プラグインハイブリッドに未来はある? 三菱の新型「アウトランダーPHEV」に試乗

プラグインハイブリッドに未来はある? 三菱の新型「アウトランダーPHEV」に試乗

2018.10.12

PHEVは過渡期のクルマ? 独特な立ち位置を改めて確認

プラグインの古参「アウトランダー」がビッグマイナーチェンジ

モーターとエンジンで実現する特別な走り、改良でどうなった?

電気自動車が普及するまでの運命? PHEVとは何か

メルセデス・ベンツ「EQC」やアウディ「e-tron」など、将来的に市販される電気自動車の発表が相次ぐ中、日本ではホンダ「クラリティ PHEV」や三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」の試乗会が続いた。

三菱自動車がビッグマイナーチェンジを施した「アウトランダーPHEV」

そこで、NewsInsight編集部から寄せられた疑問は、「PHEVって将来性はあるの?」というもの。確かにPHEVは、EVが車両価格や航続距離といった課題をクリアするまでのつなぎの技術として有望であり、「しばらくは乗用車の主流になるのでは?」といわれているが、逆に見れば、バッテリーが進化して電気自動車が本格的に普及した時、消えてしまう運命にあるとも考えられる。本当にそうなのか考えながら、「アウトランダーPHEV」と「クラリティ PHEV」を試乗してきた。

ちなみに、プラグイン・ハイブリッド車には、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)とPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)という2種類の表現の仕方があるが、電気モーター駆動がメインの電気自動車に近いという理由から、前者を名乗ることが多い。

そのほか、純粋な電気自動車はBEV(Battery Electric Vehicle)あるいはEV(Electric Vehicle)、航続距離を伸ばす目的で発電用エンジンを搭載したレンジエクステンダーEVはBEVx(Range-extended Battery Electric Vehicle)またはREx(Range-extended)、普通のハイブリッドカーはHV(Hybrid Vehicle)またはHEV(Hybrid Electric Vehicle)と表記することが一般的になってきている。BEV、BEVx、Rex、PHEV、PHVは、外部充電できることから「プラグイン・タイプ」とくくられることもある。

ホンダの「クラリティ PHEV」

三菱自動車が「アウトランダーPHEV」を大幅改良

本稿ではまず、アウトランダーPHEVの2019年モデルをレポートしよう。このクルマは発売からすでに6年が経過しており、改良のたびに進化してきてはいるが、2019年モデルはフルモデルチェンジにも匹敵する内容のビッグマイナーチェンジだという。

では、なぜフルモデルチェンジではないのかというと、まずはデザインを根本的には変えていないからという理屈がある。さらにいえば、累計販売台数16万台と世界で最も売れている「プラグイン・タイプ」の同車ではあるが、ガソリン車のアウトランダーを含めても、6年サイクルでフルモデルチェンジできるほどのボリューム(販売台数の規模)を獲得できていないことも理由のひとつだ。

試乗したのはアウトランダーPHEVの「G Premium Package」と「S-Edition」。「S-Edition」については2019年モデルと2017年モデル(既存のクルマ)を乗り比べることができた(画像は2019年モデルの「G Premium Package」)

パワートレーンのシステムは、ガソリンエンジンが発電に徹してモーターで駆動する「シリーズ・ハイブリッド」を基本とするが、高速域ではエンジンが直接駆動するモードも持っている。

エンジンで発電した電気でモーターを駆動すると、エネルギーの変換ロスが生じて効率が悪そうなものだが、エンジンは0rpm(1分間あたりのエンジン回転数を示す単位)からアイドリングの1,000rpm弱までは全く使いものにならず、有効なトルクを発生するエンジン回転域に達するまでは力が足りない。だから、低・中速域では、トランスミッションによってエンジン回転を減速してタイヤに伝えて、駆動する必要がある。つまり、エンジンが回っている割にタイヤが転がらず、距離が伸びない(=燃費が悪くなる)。高速道路を走るよりも、街中の方が燃費が悪化するのはそのためだ。

