何か1つが欠けている? 安東弘樹、「MINI」でクルマ選びの悩みを訴える

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第9回

何か1つが欠けている? 安東弘樹、「MINI」でクルマ選びの悩みを訴える

2018.12.11

条件が多い安東さんのクルマ選び

日本に入る輸入車の仕様が「好みと違う」のはなぜ?

ミニが日本で好調な理由とは

「MINI」(ミニ)の上質感はどこから来るのか。その源泉を探るべく、ビー・エム・ダブリュー株式会社を訪れた安東弘樹さん。ミニの商品ラインアップについて話をするうちに、安東さんは自身のクルマ選びにまつわるクルママニアならではの悩みを語り始める。

ビー・エム・ダブリューで「MINI」について取材する安東さん(取材風景の撮影:安藤康之)

ジョンクーパーワークスにはマニュアルを!

安東さん(以下、安):今度はミニの商品ラインアップについてうかがいたいんですけど、個人的には、まず、「ジョンクーパーワークス」(JCW:John Cooper Works、ミニのハイパフォーマンスモデル)には全部、マニュアル(トランスミッション、MT)を入れて欲しいんですよ。あと、ディーゼルエンジンに四駆を組み合わせて欲しいという思いが強くて。「クロスオーバー」(というミニの車種)には(ディーゼル×四駆の組み合わせが)あるんですけど、なぜか「クラブマン」では、ガソリンと四駆が組み合わせてあって、ディーゼルはFF(前輪駆動)だけになってますよね。

ミニ「クロスオーバー」(画像提供:BMW Group)

:クラブマンのJCWにMTがないのはマニア的に少し寂しいですし、ネットでも、そういう意見の方はいるみたいですよ。これって、どういう判断なんでしょうか。JCWでMTにしたくないという意見はまだ分かるんですけど、四駆については、明らかにディーゼルエンジンとの方が親和性がありますし、需要もありそうに思えるんですけど。

ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):現行モデルに関しては、それ(ディーゼル×四駆)がまだなされてないんですが、将来的にどうするかはご指摘の通りで、親和性も理解しています。ディーゼルエンジンについては、マーケットの認知が全体的によくなってきていて、そういう意味でニーズがあるのは理解しているんですけど、現行世代では、そこまで舵を切れなかったのかなと。

ビー・エム・ダブリューの前田雅彦さん(以下、前):クラブマンのディーゼルに関していうと、四駆と組み合わせたものは確かにないんですけど、安東さんのおっしゃるところはまさしくそのとおりで、それを含め、クラブマンの後に売り出したモデル、例えば最近モデルチェンジしたクロスオーバーでは、ディーゼルエンジンと四駆の組み合わせをラインアップしたんですよ。

:最初から入ってましたもんね。それは嬉しかったんですけど。

:それで、JCWのMTなんですけど、今の世代の前の商品では全部、JCWにMTを用意してました。「3ドア」も「クーペ」も「ロードスター」も。ですが、ラインアップを見直す中で、あまり(販売台数が)出ないモデルに関しては、ちょっと減らしているというのが現実です。

ミニ「ロードスター」(画像提供:BMW Group)

:あとは、3ドアはキビキビ走るお客様も多いのでMTを残しているんですけど、クラブマンは3ドアに比べ、もうひとつ上の上質なモデルにあえてしているという理由もあります。今、ミニが全体的にプレミアムブランドとして底上げしていて、特にクラブマンとクロスオーバーは、もっとプレミアムに振っていく中で、(これらの車種では)ゆったりとJCWを楽しんでいただければ、ということでAT(オートマチックトランスミッション)だけにしているんです。

:確かに、そうなってくると、クラブマンとクロスオーバーだと、奥さんと旦那さんが両方、運転するケースが増えるかもしれませんしね。

:確かに現行世代のクラブマンは、前世代よりもサイズアップしていますし、客層的にも、今までは若干“2台目のクルマ”という感じだったのを、今世代は、「ファミリーに1台ということであれば、このクルマもどうぞ」という感じにしているので。

:まあ、それはすごく理解できますね。

:ただ、クラブマンとクロスオーバーのJCWには、「スポーツAT」(※)が……

※編集部注:「スポーツAT」では、ハンドルにシフトパドルという装置が付いていて、ドライバーは自身でシフトポジション(1速とか2速とか)を選んで走行できる

:それは選べますね。そこは一番大事なポイントだったんで、ディーラーで確認してあります(笑)

:それでご勘弁というか(笑)、スポーツ走行をお楽しみ頂ければと思うんですけど。

ビー・エム・ダブリュー広報部製品広報マネージャーの前田雅彦さん

ディーゼルエンジンには四駆を!

