切り替え、「ナイツのちゃきちゃき大放送」(毎週土曜日、朝9時から午後1時までの生ワイド番組)内でセレモニーを実施。この機会を捉え、TBSラジオの三村社長(左端)に話を聞いた

ラジオの「スペシャルウィーク」とは何か

本題に入る前に、まず、ラジオのスペシャルウィークとは何かをおさらいしておきたい。

スペシャルウィークと密接に関係するのがラジオの「聴取率」だ。これはビデオリサーチという会社が調べているもので、調査は首都圏、関西圏、中京圏の3カ所でアンケートを実施して行う。

そのうち、首都圏の調査を取り上げて中身を詳しく見ていきたい。まず、調査の対象エリアは東京駅を中心とする半径35キロ圏内となっている。対象者は12歳~69歳の男女個人、標本数はおよそ3,000人。調査回数は1年に6回(偶数月)で、その調査月のうち1週間を「聴取率調査週間」に設定し、「その期間中にラジオを聴いたか」「どんな番組を聴いたか」といったことをアンケートで調べて聴取率を算出する。

つまり、ラジオの聴取率というのは、首都圏でいえば、年に6回の「聴取率調査週間」の間に、アンケート調査を受けた人が、ラジオを聴いていたかどうかによって決まる。1分ごとの数字をはじき出すテレビの「視聴率」とは、かなり性格の違う指標だということが分かる。

こういう調査方法であることから、ラジオ局は聴取率調査週間に合わせて、通常放送とは違う企画、通常放送とは違うパーソナリティーの起用、リスナーへのプレゼント企画、豪華ゲストの起用といった特別な施策を実施する。これがスペシャルウィークだ。

約150mのアンテナがそびえ立つTBSラジオ戸田送信所。1,900万戸にAM波を届けるTBSラジオの基幹送信所で、使用電力は月間11万キロワットだ。再生可能エネルギーは「みんな電力株式会社」が供給する。電力は新潟県上越市の小規模水力発電施設などから調達する

ラジオ局によって呼称は異なるかもしれないが、聴取率調査週間をスペシャルウィークと位置づけ、特別なキャンペーンを展開したり、番組の内容を変えたりする手法は業界では一般的だ。

そんな中、TBSラジオは、この調査期間をスペシャルウィークと呼称することをやめると宣言した。その期間中に、局を挙げて特別なキャンペーンを打つことも、今後はしないという。つまり、聴取率を上げるために調査週間を狙って特別企画を展開するのはやめて、今後は時期を自ら考えて特別な取り組みを行うという態度を鮮明にしたのだ。

なぜ、こういう決断をしたのか。TBSラジオは17年4カ月の間、聴取率で業界トップを走り続けているにも関わらずだ。

聴取率トップでも放送収入が上がらない現状

決断の背景として、まず注目したいのは、聴取率で業界トップのTBSラジオでさえ放送収入が上がっていないというラジオ業界の現状だ。業界全体で見ても、広告収入は25年間、ずっと下がり続けている。

それに、ラジオの聴取率も過去に比べれば低迷している。前述したビデオリサーチの調査によれば、2018年10月の首都圏の「全局個人聴取率」(12~69歳、男女、週平均)は5.2%。この数字、1990年代には9%くらいあったそうだ。

スペシャルウィークに注力した結果、聴取率で業界トップに輝いたとしても、収入は上がらないし、ラジオを聞く人も増えない。それならば、慣習に固執する必要もない。これがTBSラジオの判断なのだろう。

確かに、普段はラジオを聴かない人(ノンリスナー)が、スペシャルウィークをきっかけに聴くように(リスナーに)なるかどうかは疑問だ。

もとからのラジオリスナーであれば、何らかの特別企画やキャンペーンに興味を持った時、ラジオをつけるなり「ラジコ」(radiko、スマホアプリやPCでラジオが聴ける)を使うなりして、番組を聴くかもしれない。しかし、ノンリスナーであり、ラジオの受信デバイスすら持っていないような人たちが、これを機にラジオをわざわざ買うかどうかは微妙だ。ラジコならハードルは低そうだが、三村社長は「今の時代って、アプリをダウンロードしてもらうのもすごく大変じゃないですか」と話す。

キャンペーンは時期が大事! 今後のTBSラジオは独自展開

スペシャルウィークに他局と足並みをそろえ、聴取率争いのために力を使うのではなく、ノンリスナーをリスナー化するために知恵を絞りたい。それがTBSラジオの考えらしい。

