「ノーベル医学生理学賞」、全日本人に響く受賞内容を振り返る

カレー沢薫の時流漂流 第11回

「ノーベル医学生理学賞」、全日本人に響く受賞内容を振り返る

2018.10.15

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第11回は、「ノーベル医学生理学賞の日本人受賞」について

今回のノーベル賞、日本人はノーベル医学生理学賞を本庶佑氏(と米国のジェームズ・アリソン氏の二氏)が受賞した。

ノーベル賞と言えば、「奥さんはこんな人で、こんな内助の功があったのです」という報道の仕方が、成人式で暴れる新成人の次にうんざりされていると思う。

もちろん内助の功が悪いわけではない。才能グラフが偏り過ぎていて、一般社会に放ったら野垂れ死ぬ人間(※個人の感想)を社会性のある者が支え、大きな成果を上げさせるというのは、パートナーシップとしてこれ以上の姿はない。

だが、一番にいう事じゃないだろう、という話なのだ。

本庶氏は一体何故ノーベル賞を取ったのか、その功績はどんなものなのか。その功績を有用なものにするために、今後どうしたら良いか、という内容の方が重要である。

しかし、ノーベル賞受賞者が挙げた功績の中には難解なものも多い。説明されてもそれがどうすごいのかさえわからず、「それより奥さんはどんな人?」と言い出したくなることがあるのも事実だ。

その点、今回の本庶氏の功績はわかりやすいかどうかは別として、我々一般人の関心を大きく引くものである。本庶氏の受賞理由は、「免疫を抑える働きを阻害することで、がんを治療する方法の発見」だ。

「がんの特効薬」報道への懸念

日本人の死因第一位は「がん」である。昔に比べ治療法が進化しているとはいえ、未だに「不治の病」であり、痛みが強く、それを治療する過程がまた苦痛というイメージがある。

「自分ががんになったらどうするか」。日本人なら一度は考えたことがあるのではないだろうか。私も罹っていない今なら「苦しいのは嫌だから痛みを減らして潔く死にたい」などと同人誌の女騎士みたいなことを言えるが、今までの人生、潔かったことなど一度もないのだから、実際罹ったらあらゆる治療法にすがってしまうかもしれない。

だが、治療はもちろん、「痛みを減らして潔く死ぬ」ことにも、多額の費用がかかるのではないか。がんによって起こる苦痛は肉体的なものだけではなく、金銭的にも大きいのだ。患者だけではなく家族にも大きな負担である。

つまり「がん」というのは、日本人すべてにとって脅威なのである。

それに対し、画期的治療法を見つけたと言われたら、その内容はわからなくてもとりあえず「でかした!」と膝を叩いて立ち上がってしまうだろう。

実は本庶氏らが発見したがん治療法は、すでにがん治療の現場で使われている。「オプジーボ」という「免疫チェックポイント阻害薬」を投与することにより、免疫にかけられたブレーキが解除され、がん細胞を攻撃できるようになるそうだ。

これらは「がん免疫療法」と言われ、従来の直接がんを攻撃する治療法と違い、元々人間の体にある免疫の力を利用してがんを攻撃する。実際効果を発揮した例もあり、今後がん治療の主力となることを期待されている治療法なのである。

つまり、「がんの特効薬」が開発されたわけではないため、がんに怯える一日本人としてテンションダウンは否めない。外国人4コマの4コマ目から2コマ目に逆戻りだ。逆に言えば、がん特効薬の実現に一歩近づいたとも言える。

しかし、今回の本庶氏ノーベル賞受賞のニュースの中には、あたかもがんを治す夢の薬が開発されたかのような報道もあるようだ。確かに、「今後がんを完治できるかもしれない治療法の第一歩的なものを踏み出した功績」と言われるより、「がんを治す薬を開発した」と言われた方が、「マ!?」と食いついてしまうのが人情である。

そして、食いついてしまう人というのは、今まさにがん治療をしている人だったりするのだ。実際、ノーベル賞報道以降、「あの治療法はできないだろうか」という問い合わせが増えているそうだ。

ただ、この免疫療法はすべてのがんに効くわけではなく、またすべての人が試せる治療法でもないという。

そういう人を、「新しいものに飛びつこうとする情弱」と言うことはできない。私のように「生きのびてどうすんの?」と聞かれて「わからん」と答える人間でさえ、がんに罹ったら、わらにもすがってしまうだろう。それが明らかに風呂に良く浮いている陰毛であってもだ。残して死ねない子どもなどがいたらなおさらだろう。

問題は、このノーベル賞受賞に乗じて、そういった「わらにもすがる思い」の人間を食い物にする者が現れるのでは、ということである。「あのノーベル賞を取った治療法」と謳って、保険適用外の高額かつ効果も定かではない自由診療を行うクリニックが増えることが懸念されている。

このたび本庶氏があげた功績が大きなものであることは確かだが、「ガンが治って身長が伸びモテるようになった」と札束風呂でダブルピースしているような、持ちあげすぎ報道には専門家も苦言を呈している。

誤った報道をするぐらいなら、「奥さんはこんな人で内助の功がすげえ」、という話を延々としているほうが、まだ平和なのかもしれない。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。