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タイプフェイスの生きる道

「ハードとソフトは車の両輪」

それは、橋本さんが写研に入社したときから常々、石井裕子氏(茂吉氏没後、写研社長に就任)から言われた言葉だった。

「われわれのつくる文字は、それを印刷したり表示するハードを無視することができません。活字には活字時代の文字のデザインがあったでしょうし、写植には写植のデザインがあった。もっといえば、現在のデジタルフォントも、ハードが変われば適するデザインも変わるはずです。だから、ハード(機械)だけがやたらと進歩すればよいというものではなく、そこにソフト(文字)がついていかなくてはダメだし、かといってソフト(文字)だけが進歩しても、ハード(機械)がついていかなかったら、よいかたちで印刷物や画面表示ができません」

だから両輪なのだ、と石井裕子氏に教わったという。

「われわれの仕事は、文字のデザインを理解していたとしても、ハードのことをある程度知らなくては、適した書体がつくれない。もちろん、ハードの進化ばかりを追求して、文字のデザインがそれを表現できるものになっていなくてはしかたない。ハードとソフトが互いを活かせるように共存共栄していくのが、タイプフェイスの生きる道なのではないでしょうか」

そういう意味で、前回も話題にのぼった、1965年(昭和40)登場の全自動写植機「サプトン-N」は、ソフト(文字)の対応なしではその魅力が十分に活きないハードだった。

全自動写植機「サプトンA」のシステム(「サプトン-A 7261」パンフレットより)

従来の写植機は、長方形の板状の文字盤を機械にセットし、オペレーターが手動でシャッター位置に拾いたい文字を合わせて、1字1字印字していくものだった。サプトンの場合、文字のデータはまず入力用さん孔機で「さん孔テープ」に打ち込まれる。さん孔テープとは、穴のあいた紙のテープで、あいている孔が電気信号をあらわしている。

サプトンは、このさん孔テープのデータを読み取って、円盤状の文字盤を高速回転させ、印字していく。たとえば「愛のあるユニークで豊かな書体」というデータを読み取ったら、それをババババッと瞬時に印字していくという具合だ。

毎分300字の印字スピードは画期的で、とくにスピードが重視される新聞などの分野を中心に導入されたが、文字盤が高速回転するために、文字の横線が細いとかすれなどの原因となった。まさに、機械が変われば文字も変えなくてはいけないという事態が起きたのだ。

そこで、活字書体と石井明朝体両方の魅力を生かしつつ、サプトンで一番よい文字印刷ができる、あたらしい本文書体の登場が切望されることとなった。

「本蘭細明朝体」。のちの本蘭明朝L。橋本さんが写研で手がけた代表作のひとつである。

文庫本の本文に使える書体

石井茂吉氏による優雅な書体「石井細明朝体」
書籍本文用にあらたにつくられた「本蘭細明朝体」(のちの本蘭明朝体L)

写研の本文用明朝体といえば、石井明朝体だった。創業者・石井茂吉氏がつくった優雅で上品な書体で、写植があまり使われなくなった現在でも、そのすばらしさは伝説のように語り継がれている。

「石井明朝体は優雅で格調の高い書体で、ポスターや広告、チラシのように“文字を見せる”ものでは右に出るものはない美しさです。ただ、筆書きを活かし、エレメントに強弱があるため、書籍や文庫本で本文を組んだときにチラついたり、活版印刷に比べると弱々しく感じられたりするという面もありました。縦組みならばよいのですが、文字固有の形を活かしている分、横組みにするとラインがそろわずガタついて見える特徴もあった。そこで、書籍や文庫本の本文に使えて、なおかつサプトンに対応した明朝体をつくるプロジェクトが立ち上げられたんです」

橋本さんは、全体的なコンセプト・仕様の決定と、かなの原字を担当した。漢字は鈴木勉氏をチーフに、5,6人のチームで制作された。

「石井明朝体は、ふところがせまくて手足が長いのが特徴です。それがかっこいいのですが、12級(*1)などの小さいサイズで使うと太さムラが目立ってしまう。そこでまず、縦線に対して横線を太くし、ハライの先も太くして、ふところを広げました。そうすると、白さが広くなり文字がふっくらと豊かに、きゅうくつでなくなる。明るさと、活版印刷のような力強さをもち、横組みにしても並びがよく、読みやすくなる」

このころには、本文が横組みされることも増えてきていた。すると、数字は和数字から洋数字になり、和欧混植も増える。ふところが広くならびのよい本蘭明朝は、和欧混植もきれいに見えた。

書体をデザインするひとに欠かせないこと

本蘭細明朝体のかなの制作は橋本さんがひとりで行い、漢字の仕様も橋本さんがつくった。まず最初に「永 東 国 書 調 風 愛 機」といった基本文字をデザインして、コンセプトをかためる。その後100文字に増やし、何度も文章を組んでは検証して修正するテストを行った。

「本文用だから、10文字ぐらいでテストをするだけではダメなんです。文章を組む、それも、1ページ分ぐらいを組んでみないとわからない。だから、その状態でのテストを何度か繰り返して、方針をかためました。漢字については、その後は鈴木くんにほぼ任せました」

