イベントでeスポーツを盛り上げる『モンスト』のライブエクスペリエンス事業

イベントでeスポーツを盛り上げる『モンスト』のライブエクスペリエンス事業

2018.11.05

プロラインセンス発行タイトルのゲーム『モンスターストライク』

ミクシィはゲーム運営だけでなく、リアルイベントにも力を入れる

今後はプロプレイヤーが副次的な収入を得る機会の創出をサポート

ミクシィのエンタメ事業を担う「XFLAG」。アニメーション制作やeスポーツ事業など、スマホアプリのリリース/運営以外の分野の活動が目立ち、既存事業だけでなく、新規事業への展開を積極的に行っている印象を受ける。特に、同社が力を注いでいるマーチャンダイジング(物販)やリアルイベント、eスポーツでは、業界を牽引していると言っても過言ではない。それらの事業を一括して運営しているのが、「ライブエクスペリエンス事業本部」だ。

今回は、そのライブエクスペリエンス事業本部長の田村征也氏に話を伺える機会を得たので、XFLAGにおける、リアルイベントやマーチャンダイジング、eスポーツの展開と今後の計画について、話を聞いた。

――まずは、ライブエクスペリエンス事業について、発足の経緯や活動内容を教えてください。

田村征也氏(以下、田村):XFLAGでは、『モンスターストライク(モンスト)』をはじめとするデジタルコンテンツが、売り上げの約9割を占めています。ただし、デジタルコンテンツ(ゲーム)だけを運営していると、楽しみ方が単一的で飽きやすいため、年々コンテンツとしての魅力がシュリンクしていってしまうのではないかと危惧しています。そこで、マーケティング活動の一環として、ゲーム起点でイベントを興して、グッズを販売、配布し、ゲーム以外でもお客様にXFLAGのコンテンツを楽しんでいただける機会を作ろうと考えました。

まずは、2016年夏にゲーム以外の事業を開発する「XFLAG ENTERTAINMENT」を発足。そこで「XFLAG STORE」を作り、マーチャンダイジングの売上を創出することに成功しました。

XFLAG STOREはECサイトだけでなく、リアル店舗もあるのですが、今はそちらの売上が多いのが特徴ですね。“体験”を重視した店舗設計が好評で、ファンが集まる場としても機能しています。遠方のお客さまにも来店していただいていることから、ファンのニーズがあることがわかりました。これが、ライブエクスペリエンス事業本部のベースとなったのです。

ミクシィ 執行役員 ライブエクスペリエンス事業本部長の田村征也氏

――最初に実施したイベントは、どんなものだったのでしょうか。

田村:『モンスト』のローンチ1周年のときに行った、ストリーミングの生放送が最初ですね。2014年10月に、六本木のニコファーレで開催したのですが、入場者が30人程度の小規模なものでした。今年実施したXFLAG Parkでは、幕張メッセの1~6ホールを使い、2日間で約4万人に来ていただいたので、4年間で大規模なイベントに成長することができたと言えるでしょう。

参考にするため競合他社のイベントも観に行きましたが、あえて他社とは違う部分を取り入れました。ゲームだけのイベントだと、やはり徐々に規模も来場者も減少してしまうと懸念していたので、ゲームを知らないお客さまでも楽しめるようなイベントづくりを目指したのです。

実際、XFLAG PARKでは、ファン向けの「ゲームショー」と、ライト層向けの「エンターテイメントショー」の2つの方向性で展開。ゲームショーでは当然「モンストグランプリ」などゲームの対戦をステージで実施します。そして、エンターテイメントショーではオーケストラ演奏やダンスなどを披露。今年で言えば、きゃりーぱみゅぱみゅさんのライブや、世界トップクラスのサーカスショーがそうですね。なので、ゲーム系イベントだけでなく、一般的なイベントも参考にさせていただきました。

かなり内容盛りだくさんのイベントにした結果、入場料は昨年よりも値上げをせざるを得なかったんですが、それでも購入申し込み数は伸びていますし、購入倍率は前年比で160%まで増加しました。しかし、値上げ以上に、魅力的なコンテンツを提供できたことが、参加者の高い満足につながったのではないかと感じています。

「XFLAG PARK 2018」のワンシーン。マジックやサーカスのようなパフォーマンスを交えた、きゃりーぱみゅぱみゅさんのライブが行われた。パフォーマーは「シルク・ドゥ・ソレイユ」などにも出演する世界最高峰レベルのメンバーだとか

