eスポーツの伝道者たちが考える、メディアの役割とは

eスポーツの伝道者たちが考える、メディアの役割とは

2018.10.03

テレビ局やネット番組、Webメディアの制作者たち6人がTGSに集結

eスポーツを盛り上げるための伝え方について話し合った

今後の課題はゲーム愛に溢れた作り手の確保

東京ゲームショウ2018(TGS2018)2日目。幕張メッセの会議室に番組プロデューサーやメディア編集者が顔をそろえた。

集まったメンバーは以下の通り。
テレビ東京『勇者ああああ』プロデューサーの板川侑右氏
フジテレビ『いいすぽ!』プロデューサーの門澤清太氏
日本テレビ『eGG』プロデューサーの佐々木まりな氏
Abema TV『ウルトラゲームス』プロデューサーの竹原康友氏
『ファミ通App』『ファミ通App VS』編集長の目黒輔(中目黒目黒)氏
元朝日放送テレビアナウンサーの平岩康佑氏

6人に共通するのは、テレビ番組や配信チャンネル、Webの記事、実況などを通じて、eスポーツの魅力を発信していること。いわばeスポーツの伝道者たちだ。

そんな伝道者が一堂に会して話すことは1つしかないだろう。それは「eスポーツを盛り上げる伝え方とは?」だ。

なお、日経BP総研マーケティング戦略研究所 上席研究員の品田英雄氏がモデレーターを務め、平岩氏が進行役を務めた。

日経BP総研マーケティング戦略研究所 上席研究員の品田英雄氏
元朝日放送テレビアナウンサーの平岩康佑氏

コンセプトの異なる多様なeスポーツ番組

平岩氏「『勇者ああああ』では、eスポーツだけではなく、ゲームの楽しさを伝えているイメージがありますが、そのあたりの意図を教えていただけますか?」

テレビ東京『勇者ああああ』プロデューサーの板川侑右氏

板川氏「テレビは言うなれば“後乗っかり”です。eスポーツをテレビでやろうがやるまいが、元々ファンだった人は変わらず好きでいるはず。なので、今はあまり関心のない人に、興味を持ってもらうことが重要だと考えました。そのため『勇者ああああ』は、“ゲーム知識ゼロでも楽しめる”というコンセプトのもと、お笑い芸人を中心にゲーム企画を行う番組にしています。お笑いとゲーム、どちらかだけに興味のある人でも楽しんでもらえて、他方に興味を持つきっかけになればいいなと。また、そのなかで、eスポーツの選手にも出演していただき、ファンを醸成できればいいなと考えています」

ものまね芸人がゲーム実況をするという『勇者ああああ』の企画例。じっせぇにベェオハザードフェーブの実況を見ると、ワクワクすっから、ぜってぇ見てくれよな

平岩氏「なるほど。それでは“後乗っかり”ではなく、紙の時代からゲームを追っている目黒さん、そして、一番最後に“後乗っかり”した佐々木さんはいかがでしょう」

目黒氏「我々は2月にeスポーツの専門メディア『ファミ通App VS』を新しく立ち上げました。大会レポートや選手インタビューだけでなく、YouTubeにも力を入れています。例えば、どうやったらうまくなれるのか、プレイヤー視点で立ち回りの解説をする動画や、大会のレポートについても、公式のストリーミングで視聴できるようなものだけでなく、会場の様子や観客席の盛り上がり、選手の心境などにフォーカスしています」

佐々木氏「eスポーツ応援番組の『eGG』は、社内の新規企画募集で手を挙げたゲーマー5人で制作を始めました。毎回1つのゲームを取りあげて、プロゲーマーの方に技を伝授してもらっています。また、『AXIZ』という傘下のeスポーツチームも作りました」

ファミ通App、ファミ通App VS編集長の目黒輔(中目黒目黒)氏
日本テレビ eスポーツ番組『eGG』プロデューサーの佐々木まりな氏

平岩氏「以前からeスポーツ番組を手がけている門澤さんと、テレビとは多少色の異なるネット配信をされている竹原さんはいかがでしょうか」

門澤氏「我々は2年前から『いいすぽ!』というCSの番組をやっています。各回1つのゲームタイトルを取りあげて、競合プレイヤーによるトーナメントを行う生放送です。番組開始当初と比較すると、フジテレビ上層部の人もeスポーツという言葉を使う人が増えましたね」

竹原氏「Abema TVでも、eスポーツは力を入れているジャンルです。『ウルトラゲームスチャンネル』では、24時間365日ゲーム番組を放送。興奮を届ける・興奮を切り取る・選手を魅せるという3本の柱で作っています」

フジテレビ e-Sports専門番組『いいすぽ!』プロデューサーの門澤清太氏
Abema TV ゲーム専門チャンネル『ウルトラゲームス』プロデューサーの竹原康友氏

各社、頭を抱える「タイトル選定」

品田氏「ゲームをやってない人に対して、おもしろさを伝える工夫などはみなさんされてますか?」

板川氏「ラグビーに詳しくなくても、五郎丸選手が出ていたらつい見てしまう人はいるのではないでしょうか。そのように、テレビがやっていくべきことは、『こういう世界で活躍できる人が日本にいる』ということを広めることだと考えています」

平岩氏「確かにラグビーはルールを知らなくても楽しめるスポーツですが、仮にスター選手がいたとしても、例えば、将棋などはルールを知らない人にはわかりづらいかもしれません。eスポーツもタイトルによって難易度が大きく変わります。番組で取り上げるゲームの選定基準などはありますか?」

門澤氏「テレビはネットと違い、ボタンを押してからスタートするわけではありません。途中でチャンネルが回ってくることもあるでしょう。そのため、どのタイミングで見始めても理解できることを重視しています。『Dota 2』や『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』も取り扱いたいのですが、それはもう少し先になりそうですね」

佐々木氏「『eGG』ではルールを知らない人でも楽しめるように、スター選手にフィーチャーした企画を考えています。なのでタイトル選定は、eスポーツのど真ん中。プロ選手が活躍しているタイトルをどんどん取りあげていきたいですね。ただ、やはり複雑なルールのゲームを扱う回は苦労します」

竹原氏「『ウルトラゲームス』では、ゲームファンが付いているタイトルが中心。ただ、しっかりと『何がすごいのか』を伝えられるように意識しています。例えば、ストリートファイターでは、大会終了後に『投げ抜け率(相手が投げコマンドを入れるのと同時にコマンドを入力して、投げを回避すること)』を分析し、解説することで、『そこまで考えてプレイしているのか』と、プロのすごさがわかるようにしています」

目黒氏「ゲームタイトルの選定基準は、スタッフのモチベーションです。特定のタイトルをきっちり追いかけるようにしていますが、モチベーションが高くないと追い続けるのは難しいと思っているので。また、初心者でもわかるように、大会ストリーミングの“解説の解説”をする番組も考えています」

『ファミ通App VS』スタッフは上記タイトルのモチベーションが高いようだ

今後の課題はゲーム愛のある作り手の確保と、テレビが飽きないこと

平岩氏「この先の展開については、みなさんどのようなことを考えているのでしょうか」

佐々木氏「『eGG』には、eスポーツを応援するというだけでなく、ゲーマーに対する世の中の認識をポジティブなものに変えるという目標があります。子どもがプロゲーマーを目指したときに、両親が反対しないような世界を作りたいですね」

竹原氏「カプコンさんのRookie's Caravan 2018というイベントを取りあげたときに、『スト2』世代のお父さんが、『スト5』世代の子供と一緒に大会を楽しんでいたんです。そこに、大きな可能性を感じました。家族向けてできることをやっていきたいと思っています」

目黒氏「他力本願のように聞こえるかもしれませんが、やはりマスメディアの力が必要だと思います。撤退しないで、続けてほしいですね。また、eスポーツ専門チャンネルだけでなく、ほかの既存テレビ番組でも取り上げてほしいなと」

平岩氏「私も、eスポーツが単なるブームで終わってほしくないと強く願っています。競技として根付いているJリーグみたいになればうれしいですね。ブームで終わらせないためには何が必要だと思いますか?」

板川氏「ブームが終わるということは、言い換えれば『テレビが飽きること』。一度始めたら5~10年は続ける覚悟を、僕のようないちプロデューサーでなく、会社の上層部が持ってくれればいいなと心から思います。数字が取れないからといって切り捨てたことで、テレビはいろんな文化を台無しにしてきたのではないでしょうか。それは一番やってはいけないことだと思います。そうならないように努力したい」

門澤氏「今のところ、『いいすぽ!』は2年続いています。作り手としてはずっとやっていきたいですし、ブームだからと言って軽薄に乗っかっているわけではありません。とはいえ、企業なので。スポンサーさんがたくさん付いてくだされば、続けやすいんですけどね(笑)。これからは、アイドルイベントや格闘イベントなどとコラボしていくことで、盛り上げていきたいと考えています」

佐々木氏「ありがたいことに、『eGG』は数社からスポンサーの引き合いをいただいております。なかにはゲーム会社の方もいらっしゃいました。ゲームを事業にしている企業からスポンサードしていただければ、長期的に番組をやっていけるのではないかと考えています」

平岩氏「ここに集まってくださったみなさんは、元々ゲームが好きなんだろうなということがわか伝わってきました。5人が持っているような熱量があれば、今後にもつながっていくと思います」

板川氏「熱量という意味では、テレビ番組はプロジェクト立ち上げメンバーと実際の作り手が異なるので、ディレクターがゲーム好きでなければ成立しません。番組がおもしろくなるか否かは、現場のゲーム愛に左右されます。それは、今さら勉強して得られるものではないので、今後は人材の確保が大変になっていくでしょう」

佐々木氏「板川さんがおっしゃったように、実際に番組作りをするディレクター陣がどのくらい詳しいかがポイントですね。『eGG』ではゲームタイトルを選定した後に、情報共有をするようにしています」

平岩氏「ファミリーコンピュータが発売されたのが1983年。大学生の時にファミコンが出たという世代は、あと4~5年ほどで還暦を迎えます。そうなると、ゲーム業界以外の会社でも、楽しさの本質を理解してくれる役員レベルの人が増えるのではないでしょうか。そこでまたシンギュラリティと言いますか、転換点が来るような気がしています。私も、しっかりと発信していければと思います」

品田氏「みなさんの話を聞いていると、選手はもちろんですが、メディアの作り手としても人材が重要になってきていることがわかりました。スポンサーなども増えて、いい循環が生まれていけばいいなと思います。本日はありがとうございました」

テレビや新聞、Webなどで、関連ニュースを目にしない日がないほど、盛り上がりを見せているeスポーツ。今回の話を聞いて、ただ「話題だから」という理由だけで取りあげているのではなく、確固たる決意をもっていることがわかった。

最後、話に出たように、マスメディアは特に大きな影響力を持っている一方で、撤退はブームの終焉を告げることにつながるだろう。企業だから利益は大事だが、簡単に儲かる儲からないで判断するのではなく、文化として定着させるために儲かる仕組みを模索していくことが大事なのかもしれない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu