日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

2018.10.31

パナソニックに出戻った異色のリーダー 樋口泰行のビジネスセッション

日本の優秀だが活かされない人材と、いいものを高く売れない経営者

まずはアマゾン、グーグル、アリババに追いつけない現実を直視

パナソニックは、創業100周年を記念した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018(CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018)」を、10月30日~11月3日まで、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催している。同社・津賀一宏社長をはじめ、各カンパニー社長の基調講演、各界有識者による特別講演などのシンポジウムに加え、パナソニックが描く近未来の世界を紹介する展示を行う。

開催初日に行われたパナソニックの津賀一宏社長による基調講演のテーマは、「次の100年の『くらし』をつくる~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~」。今後のパナソニックの役割を、「くらしアップデート業」という言葉で表現してみせた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

そして翌日には、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長による「日本企業の復活―次なる成長に向けた変革へのチャレンジ―」と題したビジネスセッションが行われた。

ここでは、サントリーホールディングスの新浪剛史社長と、大学院大学至善館の野田智義理事長をゲストに迎え、国際競争力が急速に低下し、労働生産性も先進国で最低水準が続く日本が、「再び世界で勝つためには何が必要なのか」といった観点から、日本企業共通の課題を浮き彫りにし、新たな時代を見据えた戦略変換や、かつて日本の強みを支えた企業文化からのマインドチェンジなど、次なる成長に向けた変革の方向性について議論した。

3氏は米ハーバード・ビジネススクールでともに学んだ仲であり、お互いに冗談を言い合うシーンがみられるなど、セッションは和んだ雰囲気のなかで進められた。話の脱線ぶりに、ファシリテータを務めた至善館の野田智義理事長は、「10分間やってみたが、予定調和の話にはならないと思った。用意したシナリオはなしで進める」と宣言したほどだった。

サントリーホールディングスの新浪剛史代表取締役社長
大学院大学至善館 創設者・理事長の野田智義氏

外を見ず一生懸命な社員と、逃げ切りモードのリーダー

今回のビジネスセッションでは、樋口社長と新浪社長が、テーマにあわせて絵や写真を用意し、その意図などを説明する形で進行した。

最初のテーマは、「日本企業の現状と課題、ポテンシャル」である。

樋口社長は、1枚の絵をスライドに映し出した。

「日本人は世界で一番優秀で、勤勉であり、人間的にも優れた国民性を持ち、パートナーを組むにも信頼性が高い。頑張れば失敗しないはずだが、なかなかそうはなっていない」とし、「日本企業丸」と書かれた船に、日本人が乗った絵を見せた。

「周りが大変な荒波になっていて、しかも、船底には穴が開いて、沈み始めているのに、それが見えておらず、優秀な人たちが目の前のPCに向かって、社内の仕事を一生懸命やっている。外を見ていないから危機感がない。沈んでいくことになにも対策ができない」

「一方で、リーダー(社長)は、そんなに長くやるわけでもなく、タイミングが来たら、近くまで助けに来ているヘリコプターの梯子に飛び移ろうとしている。東京オリンピックまでは、景気はなんとかなるだろうという気持ちもあるのだろう。そして、社長にすりよる側近は、『ちゃんとヘリコプターで脱出できます』ということを進言している」と、その様子を紹介する。

的を射た指摘に、会場からは笑いが起きた。

これを見た新浪社長は、「その通りである。日本人はみんなでなにかをやるのはうまいが、出る杭は打たれる文化がある。そして、企業が大きくなればなるほど、外を見ようとすることが少なくなる傾向にある」と前置きし、「バブル崩壊以降、日本の企業は、人材の育成やリーダー育成を忘れてしまった。また、挑戦する意識も欠けている。これを変えていかなくてはいけない。私は、30代から社長を経験してきたが、小さい組織やユニットでもいいから、自分で意思決定をするといったことを、30代半ばまでに経験したほうがいい」と提言。樋口社長も、「一番の人材育成は、修羅場を経験することだという話を聞いたことがある」などと応じた。

