「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる
花盛りの「着席保証列車」が短期的なマーケティングになる可能性

花盛りの「着席保証列車」が短期的なマーケティングになる可能性

2018.12.12

大手私鉄が着席保証列車の運用を次々に開始

着席保証列車ならではのデメリットが存在する

将来的に座席指定特急に取って代わられるのでは?

おもに朝夕の通勤時間帯を走る、座席指定制または定員制の列車(以下、着席保証列車と総称)が今、花盛りだ。12月14日には東急電鉄(東急)大井町線~田園都市線の急行に「Q SEAT」が登場し、7両編成中1両だけながら、混雑が大変激しい田園都市線に「必ず座れる」列車が走り始めると話題になった。また、九州の西日本鉄道(西鉄)も、座席指定制の列車を導入すると表明している。

東急大井町・田園都市線を走り始めた「Q SEAT」。本格運用は12月14日からだが、すでに編成に組み込まれている。ただし、本格サービス開始までは、ロングシートでのみの運用

これで、大手私鉄のうち、「運賃以外の特別料金を支払って座席を確保する列車」がないのは、現時点で相模鉄道(相鉄)、阪急電鉄(阪急)、阪神鉄道(阪神)だけとなった。JR各社も、定員制の通称「ライナー」を各線で運転している。それだけ、着席へのニーズが高く、鉄道各社の沿線価値向上への取り組みが熱心であるということだ。

近年の傾向としては、終日にわたって運転される観光・ビジネス向けの「特急」とは異なり、リクライニングシート装備の座席指定特急専用車両ではなく、着席保証列車運用時のクロスシートと、そのほかの一般的に運用される時のロングシートとの転換が可能な座席を装備した車両が増えていることがある。量産された車両としては、1996年デビューの近鉄「L/Cカー」が嚆矢といえるが、これは着席保証列車用ではなく、日中は居住性向上のためクロスシート、ラッシュ時は収容力アップのためロングシートとして、両立させることが目的であった。

この座席に目をつけたのが東武鉄道(東武)だ。2008年に運転を開始した東上線の「TJライナー」は、近畿日本鉄道(近鉄)とは反対にラッシュ時にクロスシート状態とし、座席の数だけ発売される着席整理券(区間により310円または410円)を購入すれば、着席を確実に保証するというものである。この「TJライナー」が成功を収め、同種の列車として京王電鉄(京王)「京王ライナー」や、西武鉄道(西武)・東京地下鉄(東京メトロ)・東急・横浜高速鉄道を乗り入れる「S-TRAIN」、西武「拝島ライナー」、冒頭の東急「Q SEAT」と、着席保証列車を採用する会社が続いた。これらは、東武や小田急電鉄(小田急)などが実施している、座席指定特急を通勤時間帯にも運転するという方向性とは別な経営戦略として、広まりをみせている。

通勤客の人気が非常に高い東武東上線の「TJ ライナー」。首都圏大手私鉄の着席保証列車として、先陣を切った
「京王ライナー」は京王で初めて、特別料金を収受する列車。最近では高尾山への観光輸送にも活用されている
左がクロスシート、右がロングシート(ともにイメージ、京王電鉄プレスリリースから)

着席保証列車の弱点は?

実は、着席保証列車ならではのデメリットが存在する。これらの着席保証列車用の車両には、座席以外にも会社を問わない共通点が多い。各社とも通勤型車両を基本として設計されており、ロングシートでの運用時を考慮して、扉の数は片側4カ所。つり革や荷物棚も、通勤型車両と大きな違いはない形で取り付けられている。乗降扉部分と客室も壁で分けられてはいないため、車内の環境としては通勤型車両に近い。

また、転換式座席自体にも設計の苦労が垣間見られる。まず、背ずり。クロスシート状態ならよいが、ロングシート状態の時は、背ずりが窓を背にする状態となる。つまり、あまり高くしすぎると窓をふさぐ形になってしまうため、むやみに高くはできない。一般的に列車の窓は、空調が完備している現在では、明るさや眺望などの点から大きい方が好まれるものだ。

ロングシート状態を考えると、背ずりを傾ける「リクライニング機構」は取り付けづらい。必然的にクロスシートであってもリクライニングシートではないということになる。通勤時の30分程度の乗車ならよいとしても、それ以上となると、やはりリクライニングシートの座席指定特急の方が好ましいということになろう。両者が併存している例としては西武池袋・秩父線があるが、料金の差が小さいこともあり、やはり秩父まで行くとなると「S-TRAIN」よりもリクライニング可能な特急の方が人気がある。「S-TRAIN」は東京メトロや東急東横線へ直通することで、秩父方面に向かう座席指定特急と“運行範囲”という面で差別化を図っている。

