「伝統×新技術」が織りなす “のれん文化”のアップデート

「伝統×新技術」が織りなす “のれん文化”のアップデート

2018.11.02

若手クリエイターと日本橋をつなぐ共創プロジェクト「nihonbashi β」

2018年11月1日~11日、日本橋で「未来ののれん展」を開催

デジタル技術を活用した「体験のある」のれんが展示されている

商店の入り口に掛けられている「のれん」。かつては、外からの目隠しや光などが店内に入ることを防ぐ目的で使われていたそうだが、現在では、営業中であることを示すものというイメージが強い。海外ではあまり見られない、日本独特の文化のひとつだ。

若手クリエイターと東京の日本橋をつなぎ、未来をつくる共創プロジェクト「nihonbashi β」は、その「のれん」に注目したイベント「未来ののれん展」を11月1日から11日まで開催。さまざまな最新技術とコラボした「今までにないのれん」4種類が展示されていると聞いたので、早速足を運んでみた。

人の存在を感知して、しゃべるのれん

「コレド室町1」のエントランスに掛けられているのは、「のれんさま」というロゴのようなキャラクターがデザインされたのれん。上部に人感センサー・加速度センサーが搭載されており、のれんをくぐる人や風の強さを検知するように設計されている。そして、訪れた人に対して、のれんさまが話しかけるのだ。

のれんさまはtwitterのアカウント(@noren_sama)を持っており、実際にSNSでコミュニケーションをとることが可能。また、twitterで投げかけられた質問に対して、展示されているのれんさまが音声で答えてくれる。

ちなみに、のれんさまは500年以上日本橋を見守っている神様という設定。おじいちゃんのようなしゃべり方で、コレド室町や日本橋についての情報を、いろいろと教えてくれる。

人がいるときは「TOHOシネマはエスカレーターで2階に上がって突き当りじゃ」「コレドはcore edoっていう意味らしいんじゃ。江戸の中心ってことじゃ」といったコレドの情報を伝え、人がいないときは「天気がええのう」「12時30分じゃ」といった独り言のような内容をつぶやくことが多いという。

のれんさまのセリフは全部で約220種類。声は人工音声で作られている。参加クリエイターは髙橋紗登美氏、成田敬氏、深谷泰士氏、藤木良祐氏だ。

のれんが奏でる“おいしそうな音”

鰹節専門店の「にんべん日本橋本店」では、“音を楽しむ”のれんが掛けられている。max/mspと呼ばれるソフトウェアで、調理音を「音楽」として再構築。店内に入ってのれんに近づくと、「トントントン」という包丁で食材を切るリズムや、「シャー、シャー」という鰹節を削る音が耳元で聞こえてくる。

また、超指向性スピーカーによって、のれんをくぐる前後で音が変わるという体験を味わえる。のれんの近くでは耳元で聞こえた音は、商品棚の前まで行くと遠くで鳴っているようなかすかな音に変化。食材の買い物体験を何倍も魅力的なものにするような工夫がなされていた。店内に漂う鰹節の香りと小気味いいリズムが、“料理をする母の背中”を思い浮かばせるようだ。

超指向性スピーカーのイメージ

クリエイターは小田部剛氏、馬場隆介氏、水野諒大氏、森幸浩氏。くぐる時に料理の楽しさや驚きが伝わるのれん体験を目指したという。

バイオメタルによって、見るたびに表情を変えるのれん

三井ガーデンホテル日本橋プレミアのロビーに展示されているのれんは、バイオメタル(形状記憶合金)を使用することで、意図的にモアレ現象を増幅させるように作られている。モアレとは、点や線を少しズレるように重ねたときにできるまだら模様のこと。3枚重なった、日本橋のアーチを想起させるようなデザインののれんが、微妙な揺れによって美しいモアレを描く。

バイオメタルは電流や熱によって屈伸する性質を持っているため、人が通らず風も吹かない屋内に設置されていても、有機的な動きによってモアレが躍動するようになっている。

コンセプトは「変化と伝統が混ざり合う日本橋」。3枚ののれんが混ざり合うことで新たなデザインを生み出し、また、見るたびに表情を変える。見ていて飽きないのれんといえよう。クリエイターは石川貴之氏、佐藤哲朗氏、鈴木和真氏、水野直子氏だ。

“くぐらない”で歓迎する、のれんのインスタレーション

マンダリン オリエンタル 東京の2階には「マンダリン オリエンタル 東京の風」と題された巨大のれんが展示されている。こののれんの特徴は“くぐらない”ことだ。取り付けられた人感センサーで人の位置を測定し、動きに合わせて風を当てることで、のれんが美しくなびくという作品だ。

作品の前をゆっくりと歩いてみると、5層に重なったのれんが、来訪を歓迎するように揺れていく。立ち位置によって風の強さが変わり、のれんがなびく様子も変化する。

クリエイターは五十嵐優作氏、斧涼之介氏、佐藤達哉氏、水村真理子氏。布のレイヤードを美しく魅せるため風の制御を工夫したという。

今回はデジタル技術を組み合わせることで、新たな体験を提供する4種類ののれんが生まれた。長い歴史を有する街や文化にデジタル技術というエッセンスを加えることで、「伝統の良さを一層引き立てられる」可能性があることを実感できた気がする。

期間中に日本橋へ訪れる機会がある人は、この新しいのれんをくぐってみてはいかがだろうか。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu