男性の化粧、変化する「常識」 日本発・メンズコスメブランドの狙いは

男性の化粧、変化する「常識」 日本発・メンズコスメブランドの狙いは

2018.11.07

男性向けコスメブランド「FIVEISM×THREE」登場

身だしなみの一環として違和感ない使用感を設計

同ブランドから「男性のメイクアップ」を文化に

女性の「化粧」、男性の「身だしなみ」。現代社会のステレオタイプな常識が、静かに変わろうとしている。

この夏、ポーラオルビスHDのACROが、男性の使用に特化したコスメブランド「FIVEISM×THREE」(ファイブイズム バイ スリー)を発表し注目を集めた。多くの男性にとって化粧は縁遠いもの、という感覚があったのだが、実はこうした「常識」も、徐々に変わりつつあるという。

今回は、メンズコスメブランド「FIVEISM×THREE」の現状や、男性にとっての化粧について、同ブランドを擁するACROの御後章社長と、同ブランドのオフィシャルメイクアップアーティストのHIROKI氏にお話を伺った。

ACROの御後章社長(右)、「FIVEISM×THREE」オフィシャルメイクアップアーティスト・HIROKI氏(左)

――「FIVEISM × THREE」の商品は、伊勢丹新宿店メンズ館など百貨店を中心に販売をスタートしていますね。評判はいかがですか?

御後社長
伊勢丹新宿店メンズ館に関して言えば、想定をやや上回る注目をいただいています。一番人気は「ネイキッドコンプレクション バー」、いわゆるファンデーションです。我々としてもこの商品をイチオシにしていますし、お客様からみてもトライしやすいそうですね。

HIROKI氏
現在売り場に来ていただいている男性は、メイクアップに興味を持っていただいている方で、自分に合ったものが欲しいという明確なニーズを持っています。それに対して、「ネイキッドコンプレクション バー」は色展開が15色と豊富ですから、これが売れ筋になっているのではないか、と思います。

同ブランドを代表する商品のひとつ「ネイキッドコンプレクション バー」

――15色というと、女性のファンデーションより種類が多いですね。やはり男性の肌色のほうがバリエーションが豊かだったということでしょうか。

御後社長
そう思いませんか? 男性の中には、かたや日焼けして健康的な小麦色の肌の方がいて、その一方で女性と同じくらい肌に気を遣って美白している方もいるように、個々のライフスタイルによって、肌に対する意識に幅があります。

HIROKI氏
「ネイキッドコンプレクション バー」の標準色は8番で、番号が大きいほど濃い色になっていくのですが、7番、8番が今の売れ筋です。また、美意識が高く肌のお手入れをされている方が多いので、6番もよく出ています。

御後社長
まだ実売データの集計などはないので所感の段階ですが、ブランド立ち上げの段階でお越しいただいているのは美意識が高い方々なので、肌に対する意識が高いためか、思ったよりも明るめの色が出る傾向にあります。また、グローバル展開するにあたって、色の幅はさらに広げないといけないかもしれないですね。

――想定ターゲットと来店者は一致していますか? それとも差異がありましたか? 

御後社長
「FIVEISM×THREE」では、20代以上の美意識が高い男性をコアターゲットにしており、極端に年齢を絞ることはしていません。ただ、若年層の方のほうが興味を持っていただくことが多いようです。ただし、伊勢丹新宿店メンズ館の動向は例外です。感度が高い人が日本一多く集まる店舗なので、年配の方から外国人の方まで幅広く来店されているそうです。

「男性の化粧」、市場の反応は?

――近代日本では、「男性の化粧」というのは一部の職業に限定された行いであったように感じます。狭い範囲の話ですが、社内の同僚や上司(30~40代)は化粧を体験したことはなく、中には抵抗を持っている人もいました。市場の反応はいかがですか? 

「FIVEISM×THREE」商品一覧

御後社長
私もこの商品を通じて学んだのですが、いまの20代の男性は、自然にメイク用品を使っているということです。コンシーラーやファンデーションなど、女性用のものを使っている方もいらっしゃいます。

若い方々のほうが(「FIVEISM×THREE」の商品含めメンズコスメ商品を)受け入れやすいということかもしれません。

――このブランドができる前から、若年層の男性には受け入れる下地があったのですね。

御後社長
そう思います。また、女性用化粧品は、当然ながら女性の肌の特性に合わせて作られていますので、男性の肌に乗せたときにパフォーマンスを発揮しきれません。私も自社の女性用ファンデーションが発売される際は商品を使ってみるのですが、その時の使用感と、「FIVEISM×THREE」のそれを比較するとまったく違うんです。

男女の肌の違いは、やはり皮脂のバランスにあります。「FIVEISM×THREE」は男性の肌に合わせて作られているので、肌に自然とフィットし、つけている感覚がありません。私どもの商品をお使いいただいている方々も、これまで女性用の化粧品を使っていた時の感触と異なるために、選んでくださっていると感じます。

――HIROKIさんもそう感じますか?

HIROKI氏
そうですね、関心があるというよりは、若い世代の方は化粧を「当たり前」にとらえていると感じます。いまはジェンダーフリーな社会になっていて、「女性だから」「男性だから」というコミュニケーションが少なくなっています。ファッションもそうですね。スキンケアや香りを取り入れたりしていても、若い世代は「美意識が高い」とは思っていない。それが当たり前なんです。 

「男性のメイクアップ」の印象を変えていく

――皮脂分泌に対する調整のほか、メンズコスメだからこそ行った商品設計はありますか?

御後社長
ひとつ大切にしているのは、女性が使う化粧品の「行為」とは絶対的な違いが出るように設計しています。女性用のファンデーションであれば、コンパクトを開けてパフを持ち、顔に当てて塗布しますが、この動きが社会的に女性的なイメージを持っているので、男性には抵抗があると考えました。男性の普段の身だしなみは、髭を剃る、歯を磨くなど「握って使う」行為なので、ネイキッドコンプレクション バーはスティック状にし、そのまま塗布できるようにしています。

ネイキッドコンプレクション バー

いわゆるアイシャドウである「アイシェードトランス」に関しても、パッケージの下半分にあえて持ち手になる部分を付けています。それによって、普段男性が持ち歩くライターや携帯電話のような感覚で使っていただけるようにしています。デザインも含めて男性も違和感なく、それこそヒゲをそり歯を磨くように使っていただくことを目指しています。

アイシェードトランス

また、商品の仕様とは違うのですが、先ほどおっしゃられた「化粧に抵抗のある男性」がメイクアップに対してお持ちの印象を変えていくことも大切だと思っています。

――男性のメイクに対する抵抗感、固定観念はあるかと感じます。

御後社長
先ほど若い年代の方のお話をしましたが、最近はジェンダーフリー化していて、女性の男性っぽいファッション、男性の女性っぽいところを取り入れたファッションが自在に登場していて、入れ替わりがすごく早い。ですが、僕らの世代はどこかでそうした動きにはまだ抵抗感を持っているように思います。

最近は私自身が同年代の男性の前で、「FIVEISM×THREE」の商品を使ってみせることも多いです。みなさん、最初は「化粧をするのか…」と身構えるのですが、ささっとやってみせると、「なんだ、簡単だし、それほど大きく変わらないのか」と仰います。

――もしかして、男性の中には、化粧品を塗ると例えば肌が極端に白くなるようなイメージがあるんでしょうか。

御後社長
そうですね。顔の肌は白く、まぶたが青く、唇がピンクになるようなイメージをお持ちの方が多いようです。

「FIVEISM×THREE」のアイテムでも、唇に塗る「リップディフェンス」にブラックがあるんです。モノだけを見ると、塗ったらロック歌手のように唇が真っ黒になるのでは、という反応があるかもしれないですね。男性全般で言えばメイク用品に触れる機会が少ないので、見たままの色が発色すると思う方が多いのですが、このブランドの商品は基本的に発色は緩やかで、このブラックも唇の色を締める程度です。

リップディフェンス(ブラック)

