日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

2018.10.31

パナソニックに出戻った異色のリーダー 樋口泰行のビジネスセッション

日本の優秀だが活かされない人材と、いいものを高く売れない経営者

まずはアマゾン、グーグル、アリババに追いつけない現実を直視

パナソニックは、創業100周年を記念した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018(CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018)」を、10月30日~11月3日まで、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催している。同社・津賀一宏社長をはじめ、各カンパニー社長の基調講演、各界有識者による特別講演などのシンポジウムに加え、パナソニックが描く近未来の世界を紹介する展示を行う。

開催初日に行われたパナソニックの津賀一宏社長による基調講演のテーマは、「次の100年の『くらし』をつくる~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~」。今後のパナソニックの役割を、「くらしアップデート業」という言葉で表現してみせた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

そして翌日には、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長による「日本企業の復活―次なる成長に向けた変革へのチャレンジ―」と題したビジネスセッションが行われた。

ここでは、サントリーホールディングスの新浪剛史社長と、大学院大学至善館の野田智義理事長をゲストに迎え、国際競争力が急速に低下し、労働生産性も先進国で最低水準が続く日本が、「再び世界で勝つためには何が必要なのか」といった観点から、日本企業共通の課題を浮き彫りにし、新たな時代を見据えた戦略変換や、かつて日本の強みを支えた企業文化からのマインドチェンジなど、次なる成長に向けた変革の方向性について議論した。

3氏は米ハーバード・ビジネススクールでともに学んだ仲であり、お互いに冗談を言い合うシーンがみられるなど、セッションは和んだ雰囲気のなかで進められた。話の脱線ぶりに、ファシリテータを務めた至善館の野田智義理事長は、「10分間やってみたが、予定調和の話にはならないと思った。用意したシナリオはなしで進める」と宣言したほどだった。

サントリーホールディングスの新浪剛史代表取締役社長
大学院大学至善館 創設者・理事長の野田智義氏

外を見ず一生懸命な社員と、逃げ切りモードのリーダー

今回のビジネスセッションでは、樋口社長と新浪社長が、テーマにあわせて絵や写真を用意し、その意図などを説明する形で進行した。

最初のテーマは、「日本企業の現状と課題、ポテンシャル」である。

樋口社長は、1枚の絵をスライドに映し出した。

「日本人は世界で一番優秀で、勤勉であり、人間的にも優れた国民性を持ち、パートナーを組むにも信頼性が高い。頑張れば失敗しないはずだが、なかなかそうはなっていない」とし、「日本企業丸」と書かれた船に、日本人が乗った絵を見せた。

「周りが大変な荒波になっていて、しかも、船底には穴が開いて、沈み始めているのに、それが見えておらず、優秀な人たちが目の前のPCに向かって、社内の仕事を一生懸命やっている。外を見ていないから危機感がない。沈んでいくことになにも対策ができない」

「一方で、リーダー(社長)は、そんなに長くやるわけでもなく、タイミングが来たら、近くまで助けに来ているヘリコプターの梯子に飛び移ろうとしている。東京オリンピックまでは、景気はなんとかなるだろうという気持ちもあるのだろう。そして、社長にすりよる側近は、『ちゃんとヘリコプターで脱出できます』ということを進言している」と、その様子を紹介する。

的を射た指摘に、会場からは笑いが起きた。

これを見た新浪社長は、「その通りである。日本人はみんなでなにかをやるのはうまいが、出る杭は打たれる文化がある。そして、企業が大きくなればなるほど、外を見ようとすることが少なくなる傾向にある」と前置きし、「バブル崩壊以降、日本の企業は、人材の育成やリーダー育成を忘れてしまった。また、挑戦する意識も欠けている。これを変えていかなくてはいけない。私は、30代から社長を経験してきたが、小さい組織やユニットでもいいから、自分で意思決定をするといったことを、30代半ばまでに経験したほうがいい」と提言。樋口社長も、「一番の人材育成は、修羅場を経験することだという話を聞いたことがある」などと応じた。

