"着る"空間「WEAR SPACE」製品化へ 巨人・パナソニックがアジャイル開発に挑む

2018.10.04

パナソニックから既存製品カテゴリ「外」のプロダクトが登場

パナソニックブランドは用いず、クラウドファンディングを開始

大企業にベンチャーマインドを注入するためのプロジェクト

集中力を高めるためのウェアラブルデバイス「WEAR SPACE」。ややSFめいたような、見慣れない形状が目を惹くが、これはスタートアップ企業ではなく、家電業界の巨人・パナソニックから生まれた製品だ。

同製品は「WEAR SPACE project」発の製品として、クラウドファンディングで資金調達を行い、量産に着手する。パナソニックブランドを用いないプロジェクトとしてスタートしたその理由について、発表会の場で話を聞いた。

コワーキングの裏にある「一人作業」ニーズ狙う

パナソニックアプライアンス社 デザインセンター所長 臼井重雄氏

今回「WEAR SPACE」を企画したのは、パナソニックの中でも家電を手がけるアプライアンス社内のデザインチーム「FUTURE LIFE FACTORY」。同社 デザインセンター所長 臼井重雄氏の肝いりで立ち上がった所長直下の組織で、若手デザイナーのみで構成されている。

パナソニックでは製品ごとにチームが分かれており、たとえば炊飯器のチームが新製品を作る場合は、従来品をベースとした性能向上など、リニューアルのような格好で開発を行う。それとは逆に、既存の製品カテゴリと結びつかない、ゼロベースの製品開発を行うのが「FUTURE LIFE FACTORY」だ。

パナソニックアプライアンス社 デザインセンター 新領域開発課 FUTURE LIFE FACTORY 姜 花瑛氏

「WEAR SPACE」は、ノイズキャンセリング機能を搭載したワイヤレスヘッドホンと、ファブリックパーティションを組み合わせて出来ている。水平視野を6割カットし、目の前の作業への集中を促進するという。専用アプリでノイズキャンセリングを3段階で変更可能で、Bluetoothによる音楽のワイヤレス再生にも対応する。

開発の背景には、働き方改革により、パナソニックはじめ大企業の多くでフリーアドレスが導入されたことにあった。コワーキングがトレンドになる一方、一人で集中したいシーンは誰しもあるが、オフィス内に個人用ブースを確保するのはなかなか難しい。そうしたニーズを解決するためのプロダクトとして、「WEAR SPACE」が生まれた。

実際に装着してみたところ、装着時に「重い」と感じることはなく、側圧のみで固定された。現在、ヘッドホン部分はパナソニック製品を組み込んでいるが、製品版で同様の仕様とするか、同社傘下のshiftall(後述)が一から製造するかは現在検討中とのこと

コアターゲットは、ソフトウェアエンジニア、Webデザイナーなど、仕事道具にこだわりを持つデスクワーカーを想定。FUTURE LIFE FACTORY・姜氏は、「それ以外の人たちにも、図書館やスポーツ選手の集中、漫画家、漫画喫茶、図書館などで活用いただけるのでは」とコメントした。

先ほどの発言で、姜氏が多様な活用シーンを想定した裏には、製品化が決定する前に、「SXSW 2018」などのイベントで「WEAR SPACE」を展示したことで生まれたコラボレーション企画にある。

たとえば日本酒のテイスティングを行う「YUMMY SAKE」とのコラボレーションでは、味覚に集中するために「WEAR SPACE」が使われた。また、ASD、ADHDボランティア「tentonto」とのコラボレーションで、ASD、ADHD当事者の装着感を実際に聞き取ることもできた。

大手メーカーとしては、開発過程をオープンにするのは異例のこと。だが、それによって開発側だけでは想像していなかった利用例が生まれたと語った。

量産を手がけるのは「帰ってきた」スタートアップ

「WEAR SPACE project」では、企画・デザインをFUTURE LIFE FACTORYが手がける一方、設計・製造・販売はパナソニック本体ではなく、その傘下のshiftallが手がける。

shiftall CEO 岩佐琢磨氏

shiftallは、「1/8タチコマ」などの製品で知られるハードウェアベンチャー・Cerevoの元CEOである岩佐琢磨氏が代表を務める、ハードウェアのアジャイル量産を手がける企業。キャリアをパナソニックからスタートし、独立してCerevoを立ち上げた岩佐氏にとって、古巣に帰ってきた格好となる。

企画と製造を分けた体制のメリットは開発期間の短縮。パナソニック社内で前例のない新製品を作るには「2年程度かかるケースもある」(姜氏)とのことだが、shiftallが設計・製造・販売を手がけることでその期間を短縮。約10カ月程度で製品化が可能になるとした。

また、岩佐氏はパナソニックに限定しない、メーカー系大企業についての話と前置きした上で「大企業がなくしたもの」と題したプレゼンを展開。「カッティングエッジなプロダクト」「小さなロットで迅速に市場投入するノウハウ」「ノンシリアル(非連続)なイノベーション」がそれにあたるとした。

「WEAR SPACE」について、「音楽を聴く機具から、集中するための機具に大きくアプローチを変えた」点が面白い、と語った岩佐氏。こうしたゼロからイチを生み出すような取り組みが最終製品に結びつくのは(大企業においては)難しいため、同プロジェクトの成り行きが、パナソニック内部にスタートアップマインドを作る上でも重要になると語った。

目標金額は1500万、実物展示も実施

「WEAR SPACE project」のクラウドファンディングは、10月2日からスタートしている。利用したサービスは、CCCの「GREEN FUNDING by T-SITE」。期限は12月11日まで、目標調達金額は1500万円。2019年8月以降にリターンとして製品を届ける想定だ。製品価格は3万5000円だが、支援プランによって割引が設定されている。

「ワークスタイリング 東京ミッドタウン」では、「WEAR SPACE」を体験できる

「WEAR SPACE」の実物は、発表会の行われた「ワークスタイリング 東京ミッドタウン」や「RELIFE STUDIO FUTAKO」「代官山ティーンズ・クリエイティブ」(Designart 2018開催時)など、都内各所で展示を予定している。

「これまで、デザインの提案は悪く言えば"絵に描いた餅"で、社内で提案して却下されたらそこで終わっていた」と姜氏。だが、今回のプロジェクトでは、クラウドファンディングで製品のあり方を市場に問いかけることで、新たな事業機会を素早く検証することを目的としている。最終的にはパナソニックが既存事業にとらわれない新商品を次々生み出せるような会社になっていければ、と抱負を語った。

また、shiftall・岩佐氏は、在席当時からパナソニックがどう変わったかという質問を受けて、「トップが危機感持っていること」と回答。同氏が退職した当時(2007年ごろ)、薄型テレビの好調で業績がV字回復している時と比較して、良い意味でトップダウンが効き始めていると評価した。その一方で「相変わらず(新規事業に対して)ブレーキ役も多い」とも指摘し、同社の関与によって、新事業の創出を後押ししていく姿勢を見せた。

クラウドファンディング開始から一夜明けた10月3日、最も安価に製品を入手可能な「Super Early Bird」プランは、定員100名に達していた。好調な出だしのまま進むことができるか、今後の動向にも注目したい。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。