新浪社長が示したのは、「コーヒーマシン」の写真だった。ここでは、日本企業の復活に向けたポテンシャルを示したという。

「私が某企業の社長(編集部注・ローソンの社長)のときに、コーヒーマシンをスイスの企業から調達しようと商談を行った。最初の調達でも1万5,000台規模の商談になった。価格は1台100万円。ボリュームディスカウントをしてほしいと提案したが、一切まけてくれない。相手は大きな会社ではなかったが、それでも、我々の商品は、これだけいいものであるからまけられないという。結局、その価格で購入した。これは、日本の企業でも同様である。自分が強みを発揮できる製品を作り続け、それによって顧客への価値を提供する。経営も価値をしっかりと認め、人材を育成し、末端までそれが浸透している会社は素晴らしい」と指摘。野田理事長は、「ある経営者から、いいものを高く売れないのは経営ではない、と言われたことがあった」と語った。

日本の企業はまだ行ける、という議論は無駄

もうひとつのテーマは、「実現のための3つのキーワード」。日本の企業が重視すべきポイントを、2人が、それぞれ3枚の絵や写真で示した。

樋口社長は、人が森を見たり、山頂から遠くを見たりしている絵を1枚目に示し、「木を見て、森を見ずと言われるが、さらに森の上にある山から遠くを見なくてはならない。世界の景色を見ないことには正しい戦略が立てられない」と話す。

そして、「電機の世界はデジタルとインターネットで様々なものがディスラプトされている。クラウドひとつを取ってみても、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アリハバに追いつくことは、もはやできない。一方で、中国の企業は、ハードウェアをコモディティ化することに長けている。こうした現実を見ないで、日本の企業はまだ行けるぞ、という議論をしていても無駄である。海外の企業とのベンチマーキングを怠っていたツケがいまにつながっている」と発言。

野田理事長は、「一度、ビッグピクチャーを見たことがある人は、風景が違うということがわかるが、ふもとにいる人は、高いところから見た景色がわからないという課題がある」と指摘した。それに対して樋口社長は、「あまり高いところからばかり見ていても、現場のことがわからないという問題が発生することになる」という別の課題も提起した。

2枚目は、フォーマリティを示したものであり、「日本は、儀式的なものをそのまま行う文化や、硬い文化がある。年齢、性別、役職に関係なく、会社を良くするために、正しいことをやるという仕組みがないと、世界の景色を社内に響き渡らせたり、現場の問題点を経営層に指摘したりといったことができない」とした。

そして、3枚目の絵は、ダイバーシティを示したものだという。「同質のものが、同じ方向を向いていては、後ろから鉄砲で責められても、それに気がつかずに、イチコロでやられてしまう。バラバラではいけないが、それぞれが持つ個性がひとつになることが強みになる」とした。ここでは、サッカー日本代表を例に取り、「世界で活躍する選手は、個性むき出しで活躍している選手ばかり。だが、それらの個性がひとつになって、日本代表が強くなっている。これは企業でも同じ。以前は、ひとつの会社で勤め上げるのが優秀な人材と言われたが、いまは多くの経験をすることが重視されている」と指摘した。

同質のものが同じ方向を向いていては、やられてしまう。個性がひとつになることが強みになる

野田理事長は、「パナソニックに入社して、その後、ダイエーや日本マイクロソフトを経験して、パソナニックに戻ったというのはまさに象徴的である」と樋口社長の経歴について触れてみせた。

元マイクロソフトの社長はパナソニックで何をするのか

ここで、樋口社長は、前職であったマイクロソフトの変化について語る。野田理事長が、「20年前の世界の時価総額ランキングのトップ20のなかで、いまでも20位以内に残っているのは、唯一、マイクロソフトだけである」との話を受けて回答したもので、「いまのCEOであるサティア・ナデラ氏は、IQもEQも素晴らしい。かつてのCEOは、iPadが世に出たとき、『こんなものは売れない』と言った。そして、マイクロソフトが他社とパートナーを組むこともしなかった。しかし、ナデラCEOは、アップルやAndroidと協調してビジネスをはじめたり、クラウドに対して迅速に多くの投資をしたりして、電気、ガス、水道のように、蛇口をひねったらソフトウェアが利用できるという世界に踏み出していった。傲慢な態度もなくなった。近くでそのトランスフォーメーションを見たが、激しいものがあった」と振り返った。

