パナソニックが全家電「知能化」宣言 --アプライアンス社 本間社長の真意

パナソニックが全家電「知能化」宣言 --アプライアンス社 本間社長の真意

2018.11.05

「売ったら終わりの家電に未来はない」パナが変革へ

住宅用のIoTサービス「Home X」が本格始動

多様なニーズをスピーディに価値へとつなげる

パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長

パナソニックが、創業100周年を記念して、東京・有楽町の東京国際フォーラムで「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」を開始した。

その中で、家電事業などを担当するパナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長が登壇し、「『家電』から『KURASHI』へ。~次の100年に向けたアプライアンス社の挑戦~」と題して講演を行った。くらしを、あえてKURASHIと表記しているのは、同社が国内のみならず、多様なくらしの形を持つ世界中の新しい家族と向き合う決意を表現したものだという。

その講演で本間社長は、「2021年までに、開発する全カテゴリーの家電を知能化する」と宣言した。

パナソニックは全ての家電を”知能化”する

ここで言う「知能化」とは、家電製品単体に搭載する知能とは別のものを指す。家電のインターネット接続を前提に、膨大なデータを収集しクラウドに蓄積しながら、それを分析することで知能化する。これにより家電機器は賢く進化を続け、人に寄り添った生活を形成したり、新たなアプローチを開始したりできるようになる。

知能化により機器の機能は常にアップデート。大幅な機能向上の際は有償の場合もありえるが、基本的には無償でサービスを提供する見通しだ。

知能化はテレビ、冷蔵庫、洗濯機などの同社「全ての」製品カテゴリーを対象としている。本間社長は、「知能をつけた方がいいと思える製品については、付けられるように準備をしていく。津賀(パナソニック代表取締役社長 津賀一宏氏)からは、家電事業には『頭』が必要と、3年間言われて続けてきた。家電製品にどうやって『頭』をつけるのかを悩んできたが、スタンドアロンで賢くするのでなく、接続することで賢くなったり、横に広がることで賢くなったりといった『知能化』で実現する。知能化によって、一人ひとりに提供できる新しい価値を模索していく」と話す。

パナソニックは全ての家電を”知能化”する

売ったら終わりの終焉、いままで通りの家電に未来はない

セッションで本間社長は、この知能化の戦略を軸に、アプライアンス社の将来に向けた基本姿勢についても説明した。

本間社長は喫緊の課題として、「くらし方の変化や豊かさの多様化によって、モノの進化によるくらしのイノベーションが起きにくくなっている。パナソニックは家電の進化に取り組んできたが、これまでの、モノをより良くすることと、現在のお客様が感じる豊かさの間には、ギャップが生まれているのではないかと思っている」という認識を示す。

そして将来に向け、「いままでと同じでは、未来はない。そのような状況のなかで、パナソニックがこれまでと変わらない“お役立ち”をどう実現していけばいいのか考えた結果、まずは我々の考える“ホーム”の定義を見直すところからスタート。家のなかだけでなく、場所や時間に捉われず、心が安らぎ、大切な人と過ごすことができる場所、一人ひとりが活躍できる場所がホームであるという結論に至った」と社内での取り組みを紹介し、「パナソニックでは、多くのお客様をひと括りとして捉えるのではなく、一人ひとりのくらしや体験を一つひとつ見つめていき、より豊かな体験を届ける『一つひとつのくらしアップデート』を目指す」とビジョンを提示した。

パナソニックは「一つひとつのくらしアップデート」を目指す

この「一つひとつのくらしアップデート」を、「知能化」によって推し進める。将来の家電は、「日々、アップデートを続け、製品とサービスを組み合わせることで成長する、そっとくらしに寄り添うパートナーのような存在」になるという。

本間社長は、世界各国でばらばらに過ごす家族が、製品とサービスの組み合わせによって、バーチャル空間で一緒に団らんを楽しみ、匂いなども共有し、食卓を囲む「ボーダーレスダイニング」という例を挙げた。

「家電を売ったら、そこで終わりではない。また、機能アップだけにも留まらず、これまでに生み出した価値の提供だけにも留まらない。一つひとつの家庭が、よりくらしやすくすることを目指す。”人”起点から、くらし全体を見渡せる、”くらし”起点に家電が変化する」と話す。

くらしの総合プラットフォーム「Home X」を本格展開へ

くらしのかたちは人にとって千差万別だ。こうした「一人ひとつのくらしアップデート」を実現するためには、製品とサービスの融合が不可欠であり、そのための「IoT化した家電に、最先端のAIによる頭脳を持たせる知能化」が必要というわけだ。

「一人ひとつのくらしアップデート」の実現に向けて、パナソニックはIoT家電の新たなサービス基盤、「Home X」の構築に取り組む。

Home Xは、「お客様とくらしをデジタルにつなぎ、くらしのエコシステムによる家電やサービスを通じて、毎日がアップデートするくらしを実現する、『くらしの総合プラットフォーム』」という、住宅向けIoT家電導入を包括的に提供する新ビジネスだ。

Home Xでは、3つのチャレンジとして、「お客様に寄り添い続ける挑戦」、「お客様に新たな文化を提案し続ける挑戦」、「お客様のくらしから社会を変える挑戦」するという姿勢を示す。

住宅向けIoT基盤「Home X」のチャレンジ

寄り添い続ける挑戦では、「くらしにとけこむデザイン」、「家電のネットワーク化」、「民生技術のB2B展開」という3つの重点ポイントを挙げた。

本間社長は、「知能化した家電を、スピーディに世の中に送り出すためには、モノづくりの仕組みの変革が必要である。ポイントはオープンイノベーションと、アジャイル開発プロセスを積極的に取り入れることである」とし、ゲストとして、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターの古田貴之所長を紹介した。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターの古田貴之所長

古田所長は、ロボット掃除機が人の後を追いかけて移動するデモストレーションを行いながら登場。このロボット掃除機は開発中のコンセプトモデルで、「360°レーザーセンサーシステムの採用により、人の動きを認識し、人の動きを予測する技術によって(デモで見せた動きが)成り立っている。人とロボットが一緒に楽しく掃除することができる」と説明する。

古田所長は、「既存技術の組み合わせだけでは、知能化とはいえない。それではつまらなすぎるし、センサーをたくさんつけても美しくない。そこで私たちは、最先端のロボット技術や人工知能、自動操縦技術を取り入れて、ソフトウェアとハードウェアを両方同時に開発することにした。しかも、昨年、今年と、ロボット学会で論文賞をとったばかりのホヤホヤの技術を採用している。そして、それをわずか3カ月の期間で完成をさせた。時間が経てば、技術はすぐに陳腐化する。これができてこそ、知能化である」と開発過程にも変革があったことを説明する。これは、本間社長の直轄プロジェクトとして推進したものであり、「モノづくりの仕組みを変えるチャレンジでもあった」という。

”知能化”したロボット掃除機のコンセプトモデルを紹介

本間社長は、「このコンセプトモデルは一例にすぎない。最先端技術を搭載した家電が、くらしのなかに当たり前にあるといった状況を作りたい」と展望を述べた。

なお、このロボット掃除機は1年以内に発売するという。

ニーズを発見することではなく、生み出すことが重要

新たな文化を提案し続ける挑戦では、「イメージング文化」、「食文化」、「新たな映像文化」をあげた。

本間社長は、「家電を売って終わりではなく、つながりながら新たなサービスを提供する。そのために家電があるという発想が基本になる。ニーズを発見しながら作るのではなく、自らニーズを生み出すことが重要である。最初は小さな市場であるが、それを育てていくことで、いままでになかった文化が生まれる」と考えを述べる。そのためには、事業開発プロセスの変革が必要であるとし、「ニーズの発見からアイデアの事業化までを、スピーディにもっていく」という方針を示した。

BeeEdgeの春田真代表取締役社長

ここでは、BeeEdgeの春田真代表取締役社長が、ゲストとして登壇した。

BeeEdgeは、米サンフランシスコをベースに、シリコンバレーのベンチャー企業などに出資するスクラムベンチャーズとパナソニックが共同出資し設立した企業。有望なパナソニック社内のアイデアを社外に切り出し、新規事業を創出することが使命だ。2018年3月から活動しており、このほど、産業革新機構からの、総額10億円の出資も決定した。なお春田社長は、DeNAの会長や、横浜DeNAベイスターズのオーナーも務めていた。

当日は壇上で、同社の第1号案件として、チョコレードトリンク事業を行うミツバチプロダクツを発足したことを発表した。調理家電を通じて、「チョコレートを飲む」という新たな食文化の発信を狙うという。

チョコレードトリンク事業を行うミツバチプロダクツを発足

また、BeeEdgeは、「サ高電(サービス付き高付加価値家電)」、「スピード」、「文化をつくる」という3つのポイントを重視すると説明。春田社長は、「新たな事業を作るには、モノからでなくサービスから発想していく視点が大切である。サービスから発想して、ストーリーをつけて、そこに特化した機能をつけて製品化することになり、モノは最後である。大企業では、商品を世の中に出すまでに多くのプロセスを必要とする。そのため、作る側のスピード感と市場が求めるスピード感にギャップが生まれ、うかうかしているとタイミングを逃してしまう」と語る。

そして春田社長は、そして春田社長は、「市場を作るというのは文化を作ることであり、まずはその市場を育てていくことが大切である」と市場育成の重要性を説明した。

ここで本間社長は、「私が入社して定期配属されたのは昭和最後の年。VHSビデオの輝ける栄光の時代であり、その熱気に押されながら、市場は希望に満ちていた。VHSは、新たな文化を作り上げたものである。ビデオ店から見たいビデオを借りたり、テレビ放送を録画して見たい時間に見られるようにしりした。だが、その後のくらしに文化が提案できなかった反省がある」と振り返った。

パナには、くらしから社会課題の解決する責務がある

最後に、くらしから社会を変える挑戦では、「食品流通ソリューション」、「街の環境ソリューション」、「エネルギーソリューション」をあげた。

本間社長は、「一つひとつのくらしから、社会課題の解決につなげる取り組みは、『社会の公器』としてのパナソニックの責務である。新エネルギーとして水素技術を活用した取り組みや自然冷媒の使用など、環境負荷を減らす技術を家庭に届け、くらしから変える。その積み重ねによって、社会を変えていく挑戦をしたい」と述べた。

そして最後に本間社長は、「アプライアンス社の挑戦は始まったばかり。一つひとつのくらしアップデートを実現するために、家電からホームへ、そして、くらし全体へと領域を広げる。多様なくらしの形を持つ世界中の新しい家族に向き合い、くらし全体にお役立ちをしていく。一人ひとりに寄り添いながら、豊かで創造的なくらし、新しい文化を、(日本だけでなく)世界のみなさんに提案しつづける。これからの100年、アブライアンス社はこれに取り組む。期待してほしい」と、講演を締めくくった。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。