土休日のみ東急東横線内を走る、西武40000系「S-TRAIN」。埼玉県と神奈川県を結ぶ足だ

そしてロングシート状態では、一般的な通勤型車両のロングシートより、座席そのものの座り心地は優れているとしても座席定員自体は少ない。通路幅も狭くなるため、立ち乗り客が多くなり混雑し出すと、乗降扉付近に人が溜まりがちになるという傾向にある。

みなとみらい線・東急東横線・東京メトロ副都心線・西武池袋線・東武東上線を結ぶロングシートの「Fライナー」も運行されている。こちらは通常の乗車券で利用可能だ。左が西武池袋線に乗り入れる車両、右が東武東上線に乗り入れる車両。東武東上線の「Fライナー」は通勤型車両50070系で、「TJライナー」用の50090系も、座席以外はこの車両がベースとなっている

「効率」の面で着席保証列車はどうか?

着席保証列車は、非常に高い需要をつかんでいることは事実だが、鉄道会社の収益への貢献という面ではどうだろうか。むろん、それまで「運賃のみ」を支払って乗車していた客が追加料金も支払うことになり、経済的な効果はある。さらに、着席保証列車そのものにも誘客効果があるだろうから、増収につながっていることは予測できる。

ただ問題なのは、高い需要がありながら、それを効果的に取り込んでいるかどうかだ。

例えば西武の「S-TRAIN」「拝島ライナー」用の西武40000系の座席数は、10両編成で440席となっている。車椅子やベビーカーや大型トランク用のスペース「パートナーゾーン」、身障者対応の大型トイレが設置されているとはいえ、1両あたりにすると44席しかない。片側4カ所の乗降扉部分に、通勤型車両と同じだけ立席スペースが取られているため、座席に割り当てられる床面積が狭いのだ。

これに対し、同じ西武の座席指定特急用車両10000系の座席数は、7両編成で406席だ。1両あたり58席で、全席リクライニングシートなど、設備面では「S-TRAIN」に勝る。収受できる料金面での差がないのなら、10000系の方が経営効率としては優れているし、利用客の「受け」もよいのは明白だ。仮に「S-TRAIN」の運用を10000系「ニューレッドアロー」タイプの10両編成に置き換えると30%以上座席数を増やせる計算になる。さらに、2019年春に新型特急001系「Laview」が投入されると、さらに差は広まるだろう。

2019年春にデビューが予定される、西武001系「Laview」。近未来的なスタイルと高い居住性を誇る

着席保証列車用の車両は、急行などほかの列車にも兼用できるので、運用効率を高めれば初期投資の回収が早くなる。しかしながら、人気を得て利用客が増えれば、座席指定特急の方が、需要側も供給側も好ましいということにはなりはしないか。西武や東武(東上線以外の主要路線では座席指定特急を運転している)のように比較の対象がある会社はもちろん。京王や東急のように着席保証列車のみを運転している会社であっても、座席指定特急に投資して十分な利益が見込まれるのなら、そちらの方が好ましいと考えてもおかしくはない。

また、着席保証列車用の車両が片側4扉になっている理由としては、地下鉄への乗り入れやホームドアへの対応である。しかし、京王新宿駅や東急渋谷駅のように、ホームドア設置済みの駅でも、着席保証列車発着時は一部の扉のみ開閉して、利用客を整理している例もある。

今年になって小田急「GSE」や西武「Laview」のように、乗降扉の位置を工夫してホームドアに対応する座席指定特急用車両が現れた。柵そのものが上下する昇降式ホーム柵も実用化の域に達している。昇降式の柵ならば、扉の位置が異なる車両にも対応可能なので、片側4扉が決定的な条件ではなくなる。小田急「MSE」は2カ所の扉ながら、地下鉄千代田線への乗り入れで、2008年以来10年の実績を持っている。

着席保証列車の将来は?

