オープンカーでも反感なし? 元オーナーの安東弘樹も認める「MINI」のブランド力

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第11回

オープンカーでも反感なし? 元オーナーの安東弘樹も認める「MINI」のブランド力

2018.12.25

自動車ブランドがライフスタイルを提案するのはアリ?

「寝ながら移動できるクルマ」の登場は文化的な危機

流動性が高まる安東さんのクルマ選び、最後に新手が登場!

「MINI」(ミニ)が持つブランド力は「唯一無二」だと語る安東弘樹さん。自動車業界では「電動化」と「自動化」が進み、クルマの無個性化、コモディティ化につながるのではとの見方も出ているが、ミニであれば生き残れるというのが安東さんの考えだ。

ミニの取材でビー・エム・ダブリュー株式会社を訪れた安東弘樹さん(取材風景の撮影:安藤康之)

クルマがコモディティ化してもミニは生き残る?

編集部:先日、マツダを取材した際にも話題になっていたと思うんですけど、電動化と自動化でクルマがコモディティ化していくとすれば、その時にはブランド力がますます大事になると思います。そういう意味で、「ブランドを売っている」というミニは、いいポジションにいますよね?

安東弘樹さん(以下、安):クルマが「家電」みたいになるじゃないですか。そうすると、普通のメーカーだと生き残れないような気がしていて。

オーディオが分かりやすくて、例えば「バング&オルフセン」とか「ブルメスター」とか、ブランドが確立しているメーカーは永遠に生き残るような気がしますけど、日本のいくつかのオーディオメーカーは、恐らく技術はあったのでしょうが、残念なことになってしまいましたよね。そういう意味でいうと、ミニって生き残るタイプのクルマだと思います。クルマのコモディティ化の話って、ミニとしても何か想定してます?

ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):ブランド優先の姿勢は、それ以前からやっているので、コモディティ化の流れになったからといって、急に態度を変えたわけではないですね。そもそも、なぜBMWがミニ(ローバー・グループ)を買収したかといえば、ローバー時代のミニは、ある意味、狭い世界でずっとクルマを作っていたんですけど、それでもファンが付いてきてくれて、そのブランド力に非常に魅力があったからです。ミニには、持っている商品より一回り大きいブランド力があるんです。

BMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティングでプロダクト・マネージャーを務める丹羽智彦さん

:例えば、マツダさんがNA(初代「ロードスター」)のレストアを始めましたけど、ミニでも……やっぱり、この話は必要ないかな?

:あれですよね、ミニをリバイバルするという話ですよね? それをおっしゃる方は、よくいらっしゃいます。ディーラーへ行くと、「そういうこと考えてないの?」とか聞かれたりして。

:ローバー時代のものは、できないんですもんね。ミニのファンは、ローバー時代のミニを完璧にというか、そういうのをやって欲しいんだろうなとは思いますけど。

うちの弟も実はそうで、中古で「40周年のミニ」(ローバー MINI 40th アニバーサリーリミテッドというクルマのこと)、グリーンの綺麗なのを買ったんですけど、やっぱり、壊れるんですって。で、今は手放して、軽自動車に乗っているんですけど。でもそういうのって、ちょっともったいないですよね。BMWに責任はないんですが。

ミニの40周年限定車を手に入れるとは、さすがは安東さんの弟さん、といったところだろうか

ライフスタイルの提案でクルマの間口を広げて欲しい

編集部:で、そのブランドの話なんですけど、ミニは最近、「ファッション」や「住まい」といった分野でコラボ(「MINI FASHION」や「MINI LIVING」などという取り組み)するなど、ライフスタイルブランドとしての見せ方をますます強めている印象です。クルマの会社がライフスタイルまで提案するということについて、安東さんはどう思います?

