パナソニックの映像制作会社が脚光を浴びる日、オリンピックや体験型消費が追い風

パナソニックの映像制作会社が脚光を浴びる日、オリンピックや体験型消費が追い風

2018.10.12

パナソニックの名を冠する映像制作会社「パナソニック映像」

プロジェクションマッピング需要、スポーツ需要の拡大で注目

映像コンテンツ領域でもパナソニックならではの強みで戦う

パナソニックには、映像コンテンツ制作を行う100%出資会社として、パナソニック映像がある。パナソニックグループ唯一の映像製作会社だ。

「映像先進企業」を目指す同社は、設立から25年間、長年にわたって培ってきたコンテンツ制作力とパナソニックが持つ先進技術を組み合わせて、最新の映像ソリューションや様々な場面で活用できる空間映像演出を提供している。

昨今ではプロジェクションマッピングの需要拡大や、スポーツイベントを中心としたパブリックビューイングの需要拡大によって、同社の取り組みに注目が集まっている。

そのパナソニック映像が、10月10日、11日の2日間、東京・有明のパナソニックセンター東京で、「パナ映展」を開催し、最新の映像ソリューションを紹介した。

ご存知でした? パナソニックの映像制作会社

パナソニック映像の宮城邦彦社長

パナソニック映像の宮城邦彦社長は、「映像コンテンツ制作を通じて、パナソニックの最先端技術を映像業界に提供する役割を担っているのがパナソニック映像。今後、パナソニック以外の外部企業との商談を拡大し、現在は3割の外部比率を、4割、5割と高めていきたい」と意欲をみせる。

パナソニック映像は、1990年に松下電器産業(現パナソニック)の宣伝事業部傘下として設立された「エクセルAVソフト」と、1970年にビクター、松下電器産業、TBS、電通によって設立された「パックインビデオ」の2社が前身となり、1993年6月に設立した。松下電器産業が1990年にMCAを買収してソフトウェア事業へと本格的に進出したタイミングとも重なったことで、映像コンテンツ制作において長年ノウハウを蓄積。パナソニックが、2006年に、MCAの株式をすべて売却したあとも、継続的に事業を進めてきた。

「パナソニックの冠をつけた企業は、1993年のJリーグのスタートとも設立したパナソニックガンバが最初。だが、現在ではガンバ大阪となっており、現存するパナソニックの冠につけた会社のなかでは、パナソニック映像が最も古い会社になる」と、パナソニック映像の宮城社長は胸を張る。

現在、社員数は108人。大阪・京橋に本社を置くほか、東京・品川の東京制作センター、中国・上海の松下広告有限公司を持つ。

新たな映像制作技術のラボとしての役割も

同社は、映像制作、空間演出、ポスプロ・撮影、番組制作の4つの重点事業で展開している。人工知能やARなど、パナソニックが持つ最新技術を活用することで、新たな映像制作へも挑戦する「映像ソリューションラボ」としての役割も担っているという。

たとえば、パナソニックの顔認証技術を活用して、放送コンテンツの顔やナンバー、ロゴなどを自動検出し、その部分を自動的にプライバシー保護。ここで特定の人以外はマスクをかけるという作業を、従来の手作業から自動化に転換するといったソリューションを開発している。

また、高精度3Dスキャン技術を活用して生成したデータに、ボーンを入れアバターとしてCG画像化するソリューションも開発している。これにより、ダンスのできない人が、アバターとして、アクロバティックなダンスまで披露できるという使い方が可能だ。

3Dスキャンをしたアバターがダンスを披露する
身体全体の3Dスキャンを行う装置。70台の4Kカメラで撮影する

特に力を注いでいるのが、バーチャルリアリティやドローンを活用した映像制作だ。社内には新規技術に取り組むR&Dグループと、新規ビジネスを創出するソリューショングループを設置しており、これら最新技術を活用した映像ソリューションに取り組んでいる。

フォログラムでの3D映像を表示するデモストレーション
様々な素材に対しても映像表示を行うことができる

今回のパナ映展では新たに、ゴーグルを使わないVR技術として「TRICK MAPPING」を公開。三つ投影面の組み合わせ立体感を持たせたステージにキャラクターを表示し、利用者の持つデバイスが位置関係を把握することで、それに応じてキャラクターを表示するアングルが変わる。このデバイスを高い位置にあげると上から見下ろした形になり、しゃがみ込むと下から見え上げる映像が表示される。「ゴーグルを使用すると、一人でしか体験ができないが、この技術を利用することで、多くの人が一度に体験を共有することができる」という。

