eスポーツとマネー、課題に向き合うプロチームと大会運営者の想い

eスポーツとマネー、課題に向き合うプロチームと大会運営者の想い

2018.10.04

eスポーツのマネタイズは大会運営者にとっても悩みのタネ

きっかけを提供するコンテンツでファン拡大を目指す

今後必要なのは、スター選手の存在とeスポーツを身近に遊べる環境

eスポーツへの注目が高まりつつある現在。腕の立つプロゲーマーだけでなく、大会を運営するイベント会社や動画を配信する映像会社、スポンサーとしてサポートする企業など、さまざまなプレイヤーがeスポーツに参入し始めている。

東京ゲームショウ2018(TGS2018)では、「プレイヤーとゲーム会社、eスポーツ大会の幸せな関係とは?」というテーマのセッションが開催され、CyberZ 取締役の青村陽介氏、DetonatioN Gaming CEO / Sun-Gence代表取締役の梅崎伸幸氏、ウェルプレイド 代表取締役/CEOの谷田優也氏、RIZeST 代表取締役の古澤明仁氏、よしもとスポーツエンタテインメント 代表取締役社長の星久幸氏の5人が、それぞれの考えを述べた。

モデレーターを務めたのは、日経トレンディネット/日経クロストレンド 記者の平野亜矢氏。本稿では同セッションの様子を紹介する。

行政を巻き込めるかがカギ? 課題の多いマネタイズ面

日経トレンディネット/日経クロストレンド 記者の平野亜矢氏

平野氏「日本のeスポーツは、まさに勃興期。今後ますます、盛り上がっていくことが予想されますが、日本ではどのようなカタチになっていくと思いますか? ファンが大会に足を運んで盛り上がる海外のようになるのか、はたまた日本独自のカタチがあるのか。お考えをお聞かせください。ではまず青村さん、いかがでしょうか」

青村氏「私は『RAGE』というeスポーツイベントを実施しているのですが、海外を参考にすることは少なくありません。ただし、必ずしも海外のカタチをそのまま日本で再現する必要はないでしょう。PCゲームの多い海外と、モバイルやコンソールが主流の日本ではプレイや視聴の文化も違いますからね。海外は熱量が高くてうらやましく思うことはありますが」

CyberZ 取締役の青村陽介氏

平野氏「大会運営やスポンサー企業のプロモーションなど、eスポーツを総合的にプロデュースされてるRIZeSTの古澤さんはいかがですか?」

古澤氏「ネットでeスポーツのイベントを検索すると、海外の華やかなシーンが出てくることが多いかもしれませんが、青村さんのおっしゃる通り、日本には独自に築いてきた文化や生活様式があります。受け入れられるものなども違うでしょう。日本人の好むエンターテインメントのカタチがあるはずです」

RIZeST 代表取締役の古澤明仁氏

平野氏「最近はeスポーツがメディアに取りあげられる機会も増えたと感じています。プロチーム『DetonatioN Gaming』を運営されている梅崎さんにお聞きしたいのですが、注目されるようになったからこそ感じる課題やハードルなどについて教えてください」

梅崎氏「日本では現在約45のプロチームがあります。そのなかでちゃんと食べていけるのはわずか3~5チーム程度。その点は正直海外とは比較になりません。私も四苦八苦しているところですが、マネタイズの仕組みをどうやって作るかが大きな問題です」

DetonatioN Gaming CEO / Sun-Gence代表取締役の梅崎伸幸氏

 平野氏「マネタイズしていくうえで、クリアしなければならない問題は何だと思いますか? スマートフォンタイトルを中心に、イベント企画や番組制作を実施されているウェルプレイドの谷田さん、いかがでしょう」

谷田氏「やはりIPの存在でしょう。メーカーさんの立場では、ゲームを1本でも多く売ることが大事です。自社の持ち物としてやっていきたい気持ちもあると思いますが、協力していかなければならない部分もあるはず。その折り合いをどうつけていくか、悩んでいると思います。例えば、アニメの製作委員会ではないですが、タイトルをみんなで盛り上げていき、収益を分配できるような方法を模索していく必要があるでしょう。また、タイトルの継続率を高めることも大事です。スマホゲームは特に顕著で、リリース初日に1000万ダウンロードされたタイトルでも、翌日誰も遊んでいなかったら意味がありませんからね」

ウェルプレイド 代表取締役/CEOの谷田優也氏

古澤氏「谷田さんがおっしゃる通り、ゲームを継続するための動機付けは各イベント会社、ゲーム会社、チーム、プレイヤーが一緒に作っていかなければならないでしょう。もう1つ必要だと考えているのが、『eスポーツ+α』ですね。たとえば、『eスポーツ×地方創生』や『eスポーツ×雇用創出』といったモチベーションづくり。お隣の韓国では、行政や公的な機関を巻き込んで毎年何十億円という予算が付いています。それを使って毎日気軽にeスポーツに触れられるインフラ作りをしているわけです。日本もそこをブレイクスルーできれば、大きなチャンスが生まれるのではないでしょうか」

選手の魅力を伝えることで、eスポーツに触れるきっかけを提供したい

平野氏「野球やサッカーは、身近なスポーツとして誰でも気軽に触れられるものです。その点はeスポーツと異なる点かもしれません。よしもとスポーツエンタテインメントでは、リアルスポーツも多く手がけられていますが、星さんから見て、両者の違いはどこにあると思いますか」

星氏「スポーツ興行はプレイヤーがいて、支える人たちがいて、観る人がいることで成立します。日本のeスポーツシーンを見ると、まだ観る人が育っていないという印象ですね。ファンが育たないと、クローズドな状況のままで外にいる人たちをうまく取り込めません。eスポーツはどういうものかというだけでなく、選手のストーリーなど裏側を伝えて、『ゲームはやったことないがeスポーツはおもしろそうだから見てみよう』という層を増やしていくことが大事だと思います」

よしもとスポーツエンタテインメント 代表取締役社長の星久幸氏

平野氏「ファンの拡大は皆さん共通で感じている課題かもしれませんね。青村さんはいかがでしょう」

青村氏「小さい頃、『TVチャンピオン』という番組が好きでした。あれって、大食いのプレイヤーでなくても見てしまいますよね。『TVチャンピオンだから観る』わけであって、必ずしもその競技自体に興味があるから観るわけではないわけです。我々の手がけている『RAGE』もそういう存在になれればいいなと思っています。とはいえ、ベースには『そのゲームだから観たい』もあるはずなので、タイトルをないがしろにしてはいけません。それ+αの要素で、興味を持ってもらえるようにしたいですね」

谷田氏「『TVチャンピオン』の喩え、いいっすね。今でいうと『アメトーーク!』がまさにそれで、知らないことを知るきっかけになると思います。やはり、行き着く先は人。eスポーツで何をしているかよりも、どんなプレイヤーがどんな想いでゲームをやっているのかを伝えたい。結局、好きなものが同じとか、地元が一緒とか、そういうレベルでも、eスポーツを観るきっかけになると思うんですんよね」

当事者が考える“これからのeスポーツ”

平野氏「これからeスポーツの発展に向けて、注力していくことなどがありましたら教えてください」

青村氏「やりたいことはスター選手を生み出すことに尽きますね。それがeスポーツ普及のきっかけになると思っています。いま議論しているのは、敗者にインタビューをするか否か。勝者を描くのは普通のことですが、敗者にももちろんドラマがあります。私が名付け親ではありませんが、そもそも『RAGE』とは強い怒りなどの感情を表すもの。敗者にもスポットを当てていきたいと思います」

梅崎氏「私も負けた選手は映してほしいと思います。我々のチームは、リーグ・オブ・レジェンド(LoL)で“絶対王者”と呼ばれており、リーグを1位通過しながらも、結局プレイオフで負けてしまうという状態が続いていました。去年のイベントでは負けてしまった後、ファンにあいさつする際に、選手が泣き崩れてしまうシーンがありましたが、そのようなところも、ファンに応援したいと思ってもらえるポイントになると考えています。将来的には、選手たちをどう育てていくのか、技術の継承に関する取り組みをしていきたいですね」

谷田氏「eスポーツを近くに感じられる空間を、どうやって作れるかを考えているところです。その取り組みの1つとして、先日イオンエンターテイメントさんと業務提携を発表させていただきました。全国のイオンシネマでポップコーンを食べながら、気軽にeスポーツのコンテンツを楽しめるように話を進めています。また、バーチャルYouTuberのキズナアイとの連携も予定しており、もっとカジュアルにeスポーツを楽しめるきっかけを作れればいいなと考えています」

古澤氏「やらなければならないことはたくさんあります。まずは継続することが本当に重要。そしてeスポーツを経済的なものにする取り組みとして、スポンサーのモノやサービスが売れる仕組みづくりを開発して、提供していきたいと考えています」

星氏「ちょうど、渋谷にある『ヨシモト∞ホール』でeスポーツのイベントを行えるように、設備を改修しているところです。そこでいろいろなことを実験的にやっていきたいですね。今ここに並んでいる5人は競合でもあるのですが、まだ競い合う土壌ができていないと思っているので、まずは競い合うための土壌づくりを進めたいと思います」

「どんなプレイヤーがどんな想いでゲームをやっているのかを伝えたい」と語った谷田氏だが、今回のセッションを通じて、「どんな想いで、プロチームや大会運営者たちがeスポーツを盛り上げようとしているか」が伝わったのではないだろか。まだまだ課題は残るが、高い熱量がより多くの人の心を動かしていくはずだ。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。