新浪社長が示したのは、「コーヒーマシン」の写真だった。ここでは、日本企業の復活に向けたポテンシャルを示したという。

「私が某企業の社長(編集部注・ローソンの社長)のときに、コーヒーマシンをスイスの企業から調達しようと商談を行った。最初の調達でも1万5,000台規模の商談になった。価格は1台100万円。ボリュームディスカウントをしてほしいと提案したが、一切まけてくれない。相手は大きな会社ではなかったが、それでも、我々の商品は、これだけいいものであるからまけられないという。結局、その価格で購入した。これは、日本の企業でも同様である。自分が強みを発揮できる製品を作り続け、それによって顧客への価値を提供する。経営も価値をしっかりと認め、人材を育成し、末端までそれが浸透している会社は素晴らしい」と指摘。野田理事長は、「ある経営者から、いいものを高く売れないのは経営ではない、と言われたことがあった」と語った。

日本の企業はまだ行ける、という議論は無駄

もうひとつのテーマは、「実現のための3つのキーワード」。日本の企業が重視すべきポイントを、2人が、それぞれ3枚の絵や写真で示した。

樋口社長は、人が森を見たり、山頂から遠くを見たりしている絵を1枚目に示し、「木を見て、森を見ずと言われるが、さらに森の上にある山から遠くを見なくてはならない。世界の景色を見ないことには正しい戦略が立てられない」と話す。

そして、「電機の世界はデジタルとインターネットで様々なものがディスラプトされている。クラウドひとつを取ってみても、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アリハバに追いつくことは、もはやできない。一方で、中国の企業は、ハードウェアをコモディティ化することに長けている。こうした現実を見ないで、日本の企業はまだ行けるぞ、という議論をしていても無駄である。海外の企業とのベンチマーキングを怠っていたツケがいまにつながっている」と発言。

野田理事長は、「一度、ビッグピクチャーを見たことがある人は、風景が違うということがわかるが、ふもとにいる人は、高いところから見た景色がわからないという課題がある」と指摘した。それに対して樋口社長は、「あまり高いところからばかり見ていても、現場のことがわからないという問題が発生することになる」という別の課題も提起した。

2枚目は、フォーマリティを示したものであり、「日本は、儀式的なものをそのまま行う文化や、硬い文化がある。年齢、性別、役職に関係なく、会社を良くするために、正しいことをやるという仕組みがないと、世界の景色を社内に響き渡らせたり、現場の問題点を経営層に指摘したりといったことができない」とした。

そして、3枚目の絵は、ダイバーシティを示したものだという。「同質のものが、同じ方向を向いていては、後ろから鉄砲で責められても、それに気がつかずに、イチコロでやられてしまう。バラバラではいけないが、それぞれが持つ個性がひとつになることが強みになる」とした。ここでは、サッカー日本代表を例に取り、「世界で活躍する選手は、個性むき出しで活躍している選手ばかり。だが、それらの個性がひとつになって、日本代表が強くなっている。これは企業でも同じ。以前は、ひとつの会社で勤め上げるのが優秀な人材と言われたが、いまは多くの経験をすることが重視されている」と指摘した。

同質のものが同じ方向を向いていては、やられてしまう。個性がひとつになることが強みになる

野田理事長は、「パナソニックに入社して、その後、ダイエーや日本マイクロソフトを経験して、パソナニックに戻ったというのはまさに象徴的である」と樋口社長の経歴について触れてみせた。

元マイクロソフトの社長はパナソニックで何をするのか

ここで、樋口社長は、前職であったマイクロソフトの変化について語る。野田理事長が、「20年前の世界の時価総額ランキングのトップ20のなかで、いまでも20位以内に残っているのは、唯一、マイクロソフトだけである」との話を受けて回答したもので、「いまのCEOであるサティア・ナデラ氏は、IQもEQも素晴らしい。かつてのCEOは、iPadが世に出たとき、『こんなものは売れない』と言った。そして、マイクロソフトが他社とパートナーを組むこともしなかった。しかし、ナデラCEOは、アップルやAndroidと協調してビジネスをはじめたり、クラウドに対して迅速に多くの投資をしたりして、電気、ガス、水道のように、蛇口をひねったらソフトウェアが利用できるという世界に踏み出していった。傲慢な態度もなくなった。近くでそのトランスフォーメーションを見たが、激しいものがあった」と振り返った。