:アリだと思いますね。私みたいなクルマだけのマニアって、細くは絶対に残っていきますけど、全体としては減っていくと思うんで。だから、クルマの間口を広げるのはアリですよね。例えば、音楽から入る人もいるかもしれないし。実際、歌の歌詞に出てきたという理由からクルマが好きになる人もいるので。

あと、びっっっくりするくらい、周りの人がクルマに興味ないんですよ。だから、こんなにミニバンが増えるんだろうし、「はやく自動運転にならないかな」って声もよく聞きますね。後輩の女性アナウンサーなんか、「自動運転になったらクルマを買う」っていってて、なぜかっていうと、寝てて移動できるからってことなんですよ。

そういう意味でも、いろんなところからアプローチするべきでしょうね。クルマを「寝てて移動できるなら買う」っていう人が増えると、文化的には廃れてしまうと思います。でもまだ、運転の楽しみって、本能的には絶対にあると思っていて。私は初めて買った「シティターボⅡ」(ホンダ)で「ヤビツ峠」(神奈川県にある峠)に行って、運転の楽しさを知ったんですけど。

初めて買ったクルマで「ヤビツ峠」に出掛けたという安東さん

:だから、いろんなアプローチがあっていいと思いますよ。最近はドラマですら、運転しているシーンが本当に少ない。バブル時代は多くて、しかも、いろんな価値観がありましたからね。

私が見たドラマでは、主人公の恋敵が「Sクラス」(メルセデス・ベンツ)に乗ってて、主人公の若い人が「N360」(ホンダの軽自動車)に乗ってたんですけど、N360がSクラスより俊敏に駐車場から出るシーンを、わざと上から撮って入れてあったりしたんですよ。絶対、好きな人が撮ってると思うんですけど。

最近の恋愛ドラマとかで、そういうシーンって皆無で、みんな電車に乗ってるじゃないですか。そういう意味で、クルマというものが、一般の社会からなくなりつつあるような気もするんですよね。だから、音楽でも家でも、例えば、こんな建築だったらミニが綺麗に収まるとか、そういう話でもいいし。

:とっかかりなんですよね。

編集部:クルマの存在感が、日本でだんだん低くなっているとしたら、そんな中で、ミニが持つ重要性って何でしょうか。

:ミニだからこそ重要かといわれると、そこはよく分からないんですけど、そういうメッセージを発信できるのがミニなのだとは思います。そこが、我々の救われているところでもあるんですけど。コラボで新しいアイデアを受け取って、それを世の中に出すことも、ミニのブランドとしては必要です。

:ミニにしかできないことがあると。

:例えば、「くまモン」とコラボしたりとか。

2013年にくまモンが英国のMINIオックスフォード工場を訪れた際、サプライズとしてお披露目された「くまモンMINI」(画像提供:BMW Group)

:いいと思います。クルママニアの中には、そういうコラボに眉をひそめる人もいると思うんですけど、いやいや、そうじゃないでしょと。一昔前の日本のモータースポーツなんかもそうでしたけど、「知らない人は入ってこないで」みたいな。ヨーロッパなんかは違いますよね。どんなに速いクルマを作ったり、魂込めてエンジンを作ったりしても、観る人がいなければ意味ないので。

ミニは「みんなが笑顔になれるブランド」

:以前、ミニの「コンバーチブル」(R57という型式)に乗ってたんですよ。紫っぽい紺にストライプ、ルーフはブルーで。そのクルマをサービスエリア等に停めておくと、必ず何人かが笑顔でクルマを覗き込んだり、若い女性が友達に「これ、かわいい!」とクルマを見せたり、好意で見てくれるんです。

私はクルマが注目されるのは好きではないので、どちらかといえば「知る人ぞ知る」というクルマを選ぶ傾向が強かったのですが、好きな仕様のクルマに乗っていて、皆が反応してくれて、しかも、それが嫌悪感ではないという体験だったんですね。車種によっては、コンバチ(コンバーチブル、オープンカーのこと)だと、ひと目みて「チッ」という反応もあると思うんですけど、ミニだと、皆が集まってくる。あれはすごい訴求力ですよね。ミニにしかない。

安東さんは以前、ミニの「コンバーチブル」に乗っていた(画像提供:BMW Group)

ビー・エム・ダブリューの前田雅彦さん(以下、前):ミニは独特かもしれませんね。うちってあんまり、競合しないじゃないですか。BMWであればメルセデスさんとか、どうしても比べられちゃうんですけど、ミニの場合って、まずフォルクスワーゲンさんと競合することとかないので。強いていえばフランス車ですけど、あちらも「指名買い」(いくつかのクルマを見比べて買うのではなく、そのクルマと最初から決めて買うこと)ですし、ミニもそうなので。

