タニタ、

タニタ、"生涯現役社会"に向け新サービス立ち上げ 国の健康政策への組み込み視野に

2018.10.02

タニタ、健康寿命の延伸狙う「健康プラットフォーム」立ち上げ

官民ファンドのINCJから多額の増資、いずれは政策へ活用か

パートナー企業4社と連携し、2019年より実証実験

タニタとタニタヘルスリンクは9月28日、INCJ、イトーキ、SBI生命保険、日立システムズの4社を引受先とする総額35億円の第三者割当増資を実施し、契約締結が完了したことを発表した。

タニタらは「健康プラットフォーム」を構築し、パートナー企業とともに新たなヘルスケア事業を2019年度中に展開する予定だとしている。ここでは、同日、マンダリンオリエンタルホテル東京にて開催された記者発表会の模様をお伝えする。

「いずれは国の健康政策に貢献したい」

タニタ代表取締役社長の谷田千里氏

今回、タニタらが展開する新しいヘルスケア事業は、各社が持つヘルスケア関連情報やサービス、システムなどを融合させ、東京大学と連携して、誰もが利用できる新たな健康プラットフォームの創出を目指すもの。その第一弾として、2019年度に岡山市で実証実験を始める。

発表会の冒頭では、タニタ代表取締役社長の谷田千里氏が登壇し、今回の増資にあたっては官民ファンドのINCJから多大な支援を受けたことを明かし、「国内における健康サービス産業を創出せよとの大きな期待の表れである」と強く認識したという。

そして「国が推進する公的保険外の領域におけるヘルスケア分野の産業化やデータヘルス計画の受け皿となるべく、産・官・学が連携し、誰もが参加できる健康増進のインフラ作りに取り組んでいく」と意気込みを語った。

「健康プラットフォーム」によって生まれる新たな健康サービス

また、「国内のあらゆる企業、団体、アカデミアなどその垣根を越えて連携するオープンプラットフォームによって健康課題を解決できれば、この分野で世界を大きくリードすることができる」と断言。「今回構築する健康プラットフォームは、国民の健康データをビッグデータとして、健康寿命延伸に向けた多くの方々のさまざまな取り組みに活用できる可能性がある」とも述べた。

さらに「この健康プラットフォームが日本の公的資産として国の健康政策に役立てていただくことを視野に入れている」と展望を語り、「"生涯現役社会"の実現へ向けた大きな挑戦がいよいよスタートします」と挨拶を締めくくった。

タニタヘルスリンク代表取締役社長の丹羽隆史氏

次に、タニタヘルスリンク代表取締役社長の丹羽隆史氏が登壇。今回構築を目指す健康プラットフォームは、検診やレセプト、健康情報などから疾病リスクを可視化し、個々人の生活スタイルや趣味嗜好から簡単・楽しい・続けたいと思えるコンテンツで行動変容を促し、利用者を健康にしていくものであると説明した。

自分に合ったかかりつけ薬局、保険、服、食事などによって、利用者自身の健康を守れるような情報をワンストップで提供するプラットフォームを目指すという。

 

「平均寿命」と「健康寿命」の差は男性で9年、女性では約13年。

また、同プラットフォームを作ろうと考えた要因のひとつに、日本国民がこのまま不摂生な生活をし続けることで医療費が増え続け、健康保険制度を維持することが難しくなるであろう状況に危惧を抱いたことを挙げた。

さらに「平均寿命」と「健康寿命」の差(病気や寝たきりの期間=介護を受け生活する期間)が、男性で9年、女性では約13年もあるとし、医療費適正化や健康寿命の延伸のためにはさまざまな世代での生活習慣病予防に向けた取り組みが重要だと述べた。

「健康無関心層」にも満足を得られる健康づくりサービスを提供

従来の健康サービスでは、健康診断の結果をもとに指導されるが、楽しくなかったり続かなかったりして、成果が出ないといった課題があった。今回、タニタが提案する健康サービスは、約3割いると言われる「健康関心層」の人々には成果をさらに伸ばしてもらい、残り約7割の「健康無関心層」の人々にはゲームや園芸、旅などのコンテンツ群を入り口にし、楽しみながら健康になる行動をとってもらう。その結果として、自分の体形や体組成は変化し、いつのまにか健康になれるという仕組みだ。

次に、健康プラットフォームの参画法人やアカデミアの役割についての説明に移った。

タニタヘルスリンクは、体組成計や活動量系などのハード、WEBサイトやアプリを用いた健康管理サービスおよび専門家によるセミナーなどのソフト、そしてタニタ食堂の企画・運営などの食事といった側面から、人々の健康づくりを促進する健康サービスをトータルで提供する。

タニタヘルスリンクの役割

丹羽氏は「健康プラットフォームの解析エンジンやコンテンツを、既に提携している150以上の自治体や企業にに加えて、自治体、健康経営を進める企業など計300以上の団体に提供したいと考えている。地方創生推進交付金を活用したモデルによって、自治体だけで200以上を目指す」とし、「裾野の広い健康領域をひとつの企業集団でカバーすることは不可能だが、多くの企業の賛同を得て手を携えることで領域全体をカバーし、無関心層にも届くサービスを構築していく」と述べた。

最後に「タニタヘルスリンクは"日本をもっと健康に"を目的に、思いを共有いただける企業をつなぐハブの役割を、この健康プラットフォームにおいて担っていく」と説明した。

パートナー企業・大学、参加の動機は

東京大学COI 自分で守る健康社会拠点 機構長の池浦富久氏

次に、タニタヘルスリンクも参画している、東京大学COI 自分で守る健康社会拠点の機構長・池浦富久氏が登壇。人生100年時代でいちばん大事な"健康の自分ごと化"を達成するために、同機構では自分のリスクをしっかり把握し、それを可視化し、何をすればいいのかをアドバイスするような一連のアプリケーションを開発しているという。

池浦氏曰くこれは「"ドラえもんの健康ポケット"のようなもの」で、「健康の考え方は人によって千差万別で色んなサービスを用意しなければいけないが、健康プラットフォームでこのアプリケーションの"健康ポケット"をさらに増やしていただき、国民の一人ひとりに適したアプリケーションにしていきたい」と述べた。

将来の生活習慣病リスクを可視化し、生活習慣や趣向に基づいたアドバイスを自動化するアプリケーション「カラダ予想図」

続いて、東京大学大学院工学系研究科 特任助教・医師の岸暁子氏から、同機構が開発しているプログラム「カラダ予想図」に関しての説明があった。

東京大学大学院工学系研究科 特任助教・医師の岸暁子氏

これは、検診データやレセプトデータ、健康情報から個人ごとの現在・将来の生活習慣病(メタボ、脂質異常症、糖尿病、高血圧症、慢性腎臓病、虚血性心疾患など)のリスクを可視化するとともに、本人の生活習慣や趣向に基づいたアドバイスを自動化するものだ。

同プログラムによってリスクが可視化されることで、自らの気づきによる自発的な動機付けとなり、行動変容を促進するとのことだ。今後はこの健康プラットフォームによってデータ連携の充実を図り、個別化された保健医療サービスの実現を目指すという。

最後に「データを集めることは非常に大変なことなので、健康プラットフォームには期待しています」とエールを送った。

INCJ マネージングディレクター・板橋理氏

そして、健康プラットフォームに資金・経営面でサポートするINCJのマネージングディレクター・板橋理氏が登壇し、今回出資に至った経緯について説明した。

同社は経済産業省(以下、経産省)と連携して投資活動を行っている。新産業構造ビジョンでは、健康寿命について、2020年までに1歳以上、2030年頃に5歳の延伸を政策目標のひとつとして掲げている。

その実現のために「個人が生涯にわたり健康関連データを経年的に把握できるリアルデータプラットフォームの構築」や「行動変容を促すためのインセンティブ設計」が含まれているとした。

さらに官邸から発表された未来投資戦略の中に、「次世代ヘルスケアシステムの構築」が掲げられ、「自らの健康状態や服薬歴等を把握できる仕組みの構築」や「ビッグデータを個人のヒストリーとして連結・分析できる基盤の構築」が含まれている。

INCJは、今回の健康プラットフォームが政策的な課題に合致していることから、23億円を出資

政府の方針において健康寿命の延伸は戦略分野となっており、個人の健康データを活用したプラットフォーム構築の社会的重要性が増加している認識を持ったということだ。今回、タニタヘルスリンクが構築する健康プラットフォームが、政策的な課題に合致していることから今般、23億円の出資を決定した。

日立システムズ 代表取締役 取締役社長 北野昌宏氏(左)、イトーキ 代表取締役社長・平井嘉朗氏(右)

続いて、SBI生命保険の代表取締役社長・飯沼邦彦氏が、同社が健康プラットフォームへ参画した理由について説明した。同氏によれば、顧客に対し疾病リスクや生活スタイルから最適な保険商品の提案が可能になること、将来の疾病リスクや顧客の生活スタイル、趣向に応じた保険商品の開発、未病、予防の提供機会を得られることから、同プラットフォームを活用した保険商品やサービス展開を目指せるのが最大の理由だとした。

SBI生命保険はプラットフォームを活用した保険商品・サービスを展開

次に、日立システムズの代表取締役 取締役社長 北野昌宏氏が登壇。同社の役割は、健康プラットフォームの解析エンジンを共同開発するとともに、その拡大にも協力するとのこと。北野氏は「ITの会社なので、ITを使って貢献したい」と述べるとともに、多くの企業では人材不足に悩まされていることから、「大事な社員が病気になると企業としても非常に厳しくなるため、できるだけ多くの社員に健康でいていただきたい」というのが、今回参画したもうひとつの理由であることを明かした。

イトーキはWebアンケートサービス「はたらきかた検診」の分析結果を提供

最後に、イトーキの代表取締役社長・平井嘉朗氏が登壇した。同社は一日の大半を過ごすオフィスでの日常の行動がどのように健康に影響しているのかを、長年研究しており、働き方改革や健康経営の課題分析、効果検証に活用できるWebアンケートサービス「はたらきかた検診」をスタートした。

これは、働き方改革や健康経営をしたいが何から実施すればよいのか知りたい、実施した施策の効果を定量的に測りたい、といったニーズに活用できるという。今回、健康プラットフォームに参画した理由は、「これらの分析結果を提供するとともに蓄積データを我々なりに活用することで、さらに高精度なデータを顧客に提供し、日本の健康に貢献していきたい」からだと語った。

健康プラットフォームの第1号案件は岡山市

健康プラットフォーム事業の第一号案件には、岡山市が選出された。同市をフィールドに、国保や協会けんぽ、組合健保に所属している岡山市民で、個人同意に承認した人を対象にリスク解析を行っていく。

そして、それらの人々が健康改善に取り組みやすいように個々人の生活スタイルや趣味嗜好に寄り添ったレコメンドを出し、保健士や専門職の人々と連携するサービスを開始する。全国健康増進協議会に加盟する淳風会(岡山市)を軸に、全国440万人が受診する検診機関を通じて、全国に広めていく計画だ。

なお、サービス開始時期については、まず2019年4月から岡山にてトライアルを開始し、2019年10月に今回のプラットフォームの一部コンテンツが加わる形となり、そして2021年度には本格サービスの提供開始を目指しているということだ。

「健康プラットフォーム」を構築するタニタおよびパートナー企業

今回、タニタらが発表した新たなヘルスケア事業の展開は、経産省が掲げた政策目標のひとつである「健康寿命の延伸」に向けてのインフラとして、大きな目玉となりそうだ。加えて、働き方改革および生涯現役生活の実現に向けた狙いもあるという。同プロジェクトによって、多くの人々がそれぞれの健康増進のための取り組みに活用できるようになることを期待したい。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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