魂動デザインは電動化で変わるのか? VOGUEとコラボするマツダに聞く

森口将之のカーデザイン解体新書 第6回

魂動デザインは電動化で変わるのか? VOGUEとコラボするマツダに聞く

2018.10.25

マツダとVOGUEが東京ミッドタウンでコラボ展示を実施

クルマのデザインも芸術の一部、アート写真との融合で新たな表情

マツダの前田常務に聞く魂動デザインの行方

芸術の秋、東京でもさまざまなアートがらみのイベントが行われる中、マツダがファッション誌「VOGUE JAPAN」と組んで、六本木の東京ミッドタウンで展示を行なっている。カーメーカーらしからぬ雰囲気のイベントをマツダが仕掛けた理由はなぜか。これからのカーデザインが進む方向性を含め、同社常務執行役員でデザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏に会場で聞いた。

マツダとファッション誌のVOGUEがコラボし、東京ミッドタウンで開催中の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2018」に出展

両者のコラボはイタリアで始まった

東京23区内で、デザインの素晴らしさを体験できる場所はどこか。六本木にある東京ミッドタウンは、そのひとつといえるかもしれない。とりわけ秋には、「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトとし、2007年から続いている「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」(デザインタッチ)と、60年以上の歴史を誇る「グッドデザイン賞」の受賞作品を集めた「グッドデザイン・エキシビション」が相次いで開催される。

このうちデザインタッチでは、自動車メーカーのマツダが毎年、東京ミッドタウンのエントランスにあたるキャノピー・スクエアで趣向を凝らした展示を行なっている。今年はVOGUEと組んで、クルマのデザインとアート写真を融合させた世界観を作り出した。実は両者、イタリアのミラノでコラボを行ったことがあり、今回の東京は2度目となる。

両者のコラボは今回で2度目だ

イベント初日の10月19日には、アーカイブフォトディレクターで「VOGUE ITALIA」のゲストエディターも務めるマイケル・ヴァン・ホーン氏が米国から会場に駆けつけ、マツダの前田常務とトークセッションを行った。

クルマのデザインも芸術である

前田常務によれば、両者がコラボするに至ったのは、イタリアのコモ湖畔で1929年から開催されており、自動車業界の3大アートイベントのひとつといわれている「ヴィラ・デステ」(正式名称はConcorso d’Eleganza Villa d’Este)がきっかけだったそうだ。

「今年のヴィラ・デステに、昨年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー『VISION COUPE』(ビジョン・クーペ)を展示することができました。VOGUE ITALIAをはじめ、ファッション業界の方も数多く来ていて、クルマを見て『きれいだね』といってくれました。そこで『コラボできないか?』などと話したことがきっかけで、ミラノで彼らとアートイベントを開くことになったのです」

マツダの前田常務

一方のマイケル・ヴァン・ホーン氏は次のように語った。

「前田さんの(ビジョン・クーペに対する)デザインアプローチは芸術です。多くの人は、アートというと絵画や写真などを思い浮かべがちですが、デザインもまたアートですし、アートとデザインは、どちらも時間や歴史を反映するものです。特に、周囲の風景を映し出すこのクルマ、とりわけ素晴らしいボディサイドは、そこにアートを見ることができます。我々がどこにいるか、我々が歴史の中のどこに存在するかを見ることができるのです」

マイケル・ヴァン・ホーン氏(画像)はニューヨークを拠点とするアーティスト紹介の代理店「アート・アンド・コマース」に所属。VOGUEとは「PHOTOVOGUE」という企画でコラボしているとのことだった

映り込みの移ろいに日本の美意識を見る

ビジョン・クーペについては、昨年の東京モーターショーに展示された際にも報告しているが、基本的なシルエットはオーセンティックなクーペとしつつ、特にボディサイドのリフレクション(反映)に気をつかったフォルムになっているところが特徴だ。単なる映り込みを超えて、周囲の環境をクルマが吸収し、それを反射することにより、環境と一体化していくことを目指したという。

前田常務に聞くと、ビジョン・クーペでこだわった点は、クルマが動いていくにつれ「リフレクションがドラマティックに動いていくところ」だという。一般的に、デザイナーは「ロジカルな面」を作りがちであるため、欧州車でも、ビジョン・クーペようにリフレクションが動いていくことはあまりないという。こうして繊細に光をコントロールすること自体が、四季があり、移ろいがある日本ならではの美意識ではないかと同氏は考えている。そんな部分に、マイケル・ヴァン・ホーン氏も感銘を受けたようだ。