これまでお話してきたような思いをお伝えするために、弊社ではメイクアップではなく「センスアップ」という言葉を用いてコミュニケーションを行っています。言うなれば、洋服と同じような感覚で化粧品を取り入れてほしいということです。

今、私もハイライト(鼻筋などに塗って顔に立体感を出す工程)を入れて、アイブロウを描いていますが、それとわからないくらいだと思います。日常に化粧を取り入れることは難しくないし、さりげなく行えるということを、センスアップという言葉と共に伝えていきたいです。

化粧がはじめての方にオススメするなら? との問いに、御後社長が選んだのは「アイブロウスティック」。スポーツの怪我や加齢などで欠けてしまった眉を補う程度にさっと入れられる。さりげない発色で描き味も良好という。
HIROKI氏のオススメは、「インジーニアスタッチ バー」。女性であれば化粧の仕上げに使うフェイスパウダーがスティックになったもの。男性は皮脂が多く「テカり」がちだが、これ1本で清潔感あるさらっとした肌を手に入れられるのが魅力という。「ネイキッドコンプレクション バー」に重ねても使える。

――冒頭お話されていた「ネイキッドコンプレクション バー」以外に売れ筋があれば教えてください。

御後社長
「ネイルアーマー」、マニキュアの売れ行きがいいみたいですね。

ネイルアーマー

HIROKI氏 
はい、こちらの想像以上にネイルアーマーの指名買いが多かったですね。プレゼント用途などももちろんあるんですけれども、「ネイルを見に来た」というお客様が多かったです。

前から男性用のネイルサロンもありましたし、いわゆる身だしなみとして、手元が見られているという意識が浸透しているのかもしれません。一時期はほぼ全店で欠品しているくらい、売れ行きは好調でした。

――人気色は?

御後社長
特に人気のあるのは01番。見た目は淡いピンク色ですが、塗ると透明に近い発色で、ツヤが出ます。女性用ネイルではすでに市場にあるような色味ですが、これまでネイルカラーを買って塗るという行為は男性にあまり浸透していませんでしたから、目新しかったのかもしれません。爪を綺麗に見せたい、身だしなみに気をつけたいという意味からすると、とても使いやすい色ですね。

その他のカラーについても、自己表現としてやってみたいという方が潜在的にいらっしゃったのかもしれません。それに、女性用のネイルカラーの多くは、男性が使うには抵抗のある色が多いとも思います。

御後社長のネイル。複数のカラーを、ラフに塗布していた。「ネイルに限りませんが、(男性のメイクは)仕上げが多少荒くても、自然に仕上がれば様になります」

――その他のアイテムも含め、カラー展開の方針は?

御後社長
ブランド立ち上げ当初なので、まずはベーシックな色をそろえました。今後はアグレッシブなカラーも展開していく予定です。

――11月下旬には東京・丸の内にTHREE含め2ブランドを擁した路面店を出されますね。今後の展開について、最後にお聞かせください。

御後社長
世の男性全員が、一瞬にして「FIVEISM×THREE」を買うようになる、という状況は、すぐには生まれないと思っています。なぜ伊勢丹新宿店メンズ館から、なぜ有楽町の阪急メンズ東京から販売をスタートしたか。そこが、日本で一番おしゃれで、感性のアンテナが高い人々が集まる場所だからです。

今のところ、大都市を中心に店舗を置いて情報を発信し、そこから伝播していくようなイメージで展開していければと考えています。全国、ひいては世界に薄く広く存在しているニーズを持つ人たちとはWebでつながるべきと思っていますので、ECで展開していくのがよいだろうと感じています。

このブランドから始まり、男性の化粧が文化として根付き理解が深まってくれば、もっと展開を広げてもよいとは思います。

――ありがとうございました。

そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

恋するSNSマーケティング講座 第2回

そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

2018.11.21

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第2回は、効率を上げるために必要な「ターゲティング」について

恋愛もマーケティングも、まずは「ブロードリーチ」が必要?

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

前回に引き続き、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さんに話を聞きます。今回もよろしくお願いします!