そして、「こうした経験を生かして、パナソニックでは、ライトカルチャーにすることに取り組んでいる。また、外資系はガバナンスが効いており、赤提灯で会社の悪口を言っているのならば辞めた方がいいと言われるが、日本の企業はそうはいかない。日本の企業にとって大切なのは、やることに対して、腹落ちするということである。また、ある程度、ガバナンスを効かせた上で、やってみたらよかったと感じてもらうことも大切である。こういうことを、バランスを取りながらやっていくことになる」と述べた。

また、これまでの経験を振り返りながら、「新たな会社に行くと、やれるものならやってみろ、お手並み拝見と、顔に書いてあるような人がたくさんいる。最初は好感度アップ大作戦しか手がない。私は、私利私欲はなく、みなさんのためにやっています、ということを示すことから始まる」と語って会場を笑わすと、新浪社長も、「私も、悪い人ではないというところから始まる」と語って同調する。

新浪社長が、樋口社長の立場でパナソニックに入ったらどうするかという質問に対しては、「サントリーでもそうだったが、まずは創業者の考えに戻ろうというところから始める。創業精神は重要であり、価値があるものだが、何年もいると、あまり意識をしなくなってしまう。そこを改めて知ってもらうとともに、外から入ってきた人間であっても、そこに対しては同じ意識を持っているというところから始める。いいところは残して、悪いところは変えていく」とした。

これに対して、「新浪さんは、サントリーに入ってから丸くなった」と樋口社長が指摘。新浪社長は、「同じ人格でも、会社によって、やることは違う。前の会社はレガシーを壊さなくてはならないという立場にあった」などと反論した。

100年続く企業として、「正しい」こと取り組む

一方で、新浪社長が示した最初の絵は、スタートダッシュをしようとしている人の写真だ。「大切なのはスピードである。かつては、過去からの積み上げによる改善ができた。だが、いまはやってから考えることが大切であり、スピーディに走りだすことが求められる。サントリーには、『やってみなはれ』という言葉があるが、ここには、決めたら、やり抜くという意味が込められている。その途中には失敗がたくさんある。それを許容できる経営でなくてはならない」とした。

次の絵は、「実るほど 頭を垂れる稲穂かな」という言葉と、開高健氏による「悠々として 急げ」という言葉。「右(実るほど 頭を垂れる稲穂かな)は、私のことを指している」と、新浪社長がいうと、「ようやく最近、頭を垂れ始めた」と樋口社長。野田理事長も、「新浪君が、頭を垂れ始めて、驚いている」と指摘。新浪社長は、「私はずっと頭を下げている」と言って会場の笑いを誘っていた。

また、開高健氏の言葉については、「急いでやらなくてはならないが、気持ちが焦るのではなく、上からしっかりと物事を見なくてはならないということ。経営をやっていく上で、急がなくてはならないが、そこでぐっと止まって、大丈夫か、ということを考えることが大切である。経営はサイエンスではなく、アートである。外から自分を見ることができるようになるべきだ」などとした。

新浪社長の最後の1枚は、清流が流れる自然の写真であった。「日本の企業が、この光景をいつまで維持できるのか。次の世代に何を残せるかを考えなくてはいけない。何のために事業をやっているのかというパーパス(存在価値)を重視すべきだ。サントリーは、水と生きるということを大切にしている。そこに向けて取り組んでいる」と語った。

最後に、新浪社長は、樋口社長に対する期待として、「パナソニックは、これからも100年続く企業として、社会に対してどんな価値を提供できるのかを、わかりやすく発信してほしい。世界各地で、パナソニックという会社があって良かったといってもらえるようになってほしい」と語り、「当時は、ハーバードに受かって良かったとみんなが喜んでいたのに、樋口さんだけが、MITに行きたかったと言っていた。樋口さんのおとぼけキャラはなかなかいい。とにかく明るい。ぜひ、みなさんで支えてほしい」と呼びかけた。

これを受けて、野田理事長は、「私たちは、『明るいナショナル』で育ってきた。世界の『明るいパナソニック』を作ってほしい」と提案した。

樋口社長は、「会社は、社会のため、お客様のため、社員のため、株主のために存在するといわれるが、激しい競争のなかで、盲目的に社会のためということを目指すわけにはいかない。株主価値の向上や社員の人材育成などのバランスを取ることも必要である。そして、今日の議論を通じて、ヒントももらい、共通の課題も浮き彫りになった。正しいことをまっしぐらに取り組んでいく」と述べた。

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日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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