ゴーグルを使わないVR技術「TRICK MAPPING」(c) UTJ/UCL
利用者が手に持つデバイスで位置情報を検出。それにあわせてキャラクターが動く

他にも新たな映像提案として、同社の体幹トレーニング機器である「コアトレチェア」とVR映像を組み合わせて、川下りをしているような雰囲気のなかで自然とトレーニングができるシステム。照明、音、気流、香りに映像を組み合わせて、眠りを誘引する仮眠環境システム。直径4.5メートルのドームに3D映像を映し出し、アクティブシャッター方式3Dメガネで視聴することで、花火の打ち上げ場所から上がった花火を見上げるといった、普段は体験できない映像を見ることができる高画質3D VRドームなども展示していた。

コアトレチェアとVR映像を組み合わせて、川下りをしているような雰囲気のなかで、自然とトレーニングできる。映像とコアトレチェアの動きはまだ同期はしていない
直径4.5メートルの3D VRドーム

一般回線で遅延なくライブ プロジェクションマッピング

今回のパナ映展で注目を集めていたのが、遠隔ライブ映像をプロジェクションマッピングし、映像だけでなく音声も遅延なく投影するソリューションの実演だ。

特筆されるのは、パナソニックのテレビ会議システムである「HDコム」を利用し、2点間の同期制御を実現したことである。

一般的に、遠隔地と結んだ映像の同期は、伝送の遅延を緩和するために専用線による回線確保が必要であるため、コストが上昇してしまうなどの課題があった。

今回のソリューションは、HDコムの技術を活用することで、一般回線を利用しながらも、映像や音途切れが発生しにくい安定した接続環境を維持する。ライブ中継にも使用できる高画質と高音質を実現しながら、低遅延のため、補正バッファリング容量を抑えることが可能になる。

「HDコムは、もともと会議用に開発された技術ではあるが、しゃべっている映像と音声がずれることなく表示され、違和感なく会議ができることにこだわってきた。AVタイミングが100ms周期で細かく制御されており、音声ラインに、タイムコード信号を一緒に乗せて伝送することで、オーディオ、ビジュアル、タイムコードの同期運用が可能になった」(パナソニック映像の宮城社長)。

遠隔ライブ映像を投影したプロジェクションマッピングのデモストレーション。映像と音声は品川からの中継

実演されたライブプロジェクションマッピング(Wonder Biz Media Entertainment TOKYO 2018)は、東京・品川のパナソニック映像 東京制作センターで演奏するバイオリン奏者の映像と音に、パナソニックセンター東京での音と光、映像を組み合わせて合成処理したもの。3台の超高輝度4Kプロジェクター(製品はPT-RQ32KJおよびPT-RQ22KJで構成)を使用して、東京・有明のパナソニックセンター東京の建物の壁面に1,200インチの映像を、床面に800インチの映像をそれぞれ投影した。

壁面1200インチ、床面800インチのプロジェクションマッピングを実現

品川のスタジオで演奏したのは、バイオリニストの依田彩さん。そして、パナソニックセンター東京では、音楽家の江夏正晃さんがDJとして出演。離れた場所にいる2人のミュージシャンが、見事にライブセッションを実現してみせた。

Wonder Biz Media Entertainment TOKYO 2018の様子

盛り上がるオリンピック需要、常識外の挑戦がしたい

パナソニック映像の宮城社長は、「東京オリンピック/パラリンピックの開催や、ワールドカップの開催などを通じて、パブリックビューイングやプロジェクションマッピングの需要が増大する。また、2020年以降のビジネス拡大に向けて、パナソニックグループ以外のビジネスも拡大していくことを狙っている。そのためには、これまで以上にコストパフォーマンスが高い形で、コンテンツ制作や機器の利用および運用が可能な仕組みを構築する必要がある。パナソニック独自のHDコムを活用したライブプロジェクションマッピングは、安価に、安定性のある映像の伝送を可能にするという点でも武器になると考えている」と話す。

パナソニック映像では、吹田スタジアムにおけるガンバ大阪のプロジェクションナイトや、東京・天王洲での天王洲活性化プロジェクトでのプロジェクションマッピング、大阪・門真のパナソニック歴史館/ものづくりイズム館でのプロジェクション投影などでも実績を持つ。

「イベント企業から、なぜこんなことを実現するのにこだわるのか、といわれるような常識外の挑戦もしてみたい。ライブプロジェクションマッピングは、その一例。既存の技術だけでは成し得ないものを成し遂げた。要望があれば、様々なことに挑戦をし、それを実現していきたい」と宮城社長は語る。

近い将来には映像機器だけではなく、映像コンテンツの領域においても、パナソニックが持つ技術を活用した、パナソニックらしい強さが見られるだろう。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。