「恋愛とマーケティングは似ている」という前回の話に引き続き、今回もフェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんに、マーケティングを考える上で重要なことを聞いてきました。今回のテーマは、「ターゲティング」です。

闇雲にリーチを増やしても意味がない

「広告において重要なのは、できるだけ多くの人にこちらの情報を届けること。もちろん『数』だけではなく、誰に届けるかという『質』の部分も重要です」(丸山さん:以下、丸山)

広告の目的は、顧客となりうる層に商品やキャンペーンなどの情報を届けることであり、さらにいうと、最終的なゴールは“購入”などのアクションにつなげることである。

これを“恋愛”に置き換えると、「パートナーとなりうる層に自分の情報を届けて、最終的に“好きになってもらう、付き合う”などのアクションにつなげる」ことと言えるだろう。恋愛も広告も、まずは存在を認知してもらわなければ「コンバージョン」につながる確率はゼロのままだ。知ってもらわないことには、一向に話が始まらない。

とはいえ、絶対譲れない条件があるのに闇雲に合コンを重ねてもムダなように、広告でリーチする相手も「質」が重要だ。ターゲティング次第で広告の成果は大きく変わる。

「その点、FacebookやInstagramはユーザーデータに基づいて細かく広告を出す先を変えることができます。例えば30代を対象とした化粧品の場合、『都内に住む30代の女性で化粧品に興味を持っている層』にのみ広告を出すことも可能です」(丸山)

細かすぎるセグメントは時に機会損失につながるかも?

では、「量と質、どちらにウェイトを置くべきか?」というと、それはケース・バイ・ケースだと丸山さんは言う。大切なのはバランスなのだとか。

「商品のターゲットがF1層だったとして、最初からそこでバシッとセグメントしてしまうと、34歳から35歳になった途端、広告は届かなくなります。だけど34と35で人はそんなに変わりませんよね。セグメントすることで、実は機会損失になってしまっている、というケースも少なくありません」(丸山)

そこでオススメする方法の1つが、まずはターゲットを詳細に定めず広範囲で広告を出して、そこから反応のある層に絞ってアプローチをしていく方法だという。この方法で広告を出すことによって、機会損失の減少につなげられるとのこと。

Facebook、Instagramでは、広告に対する反応率をユーザー属性ごとに細かくチェックすることができるため、広範囲で広告を打った結果「30代に刺さると思っていたら、実際には20代の方が反響が大きかった」といったことがわかることも多いのだという。細かくセグメンテーションするのは、反響が大きい層の目星を付けてからでも遅くないというわけだ。

ちなみに丸山さん自身も、婚活においてこの「量」と「質」の罠にハマってしまった経験があるそう。

「昔は、国際感覚があって、ロジカルシンキングができて……など、色々と相手に求める条件を考えていました。でも、『自分が思うすべての条件を満たす人なんてこの世にいないんじゃないか』『そもそも本当にこの条件って必要なのか』といったことを考えはじめ、最近はあまり固く考えすぎない方がいいのかな、と思うようになりましたね」(丸山)

「マーケティングは得意なのですが、恋愛はまだまだ勉強中です……」

その後丸山さんは、まずは条件を細かく定めずに「月に10人と会う」ことを目指しているのだとか。好きな人探しの“ブロードリーチ期”というわけだ。

恋愛も広告も、タイミングが重要

ターゲティングに加えて意識しておくべきは、タイミングであるという。

恋愛においてもタイミングは重要で、相手が今どんな関係を求めているのかを意識して行動、関係性を築くことが求められる。

それは広告においても同じことが言える。セグメンテーションが適切でも、たまたまそのとき関心がないことは十分に考えられる。例えば、「若い女性に人気の旅行スポット」の情報を、ただ若い女性向けに配信しても、その人が旅行を計画しているタイミングでないと、思ったように刺さらない。ユーザーの質は良かったのに、タイミングを間違えたケースである。

「量」と「質」と「タイミング」を考えてターゲティングする――。なかなか難しそうに思えるが、これこそがFacebook・Instagram広告の得意分野だと丸山さんは言う。