従来の明朝体より横線が太く、ふところの広い本蘭細明朝体は、全自動写植機サプトンでの再現性がよかった。「読みやすい」と好評を博した本蘭明朝体の登場で、サプトンの売り上げも伸びた。

写研では、書体のみの販売は行っていなかった。写植機と書体はセットだったのだ。

「書体を再現する手段が、時代によって変わってくる。手段が変わることで、書体のデザインが変わっていく。だからわれわれ書体デザインにたずさわる者は、世のなかのメディアに敏感でなくてはならないのです」(つづく)

(注)
*1:級とは、写植で文字の大きさを表す単位のこと。1級=0.25mm。

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

給食「完食指導」は適者生存の虐待か? 子どもへの悪影響に賛否

カレー沢薫の時流漂流 第44回

給食「完食指導」は適者生存の虐待か? 子どもへの悪影響に賛否

2019.05.27

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第44回は、子供のトラウマ「完食指導」問題について

給食の完食指導が問題になっている。

「お残しは許しまへんで!」

アニメ『忍たま乱太郎』に出てくる食堂のおばちゃんの有名な決めセリフである。

彼女はそのセリフの通り、それを破る者には烈火の如く怒り、時には一週間食事抜き、掃除をさせる等の罰も辞さないという、「食事を残す者を地獄の業火で焼く人物」として描かれている。

あくまでフィクションであるし、何せ彼女が飯を与えているのは忍者の卵である、今後おそらく山田風太郎の世界で活躍しなければいけない面々だ。適切に調理された食堂の飯が食えないようではやっていけるはずがない。

しかし、忍たま乱太郎の世界ではあれが適切としても、将来、忍にならない子ども相手にそれをやるのは問題なのではという声が挙がっている。

令和になっても残ってしまったトラウマ給食

石でも甘辛くしてもらえれば食える、という偏食のない人間には無縁な話だろうが、そうでない者には「給食のトラウマ」の一つや二つあるのではないだろうか。

一番多いのは「完食するまで帰れま10」だ。これが表題にもなっている「完食指導」である。食べきるまで昼休みに入らせなかったり、居残りをさせたりというものだが、中には「食べ物を無理やり口に詰め込まれて嘔吐」というストロングスタイルの指導を受けた者もいる。

ここまでなら、まだ個の問題だが「みんなが食べきるまで全員昼休みに入らせない」という、齢10にもいかない内から連座制の厳しさを叩きこむ学校もあるようだ。

これらは全て、トラウマとして残る。私でさえ、保育園の時、とりあえず口には入れたが長考したのち「やはり無理」と吐いたほうれん草の白和えのポップなビジュアルを未だ覚えているぐらいなので、無理やり口に入れられた人が忘れるわけがない。

漫画家の清野とおる先生も保育園の時、カワイイ女の子が無理やり嫌いなものを食べさせられ嘔吐したのがトラウマになっていると書いていたので、当事者でなくても同胞が目の前で嘔吐するというのは恐怖なのである。

その結果、傷を負い、登校拒否になったり体調不良を起こしたりする児童がおり、またこの経験から大人になっても「人と食事をするのが怖い」と感じる人もいるという。

そういった強制的完食指導に意味があるかというと、私はないと思う。なぜなら、未だにほうれん草の白和えが嫌いだし、義実家での食卓で姑が「今日の推し」と言わない限りは食わない気がするからだ。無理やり食わされても、大人なのでさすがに嘔吐はしないと思うが、代わりに耳あたりから出てくると思う。

このようにアレルギーでなくても「生理的に無理」な食べ物は存在する。生理的に無理な人の指が口の中に入ってくるところを想像して欲しい。「無理」としか言いようがないだろう。そのレベルでダメなものを飲みこませることが、人間にとってプラスになるとは思えない。

しかし、そこを慮りすぎて「好きな物しか食べない人間」になるのも問題である。「大して好きじゃない物」や「苦手な物」程度なら「感情を無にして食える」練習をしておいた方が、社会に出た時や義実家などでトラブルが起こりづらいのも確かである。

食育に力を入れている小学校では、生徒個人に合わせて最初から食べる量を増減させたり、または無理やり食べさせるのではなく、生徒自身が「今日俺ニンジン食っちゃうよ?」という気になるような給食環境づくりに取り組んだりしているという。

食事は「楽しい」ことが一番

昭和のトラウマランチタイムをサバイヴしてきた人間からすると、これらのやり方は「スイート」に感じられるかもしれない。

しかし、上記の食育に力を入れている学校の校長曰く「食事が楽しくなくなるのが一番ダメ」だそうだ。確かに、食事以外に楽しいことが一つもない、という人間は私含め大勢いるし、今の子どもの65%ぐらいはそういう大人になるはずである。(当社調べ)

そんな65%の唯一の楽しみを子どものころから奪うというのは、虐待と言っても過言ではないし、何のために生まれて来たのかさえわからなくなってしまう。

ちなみに私には90歳になる祖母がいるのだが、そのババア殿は一時期、シュークリームのクリームとジュースしか飲まないという、妖精みたいな生活を送っていたが、普通に生きている。何故なら、そのジュースが妖精になった老人用に作られたメチャクチャ栄養があるジュースだからである。このように、昔だと食事=適切な栄養を取る行為であったが、最近では食事からじゃなくても栄養はとれるようになってしまった。

ならば、食事をただの生命維持活動ではなく、「楽しみ」として重視していくのも自然の流れなのかもしれない。

もちろん、作ってくれた人への感謝など、倫理的なことを言えばやはり、偏食なく、出された物は何でも食えた方が良い。

よって、偏食が多い人も「これだけ嫌いなものがあるから出すな」「嫌いなものを食べさせようとするのはハラスメント」と己の権利を主張するだけでは、協調性がないと取られてしまう。

自分で作る、1人で食う、食事会でも自分が幹事をやって店を選ぶ、など嫌いな物を食べず、なおかつ周りにも不快感を与えない方法を考えていくべきだろう。この方法で、私は1年中300日ペペロソチーノだけを食い続けたが、特にトラブルはなかった。

と言いたいが夫に「くさい」と言われたので、自分の食を楽しみつつ、周りに迷惑をかけないのは、なかなか大変ことなのである。

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渦中のファーウェイ、スマホ新製品も発売延期が相次ぐ

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2019.05.24

米国政府がファーウェイを輸出規制リストに追加した

ファーウェイ製品の発売延期を決定する事業者が続出

輸出規制は世界経済の混乱を招く事態に……

米国政府がファーウェイを輸出規制リストに追加したことで、米中の貿易摩擦が加速している。5月21日には国内向けにスマホ新製品の発表会を開催したものの、発売を延期する事業者が相次ぐ事態となっている。

ファーウェイはスマホ新製品を発表したが、販路の多くで発売延期に

スマホ世界シェア2位に躍り出るなど、破竹の勢いで成長してきたファーウェイだが、果たして打開策はあるのだろうか。

世界シェアは再び2位に、国内でも攻勢に

ファーウェイはスマホ世界シェアでアップルと2位争いを繰り広げている。年末商戦シーズンにはアップルが2位に返り咲いたものの、2019年第1四半期にはファーウェイが前年比50%増となる5900万台を出荷したことで、再び2位に戻る形になった。

新製品発表会に登壇したファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの呉波氏

スマホ市場が伸び悩む中で、なぜファーウェイは劇的な成長を遂げたのだろうか。2018年後半から米中貿易摩擦が報じられる中、買い控える動きもある一方で、世界的な露出の増加によって、製品を手に取ってみる人が増えたことが背景にあるとファーウェイは見ている。

国内でも順調に伸びてきた。依然としてiPhoneはシェアの半数近くを占めるものの、直近1年間で最も売れたAndroidスマホはファーウェイの「P20 lite」だという(BCN調べ)。コスパの良さが高く評価されているのが特徴だ。

2019年夏モデルでは、NTTドコモがフラグシップ「P30 Pro」を、KDDIは「P30 lite PREMIUM」の取り扱いを発表。MVNOやオープン市場には「P30」と「P30 lite」を投入するなど、あらゆるセグメントに向けて最新ラインアップを一挙投入する予定だった。

ベストセラーの後継モデルとして期待される「HUAWEI P30 lite」

だが、こうしたファーウェイの快進撃に待ったをかけたのが、米商務省が発表した輸出規制リストへの追加だ。

複数の企業が取引を停止、国内で発売延期も相次ぐ

米商務省が5月15日にファーウェイを輸出規制リストに追加したことで、米国の製品やサービスをファーウェイに対して輸出することが同日より規制された。米国製の半導体やソフトウェアなどを利用できないのは大きな痛手だ。

その後、重要なサービスにファーウェイ製品を用いる企業向けに90日の猶予期間が設けられたものの、これからどうなるかは不透明な状況だ。グーグルやクアルコムなど米国企業をはじめ、米国技術に大きく依存している英Armもファーウェイとの取引を停止すると報じられている。

国内では早いものでは5月24日からP30シリーズのスマホが販売される予定だったが、大手キャリアやMVNO、量販店などが相次いで発売延期や予約停止を発表。既存のファーウェイ製品については販売が続いている状況だ。

NTTドコモが今夏発売予定の「HUAWEI P30 Pro」は予約受付を停止
KDDIの「HUAWEI P30 lite PREMIUM」の発売を延期した

ファーウェイは米国に頼らず必要な部品を調達する構えも見せているが、ファーウェイ包囲網は世界的に広がりつつある。OSであるAndroidはオープンソース版を自由に利用できるものの、グーグルのサービスがなければ海外展開は困難だ。

独自のKirinプロセッサーを有しているとはいえ、Armのライセンスがなければ開発継続は不可能とみられる。スマホ以外にも基地局などの通信インフラでファーウェイのシェアは高く、輸出規制が長引けば世界的に混乱を招きそうだ。

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