魅力的なVTuberの世界観とは - シロさん×ばあちゃるさん、VRインタビュー

魅力的なVTuberの世界観とは - シロさん×ばあちゃるさん、VRインタビュー

2018.10.10

TGS2018で電脳少女シロさんとばあちゃるさんのインタビューを実施

念願のE3生中継を達成したシロさんの次なる目標は?

魅力的なVTuberの世界観について、ばあちゃるさんが考えを述べる

日経ビジネス 副編集長の山中浩之氏は、おもむろにヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、バーチャルリアリティ(VR)空間へダイブする。

そこで待っていたのは、バーチャルYouTuber(VTuber)の電脳少女シロさんと、ばあちゃるさん。今まさに、VR空間でVTuberに対する公開インタビューが行われようとしているところだった。

山中氏「うわあぁぁぁぁぁぁぁ! すげぇ!」

叫ぶ山中氏。取材が行われた実際の会場には山中氏の目に映っている光景がまだ届いていないため、いったい何が起こっているのか分からなかったが、おそらく初めて足を踏み入れたVR空間に対して感動しているのだろう。

山中氏「これはすごい! 映像はまだつながりませんか? はやくこの様子をみなさんにお届けしたいですね」

とにかく興奮する山中氏。遊園地に来た子どものようなはしゃぎっぷりだ。

映し出された映像がこちら。左下のHMDを装着している男性が山中氏だ。右下が山中氏の視点である。ちなみにVR空間では、山中氏は藍色の髪の女性の姿でインタビューに臨んだ。Vtuber支援サービス「Vカツ」を使って、山中氏が自らアバターを作成したという

なお、インタビューは東京ゲームショウ2018(TGS2018)の「VTuberが切り開く新たな『XR』の可能性とは?」というセッション内で行われた。同テーマについて、直接VTuberに聞いてみようというわけだ。

グローバルなVTuberを目指すシロさん

山中氏「いやぁぁ、かわいいですねぇぇ~~。早速ですがシロさん、普段の活動内容を教えていただけますでしょうか」

まだまだ興奮気味の山中氏ではあるが、VTuber2人へのインタビューが始まった。

シロさん「はい、アイドルを目指すべく、踊ってみた動画やゲーム実況の動画を配信したり、テレビやイベントのMCをしたり、いろんなことに挑戦しています」

ばあちゃるさん「そうなんですよ、ハイハイハイハイ~」

質問に答えるシロさん

ちなみに、「VTuberって何?」という読者のために説明しておくが、VTuberとはさまざまな動画をYouTubeにアップするバーチャル上のキャラクターのことだ。最近は動画制作だけでなく、企業の宣伝を行ったり、テレビ番組に出演したりと、さまざまな取り組みを行っている。「それだけ聞いてもわからん」という人のために、動画のリンクを1つ貼っておこう。

VTuber・輝夜月のゲーム実況動画。ほかにも、声真似や絵描き歌など、さまざまな動画があるのでぜひ観てほしい。何なら、チャンネル登録してみてほしい

山中氏「シロさんは多方面で活躍されているようですね。デビューしてから大変だったことは何でしょうか」

シロさん「そうですねぇ、シロはデビューしてから1年経ったのですが、VTuberブームが来る前はあまりファンの方もいなくて大変でした。『誰か観て!』って感じでしたね」

ばあちゃるさん「ハイハイハイハイ~」

今では5000人を超えるVTuberが活躍しており、ファンの数も1400万人以上いるというが、ここまで市場が拡大したのはつい最近の出来事。2017年末ごろにブームが到来し、そこから多くのVTuberが登場したのだ。その話題性や影響力の高さから、最近では大手企業がプロモーションの一環として活用することもあるほど。弊誌でも、以前ロート製薬に取材を申し込んだ際、対応してくれたのがVTuberの根羽清ココロさんだった

山中氏「これから目指したいことはありますか?」

シロさん「海外のFPSやTPSのシューティングゲームがとっても好きで、先日海外のゲームイベントE3で日本語と英語を使った現地レポートを生配信しました。実はそれがやりたいことでもあったので、今は次の夢を1つずつ増やしていっているところですね。海外方面でも活躍できたらなぁって思ってます」

今回のインタビューが行われたのは2018年9月21日。約2週間後の10月5日には、その宣言通りに「Siro reported from Anime Expo 2018! - World Premiere of SSSS.GRIDMAN」という英語の動画がアップされていた。バーチャルとリアル、そして日本と海外を股にかけ、八面六臂の大活躍といえよう。

海外で行われた「Anime Expo 2018」の紹介動画。すべて英語で紹介されている

山中氏「ばあちゃるさん、さっきから何か言いたそうな様子ですよね」

ばあちゃるさん「そんなことないですよ~。これからたくさん質問くるかなぁ~と思って、準備運動してたんですよハイハイハイハイ~」

山中氏「そういえば、シロさん1歳の生誕祭では、バーチャル空間でカラオケ大会を開催したそうですね」

ばあちゃるさん「よく知ってますねぇ~。イヤイヤイヤ~。業界を盛り上げるべく、ほかのVTuberさんも呼んで定期的に大型のイベントを開いてましてね~ハイ。バーチャルカラオケのときも非常に盛り上がったんですよハイハイハイ」

シロ「ほかのVTuberさんと一緒に、バーチャル空間で人間みたいに遊ぶことができて、新時代の幕開けだ~って思いました」

ばあちゃるさん

リアルイベントでもバーチャル空間から参加できるVTuber

山中氏「確かに、だんだんTGS2018の会場にいることを忘れて、シロさんとばあちゃるさんと3人で話しているような感覚になってきますね。ところで、ビジネスっぽいお話も聞きたいのですが」

ばあちゃるさん「いいですよぉ~、山中さん! 何でも聞いてくださいねぇ~、ハイハイハイ」

山中氏「元々シロさんがゲームのキャラクターだったと聞いたことがあるのですが、事実ですか?」

ばあちゃるさん「えぇ~……。超答えづらいヤツきましたね。……えっと。まぁ、確かにですねぇ、運営会社が作っているゲームの主人公にすごく似ているという噂があるんですけど、なにも明かされないので、これはですねぇ、ご想像にお任せします! 山中さんブッ込んできましたねぇハイハイハイ~」

上記のやり取りについて説明すると、シロさんの運営を行うアップランドが発表したスマホ向けソーシャルゲーム『少女兵器大戦』に登場する主人公「兵姫シロ」が、シロさんの“元ネタ”なのではないかと、一部では噂になっていたのだ。ちなみに、ゲーム自体、発表はあったもののリリースされているわけではなく、開発がどこまで進んでいるのかはわからない状況である。

山中氏「ゲームを作ろうと考えていたとすると、シロさんが人気者になったところでゲームが出るのではないかと思えるのですが、そのあたりはいかがでしょう。いずれシロさんが登場するゲームが出ることもありそうですね」

ばあちゃるさん「ばあちゃるくん的に、もしそのようなゲームが出たらやってみたいと思うのですが、運営会社はVR関連に“お熱”なので、完全にゲームを放置してVRばかり作っているのではないかなと思います。そのうち、ゲームにもやる気出すかもしれないですけどハイハイ」

山中氏「なるほどそうですか。シロさんは多方面で活躍されていますが、VTuberに向いている仕事はあるのでしょうか」

ばあちゃるさん「今回もそうですが、我々は現地にいるわけではなく、電脳世界からつながっています。シロちゃんも過去にアメリカのイベントにお呼ばれしたことがあるのですが、実際にアメリカに行くことなく電脳世界から中継を配信することができましたハイ。世界中のリアルイベントに参加できることは、VTuberの大きなメリットだと言えるのではないでしょうか」

山中氏「逆にデメリットは?」

ばあちゃるさん「デメリットとしては、まだまだイベント運営の知見がないところだと思いますねハイハイハイ。ただですねぇ、その点手前味噌ですが、シロちゃんはVTuber業界で一番と言っていいくらいリアルイベントをこなしています。コンサルティングまでやってくれたりくれなかったりしますよハイハイハイ~。山中さん仲良くしましょうね~」

個性と設定が魅力的なVTuberを作る

山中氏「では、プロデューサーとしてのばあちゃるさんにお聞きしたいのですが、VTuberの世界観はどういう点を大事にしていけばいいと思いますか?」

取材をする山中氏。VR空間では美少女だ

ばあちゃるさん「なかなかシビアなところをついた質問ですねぇ。あくまで、ばあちゃるくんの所感ですよハイ。個人の場合は、え~、なんといえばいいんですかねぇ。VTuberさんを構成する魂の部分とでも言いましょうか、その体験などに依存されます。企業さんの場合は魂の方々がそこまで影響しないので……、設定とかをですねぇ…しっかり考えることが多いわけですハイ。個人的にはハイブリッド型がいいと思っているので、そこを目指したいですね。魂の輝きにも依存しながら活動していくのことが、みなさんが楽しめる世界観の共有になるのではないかなと思います。言葉を選んでいるので、ちょっと伝わりづらいかもしれませんがハイハイハイ~」

ばあちゃるさんは口ごもりながら話していたが、要するに個人でVTuberを運営している場合は“中の人”の経験などが個性を生み出し、企業が制作している場合はしっかり“キャラ設定”を行う傾向が強く、理想的なのは「キャラ設定と“中の人”の魅力が掛け合わされること」という理解でいいだろう。

山中氏「これから先、シロさんのようなバーチャルタレントが増えていくと思いますか。ゆくゆくは実際のタレントさんの仕事を、VTuberが置き換えるようなことも起きるのではないでしょうか」

ばあちゃるさん「こちらも個人的な所感ですが、直近では置き換わることはないと思います。でも、5年後とかはわかりませんよハイハイ。ガラケーを使っているときにスマホがここまで普及するなんて思わなかったのと同じで、未来のことはわかりません。今タレントさんがやっている仕事をVTuberが行うようになるかもしれませんし、今のタレントさんがバーチャルでも活動するようになるかもしれませんね。可能性としてはゼロではないでしょうハイハイハイ」

山中氏「もしそうなったら、シロさんはどのような活動をしたいと思いますか?」

シロさん「シロはいつも、応援してくれるファンの人をいろいろな場所に連れて行ってくという気持ちで活動しています。これからもファンの方と一緒に、VTuberの文化を作っていければいいなって思います。そのためにもいろいろなことに挑戦していきたいですね」

山中氏「なるほど、わかりました。いやぁ、実際にやってみて驚きましたが、普通に話すことができますね。本日はどうもありがとうございました!」

最後は3人並んで記念撮影。操作のおぼつかない山中氏はうまく直立することができなかった

加熱していくVTuber業界。ゲーム実況や歌ってみた動画などの配信が活動の中心ではあるが、なかには新型iPhoneの発表会に登場したり、株主総会の事業報告をしたりと、多方面で活躍するVTuberを目にする機会が日に日に増えている印象を受ける。VTuberのポテンシャルの大きさに驚かされるばかりだ。シロさんも話していたように、VTuberが新時代を切り拓いていく可能性は高いのではないだろうか。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。