それは、ミニがブランドの価値を高めようとしているからだと思います。今年の「ミラノ・サローネ国際家具見本市」で「MINI LIVING」っていうのをやって、クルマは一切置かずに、ミニのある生活を建築物で表現したんですけど。クルマがなくても、ミニの世界観を感じてもらえるような取り組みを、ちゃんとやってます。それで、ライフスタイルブランドとして確立している部分もありますし。

ミニは2018年4月の「ミラノ・サローネ国際家具見本市」にて、ロンドンの建築事務所Studiomamaと協力し、「MINI LIVING - BUILT BY ALL(構築)」(画像)を展示した(画像提供:BMW Group)

:本当、唯一無二。これで格が上がっちゃうと、それもちょっと違うし。振り返られるデザイン、というかブランド力。うちの奥さんが典型的ですけど、ヘリテージも知らない、ノスタルジーもないって人で、ミニの名前すら知らない人でも、そうなんで。

ミニって、みんなが笑顔になれるブランドですよね。ミニのショールームに一緒に行った奥さんの表情を見て痛感しました。

ますます流動性が高まる安東さんのクルマ選び

編集部:で、最後に安東さん、全ての条件を満たすクルマは中々ないというお話でしたが、依然としてミニ「クラブマン」は購入検討リストに残ってますよね? ただ、車庫の問題が浮上したとか、何かいろいろと状況も変化しているみたいですが……

:そうなんですよ。うちの庭にウッドデッキが付いていたのですが、一度も使っていないので、そこをつぶして3台目の車庫にしようかなと思ってたんですけど、建築法上、できないということが分かりまして。だから、近くで駐車場を借りて3台目を買うのか、買い換えを含め2台体制のままでいくのか(※)、岐路に立っているような状況ですね。

※編集部注:ポルシェ「911 カレラ 4S」とジャガーのSUV「F-PACE」を所有している安東さんだが、仕事にF-PACEで向かうと、特に都内では、大きすぎて駐車場に止められない場合が結構ある。そこで安東さんは、3台目のクルマ選びを進めていた

例えば、ミニをポルシェの代わりに買っても、自分が楽しければ、何の抵抗もないので。それで、もう1台をメルセデスの「オールテレイン」(E220d 4MATICオールテレインのこと)にするとか。オールテレインだと事務所の立体駐車場にも入りますしね。

オールテレインとミニ、MT(マニュアルトランスミッション)があれば「クラブマン」なんですけど、ないので「3ドア」しか選択肢がないのかな、とは思いますね。理想はオールテレインとクラブマンの「ジョンクーパーワークス」(JCW)のMTなんですけど、現実としてないので。そこで、ちょっと浮かんだのが、BMW「M2」のコンペティション……

:おー! それもいい話ですね。

:それはいいですね。

BMWのハイパフォーマンスモデルは「M」から始まる車名を持つ。安東さんの購入検討リストに急浮上した「M2 Competition」(画像)は、最大出力410ps、最大トルク550Nm、後輪駆動の2ドアクーペだ。価格は873万円から

:またうるさくて申し訳ないんですけど、M2 Competitionで、明るいベージュの内装にシートベンチレーションかシートクーラーが付くと嬉しいのですが。

:あー、黒しかないですね。

:本当は四駆がいいんですけど、でも、400馬力を超えてて、3ペダル(MTのこと)もあるので、ちょっと、いいかなと思ったりしてるんですけど。

:あれも楽しいと思いますよ。

:それに、次もポルシェにすると、予算が倍くらい掛かっちゃうんですよ(笑)

「ミニはみんなが笑顔になれるブランド」と総括した安東さん

ガレージの問題が浮上した挙句、最後に思わぬ方向から新手が現れたおかげで、安東さんのクルマ選びがどのあたりに落ち着くのかは、全く見当が付かなくなってしまった。

それはさておき、ミニについてはクルマのキャラクターのみならず、そのブランド戦略についても、安東さんは好感を示した。ポップな感じとプレミアム感を併せ持ち、クルマの作りとしてはあくまで上質であることを「後席ドアの閉まる音」からも感じさせる。その独自性がミニの面白さだ。単なる自動車メーカーからライフスタイルブランドへ、という動きは業界で散見されるが、ミニの現在の姿は、その成功例の1つといえるのかもしれない。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。