:四駆の組み合わせも不思議で、逆に、ガソリンエンジンの四駆って、需要があるのかなと思うんですよね。ディーゼルエンジンと組み合わせた方が、台数としても出る気がするんですけど。どちらのエンジンにも四駆がないというのであれば分かるんですけど、なぜガソリンだけなんでしょう。

:クラブマンの場合、今のクルマは2世代目なんですけど、これの誕生時はミニ自体にディーゼルがなくて、ガソリンのみだったんです。その時、BMWではディーゼルを入れてたんですけど、ディーゼルというのがどんな感じか、うちの中でもビジネス的に見極めていたところだったんで。

:先代(初代クラブマン)にもありましたっけ? ガソリンの四駆。

:先代の時は、四駆自体がなかったので。

:つまり、今の世代(2代目=現行型クラブマン)が生まれたときに、前例はないけど、一番高いモデルに、四駆を入れてみようということになったわけですね。

:今後のラインアップの見直しであったり、マイナーチェンジであったり、モデルチェンジのタイミングでは、(ディーゼル×四駆の組み合わせが)入る可能性は十分にありますよね。

ミニ「クラブマン」のディーゼルエンジン車にもそのうち、四輪駆動が設定されるかもしれない

全てのクルマに何か1つが欠けている

:不思議なんですけど、自分が買おうと思うクルマに、何か1つが必ず欠けてるんですよね。見事に、全メーカーの全てのクルマに何か1つが欠けてて。

例えばボルボだったら、シートベンチレーションが付くクルマにはシフトパドルが付かない。メルセデス・ベンツの「オールテレイン」(「E220d 4マチック オールテレイン」のこと。Eクラスのステーションワゴンをベースにしたクロスオーバー車)も欲しいなと思ったんですけど、これは前席と後席で別々にエアコンの温度を調節することができなくて。

うちの奥さんが極端な寒がりで、私が極端な暑がりなので、前後を別々にできるのは必須なんです。今のジャガー(安東さんが乗っているのは「F-PACE」というSUV)は4ゾーン(前後左右、4つのエリアで温度調節できる)でできるんで、快適にやってるんですけど。

:左右だけじゃなくて、前後も必須?

:ええ、前後も。Eクラスほどのクルマで、それができないのが不思議なんですけどね。もうひとつ、これは必須ではないんですけど、ステアリングホイールヒーターも付いてなくて、「え、Eクラスなのに!」って。もう、自分を困らせるために仕様を決めてるんじゃないかって思うくらいで。だから、全部そろっているのがジャガーランドローバー系だけなんですよね。ジャガーは一番下の「XE」から、全部選べるんですよ。4ゾーンも、シートヒーターも、ベンチレーションも、ステアリングヒーターも。

:うち(BMW)の「5シリーズ」でも4ゾーンが選べるんじゃないかな? プチ自慢なんですけど、BMWはエアコンの温度設定が0.5度刻みでできますよ。

:ただ、5シリーズを選べないのはなぜかというと……

:何か足りなかったのかな?

:BMWって、SUV以外では四駆とディーゼルの組み合わせが選べないんですよ。

前&丹:うーん……ないですね。

※編集部注:例えば、BMWのSUV「X5」にはディーゼルエンジンと四輪駆動(BMWでは「xDrive」という)の組み合わせがあるが、セダンとワゴンが選べる「5シリーズ」にはその組み合わせがない。安東さんは都内への通勤にも使えるサイズ感のクルマを探しているので、現在乗っているジャガー「F-PACE」と寸法がほとんど変わらないBMW「X5」は、この場合、選択肢に入らないようだ

スペック暗記王の安東さんが本領発揮!