こうしたことを考え合わせると、当面、着席保証列車は京王、東急、西鉄のように“それまで着席を保証する列車がなかった”鉄道会社では、まだ広まりをみせると思われる。相鉄は東急、JR東日本との相互直通運転を開始する時点が、ひとつのきっかけになるのではないか。「S-TRAIN」のように他社との直通運転で“販路”を広げ、活路を見出す例も増えていくことだろう。

ただ、実績を重ね需要がさらに高まるにつれて“グレードアップ”、つまり座席指定特急への”格上げ”を求める声も高まり、その方向へ進むことも視野に入れたい。そちらの方が、鉄道会社の収益面でも効率的であるからだ。

西武、東武のように、同じ会社内で着席保証列車と座席指定特急の両方を運転している会社では、その傾向が早く現れるのではないかと予想している。地下鉄への乗り入れも、ホームドアへの対応も、すでに大きな課題ではなくなっている。西武の新型特急001系「Laview」は、地下鉄有楽町線、副都心線への乗り入れも考慮した設計であると、西武サイドも認めている。そう考えると着席保証列車は、座席指定特急に取って代わられ、その寿命は比較的短いかもしれない。

現在の着席保証列車用車両も、車体構造自体が通勤型車両と同じであり、もし完全な通勤型車両へ改造するとしても座席の交換程度で済むだろう。着席保証列車は「短期的なマーケティングである」と割り切り、本格的なリクライニングシート車への取り替えを図る会社が出てくることも十分に考えられるのだ。

“駅”ならではの市場で飲料を販売するJR東日本WBの独自路線

“駅”ならではの市場で飲料を販売するJR東日本WBの独自路線

2018.12.12

産地を強調した果汁飲料が目立つJR東日本の自販機

出勤時の需要を狙いうちした充実のスープ飲料

鉄道駅がおもな市場である飲料ベンダーの強みと弱み

普段から何気なく利用している飲料の自動販売機。大手飲料メーカーが設置している自販機では、全国一律で商品が提供されているのがほとんどだが、独自路線で商品選択をしている飲料ベンダーがある。JR東日本ウォータービジネス(以下、WB)だ。

街中の自販機の場合、日本コカ・コーラなら「コカ・コーラ」「綾鷹」「ジョージア」、キリンビバレッジなら「生茶」「午後の紅茶」「FIRE」、サントリー食品インターナショナルなら「伊右衛門」「ペプシコーラ」「BOSS」といったお馴染みのラインアップが販売されている。

ところが、出張や旅行などで、新幹線や在来線を利用する際、駅の自販機で飲料購入時に「オヤッ」と感じることがある。上述した街中の自販機ではあまり見かけない飲料がディスプレイされており、しかもメーカーもバラバラだからだ。特に産地を前面に押し出した飲料が多い。もっとも有名なのは「愛媛みかん」。これは果汁飲料で有名なPOMジュースとタイアップした「acure」(アキュア)ブランドの製品だ。acureとは、JR東日本WBが販売する飲料の主力ブランド。このほかにも、「From AQUA 徳島ゆず×ジャスミン」「青森りんご つがる」「青森りんご きおう」といった飲料がある。

左から「愛媛みかん」、「From AQUA 徳島ゆず×ジャスミン」、「青森りんご つがる」。産地を強調した果汁飲料が多い

スープの取り扱いが多いJR東日本WBの自販機

そして、JR東日本WBのラインナップのもうひとつの特徴が、スープ類。定番の「濃厚deli コクとろ コーンポタージュ」「じっくりコトコト とろ~りコーン」「濃厚deli オニオングラタン風スープ」のほかに、「じっくりコトコト 濃厚デミグラススープ」や「トマトのスパイシースープ」、そして「しじみ70個分のちから」まである。さらに今秋、「ふかひれスープ」まで加わった。スープ類のラインナップをこれほどそろえている自販機飲料ベンダーはなかなか見かけない。

スープや味噌汁といった飲料が多く並んだ自販機。スープコーナーの上には「自販機のスープ飲料は異端か!?」というキャッチが貼られている。これは2019年1月31日まで実施されるキャンペーンの告知のため。右は新投入された「フカヒレスープ」

だが、1台のacure自販機に、これらのスープ類すべてが用意されているわけではない。JR東日本WB 営業本部 商品部 齋藤誠氏は、「駅の特性を考えて商品のラインアップを決めています」と話す。たとえば住宅街の駅。朝出勤する際に、遅刻しそうになったら朝食を抜くことがあるだろう。そうした場合に、手軽に朝食気分が味わえるコーンスープ類などの需要が高くなる。また繁華街近くの駅では、お酒を飲み過ぎた人が多いと考え、しじみ汁を用意する。スープというわけではないが、近くに学校が多く存在する駅では、夕方になると炭酸飲料が多く売れるらしい。これは、下校時に学生たちが炭酸や甘めの飲料を購入しているためで、それを考えて炭酸・果汁飲料などを多く並べる戦略を採るのだという。

JR東日本WB 営業本部 商品部 齋藤誠氏

工夫を凝らした自販機で独自の販売効率を追求

では、どうやって駅ごとに最適な飲料のデータを入手しているのだろうか。それは「Suica」で購入した情報をビッグデータとして利用しているからだ。Suicaの登場以来、小銭で飲料を購入せず、Suicaのタッチで済ます人が多くなった。そうした情報を無線LANで収集し、「この駅ではこういう需要がある」という判断に活用する。もしJR東日本の駅でacureの自販機を見かけたら、商品ディスプレイ左上部分に注目してほしい。無線LANアンテナを確認できるだろう。ただ、こうしたデータ収集は「いたしかたなく」というのが本音だそうだ。JR東日本WBの飲料販売チャネルは、ほぼ自販機。対面販売の機会が少なく、POSデータの収集が行いにくいという事情がある。

Suicaでの購入データを蓄積して、商品ラインナップの参考にする。右の写真のディスプレイ左上に黒い突起が確認できる。これが、無線LANアンテナだ

このように、JR東日本WBは飲料ラインアップだけではなく、自販機にも工夫がされている。その代表例が「イノベーション自販機」だろう。これは、商品ディスプレイ部分にタッチパネルを採用した自販機。「acure pass(アキュアパス)」というスマートフォンアプリを導入すれば、事前に飲料を選択しておき、イノベーション自販機にスマホをかざすだけで購入できる。また「LINE」「Facebook」「Twitter」などでURLを家族や友人に送れば、本人でなくとも飲料を入手可能だ。

ただ、このイノベーション自販機にも泣き所はある。まず、上述した機能があまり知られていないこと。そして高齢者や外国人の多くが購入の仕方で悩む場合がある。以前、若者がイノベーション自販機で飲料を購入した際、遠巻きで見ていた外国人から驚嘆の声が上がったのを見たことがある。とにかく知名度を高めるには、まだまだイノベーション自販機の設置台数を増やしていく必要がある。

先進的な技術が投入されたイノベーション自販機。ただそれだけに、「購入の仕方がわからない」という層が生じるジレンマもある

そしてJR東日本WBの最大の強みは、路線での販売をほぼ寡占できること。以前、新潟に取材した際、東京駅で「谷川連峰の天然水From AQUA」を購入。新潟では偶然「JR東日本ホテルメッツ」に宿泊したが、客室には谷川連峰の天然水From AQUAがサービスウォーターとして2本置いてあった。さらに復路の新潟駅でacureブランドの「朝の茶事」を1本、そして東京駅に着いてから朝の茶事をもう1本購入。つまり、1泊2日の行程で、JR東日本WBの飲料を5本飲んだことになる。まさに“線”で販売していることの好例だろう。

一方、弱みもある。それは、独自に飲料を生産できず、純粋なオリジナル商品に乏しいこと。オリジナル商品となると天然水From AQUAぐらいで、ほかは飲料メーカーから仕入れたり、共同企画したりとなる。前述した濃厚deliシリーズはダイドードリンコ、じっくりコトコトシリーズはポッカサッポロフード&ビバレッジから仕入れている。acureブランドのスープ、ふかひれスープは永谷園と、朝の茶事は伊藤園との共同企画だ。設置自販機が“線”に限定されているので、大量生産する拠点が必要ないというのが純粋なオリジナル商品が少ない理由だ。ただ言い換えると、それだけに小回りの利いた仕入れが可能となり、駅ごとのニーズに合わせた商品選択が行えるのだと思う。

左は永谷園と共同企画したフカヒレスープ。右は伊藤園と共同企画した朝の茶事

さて、最後に「ごく一部の人に御社がなんて呼ばれているか知っていますか?」と、少々脱線した質問を投げてみた。すると、齋藤氏もインタビューに同席した同社 企画本部 企画部 小室塁氏も「もちろん知っていますよ。『ウォータービジネス』だけに“水商売”と呼ばれていることですよね!?」と、“ニヤッ”と笑みを浮かべながら答えた。以前は、企業名の改称という意見もチラホラあったそうだが、今は立ち消えた。両氏とも「あだ名で呼んでもらって親しみを覚えてもらう方が、企業としてはありがたいですから」と結んだ。