「FacebookやInstagramには人ベースのターゲティングができ、リーチの数も質も親和性が高い形で届けることができるのです。ニーズが顕在化している層だけでなく潜在層にもリーチできるのが、Facebook・Instagram広告ならではのメリットです」(丸山)

広告は「一方通行」ではない

もっとも、自分のデータを勝手に参照されて広告が出ることを良しとしない人もいるだろう。興味のある記事を読んだり、シェアしたりしていると、その内容に似た広告が表示された、という経験がある人も多いと思う。ただ、Facebookではプライバシーセンター機能により、「見たい広告」「見たくない広告」を利用者側で設定することもできる。

これは、「広告は決して一方通行ではなく、広告主と利用者の『見たいもの』と『見せたいもの』がお互いにマッチすることによって、質の高い利用体験につながる」というのがFacebookの考えであるため。プライバシーセンターは、その世界を実現するための機能の1つだ。

***

今回は、マーケティングについて重要な「ターゲティング」の話を聞いてきた。しかし、「これで広告を届けるべき“質の高いユーザー”にリーチができるようになったから万々歳」……というわけにもいかないようで、次は「引きのある広告内容」について考える必要があるとのこと。

ということで、第3回では「効果的なクリエイティブのつくりかた」について聞いていこうと思う。

第3回「恋するSNSマーケティング講座」は11月28日(水)に掲載予定です

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

まるわかり! Credit Tech 最前線 第2回

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

2018.11.21

テクノロジーの進化によって誕生した新しい信用情報

サービス提供者と利用者、双方にメリットが生まれる可能性がある

金融サービスだけでなく、シェアリングエコノミーでの活用も

連載の第1回では、Credit Tech(クレジットテック)が盛り上がりを見せる背景について紹介した。第2回では、テクノロジーによって可視化されてきた“新しい”信用情報について、具体的な内容を紹介するとともに、クレジットテックが果たす役割について俯瞰してみたい。

クレジットテックにおける“新しい”信用情報とは

新しい信用情報を紹介するにあたり、まずは、社会信用システムが発展している中国において、信用スコア算出の事例としてよく登場する「芝麻(ジーマ)信用」を見てみよう。

芝麻信用とは、中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービスグループが開発した個人信用評価システム。「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」という5つのパラメーターを用いて、個人に350~950点の信用スコアを付与する。

芝麻(ジーマ)信用のイメージ。アント・フィナンシャルサービスのHPより

この5つのうち、「身分特質」「履約能力」「信用歴史」は“従来の”信用情報に該当する項目、「人脈関係」「行為偏好」は新しい信用情報に該当する項目だと私は考えている。

従来の信用情報とは、行政・銀行・信用情報機関といった信用の担い手が、以前から保有/利活用してきた信用情報のこと。例えば、預金や借り入れの状況、クレジットカードの利用履歴、居住地、職業、学歴などが該当する。

そして、新しい信用情報とは、テクノロジーの発展した現在において民間企業が担い手となって、生まれた信用情報である。例えば、どんな人とコミュニケーションをとっているのかといった「SNS上のつながり」だ。日本ではLINE、中国ではWeChat、世界的に見ればフェイスブックなどが、この情報を保有している。

また、一般消費における現金の動きも新しい信用情報にあたる。これまで、匿名性が高く、移動の履歴が残りにくいため、現金は精緻な利用状況が取得できなかった。しかし、キャッシュレス決済の登場によって、個人に紐付いた現金の移動を記録して追うことができるようになったのだ。2017年の中国の実績では、約1,362兆元(約22,901兆円)ものモバイル決済取引が行われている。

信用情報が多面化するイメージ

新しい信用情報がもたらす3つの価値

では、こうした新しい信用情報の出現により、どんなことが起きるのか。1つは、機会損失の解消だ。従来の信用情報のみに依拠していると、そうした情報を持たない、もしくは開示していない個人は、サービスを享受しにくい状況が発生していた。例えば、本当は支払能力があるにも関わらず、クレジットカード支払いの遅延歴があったために、住宅ローンを組めないというケースなどだ。ここに新しい信用情報が加わるとどうなるか。