ラジオ業界の至上命題は「ノンリスナーのリスナー化」と語ったTBSラジオの三村社長

特別なキャンペーンを展開するにしても、聴取率調査週間より効果的なタイミングは確かにあるかもしれない。三村社長の考えはこうだ。

「ラジオを聴かなくなる理由には、例えば引越しや転勤などがあります。住む場所が変わって好きな番組が聴けなくなったり、ライフスタイルが変わってしまったりして、聴かなくなるパターンです。例えば、大学生で時間に余裕のあった人が、社会人になるとか。引越しとかライフスタイルの変化が多い時期というのは、ある程度は決まっていますから、そういう時にこそ、キャンペーンを張るという方法はあるのかなと思っています」

つまり、聴取率調査週間を気にしなければ、キャンペーンや特別企画が流動的に実施できるということだ。例えば、3月は奇数月で聴取率調査はないが、ノンリスナーに訴求するには適した時期かもしれない。

また、特別企画や豪華ゲスト起用のタイミングは個別の番組で決めてもいい。「私も、企画をやっちゃいけないといっているわけではないんですよ(笑)。効果が出そうな時に、どんどん企画をやってもらいたい。それが、たまたま聴取率調査週間なのであれば、その時にやってもいいわけだし」というのが三村社長の考えだ。

TBSラジオは機を見て特別企画を仕掛ける流動性を手に入れた

TBSラジオはスペシャルウィークだけを特別視するのではなく、「毎日がスペシャル」の気持ちで通常放送に取り組みつつ、ノンリスナーをリスナー化するための施策を打ち出していく。そういう方針を明確にしたわけだ。

重視するのは「ラジコ」のリアルタイム情報

とはいえ、聴取率はラジオ局にとって、ほぼ唯一の指標だったはずだ。これからTBSラジオは、何を参考にして番組づくりに取り組むのか。三村社長はラジコのデータを重要視する。

「聴取率を調査する目的は2つあって、1つは番組編成を考えるのに使うマーケティングデータを得るためです。番組の編成が、ちゃんと効果を出しているかどうか、リスナーに受け入れられているかどうか、それぞれの番組の企画や演出が、リスナーに評価されているかどうか。それらを測る指標が聴取率でした」

「ただ、その点に関しては、マーケティングデータといいながら、52週(1年間)のうち6週間しか調査していない数字ですし、調査週から約1カ月遅れて結果が分かるというのが実情でした。一方、ラジコのデータは毎日、リアルタイムで確認することができます」

おそらく、世の中でラジオを聴いている人の割合でいえば、ラジコよりもラジオ受信機を使っている人の方がまだまだ多い。しかし、ラジコであればラジオ局側は、リアルタイムでリスナーの実数が把握できる。このデータの方が、マーケティングデータとしては有用だと判断したようだ。

「もう、ラジコも始まって9年目です。ラジコの数字が動けば、聴取率も動くというのは体感しています。ラジコの聴取人数が増えれば、基本的には聴取率も上がるんです」

ラジコで毎日、リアルタイムで聴取人数が把握できて、そのデータを重視するというのであれば、スペシャルウィークに的を絞った番組づくりをしていていいはずがない。通常放送がいかに面白く、リスナーをひきつけているかの方がはるかに重要になる。実際のところ、TBSラジオの番組製作陣も、すでにラジコの数字を参考にしているらしい。

ラジコの聴取人数と聴取率はほぼ連動しているというのがTBSラジオの読みだ

聴取率を測るもう1つの目的は、営業データとして利用するためだという。

「分かりやすくいうと、広告主が宣伝費を出しますよね、その費用対効果を測るために聴取率を使うんです。これはテレビの視聴率と似ています。この点については今後、今のままでいいのかどうか、業界で議論していこうと思ってます」

リスナーの奪い合いはもはや無意味?

スペシャルウィークをやめるというTBSラジオの決断には、賛否両論があるかもしれない。しかし、スペシャルウィークで各局がゲストの豪華さや企画の面白さを競い合い、ライバル局のリスナーを奪い合うという従来の構図だと、既存のラジオリスナーが各局の間を移動するだけで、新規リスナーの数は増えないのだとすれば、納得できる部分は大いにある。

また、ラジオ局同士が聴取率争いをする必然性は、ラジコで「タイムフリー」というサービスが始まった今、かなり薄れているような気もする。この機能を使うと、全てのラジオ番組を、放送後1週間以内であれば、後からさかのぼって聴くことができるからだ。