リフレクションによりビジョン・クーペは、周囲の環境をも自らの一部としてしまっているかのようだ

「Car as Art」という言葉を大切にしながら、自らのデザイン哲学である「魂動(こどう)デザイン」を追求するマツダにとって、このようなコラボは「密かに望んでいた」ものだったと前田常務は明かす。意外に思えるかもしれないが、このようなアートイベントは今年が初めてだそうだ。

しかしながら、ヴィラ・デステからミラノに至るまでの道のりは、とんとん拍子だったともいう。「クルマに命を授ける」ことを目指す魂動デザインに対し、マイケル氏は「写真に命を吹き込む」ことが重要と考えていたそう。両者の間では「自動車も写真も同じなんだ」と話がかみ合い、コラボが具体化に向けて動き出したそうだ。

マツダがVOGUE ITALIAとコラボしたミラノの会場は、博物館として使われている伝統的な建造物だった。高い天井に合わせて大きなサイズの写真を並べ、センターにビジョン・クーペを置くことで、「モダン」「アート」「トラッド」を掛け合わせた、素晴らしい展示会場を作れたという。その時に展示した写真を今回、ビジョン・クーペとともに東京ミッドタウンに展示した。

ミラノでのコラボの様子

今回のイベントは、マツダ×アートの始まりを告げるものだ。前田常務は「マツダとしては、このようなアーティスティックなイベントは、この場だけで終わらせないつもりです。活動を続けることでカーデザインにさらに磨きをかけ、『マツダって味わい深いよね』と思ってもらえるブランドを目指したい」と明言。「今回はイタリアから日本という流れで話が展開しましたが、次回は逆に、日本から海外に展開するストーリーで、伝統工芸などの分野で活躍している若き匠とシンクロするなど、全く違うスタイルで展開できれば」とも語っていた。

電動化でロータリーエンジン復活! 魂動デザインに影響は?

いい機会なので、今後の魂動デザインについても前田常務に尋ねてみた。なぜ“いい機会”なのかといえば、マツダが先日、今後の電動化戦略について発表したばかりだからだ。電動化でマツダ車のカタチがどう変わるのかは気になる。

マツダは2018年10月2日に技術説明会を開き、今後の電動化に関する戦略を発表した。その内容は、2030年時点で生産する全ての車両に電動化技術を搭載するというもの。車両の構成比として、2030年時点でPHV(プラグインハイブリッド車)など内燃機関と電動化技術を組み合わせたクルマが95%、純粋なEV(電気自動車)が5%との想定も示した。EVには、マツダが得意とするロータリーエンジン(RE)を使ったレンジエクステンダーも搭載する方針だ。

筆者が記憶する限り、マツダが電動化について明確にアナウンスしたのは、これが初めてではないかと思う。これにより、魂動デザインはどう変わっていくのだろうか。

「パワートレインによってデザインが変わるという方向性については、私はネガティブな立場です。最近『EVらしい』デザインが世の中に蔓延していますが、それはデジタルなデザインになっているだけという見方もできるわけで、そうじゃない生き様もあるんじゃないかと個人的には思っているんです」(前田常務)

自動車が電動化していくからといって、デザインがそれに合わせる必要は必ずしもない、というのが前田常務の考えだ

EVはエンジンと違って、「吸排気」というプロセスを持たない。疾走する肉食動物をモチーフにしてきた魂動デザインとEVは、対照的な立場にあるとも思える。しかし前田常務は、そういった違いにより、カーデザインのヘリテージ的な部分をなくしてしまうのか、あるいは伝統的な魅力をリスペクトして深化させていくのかは、考え方次第ではないかと語る。そして話がロータリーエンジン(RE)の復活に及ぶと、口調が明らかに変わった。

「REならではのカタチへの想いは、個人的にはすごく持っています。現時点では何もコミットできないですが。今回は、EVのレンジエクステンダーという方向で進化させますが、これはロータリーの静粛性やコンパクトネスが最適だったためで、そういう方向性でポテンシャルを生かしていきたいと思っています」

ロータリーエンジンを載せるクルマのカタチについては、かなりの思い入れをもっている様子だった前田常務

マツダとVOGUE JAPANのコラボ展示は、東京ミッドタウンで10月28日まで見ることができる。この会場に足を運べば、次の魂動デザインのヒントを見つけることができるかもしれない。

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出典:M&A online データベース

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