そして、「こうした経験を生かして、パナソニックでは、ライトカルチャーにすることに取り組んでいる。また、外資系はガバナンスが効いており、赤提灯で会社の悪口を言っているのならば辞めた方がいいと言われるが、日本の企業はそうはいかない。日本の企業にとって大切なのは、やることに対して、腹落ちするということである。また、ある程度、ガバナンスを効かせた上で、やってみたらよかったと感じてもらうことも大切である。こういうことを、バランスを取りながらやっていくことになる」と述べた。

また、これまでの経験を振り返りながら、「新たな会社に行くと、やれるものならやってみろ、お手並み拝見と、顔に書いてあるような人がたくさんいる。最初は好感度アップ大作戦しか手がない。私は、私利私欲はなく、みなさんのためにやっています、ということを示すことから始まる」と語って会場を笑わすと、新浪社長も、「私も、悪い人ではないというところから始まる」と語って同調する。

新浪社長が、樋口社長の立場でパナソニックに入ったらどうするかという質問に対しては、「サントリーでもそうだったが、まずは創業者の考えに戻ろうというところから始める。創業精神は重要であり、価値があるものだが、何年もいると、あまり意識をしなくなってしまう。そこを改めて知ってもらうとともに、外から入ってきた人間であっても、そこに対しては同じ意識を持っているというところから始める。いいところは残して、悪いところは変えていく」とした。

これに対して、「新浪さんは、サントリーに入ってから丸くなった」と樋口社長が指摘。新浪社長は、「同じ人格でも、会社によって、やることは違う。前の会社はレガシーを壊さなくてはならないという立場にあった」などと反論した。

100年続く企業として、「正しい」こと取り組む

一方で、新浪社長が示した最初の絵は、スタートダッシュをしようとしている人の写真だ。「大切なのはスピードである。かつては、過去からの積み上げによる改善ができた。だが、いまはやってから考えることが大切であり、スピーディに走りだすことが求められる。サントリーには、『やってみなはれ』という言葉があるが、ここには、決めたら、やり抜くという意味が込められている。その途中には失敗がたくさんある。それを許容できる経営でなくてはならない」とした。

次の絵は、「実るほど 頭を垂れる稲穂かな」という言葉と、開高健氏による「悠々として 急げ」という言葉。「右(実るほど 頭を垂れる稲穂かな)は、私のことを指している」と、新浪社長がいうと、「ようやく最近、頭を垂れ始めた」と樋口社長。野田理事長も、「新浪君が、頭を垂れ始めて、驚いている」と指摘。新浪社長は、「私はずっと頭を下げている」と言って会場の笑いを誘っていた。

また、開高健氏の言葉については、「急いでやらなくてはならないが、気持ちが焦るのではなく、上からしっかりと物事を見なくてはならないということ。経営をやっていく上で、急がなくてはならないが、そこでぐっと止まって、大丈夫か、ということを考えることが大切である。経営はサイエンスではなく、アートである。外から自分を見ることができるようになるべきだ」などとした。

新浪社長の最後の1枚は、清流が流れる自然の写真であった。「日本の企業が、この光景をいつまで維持できるのか。次の世代に何を残せるかを考えなくてはいけない。何のために事業をやっているのかというパーパス(存在価値)を重視すべきだ。サントリーは、水と生きるということを大切にしている。そこに向けて取り組んでいる」と語った。

最後に、新浪社長は、樋口社長に対する期待として、「パナソニックは、これからも100年続く企業として、社会に対してどんな価値を提供できるのかを、わかりやすく発信してほしい。世界各地で、パナソニックという会社があって良かったといってもらえるようになってほしい」と語り、「当時は、ハーバードに受かって良かったとみんなが喜んでいたのに、樋口さんだけが、MITに行きたかったと言っていた。樋口さんのおとぼけキャラはなかなかいい。とにかく明るい。ぜひ、みなさんで支えてほしい」と呼びかけた。

これを受けて、野田理事長は、「私たちは、『明るいナショナル』で育ってきた。世界の『明るいパナソニック』を作ってほしい」と提案した。

樋口社長は、「会社は、社会のため、お客様のため、社員のため、株主のために存在するといわれるが、激しい競争のなかで、盲目的に社会のためということを目指すわけにはいかない。株主価値の向上や社員の人材育成などのバランスを取ることも必要である。そして、今日の議論を通じて、ヒントももらい、共通の課題も浮き彫りになった。正しいことをまっしぐらに取り組んでいく」と述べた。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。