例えば、放送時間が重なっているTBSラジオの「JUNK」とニッポン放送の「オールナイトニッポン」を両方とも聴くことは、今となってはとても簡単なことだ。録音機材を用意する必要すらない。どちらかをリアルタイムで聴いて、もう一方を後からタイムフリーで聴いてもいいし、どちらもタイムフリーで後から聴いたって問題ないわけだ。この点を踏まえると、もはやラジオ業界には、「裏番組」という概念すらなくなっているようにも思えてくる。

なぜ業界トップのTBSラジオが率先して変わるのか

TBSラジオは長年の間、聴取率で業界トップを走ってきたリーディングカンパニーだ。そのTBSラジオが、「スペシャルウィークをやめる」「ナイター中継をやめ、同時間帯を通常の番組(新番組を含む)に充てる」「ポッドキャスト配信TBSラジオクラウドでの配信に切り替える」など、率先して新しいことに挑戦するのはなぜなのか。賛否両論があるのは分かりきっているにも関わらず、こういった決断をできる理由が知りたかったので、三村社長に聞いてみた。

「前任の入江(TBSラジオの前の社長で、現在は会長の入江清彦さん)の時から、数々の改革をスタートさせていました。改革といっても、単に変えればいいという話ではなくて、一番の目的は新規リスナーを獲得することであり、パイ(ラジオリスナー自体の数)を大きくすることです。そのためには、リーディングカンパニーが率先して変わらなければ、業界も変わらないと思うんです」

「(パイが大きくなった時に)TBSラジオだけを聞く人が増えるということはありません。ラジオ受信機もラジコも、コミュニティFMをのぞけば、NHKを含め全ての局が聴けるわけですから。ラジオメディアそのものとして、ノンリスナーをリスナー化するのが最も大事なことですし、メディアビジネスとしては、自分達だけ得をしようというのはありえません。ただ、パイが大きくなれば、シェアが変わらなかったとしても、結果としてTBSラジオリスナーは増えますよね」

ノンリスナーのリスナー化は難題だが、これを成し遂げられなければラジオ業界に明るい未来はない。これを成し遂げるため、TBSラジオは挑戦するし、変わってもいくということなのだろう。

賛否両論が予想される決断を率先して下すのは、TBSラジオにリーティングカンパニーとしての自負があるからだ

最後に、リスナーとして気になるのは、TBSラジオのスペシャルウィークで楽しみにしていた各番組の特別企画が、今後、聴けなくなる(あるいは、頻度が少なくなる)のではないか、という点だ。この懸念をぶつけてみると、TBSラジオ編成局の野上知弘さんからは「これまでもそうだったんですけど、いいゲストはいつでも入れればいいということなんです」との答えが返ってきた。年に6回かどうかは別にしても、特別な企画やゲストの起用は今後も続くとみて間違いなさそうだ。

ちなみに、2018年12月10日~16日までの聴取率調査週間で、他局がスペシャルウィークを展開する中、TBSラジオの各番組はどんな放送を行っていたのだろうか。自分が聴いた番組のごく一部を振り返ってみると、例えば「火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ」(毎週火曜日、深夜25時~27時)には漫才コンビのミキが、「水曜JUNK 山里亮太の不毛な議論」(毎週水曜日、深夜25時~27時)には相方のしずちゃんがそれぞれ出演していた。これらの番組は、「スペシャルウィーク」という言葉こそ使っていなかったものの、普段とは一味違う内容になっていた。

「月曜JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力」(毎週月曜日、深夜25時~27時)は従来(少なくともここ10年くらいは)、スペシャルウィークでも通常放送(フリートークとレギュラーコーナー)を行うスタンスを貫いてきたが、今回の発表を受け、12月10日の放送では冒頭にラジオコントを放送。その後は2018年のフリートークを振り返る「特別企画」を実施した。なんとも伊集院さんらしい対応だ。番組の最後に伊集院さんは、スペシャルウィークをやめるというTBSラジオの決定について「基本的には賛成」との考えを示していた。

「メガネびいき」では従来、12月のスペシャルウィークに実施していた毎年恒例の企画「ダイナマイトエクスタシー」を12月20日(木)に放送すると発表している。こちらは、聴取率調査週間とは時期をずらして特別な企画を打つという点で、新しい取り組みだといえるだろう。

もちろん、これらのTBSラジオの番組は、放送後1週間以内であればラジコのタイムフリーで後からさかのぼって聴ける。世界の主要メディアも注目しているとか、していないとかいう噂のダイナマイトエクスタシーは、今週木曜日の深夜に開催の運びとなる。