――実際に私もイベントに足を運んだのですが、会場が広く、さまざまな場所でプログラムが同時進行していたので、すべてを観られないというジレンマもありました。

田村:だいたい3つ、ゲームとゲーム以外のステージを同時に開催して、来場者が時間を持て余すことなく楽しめるように考えました。人によっては興味のないステージもあったと思います。ただ、ユーザーが求めるものだけを提供すると、簡単に飽きられてしまうんですよね。それに、もともと興味のないものでも、「ついでにちょっと観てみよう」とステージを覗いた結果、おもしろくてハマってしまうこともあるはずです。

――『モンスト』系のイベントは、ただのゲームイベントではなく、ほかのジャンルを取り入れることもありますね。「モンストナイト」はその最たる例だと思います。

田村:『モンスト』をきっかけに、ほかのことも体験して欲しいと思っています。「モンストナイト」は、クラブに行ったことがない『モンスト』ファンに、クラブ体験をしてもらおうと考えました。クラブイベントと言っても、昼と夕方の2回制だったので、さまざまな世代にも体験しやすかったと思います。

もちろん、ただのクラブイベントではなく、『モンスト』を絡めたコーナーも用意してあり、ちゃんと『モンスト』ファンが楽しめるイベントとしての大前提は崩していません。

――多種多様なイベントを開催していますが、最近ではeスポーツブームもあり、『モンスト』のeスポーツ化、選手へのプロライセンスの発行など、eスポーツのイベントも増えています。やはり、こちらも今後強化していくのでしょうか。

田村:いろいろなイベントがありますが、例えば「闘会議」では、eスポーツ中心のイベント構成になっています。今年は闘会議で「今池壁ドンズα」と「【愛】獣神亭一門」の2チームに、『モンスト』初のプロライセンスを発行しました。その後開催した「モンストグランプリ 2018 チャンピオンシップ」の地方予選を勝ち抜いた6チームにもプロライセンスを発行。幕張メッセでの決勝大会では、プロ全8チームによるワンデイトーナメントを行いました。

さらに、プロチームの活躍の場を増やすべく、10月13日より「モンスターストライク プロフェッショナルズ2018 トーナメントツアー」を開催しています。これは、プロチームが全国5カ所をツアー形式で回り、成績に応じて付与されるポイント総数の高いチームが年末のファイナルに進出する大会です。

――世間的には今年がeスポーツ元年と言われていますが、『モンスト』自体は数年前から賞金付き大会は開いています。プロ化した現在と以前では何か違いがあるのでしょうか。

田村:おっしゃる通り、『モンスト』のeスポーツ大会は2015年から開催しています。翌2016年の「モンストグランプリ2016 闘会議CUP 決勝大会」で初めて、賞金付きの大会を開催しました。そのときの賞金は総額5000万円で、今でも高額の部類に入るでしょう。ただ、当時は世間的にそれほど響いていませんでしたね。

また、ライセンス発行の経緯としては、2016年から我々が加盟していたeスポーツ促進機構が、2018年にほかの団体と統合してJeSUとなり、そのまま協力体制は続いていたので、JeSUがプロライセンスを発行すると発表した際、これに賛同することにしました。その理由は、プロライセンスの発行によって世間の関心が集まることで、『モンスト』やeスポーツを受け入れやすい土壌ができるのではないかと考えたからです。

そのおかげもあってか、今年に入って『モンスト』eスポーツ関連の動画の視聴数は倍以上になっており、多くの人に観られるようになりました。

――選手がプロ化するうえで、eスポーツ関連の仕事だけで生計を立てられるようになるのが理想だと思います。一発勝負の賞金制の大会だと、すべてのプロ選手が生活できるような収入にはなりにくいと思いますが、そのあたりのフォローはいかがでしょうか。

田村:プロがお金を稼ぐ手段としては、大会賞金以外に、所属チームから得られる給料、個別での契約によるスポンサードなどがあると思います。チームへの参加は個々の判断ですし、こちらからスポンサーの斡旋などはしておりません。ただ、副次的な収入を得ることはプロとして重要なことですので、その機会が増えるようなお手伝いはしていきたいと思います。

例えば、プロチームをどこかのイベントに呼びたいというような場合は、基本的に個別のチームへ連絡していただければと思いますが、XFLAGを介し、チームとイベンターを連携させる手伝いはしたいと思っています。プロツアーの会場では、各プロチームロゴが入ったNEW ERAコラボキャップが展示してありましたが、チームグッズを販売し、チーム毎に売り上げを配布することも検討しています。とにかく、プロ選手が活躍できる場は少しでも増やしていきたいですね。

――eスポーツとしての『モンスト』の、今後の展開はいかがでしょうか。

田村:総括的に言うと、eスポーツの代表的なイメージを作れるような、エポックメイキング的な存在として活動をしていきたい。『モンスト』以外にもいろいろなeスポーツはありますが、『モンスト』の魅力を伝えていきたいですね。例えば、チーム戦であること。しかも、リレー方式で全員が同等の活躍が見せられるのは、ほかにあまりないと思います。それによってドラマが生まれやすくなっているのではないでしょうか。協力しあえるところや、仲間と一緒にがんばれるところなどは、青春的で見ていて楽しくなりますよね。

ほかには、XFLAG STORE SHIBUYAを使って、親子大会やってみるのも楽しいと思います。『モンスト』のプロライセンスは、18歳未満は取得できないので、18歳未満のみが出場できる大会も開いてみたい。家族全員が応援できるようなイベントになればいいですね。18歳未満に賞金を出すのはちょっと考えどころですが、奨学金とかそういう形で援助できればいいかもしれません。

また、ライブエクスペリエンス事業本部とは別ですが、ミクシィではプロサッカーチーム「FC東京」へ出資や、プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」のスポンサードも行っています。なので、リアルスポーツと連携して何かやっていきたいですね。

そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

恋するSNSマーケティング講座 第2回

そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

2018.11.21

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第2回は、効率を上げるために必要な「ターゲティング」について

恋愛もマーケティングも、まずは「ブロードリーチ」が必要?

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

前回に引き続き、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さんに話を聞きます。今回もよろしくお願いします!

「恋愛とマーケティングは似ている」という前回の話に引き続き、今回もフェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんに、マーケティングを考える上で重要なことを聞いてきました。今回のテーマは、「ターゲティング」です。

闇雲にリーチを増やしても意味がない

「広告において重要なのは、できるだけ多くの人にこちらの情報を届けること。もちろん『数』だけではなく、誰に届けるかという『質』の部分も重要です」(丸山さん:以下、丸山)

広告の目的は、顧客となりうる層に商品やキャンペーンなどの情報を届けることであり、さらにいうと、最終的なゴールは“購入”などのアクションにつなげることである。

これを“恋愛”に置き換えると、「パートナーとなりうる層に自分の情報を届けて、最終的に“好きになってもらう、付き合う”などのアクションにつなげる」ことと言えるだろう。恋愛も広告も、まずは存在を認知してもらわなければ「コンバージョン」につながる確率はゼロのままだ。知ってもらわないことには、一向に話が始まらない。

とはいえ、絶対譲れない条件があるのに闇雲に合コンを重ねてもムダなように、広告でリーチする相手も「質」が重要だ。ターゲティング次第で広告の成果は大きく変わる。

「その点、FacebookやInstagramはユーザーデータに基づいて細かく広告を出す先を変えることができます。例えば30代を対象とした化粧品の場合、『都内に住む30代の女性で化粧品に興味を持っている層』にのみ広告を出すことも可能です」(丸山)

細かすぎるセグメントは時に機会損失につながるかも?

では、「量と質、どちらにウェイトを置くべきか?」というと、それはケース・バイ・ケースだと丸山さんは言う。大切なのはバランスなのだとか。

「商品のターゲットがF1層だったとして、最初からそこでバシッとセグメントしてしまうと、34歳から35歳になった途端、広告は届かなくなります。だけど34と35で人はそんなに変わりませんよね。セグメントすることで、実は機会損失になってしまっている、というケースも少なくありません」(丸山)

そこでオススメする方法の1つが、まずはターゲットを詳細に定めず広範囲で広告を出して、そこから反応のある層に絞ってアプローチをしていく方法だという。この方法で広告を出すことによって、機会損失の減少につなげられるとのこと。

Facebook、Instagramでは、広告に対する反応率をユーザー属性ごとに細かくチェックすることができるため、広範囲で広告を打った結果「30代に刺さると思っていたら、実際には20代の方が反響が大きかった」といったことがわかることも多いのだという。細かくセグメンテーションするのは、反響が大きい層の目星を付けてからでも遅くないというわけだ。

ちなみに丸山さん自身も、婚活においてこの「量」と「質」の罠にハマってしまった経験があるそう。

「昔は、国際感覚があって、ロジカルシンキングができて……など、色々と相手に求める条件を考えていました。でも、『自分が思うすべての条件を満たす人なんてこの世にいないんじゃないか』『そもそも本当にこの条件って必要なのか』といったことを考えはじめ、最近はあまり固く考えすぎない方がいいのかな、と思うようになりましたね」(丸山)