:なぜ、ここまで俺を困らせる! というか。で、本国(BMWでいえばドイツ)には、全部あるんですよね、私の欲しい設定が。オールテレイン(メルセデス・ベンツ)の4ゾーンも、本国にはあって、選べる。なんでこんなに、日本に住んでいると、自分の選べるクルマが一挙に減るんだろうと思っていて。

:そんな安東さんのために(笑)、うち、入れたんですよ、「7シリーズ」にディーゼルの四駆を。

:あ、「740」(クリーンディーゼルエンジンを搭載する「740d xDrive」「740Ld xDrive」というクルマ)ですよね。でも、セダンなんですよね……

前&丹:ハッハッハ(笑)。

BMW「740」(画像提供:BMW Group)

:後ろのハッチバックは必須なんですよね。全部、何かが欠けてるんですけど、そろうのが今、ジャガーランドローバー系だけなんですよ。

で、今度、ジャガーランドローバーで困ることは、でかいんです、全部。幅が2m級なんですよ。「ヴェラール」(レンジローバー)は1,930mm、私のF-PACEは1,935mmなんで、ここの(ビー・エム・ダブリューが入居するビルの)駐車場に入んないですから。オールテレインは1,860mmで、5シリーズは1,870mmだから……

:(スペックがすらすら飛び出す様子を見ながら)すごいですね……

:台本等はなかなか頭に入りにくくて、「あ、VTR振り忘れた!」ってこととかあるんですけど、クルマのことはどんどん入ってくるんですよね(笑)。仕事にいきないかなーと思うんですけど。

で、クルマの仕様なんですけど、全てが“かすって”いて、私の好みのがないという、すごい状況になってて。

:マックスで95点みたいな。

:全部が95点なんですよね。「740d xDrive」もワゴンだったら買うし、クラブマンのディーゼルも四駆だったら買うし、オールテレインも4ゾーン、せめて3ゾーン(前席の左右と後席で別々に温度調節できる)であれば、とか。ここまで細かく見る人もいないんでしょうけど(笑)。オールテレインを見つけたときは、「よし、やっとか!」と思ったんですけど、よく見てみると、「まじか!」ってなって。

:(丹羽さんに確認する感じで)「3シリーズ」(BMW)のグランツーリスモだったら、ディーゼルの四駆じゃなかったけ?

BMW「3シリーズ グランツーリスモ」(画像提供:BMW Group)

:そうです。でも、4ゾーンができないし、ベンチレーションが付いてないんですよ。だから、どんなクルマも「コレだけがない」というんで買えなかったりするんです。

シートベンチレーションって、真冬でも使うんですよ。シートヒーターと両方を使うくらい。背中が“灼熱地獄”になるので、もし「アルカンターラ」(スエード調の高級なシート素材を作る会社)のシートに乗っちゃったら、暑くて途中で降りちゃうかもしれないってくらいで。運転してると発熱するのかな。

だから、これだけうるさい客もいないと思うんですけど、本当に今、八方ふさがりで、どうしようもないという状況で。ほかのクルマに付いているのであれば付けられない装備ではないと思いますし、本国では現に付いてたりするんですけどね。

運転していると発熱する? というクルママニアの安東さん

海外のサイトを見ると「うわ、全部ある…」

:なかなか、全てをかなえるっていうのが今、難しくて。各メーカーが、より効率のいい販売になってしまっているので、どこかしら、妥協点が発生しちゃうんですよね。

:だから、イギリスのサイト等を見てると、「うわ、全部ある……」みたいになっちゃって。でも、そんな細かいところまではお客さんも見ないと思いますし、効率というか、利潤のこともあるし、理解はできるんですけど。日本に入れる仕様を決めるのは、どういうプロセスなんですか?

:やっぱり、過去の実績がメインですね。トレンドも少しずつ変わりますので、それは反映しますけど、基本的な機能というか、例えばシートヒーターなんかは装着率で見たりできますし、それらを考慮して、仕様を変えたりはしてます。

:逆にいうと不思議なのは、欧州はそれでも(いろんな仕様をそろえても)、採算が合うってことですよね?

:結局、リードタイムなんですよね。日本のお客様も、国産車だと工場が日本にあるので、欲しいクルマをそのままもらえるという利点があって、リードタイムも1カ月くらいがマックスかなと思うので、「それだったら待てるよね」となるんですけど、輸入車の弱点って、ベストなクルマを作ろうとすると、まず、それをドイツ側に発注して、それが船で来るので、「数カ月も待てない」というお客様もいらっしゃいます。そういう兼ね合いがありますね。

:仕様をある程度はしぼっておかないと、ますますリードタイムが長くなるっていうことですか……。例えば、私は1年でも待てるんですけど、そういうお客さんって、あまり相手にされてないっていうと語弊がありますけど、少ないんですかね? 私は13カ月待つといわれても「そうですか」となるし、実際に待ったこともあるんですけど。ただ、「私が死んだらどうなるの?」とは聞いておきますけどね、その可能性はあるので。

暴漢に襲われた場合を考えて体を鍛えていることからも分かるように、安東さんは、いつでも最悪のケースを想定している

:例えば、今乗っているポルシェなんか、13カ月待ったんですけどね。特別な、右ハンドルのMTを選んだので、そういう意味でも、待つのは苦じゃないというか。いろいろな仕様が入れられないのは、やっぱり採算の問題ですか?

:それもありますし、あとは例えば、何かの装備が入れられないというのは、重量の問題も絡むと思いますね。

:重量?

:ええ、例えば4ゾーンって、やっぱり重いんですよね。ダクト口を通してやるので。四駆だと、やっぱりボディ自体が重くなりますし。

:そうか。上級グレードであれば、そういう重量を前提として考えてあるから、重い装備も入れられると。

:そこまで重要視しないかもしれませんけど、減税を考えると、重量もやっぱり影響しますよね。

:なるほど、そこは心中、察するに余りあるというか、本当にご苦労されているということが伝わってくるんですけど……

:すみません、ご希望に添えてなくて……

:いえいえいえいえ!

日本市場でミニが好調な理由

:で、ミニがマイナーチェンジして、数字的にはどんな感じなんですか?

:輸入車市場が最近、ちょっと厳しかったんですけど、なんとか、ミニとしては、市場の影響を受けずに成長できました。

:8月だけは数字が対前年でマイナスだったんですけど、それ以外は全部プラスでした。

:何が、お客さんに受け入れられていると思います?

:商品力が高まっていることもありますが、新しいセグメントに入っていったことで、今まで、ミニを選択していなかった方にも入ってきていただけていると思います。

:あ、新規の方も。はいはい。

マイナーチェンジした「ハッチバック・モデル」の「コンバーチブル」

:当然、クロスオーバーみたいなクルマは、大きなクルマとして競合もそれなりに厳しいんですけど、逆に今まで、どうしても「コンパクトすぎちゃう」ということで視界に入らなかったお客様もいらっしゃったと思うんですね。そこは多少、候補に入れていただいたり、お買い上げいただいたりしているところはあります。

まあ、プロ&コン(賛否がある)で、「“らしさ”が失われる」とおっしゃるお客様がいらっしゃるのも理解しているんですけど、ラインアップを増やして、新しいところを攻めていったことで、初めて購入をご検討いただいたお客様もいますので。

:そうですね、最初から「ミニは小さい」ということに縛られていない、新しいお客さんも多いということですね。

:マインドが全く違うお客様ですね。ハッチバック系のモデルというか、「3ドア」とか「5ドア」は、逆にいうと、こういったクルマが同一セグメントにあまりないので、「やっぱりミニだよね」といってお買い上げいただく方が多いんですけど、一方で、ちょっと大きなクルマになると、競合もありますよね。

:ノスタルジーで乗る方って、やっぱり減ってるんですか?

:じゃないかなと思います。

ブランド名からも「ミニは小さい」というイメージが強いが、「クラブマン」(画像)や「クロスオーバー」といった車種であれば、ファミリーカーとしても十分、運用可能だ(画像提供:BMW Group)

ミニに限らず、全ての輸入車で、自らの望む全ての条件を満たすクルマとは滅多に出会えないという安東さん。メルセデス・ベンツやレンジローバーなど、ミニ以外にもいろいろなクルマを比較検討してみてはいるが、なかなか決め手がないようだ。

さて、話題は「日本でミニが好調な理由」に移った。その要因は、丹羽さんが話すように巧みな商品戦略にもよるのだろうが、おそらく、それだけではないはず。ミニのクルマを欲しがる人は、ミニのブランドイメージにも好感を持っているものと思われるからだ。次回はミニのブランド戦略について、安東さんが迫る。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。