日立とソニーの連携強化は、国内テレビ販売を再編するだけの話なのか

日立とソニーの連携強化は、国内テレビ販売を再編するだけの話なのか

2018.09.28

日立が国内テレビ撤退、ソニー製テレビを販売へ

日立とソニーが連携した理由を考察

実はテレビ販売だけにとどまらない話か

今週、日立製作所がテレビの国内販売から撤退し、ソニーのテレビを売るというニュースが駆け巡った。具体的には、日立の地域家電店「日立チェーンストール」で、ソニー製テレビ「ブラビア」が販売されることになった。あわせて、日立は、同社ブランドの薄型テレビ「Wooo」の国内販売を終了する。

日立がソニーのテレビを売る日

日立は、1956年に戸塚工場で第1号白黒テレビの生産を開始した。1960年には初のカラーテレビを投入し、1968年には日本初のオールトランジスタカラーテレビ「キドカラー」を発売したことで、ブラウン管テレビ時代において存在感を発揮した。2002年には「Wooo」ブランドを展開し、自社生産のプラズマパネルを採用した32型プラズマテレビを投入した。だが、2009年にはプラズマパネルの生産から撤退。2010年にはテレビ用液晶パネルの生産拠点をパナソニックに譲渡することに。2012年8月にはテレビの自社生産を終了、外部から調達したものをWoooブランドのテレビとして販売していた。

ソニーマーケティング、日立コンシューマ・マーケティングおよび日立アプライアンスの発表によると、2018年10月中旬から、全国約4,000店舗の日立チェーンストールで、ブラビアの販売を開始。今後、ソニーブランドのBDレコーダーやBDプレーヤー、サウンドバーをはじめとするホームシアター製品にも販売を広げる方向で検討する。aiboやウォークマン、αなど、他のソニーブランドの製品の取り扱いについては、現時点では検討されていないという。

これまで日立コンシューマ・マーケティングでは、日立アプライアンスから、日立ブランドの製品を調達し、エコアンなどの空調製品は、日立ジョンソンコントロールズ空調から調達していた。さらに、日立コンシューマ・マーケティングの日立リビングサプライ社が、扇風機やドライヤーなどを調達し、日立ブランドの製品として、日立チェーンストール各店に流通していた。テレビに関しても、これまではリビングサプライ社が調達する仕組みとなっていたが、今後は、マクセルの乾電池やフジ医療器のマッサージチェアなどと同様に、日立コンシューマ・マーケティングが、ソニーからテレビを調達し、日立チェーンストールに流通する仕組みとなる。

日立コンシューマ・マーケティングの調達ルートに、ソニーが加わる

日立チェーンストール向けに流通するブラビアに特別な型番を付けたり、専用モデルを用意することはない。今後、日立チェーンストールに置かれるブラビアのカタログやPOPなども、日立コンシューマ・マーケティングが供給することになる。

なお、全国約450店舗のソニー系地域家電店「ソニーショップ」で、日立の白物家電や空調機器などを取り扱う予定はないという。

日立がソニーと組んだ、いくつかの現実的な理由

日立チェーンストールで、ソニーのブラビアを販売する理由はいくつかある。

ひとつめは、両社の関係が、国内のアフターサービス領域で既に確立されていたということだ。両社では、2017年春から中国、四国、北海道などの国内一部地域の出張修理サービスにおいて、サービス体制を相互活用することで連携してきた。

例えば、夏場にはエアコンの修理が多く、年末にはテレビの修理が増加する傾向があるが、こうした修理が集中する時期にお互いのサービス体制を相互に活用し、繁忙期でも迅速に修理対応できる体制を構築していた。ここでは、ソニーの修理担当者がエコアン修理の技術や知識を習得して出張修理を行うこともあり、その際はソニーを前面に出さずに、日立による修理として対応していという。

2つめには、両社の製品が補完関係にあるということだ。

日立は、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電、エアコンをはじめとする空調製品に力を注いでいるが、薄型テレビをはじめとするAV製品というと、自社生産からの撤退以降は製品力に弱さがあった点は否めない。これに対して、ソニーはAV製品を最も得意とする企業であることは周知の通りであり、その一方で白物家電製品のラインアップはない。日立にとっても、白物家電を持つパナソニックやシャープ、東芝と連携するよりも、競合領域が少ないソニーとの連携が最適であったといえる。

3つめには、ソニーにとっても、販路拡大につながることになるという点だ。

日立はテレビ事業に力を注いでいなかったものの、国内テレビ市場において、依然として数%のシェアを維持している。この背景には、全国4,000店舗の日立チェーンストールの販売力が見逃せない。とくに、地域密着型の販売体制は、高付加価値製品や高価格帯のモデルの販売にも効果的だ。地域を幅広くカバーできるというメリットに加えて、高付加価値製品を取り揃え、ネット接続率が70%を超えると言われるブラビアにとって、有力な販路を加えることができたといえる。

もちろん、これは、日立チェーンストール側にとっても大きなメリットがある。

現行のWoooでは、最大画面で55型まで、4Kモデルでは3モデルを用意しているに過ぎなかったが、ソニーのブラビアをラインアップに加えることで、有機ELテレビや、75型や85型のテレビもラインアップできるため、日立チェーンストールでのテレビ販売を強化することができる。

2011年の地デジへの完全移行時にテレビを購入した家庭の買い替え需要が見込まれるほか、2018年12月には、新4K8K衛星放送が開始され、4Kテレビの需要が拡大しそうだ。また、2020年の東京オリンピックをはじめ、大きなスポーツイベントが日本で開催されることも、テレビ需要を後押しすると見られている。そうした市場背景からも、積極的に販売することができるテレビのラインアップ強化は、日立チェーンストールが求めていたものだったといえよう。

テレビ販売だけではない、大きな計画が検討されている?

今回の発表内容の中には、気になる内容も散見される。

ひとつは、「法人向け市場での連携にも取り組む予定」としている点だ。

今回はあくまで、日立チェーンストールを通じたブラビアの販売を開始するという発表だが、両社の協業はその範囲には留まらないといえる。

ブラビアの法人向けモデルには、ホテル客室用テレビや、デジタルサイージ、会議用ディスプレイがラインアップされている。ホテル客室用テレビでは、宿泊客がチェックアウトしたあとに、音量や画面設定などを自動的に戻す付加機能などが搭載されているといった具合だ。

それに対して、日立コンシューマ・マーケティングは、学校や自治体への導入のほか、システムインテグレータなどを通じたオフィスへの販売実績を持つ。こうしたルートを通じて、法人向けブラビアの販売が可能になる。また、法人部門では、IHクッキングヒーターやエアコン、太陽光発電システムをハウスメーカーなどに納入している実績もあり、こうしたルートでの、家庭向けブラビアの販売も想定できるだろう。

日立コンシューマ・マーケティングの法人向け実績

もうひとつは、「システムの相互利用の検討」という言葉である。

ここでいうシステムとは、顧客からの問い合わせシステムのことを指している。

両社のコールセンターはそれぞれ独自のシステムで運用を行っているが、両社が蓄積したAV機器や白物家電のノウハウを相互に活用し、システムにおいても連携していくことを視野に入れている。現時点では、どちらに融合するといった議論も始まっていないが、ソニーはMy Sony会員を対象にSNSやメールを積極的に活用したサポート体制を構築しており、電機業界のなかでも先進的事例として捉えられている。このノウハウを日立側に提供することは可能だろう。

さらに、ソニーでは、セールスフォース・ドットコムのMarketing Cloudを導入したデジタルマーケティングに取り組んいる。メールやSNS、ウェブを通じた情報発信による「購入前」、店舗などに来てもらい製品を体験してもらったり、製品の良さを知ってもらうほか、クーポンの提供などによる購入しやすい仕掛けを行う「購入時」、そして購入後の使い方セミナーの開催や定期的な情報提供、アフターサービスを提供する「購入後」といったように、ユーザーが体験するすべての領域において、直接接点を結んでいるのが特徴だ。これを本体の販売増のほか、オプションや周辺機器の購入促進につなげ、リカーリングビジネスを拡大するといった成果をあげている。

デジタルマーケティングの領域まで協業範囲が広がると、かなり大がかりなものになるが、両社の関係がより深まれば、こうしたところまで踏み込むといったことが考えられるかもしれない。

本丸は開発という可能性は捨てきれない

そして、今回の発表に、家電の開発を行う日立アプライアンスも名前を連ねていることも気になる点だ。両社では否定しているが、日立アプライアンスの名前が加わることで、開発という点も視野に入ることは十分ありえる。

今回は販売、マーケティング、カスタマーサービスの相互活用までは言及しているものの、製品開発という点までは含まれていない。

だが、白物家電がIoT化したり、AIを搭載したりするなかで、白物家電とテレビの連動が避けては通れないことは明らかだ。実際、競合他社では、テレビを中心として白物家電全体を制御するといった提案も行われている。

Android TV OSを搭載し、AIアシスタント「Google アシスタント」の利用もできるソニーBRAVIA

ソニーが採用しているAndroid TV OSを活用して、日立の白物家電との連携が可能になるといった提案は、それほど高いハードルもなく実現するだろう。地域密着型の日立チェーンストールが、家電製品丸ごと提案を得意としていることを考えると、より緊密な連携が行うといった動きにも注目される。

今回の日立チェーンストールによるブラビアの販売について、発表では「まずは、その一環として」という表現を用いているが、協業の範囲が広がる可能性は、外から見ている以上に大きいのかもしれない。

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。