「マーケティングは得意なのですが、恋愛はまだまだ勉強中です……」

その後丸山さんは、まずは条件を細かく定めずに「月に10人と会う」ことを目指しているのだとか。好きな人探しの“ブロードリーチ期”というわけだ。

恋愛も広告も、タイミングが重要

ターゲティングに加えて意識しておくべきは、タイミングであるという。

恋愛においてもタイミングは重要で、相手が今どんな関係を求めているのかを意識して行動、関係性を築くことが求められる。

それは広告においても同じことが言える。セグメンテーションが適切でも、たまたまそのとき関心がないことは十分に考えられる。例えば、「若い女性に人気の旅行スポット」の情報を、ただ若い女性向けに配信しても、その人が旅行を計画しているタイミングでないと、思ったように刺さらない。ユーザーの質は良かったのに、タイミングを間違えたケースである。

「量」と「質」と「タイミング」を考えてターゲティングする――。なかなか難しそうに思えるが、これこそがFacebook・Instagram広告の得意分野だと丸山さんは言う。

「FacebookやInstagramには人ベースのターゲティングができ、リーチの数も質も親和性が高い形で届けることができるのです。ニーズが顕在化している層だけでなく潜在層にもリーチできるのが、Facebook・Instagram広告ならではのメリットです」(丸山)

広告は「一方通行」ではない

もっとも、自分のデータを勝手に参照されて広告が出ることを良しとしない人もいるだろう。興味のある記事を読んだり、シェアしたりしていると、その内容に似た広告が表示された、という経験がある人も多いと思う。ただ、Facebookではプライバシーセンター機能により、「見たい広告」「見たくない広告」を利用者側で設定することもできる。

これは、「広告は決して一方通行ではなく、広告主と利用者の『見たいもの』と『見せたいもの』がお互いにマッチすることによって、質の高い利用体験につながる」というのがFacebookの考えであるため。プライバシーセンターは、その世界を実現するための機能の1つだ。

***

今回は、マーケティングについて重要な「ターゲティング」の話を聞いてきた。しかし、「これで広告を届けるべき“質の高いユーザー”にリーチができるようになったから万々歳」……というわけにもいかないようで、次は「引きのある広告内容」について考える必要があるとのこと。

ということで、第3回では「効果的なクリエイティブのつくりかた」について聞いていこうと思う。

第3回「恋するSNSマーケティング講座」は11月28日(水)に掲載予定です

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

まるわかり! Credit Tech 最前線 第2回

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

2018.11.21

テクノロジーの進化によって誕生した新しい信用情報

サービス提供者と利用者、双方にメリットが生まれる可能性がある

金融サービスだけでなく、シェアリングエコノミーでの活用も

連載の第1回では、Credit Tech(クレジットテック)が盛り上がりを見せる背景について紹介した。第2回では、テクノロジーによって可視化されてきた“新しい”信用情報について、具体的な内容を紹介するとともに、クレジットテックが果たす役割について俯瞰してみたい。

クレジットテックにおける“新しい”信用情報とは

新しい信用情報を紹介するにあたり、まずは、社会信用システムが発展している中国において、信用スコア算出の事例としてよく登場する「芝麻(ジーマ)信用」を見てみよう。

芝麻信用とは、中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービスグループが開発した個人信用評価システム。「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」という5つのパラメーターを用いて、個人に350~950点の信用スコアを付与する。

芝麻(ジーマ)信用のイメージ。アント・フィナンシャルサービスのHPより

この5つのうち、「身分特質」「履約能力」「信用歴史」は“従来の”信用情報に該当する項目、「人脈関係」「行為偏好」は新しい信用情報に該当する項目だと私は考えている。

従来の信用情報とは、行政・銀行・信用情報機関といった信用の担い手が、以前から保有/利活用してきた信用情報のこと。例えば、預金や借り入れの状況、クレジットカードの利用履歴、居住地、職業、学歴などが該当する。

そして、新しい信用情報とは、テクノロジーの発展した現在において民間企業が担い手となって、生まれた信用情報である。例えば、どんな人とコミュニケーションをとっているのかといった「SNS上のつながり」だ。日本ではLINE、中国ではWeChat、世界的に見ればフェイスブックなどが、この情報を保有している。

また、一般消費における現金の動きも新しい信用情報にあたる。これまで、匿名性が高く、移動の履歴が残りにくいため、現金は精緻な利用状況が取得できなかった。しかし、キャッシュレス決済の登場によって、個人に紐付いた現金の移動を記録して追うことができるようになったのだ。2017年の中国の実績では、約1,362兆元(約22,901兆円)ものモバイル決済取引が行われている。

信用情報が多面化するイメージ

新しい信用情報がもたらす3つの価値

では、こうした新しい信用情報の出現により、どんなことが起きるのか。1つは、機会損失の解消だ。従来の信用情報のみに依拠していると、そうした情報を持たない、もしくは開示していない個人は、サービスを享受しにくい状況が発生していた。例えば、本当は支払能力があるにも関わらず、クレジットカード支払いの遅延歴があったために、住宅ローンを組めないというケースなどだ。ここに新しい信用情報が加わるとどうなるか。

ソフトバンクがみずほ銀行と合弁で立ち上げた、デジタルレンディング企業「j.score」を例に説明しよう。同社のサービスではまず、ユーザーは従来の信用情報に該当する項目に加え、普段の生活習慣など、複数の新しい信用情報を回答する。その結果、導き出された信用スコアに応じた条件で、融資を受けることができるようになるのだ。

これにより、従来であれば金融サービスを享受できなかった個人でも、サービスを受けられる可能性が出てくる。よりマクロな視点でみれば、金融包摂の文脈に該当する利点と言えよう。

J.Scoreの「AIスコア・レンディング」紹介動画

もう1つは、これまで以上に高付加価値のサービス提供が可能になることだ。従来の信用情報のみでは、年収の低い個人や、過去の売上データが芳しくない法人は、融資を受けられたとしても高金利にならざるをえなかった。しかし、住信SBIが提供する「レンディングワン」などのトランザクションレンディングサービスでは、企業の売上状況を新しい信用情報として参照することで、即日で最大1億円までの融資を低金利で可能にしている。

ほかにもメルカリでは、サービスの利用状況や評価の高さといった新しい信用情報を取得できるユーザーに対して、「メルカリ月イチ払い」という後払い決済サービスを提供している。

お金の貸し手が新しい信用情報を活用することで、借り手の信用をより精緻に推し量ることができるようになったからこそ、双方にとって、低コスト低リスクかつスムーズな取引ができるようになったのだ。

そして最後に、新しい信用情報は、その可能性を金融以外の領域に派生していけることにも価値がある。個人の嗜好性や行動の結果や人脈といったよりパーソナルな情報を精緻に可視化することから、金融に限らずとも、いわゆる信用によって成立するさまざまな領域で、商取引を活性化することができるのだ。

最たる例は、シェアリングエコノミーに代表されるCtoCサービス。貸し手、借り手ともに信用が重要なこの領域では、双方が安心して利用できるサービスを目指し、早期からSNSなどの情報が活用されていた。人材のマッチングにおいても、求職者のパーソナリティを推し量る多面的な指標として、キャリア以外の観点で新しい信用情報が活用されるようになるかもしれない。そのほか、当然マーケティングデータとしての活用も可能。電通やUFJ信託銀行の「DPRIME(ディープライム)」といった情報データ銀行の登場は、個人のパーソナルな信用情報をマーケティングに活用する動きを加速するものだと思われる。

信用情報の利活用に向けた各国の状況

個人の信用情報をどの主体がどう蓄積するかは、国や地域によっても扱いが異なる。中国では、行政や一部の企業が「社会信用システムの構築のため」として、個人の信用情報を中央集権的に掌握、管理している。これにより、急速なスピードで信用情報や信用スコアの活用が進んだが、スコアが低いために社会の利便性が極度に低下し、不利益を被る個人も一部出てきており、ディストピアと称されることもあるのだ。

一方、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報を「どの企業にどこまで渡すか」を意思決定できる状態になっていることから、中央集権的な管理ではなく個人に強く帰着される傾向にある。

個人データの蓄積方法や主体に違いはあれど、中国、欧州どちらも、個人データを利活用する土台が整備されてきていると言える。

今後、日本でも、個人の信用情報は、信用スコアの算定とそれに基づくサービスとして利活用されていくだろう。信用スコアに関する事業としては、ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社であるJ.scoreを端緒とし、すでにドコモも参入を公表している。

しかし現状の日本では、行政や企業が個人の信用情報を個別に保有しており、今年5月に改定された個人情報保護法の範疇では、匿名データにマスキングした形でしか、個人データの受け渡しや企業間の利活用はできない状況だ。今後、信用情報の利活用領域に対して、日本でもさらなる法整備を実施していくことが想定されるが、中国型、欧州型のどちらの発想になるかにより、サービスや受け入れられ方に大きな差異が生じることは間違いない。