一方のモーターは、0rpmから最大トルクを発生できるのが強みで、トランスミッションは不要。大抵のモーター駆動車は1ギアのみで、低速域ではその少ない仕事に比例してエネルギー消費も少なく、変換ロスを相殺する以上の効果があって燃費が良くなる。ただし、時速60km以上になってくると、エンジンもトランスミッションのトップギア相当で走らせられるようになるので効率は良くなり、モーターの優位性は薄れてくる。

マイナーチェンジを経た新型「アウトランダーPHEV」のサイズは、全長4,695mm、全幅1,800mm、全高1,710mmだ

プラグイン・タイプではないシリーズ・ハイブリッドの日産自動車「e-POWER」(ノートとセレナというクルマに日産が導入している技術)などは、エンジンが直接駆動するモードを持たないので高速域では燃費があまり良くない。日本では、それでもトータルで取り分があるが、欧州やアメリカなど、高速度域で走るシーンの多い地域ではメリットが得にくいはずだ。

シリーズ・ハイブリッドとエンジンによる直接駆動の2つのモードを持つアウトランダーPHEVのシステムは、現時点での最高効率を狙う理想的なカタチといえる。ホンダのクラリティPHEVや、プラグインではないが「i-MMD」(ホンダが“スポーツ・ハイブリッド”と表現するIntelligent Multi-Mode Driveのこと。モーターのみで走れる距離が長い)と呼ぶ技術を搭載するクルマも同様だ。

「アウトランダーPHEV」の価格は税込み393万9,840円~509万40円から。エコカー減税により自動車取得税と自動車重量税は免税となり、購入の際には「クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金」として20万円の支給を受けることができる

燃費よりも走りを求めた改良か

アウトランダーPHEVはパワートレーンの9割を刷新した。エンジンは2.0Lから2.4Lへと排気量がアップしている。クルマの前後に2つ搭載する駆動用モーターは、リアの出力が約12%向上。バッテリーは容量を12kWhから13.8kWhへと増やし、EV走行の航続距離を60.8kmから65kmへと伸ばした上、出力も約10%高めた。ジェネレーター(発電機)の出力も約10%上がっている。

エンジンと電気の双方ともに強化されているわけだが、ハイブリッド燃費(JC08モード)が従来の19.2km/Lから18.6km/Lへと落ちていることからも推測できる通り、今回の改良の狙いは燃費よりも、走りの質感を良くすることに主眼がおかれている。具体的にはエンジンの音・振動や存在感を抑えて、EV感を強めている。

アウトランダーPHEVに限らず、HVに乗り慣れると、モーター駆動の静かで力強い走りの気持ち良さがだんだんと病みつきになってきて、エンジンがかかると何だかガッカリしてしまうようになってくるものだが、その心理を汲み取った改良と捉えることもできるだろう。

エンジンは2.0Lから2.4Lへと排気量がアップ。バッテリーとモーターのみによるEV走行の航続距離は、改良前よりも約5km伸びて65kmとなった

エンジンの排気量が上がったことによって、同じ出力を求めた時には従来よりも低回転で抑えることができるし、それなりの大出力を要求する時には、スパーンと高回転に持っていかずとも、ジワジワと上げていけば済むようになった。それらは音・振動の低減に効く要素だ。ジェネレーターの高出力化は、ハイブリッドモード走行時にエンジンをかける頻度を少なくする。エンジンがかかりづらく、かかっても音・振動が少ないから、エンジンの存在感は薄れる。それにより、EV感が高まるというわけだ。

バッテリーの充電量が十分にあって、EVモードで走行している時でも、強い加速を求めればエンジンがかかる時はある。モーターの最高出力はフロント60kW、リア70kWで、合計130kW。それに対し、バッテリーから出せるのはざっくり半分の70kW程度と推測される(スペック未公表)。アクセルを床まで踏み込んでフルパワーを求めれば、モーターの最高出力の半分しかバッテリーからは供給できないので、エンジンをかけて残りを補うことになる。今回の改良ではバッテリーの出力が上がっているので、エンジンがかかるまで粘ってくれるのだが、それもEV感の高まりを感じさせてくれるポイントの1つだ。

駆動用バッテリーの容量は12kWhから13.8kWhへと増大。リヤモーター出力は約12%、ジェネレーター出力は約10%向上している

エンジン発電・モーター駆動での走行が「シリーズハイブリッド・モード」と呼ばれるのに対し、エンジン直接駆動は「パラレルハイブリッド・モード」という。前述の通り、後者は速度域の高い欧米で戦う上で武器になる。日本でも、流れのいい郊外路や高速道路の実用燃費では、かなり効いてくる要素になるだろう。運転していても、パラレルに切り替わる時にショックを感じることなどはなくて、メーターの表示でそれと知れるだけだ。

エンジン直接駆動は、高速域で負荷が少ない領域に使用が限られるものの、ちょっとアクセルを踏んだら解除されるのではないかと経験則で推測していたのだが、そうではなかった。いったんパラレルに入れば、それなりの加速やトルクを要求しても、エンジンの力以上に応えてくれる。それは、モーターがエンジンをアシストしているからだ。だから、パラレルでもエンジンでブルブルと走らせている感覚は少なく、EV感が続いていくのだった。このクルマを実際に所有して日常的に乗れば、パラレルも頻繁に使うことになる。モードが切り替わった時のフィーリングは気になるところだが、アウトランダーPHEVは期待以上だ。

モーターアシストが効いたエンジン走行も期待以上のフィーリングだ

新設定の「SPORTモード」はどんな乗り味か

追加された「SPORTモード」も見所の1つ。こちらは、アクセル操作に対して素早いレスポンスが得られる走行モードで、確かに敏感で楽しかった。今回の改良の主目的とは反対に、このモードではエンジンがかかりやすくなるが、それも強大なトルクを素早く出すためであって、理にかなっている。

だが、タイトコーナーが続くワインディングを走っていると、これでも物足りなくなってきた。コーナーの立ち上がりでアクセルを床まで踏み込んでも、エンジンの回転数が高まって、モーターがフルパワーを発揮するまでにはタイムラグがあるからだ。

SUVのアウトランダーならこれでもいいけれど、このシステムでもっとスポーティーなモデルを作る時には、SPORTの上の「SPORT+」や「RACE」といったようなモードを設けて、常にエンジンを最高出力発生回転数にキープするようにして欲しい。アクセル操作に対して、間髪を入れずにポテンシャルを発揮することになるから楽しいだろう。これでは燃費が悪そうだが、限られたシチュエーションで使うだけだし、バッテリー容量が大きなPHEVだから、余剰トルクは発電して貯めておけば、そんなに効率が悪いというわけでもないはずだ。

同様のシステムでスポーティーなモデルを作るなら、レスポンスをさらに高めた走行モードも欲しいところ

シャシーなどもしっかり進化、内容に対して価格は割安?

そのほかにも、ショックアブソーバーの径拡大やステアリングギア比のクイック化といった改良が見られるが、中でもシャシー系の進化は見逃せない。

従来モデルでは、2017年の改良時に登場した「S-Edition」で、テールゲート開口部とリアホイールハウス周りに構造用接着剤を採用し、剛性向上を図っていたが、今回は、その範囲を前後ドア周りにまで拡大してきた。しかも、「S-Edition」のみならず、ガソリン車も含めて全車に同様の改良を施している。以前は構造用接着剤の塗布が手作業だったので、できる数は限られていたのだが、「エクリプス クロス」(2018年3月に発売したSUV)でも構造用接着剤を使いたいと考えた三菱自動車は、生産設備に投資して同工程を自動化したのだという。

基本的に、設計年次としては決して新しくないクルマであることもあって、ボディ剛性の向上は大きな効果を発揮する。路面から大きな入力があっても、ボディから安普請な音や振動を感じることがなく、サスペンションがスムーズにストロークしていた。ステアリングを通じて得られる接地感が増しており、ハンドリングが楽しくなった。とくに「S-Edition」でS-AWC(車両運動統合制御システム)をSPORTモードにすると、アクセルオンで旋回力を増していくような挙動が感じられて愉快だ。

ボディ剛性アップの効果は確かに感じられた

今回、アウトランダーPHEVが受けたビッグマイナーチェンジには確かな効果があったようだ。その内容に対し、車両価格はリーズナブルといえるだろう。PHEVの将来性については次回、ホンダのクラリティPHEVの出来栄えについてレポートするつもりだから、その後にお伝えしたい。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。