前代未聞の取り組み? ラジオ局がラジオを作る理由とは

前代未聞の取り組み? ラジオ局がラジオを作る理由とは

2016.07.28

ニッポン放送がラジオを作ろうとしている。テレビ局がテレビを作らないのと同じで、ラジオ局がハードウェアである受信機を作るのも前例のない取り組みなのだが、その狙いはどのあたりにあるのだろうか。

気配を感じさせるラジオを作る

「かっこいいラジオが欲しい」。ニッポン放送のラジオ開発計画は、同社の吉田尚記アナウンサーの想いが具体化したプロジェクトだ。同氏が考えるラジオの魅力とは、「寂しさを消してくれるが、過剰には干渉してこない」存在であること。新たに作るラジオの製品名は、英語で「気配」を意味する「Hint(ヒント)」とした。

吉田アナ(写真左端)の想いが具体化した今回のプロジェクト。発表会にはヒント開発に協力するデザイナーのメチクロ氏(左から2人目)、Cerevoの岩佐琢磨代表取締役(右から2人目)、グッドスマイルカンパニーの安藝貴範代表取締役社長(右端)が駆け付けた。メチクロ氏と岩佐氏が持っているのがヒントだ

ヒントは無指向性スピーカーを備える筒型のFMラジオだ。大きさはワインボトル程度で、生活空間にあっても違和感を感じさせないデザインとなっている。Bluetoothスピーカーとしても使えるので、スマートフォンに入っている音楽を聴いたり、スマホで「radiko」につないでラジオを聴いたりすることも可能だ。AM放送局であるニッポン放送がFMラジオを作るのはなぜかといえば、FM補完放送の開始により、AM放送の番組がFMでも聴ける環境が全国的に整いつつあるからだ。

ラジオの将来を変えうる新機能を搭載

ニッポン放送はCAMPFIRE(キャンプファイヤー)を使ったクラウドファンディングでヒントの商品化を目指す。目標調達金額は1,300万円。商品発表から5日経った7月25日時点の情報では、支援総額は337万円強、支援の募集期間は残り58日となっていた。

自らを「ヘビーガジェッター」と称する吉田アナが、クラウンドファンディングによる製品化を目指すヒント。これだけ聞くと、ヒントはガジェット好き向けのマニアックな製品になりそうな感じがするが、ヒントにはラジオ業界の将来を考えるうえで見逃せない装置も備わっている。それはラジオとネットをつなぐ機能を持つ「BLEビーコン」だ。

音声放送でURLを配信

ヒントが画期的なのは、ラジオ放送を受信すると同時に、ラジオ局から送られてくるURLを周囲のスマホに配信できる点だ。ラジオ局が音声放送に乗せてDTMF音(ピ・ポ・パという電話のダイヤル音)を流すと、ヒントの「BLEビーコン」はダイヤル音が持つURL情報をキャッチし、周囲のスマホにBluetooth経由でURLを送り、画面に表示させることができる。

ヒントが採用しているのは、ラジオとネットをつなぐシンプルな仕組みだ

この機能により、ラジオ放送はどのように変化するのだろうか。吉田アナによると、例えばスタジオに来たゲストの写真をインスタグラムなどにアップしてURLを配信したり、店舗からの中継では地図情報をURLとしてリスナーに届けたりできるという。

BLEビーコンを搭載したラジオ受信機が普及すれば、ラジオCMの在り方にも変化が訪れるかもしれない。URLを配信できるようになれば、「続きはウェブで」といったような広告手法の効果が高まる可能性があるからだ。

新機能でラジオの媒体価値が向上?

ラジオCMを聞く人は多くても、その商品・サービスを実際にウェブ上で検索するのは、そのうちの何割かに限定されてしまう。URLを送ることができれば、ラジオ放送ではリスナーをワンステップでウェブに誘導することが可能となる。ラジオ番組によっては、アーティストがゲストに来たときに、楽曲の配信ページにリスナーを誘導するような使い方もできるだろう。BLEビーコン搭載ラジオが広まれば、ラジオの広告媒体としての価値が高まるかもしれないのだ。

「ラジオのIoT化」に向けたニッポン放送の挑戦が成功するかどうかは現時点で未知数といわざるを得ないが、ここで注目したいのは、ニッポン放送がコストを掛けずに新しい放送にチャレンジしている点だ。BLEビーコンにURLを送る仕組みは、あくまで音声放送に乗せてダイヤル音を流すに過ぎない。これは演出の範囲内でどうとでもできる部分なので、この仕組みが普及した場合はダイヤル音を大いに活用すればいいし、もし普及しなければ、ダイヤル音を流さないという選択肢も残されている。つまり、今回の挑戦で放送設備の増設などに関する投資は発生していないのだ。

新たな仕組みをラジオ業界全体で共有する姿勢

ラジオを作ると同時に、新しいラジオ放送の在り方まで作ろうとするのが今回のニッポン放送の取り組みだ。ラジオからスマホにURLを送る仕組みについては特許を出願済み。この仕組みが普及すれば、ニッポン放送は特許使用料で収益を上げられるわけだが、Cerevoの岩佐氏が「IPをクローズにするつもりは全くない」と語るように、ヒント開発陣営に特許で稼ごうという考えはない。この仕組みを別の放送局が使ってもいいし、BLEビーコンを搭載したラジオを別のラジオメーカーが製造・販売することも歓迎するというのが開発陣のスタンスだ。

ヒントが売れるかどうかも気になるが、ニッポン放送がヒントを開発する背景には、BLEビーコンの活用を広げたいという狙いがあるようだ

この仕組みが普及すれば、確かにラジオ放送の在り方は変わりそうに思える。少なくとも、URLを配信できるというオプションを獲得できる分だけ、ラジオ局としてみればプラスの効果が見込めるだろう。しかし、この仕組みが浸透するには、ある程度の台数のヒントが世の中に出回る必要がある。

クラウドファンディングの成功など、ヒントが世に出るために乗り越えるべきハードルは高そうだが、ローコストでラジオの未来にチャレンジするニッポン放送の取り組みには期待したい。BLEビーコン搭載ラジオの活用が広がれば、放送局やラジオメーカーなどを糾合し、この仕組みを軸としたコンソーシアムを組成することも視野に入っていると吉田アナは語る。ラジオとネットの融合に、新たな道を拓く可能性を秘めるヒント。まずは量産化の成否に注目だ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
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○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
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○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu