eスポーツ発展に不可欠な動画サービス「Twitch」の日本戦略を問う

eスポーツ発展に不可欠な動画サービス「Twitch」の日本戦略を問う

2018.10.01

TGS2018に合わせてTwitchのシニア・ヴァイス・プレジデントが来日

世界トップ3に入る日本の動画視聴者数

Twitchが大切にする「クリエイターファースト」とは

eスポーツの急速な拡大に寄与しているものの1つに、動画配信サービスがある。世界各国のeスポーツ大会のライブ配信や、ストリーマーとして活動する選手の動画などを視聴できることから、手軽にeスポーツと触れられるツールだといえよう。配信動画がきっかけで、eスポーツに興味を持つようになった人も多いのではないだろうか。

その中で、いち早くゲーム専用の動画配信サービスとして立ち上がったのがTwitchだ。現在ではゲーム以外の配信もしているが、ゲームの動画配信サービスとして、トップランナーの1つであることは間違いない。

東京ゲームショウ2018では、Twitchブースの出展に合わせて同社 シニア・ヴァイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏が来日。インタビューの機会を得たので、日本での実績や今後の展開などを聞いた。

東京ゲームショウ2018のブース出展に合わせて来日したTwitchの面々

――Twitchでは、現在の日本市場をどのようにとらえているのでしょうか。

マイケル・アラゴン(以下マイケル)「視聴者数、視聴時間のどちらも伸びています。一度動画を視聴し始めると、長時間観る人が多いのが特徴ですね。だいたい100分くらいは観ていると思います。日本は視聴者数、視聴時間ともに世界のトップ3に入っており、高い水準を誇っています」

シニア・ヴァイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏

――日本におけるTwitch急成長の要因はなんでしょうか。

マイケル「Twitchは誰でも簡単に配信することができます。そして優れたストリーマーは、パートナーとしてアフィリエイトなどで収入を得ることができます。以前200人だったパートナーも現在では2000人。多くの優れたクリエイターがTwitchで良質なコンテンツを配信していることで、視聴者が増えているのではないでしょうか」

――日本での今後の展開はどのようにお考えでしょうか。

マイケル「Twitchはゲームコンテンツを大事にしており、今後も力を入れていきます。ただ、それ以外のコンテンツも充実していく予定です。雑談であったり、散歩している様子であったり、料理をしているところであったり。例えば、先日アメリカ・ラスベガスでおこなわれた対戦格闘ゲームの一大イベントであるEVO 2018では、プロゲーマーのウメハラが個人で配信を行っていました。試合の様子だけを配信するのではなく、大会自体の様子、参加している選手の様子などを、多くの人に見せることができたと思います。このように、音楽やゲームを題材にしてトークする動画を増やしていきたい。コンテンツ自体にタグを付けられるので、それを使って観たい種類の動画を検索できるようになるでしょう」

日本ADセールス ディレクターのジョン・アンダーソン氏

――ゲームのストリーミング配信でeスポーツは外せませんが、人気のゲームカテゴリーは世界と日本で違いがあると思います。世界に配信するうえで、その点はどうお考えでしょうか。

マイケル「日本で人気の対戦格闘ゲームは、世界的に見ると人気のカテゴリーではないですが、世界に向けて対戦格闘ゲームを知ってもらうような施策も考えています。また、eスポーツ大会では、カプコンやバンダイナムコエンターテインメントに協力してもらっており、英語での配信も行っています。その結果、アメリカやヨーロッパで観られています」

――ストリーマーが配信をするときに言葉の壁が出てきますが、この点についてはいかがでしょうか。

マイケル「ミラー配信や日本語のコンテンツをクロスストリーミングするなど、日本のコンテンツを世界に発信できるようにしています。また、日本好きの海外視聴者が、自ら翻訳して配信していることもあります。ただ、日本のストリーマーがもっと手軽に海外へ発信できるシステムは考えていきたいですね」

――日本のコンテンツは海外で求められているのでしょうか。

マイケル「現状では、対戦格闘ゲームの人気はあまり高くありませんが、日本のプロゲーマーに憧れを抱いている人は多くいます。また、『鉄拳7』の大会はTwitchが開催しており、日本のコンテンツを世界にアピールしています」

――昨年、日本にTwitchの拠点ができましたが、そこで注力していることは何でしょうか。

マイケル「日本のTwitchのパートナーチームは、パートナーがより快適に配信できるように支援しています。また、日本のゲームメーカーに、動画配信をする場合はTwitchを使ってもらえるように働きかけています。先ほども言いましたがパートナーをはじめとするストリーマー、クリエイターを支援し、収入を増やすことで、良質なコンテンツを提供するのが目的。いずれは、日本のストリーマーを海外に連れて行くことも考えています」

グローバル コンテンツ デベロップメント ゼネラルマネージャーのケンドラ・ジョンソン氏

――Twitchには、オーディエンスが直接ストリーマーを支援する手段としてビッツ(いわゆる投げ銭)がありますが、これについてはいかがでしょうか。

マイケル「日本では珍しい文化だと思いますが、使っている日本ユーザーは増えています。ストリーマーの収入源の1つとなっており、その割合も小さくない。ビッツを提供するとストリーマーが直接お礼を言ってくれることもあるので、ユーザーとしてもうれしいのではないでしょうか。今後は、例えば、ビッツを払ったら何かしらの演出が起こるなど、よりビッツを得られるような施策も考えています。現在だと、そのストリーマーに払ったビッツの金額のトップ3などが表示されるようになっていますよ。また、ストリーマーには、よりビッツを獲得するためのノウハウをクリエイターズキャンプで指南しています」

――動画配信サービスとしては後発のTwitchですが、他のサービスに対してのストロングポイントやアドバンテージは何でしょうか。

マイケル「Twitchは、現在Amazon系列の会社なのですが、Amazonと同様にカスタマーを大事にしています。『クリエイターファースト』で、とにかくパートナーが多くの収入を得られるように考えています。サブスクリプションや広告、ビッツなどがそれですね。Twitchはグローバル企業なので、海外への発信ができるのも利点です。人気クリエイターがいて、おもしろいコンテンツがTwitchにはある。それによって、オーディエンスはTwitchを選んでくれるわけです。また、Twitchはライブ、インタラクティブが魅力。ライブでは相応しくない言葉をチャットやコメントに入れると表示できないようにしたり、Banしたりするように設計しており、オーディエンスが快適に視聴できるようにしています」

――クリエイター、ストリーマーにとって、動画配信を行うためのハードルは低いのですが、高度な配信を行おうとしたり、パートナーになろうとしたりする場合、いきなり難易度が上がってしまうと感じています。もう少し緩やかに段階を上がれるようにはならないのでしょうか。

マイケル「おっしゃる通り、初期段階を超えると次の段階はかなりハードルが上がっています。PS4ではシェアボタン1つで配信できますが、配信画面のカスタマイズはほとんどできず、機能も多くありません。画面をカスタマイズする場合などは、PCを使う必要があります。今後は、PCがなくてもカスタマイズできるように、コンソール向けにも機能を増やしていこうと考えています。また、それらを支援するためのクリエイターズキャンプもあります。加えてパートナーについてですが、確かにストリーマーからパートナーになるには、高いハードルがあるでしょう。ただ、これについては現状のままでいく予定。パートナーになることが難しいがゆえに、パートナーになったときの喜びが生まれてきます。それが重要だと思っているので」

 

動画配信サービスはコンテンツが重要であり、それを作るクリエイターやパートナーを大切にする「クリエイターファースト」の理念が、Twitchのベースにあることがわかった。

クリエイターが快適に活動するための収入を増やす施策は、配信者に信頼と安心を提供できるのではないだろうか。また、日本のeスポーツの中心カテゴリーである対戦格闘ゲームを世界に発信することについても考えてくれているようで、期待が持てる。ゲームメーカーや大会運営、選手、オーディエンスをつなげるゲーム系の動画配信サービスは、今後もeスポーツの発展に大きく寄与していきそうだ。

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

2018.11.13

大手キャリアの「値下げ論争」への回答が出揃った

ドコモの値下げに、KDDIは様子見、ソフバンは人員削減で対策

楽天は、自前でのネットワーク敷設を想定通りに行えるのか?

10月末から11月初旬にかけて、大手キャリアが相次いで決算会見を実施。菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある。2019年10月に第4のキャリアとして楽天が参入するまでに実現できるだろう」という発言に対して、各キャリアの姿勢が改めて見えてきた。

値下げ発表受け、様子見のKDDI、人員削減のソフトバンク

菅官房長官の発言で携帯3社の値下げ議論は岐路に立たされた

値下げに積極的な姿勢を見せたのはNTTドコモだ。同社の吉澤和弘社長は「2019年第1四半期に2〜4割の値下げを実施する。4000億円程度のお客様還元を考えている」と発表した。具体的な値下げ方法までは明かさなかったが、端末代金に対する割引をやめ、通信料金と分離する「分離プラン」の導入が有力視されている。

ただ、これまで吉澤社長は値下げに消極的な姿勢を示していたはずだが、突然、導入に踏み切った背景にあるのは「官邸からNTTの持ち株に圧力があったのではないか」(複数の業界関係者)と見られている。

NTTドコモの「値下げ発言」に対して「正直、驚いている」と語ったのは、KDDIの高橋誠社長だ。高橋社長は「我々は昨年、すでに分離プランを導入している。まさに分離プランのトップランナーであり、政府からの宿題もすでに済ませている」と説明した。実際のところ、「NTTドコモの値下げは、具体的な内容がわからない」(高橋社長)ようで、NTTドコモに先んじて、値下げで仕掛けるということはせず、まずは様子見の姿勢を取るようだ。

ただし、NTTドコモの値下げのインパクトによっては「対抗値下げも検討する」(高橋社長)とのこと。ソフトバンクも基本的には「すでに今年9月に分離プランを導入している」(孫正義会長)というスタンスだ。

孫正義会長は「9月に導入したウルトラギガモンスター+は、ギガ単価で見れば、世界でもっとも安いのではないか」と主張。いたずらに値下げ競争には応じない姿勢を見せた。ただし、格安ブランドのワイモバイルにおいては、来春に分離プランを導入する予定で、「1〜2割程度、安くなるのではないか」(宮内謙社長)と見積もった。

NTTドコモがどれだけ値下げしてくるか、どのくらいの影響力があるか見えないだけに、ソフトバンクでは、国内通信事業に携わる社員の約4割を今後、成長ができる分野に配置転換し、通信収入が下がっても、増益を達成できる組織体制にしていく予定だ。

第4のキャリア「楽天」の厳しい船出

菅官房長官や各キャリアの社長の話をまとめると、2019年には2回、通信料金値下げが起きる可能性が出てきた。

まず最初はNTTドコモの値下げだ。吉澤和弘社長は「2019年第1四半期」という言い方をしているが、通常、NTTドコモが料金プランなどの発表を行う場合、決算会見で明らかにすることがほとんどだ。例年、NTTドコモでは、ゴールデンウィークに突入する直前の4月末に決算会見を実施する。来年も4月末に発表し、6月あたりに値下げを実施するという流れになる可能性が高そうだ。

ここで、他社を驚かせるような料金プランが投入されれば、KDDIやソフトバンクも対抗値下げを迫られることになるだろう。

もうひとつは楽天の携帯電話事業参入のタイミング。こちらは2019年10月の予定だ。

11月8日に行われた楽天の決算会見で、料金施策について質問を受けた楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「1年先なので、他社がどうこうよりも、ユーザー視点で魅力的な料金を提供していきたい。短期的に他社がどうだからといって決めるものでもない。最終的な料金戦略は決まっていないが、期待されているので、それに応えられる料金にできればと思う」と語った。

総務省に提出された計画書では、MVNOで提供している楽天モバイルの通信料金と同等にするつもりと言われている。しかし、第4のキャリアとして参入した場合、楽天モバイルと同じ料金設定では、ユーザーにとって魅力的には見えないだろう。当然のことながら、楽天モバイルよりも安価な料金設定でなければ、誰も振り向いてくれない。

楽天はKDDIとローミング契約し、サービス開始当初は東京23区、名古屋市、大阪市以外のネットワークをKDDIから借りることができる。

しかし、2026年までには全国に自前でネットワークを敷設しなくてはならない。それには相当なコストが掛かるはずだ。楽天では6000億円未満で実現できると強調するが、その発言を本気で信じる業界関係者はほとんどいない。

ベンダー体制図と設備投資額。「少数の実績のある企業と連携を取りながら進めている。投資額は、当初発表していた600億を下回ると考えている」との説明がなされた

MVNOよりも安い料金をユーザーに提供しつつ、しかも、全国にネットワーク構築できるだけの設備投資額を確保できるだけのソロバン勘定が楽天には求められるのだ。

2019年10月に参入する楽天に対して心配しているのが提携したばかりのKDDIだ。高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランを入れると、大手3社がすべて分離プランになる。(キャリアの通信料金が安く見えるので)楽天は、いまのMVNOと同じ料金プランでも、通用しなくなるのではないか。そこで料金をさらに下げると体力的に持たなくなる。(低料金を期待されている)楽天のハードルが上がっているような気がする」と語った。

本来であれば、高い料金プランを続ける大手3社に対して、楽天が低料金プランで果敢に攻めていくという構図が理想だったはずだ。しかし、NTTドコモが、重い腰を上げてしまったことで、楽天にとっても、厳しい船出になってしまうのではないだろうか。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。