ソフトバンクがみずほ銀行と合弁で立ち上げた、デジタルレンディング企業「j.score」を例に説明しよう。同社のサービスではまず、ユーザーは従来の信用情報に該当する項目に加え、普段の生活習慣など、複数の新しい信用情報を回答する。その結果、導き出された信用スコアに応じた条件で、融資を受けることができるようになるのだ。

これにより、従来であれば金融サービスを享受できなかった個人でも、サービスを受けられる可能性が出てくる。よりマクロな視点でみれば、金融包摂の文脈に該当する利点と言えよう。

J.Scoreの「AIスコア・レンディング」紹介動画

もう1つは、これまで以上に高付加価値のサービス提供が可能になることだ。従来の信用情報のみでは、年収の低い個人や、過去の売上データが芳しくない法人は、融資を受けられたとしても高金利にならざるをえなかった。しかし、住信SBIが提供する「レンディングワン」などのトランザクションレンディングサービスでは、企業の売上状況を新しい信用情報として参照することで、即日で最大1億円までの融資を低金利で可能にしている。

ほかにもメルカリでは、サービスの利用状況や評価の高さといった新しい信用情報を取得できるユーザーに対して、「メルカリ月イチ払い」という後払い決済サービスを提供している。

お金の貸し手が新しい信用情報を活用することで、借り手の信用をより精緻に推し量ることができるようになったからこそ、双方にとって、低コスト低リスクかつスムーズな取引ができるようになったのだ。

そして最後に、新しい信用情報は、その可能性を金融以外の領域に派生していけることにも価値がある。個人の嗜好性や行動の結果や人脈といったよりパーソナルな情報を精緻に可視化することから、金融に限らずとも、いわゆる信用によって成立するさまざまな領域で、商取引を活性化することができるのだ。

最たる例は、シェアリングエコノミーに代表されるCtoCサービス。貸し手、借り手ともに信用が重要なこの領域では、双方が安心して利用できるサービスを目指し、早期からSNSなどの情報が活用されていた。人材のマッチングにおいても、求職者のパーソナリティを推し量る多面的な指標として、キャリア以外の観点で新しい信用情報が活用されるようになるかもしれない。そのほか、当然マーケティングデータとしての活用も可能。電通やUFJ信託銀行の「DPRIME(ディープライム)」といった情報データ銀行の登場は、個人のパーソナルな信用情報をマーケティングに活用する動きを加速するものだと思われる。

信用情報の利活用に向けた各国の状況

個人の信用情報をどの主体がどう蓄積するかは、国や地域によっても扱いが異なる。中国では、行政や一部の企業が「社会信用システムの構築のため」として、個人の信用情報を中央集権的に掌握、管理している。これにより、急速なスピードで信用情報や信用スコアの活用が進んだが、スコアが低いために社会の利便性が極度に低下し、不利益を被る個人も一部出てきており、ディストピアと称されることもあるのだ。

一方、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報を「どの企業にどこまで渡すか」を意思決定できる状態になっていることから、中央集権的な管理ではなく個人に強く帰着される傾向にある。

個人データの蓄積方法や主体に違いはあれど、中国、欧州どちらも、個人データを利活用する土台が整備されてきていると言える。

今後、日本でも、個人の信用情報は、信用スコアの算定とそれに基づくサービスとして利活用されていくだろう。信用スコアに関する事業としては、ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社であるJ.scoreを端緒とし、すでにドコモも参入を公表している。

しかし現状の日本では、行政や企業が個人の信用情報を個別に保有しており、今年5月に改定された個人情報保護法の範疇では、匿名データにマスキングした形でしか、個人データの受け渡しや企業間の利活用はできない状況だ。今後、信用情報の利活用領域に対して、日本でもさらなる法整備を実施していくことが想定されるが、中国型、欧州型のどちらの発想になるかにより、サービスや受け入れられ方に大きな差異が生じることは間違いない。