イタンジはなぜ「仲介手数料ゼロ」でも業界から嫌われないのか? イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー(2:M&A後編)

イタンジはなぜ「仲介手数料ゼロ」でも業界から嫌われないのか? イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー(2:M&A後編)

2016.06.06

イタンジはなぜ「仲介手数料ゼロ」でも業界から嫌われないのか? イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー(2:M&A後編)

2015年8月のM&Aによって、ネット不動産仲介として断トツの地位を確立した「ノマド(nomad)https://nomad-a.jp/」は、無店舗、直接物件見学可、といった既存の仲介業の常識を覆すサービスを「仲介手数料ゼロ」というインパクトで提供している。ノマドを運営するイタンジの代表の伊藤嘉盛氏へのインタビュー、 今回はその統合の経緯を含め、M&Aで得たこと、失敗したこと、学んだことについて前編に続いて伺う。

<2> イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー<M&A後編>

●大成功!?と思いきや…カベに直面

―まさにM&Aによるシナジー効果を得られた。大成功ですね。
 いえ、実はもっといけると思っていました。それを阻んだのが「文化」の壁です。この問題が実に難しい。エンジニアが主体のヘヤジンプライムとオペレーター主体のノマドは文化が違ったんです。

 働き方一つとっても文化が全然違う。エンジニアは、はたから見るとだるい感じでパソコンに向かって仕事している。一方、接客するオペレーターは元気で体育会系。休みに関しても、エンジニアは土日は休みますが、逆にオペレーターは土日が忙しい。

 そのため、現場ではお互いの文化に慣れることに時間が掛かり、業務の連携に滞りが生じる場面がありました。また、統合によってヘヤジンプライムのオペレーターが離職するなど組織面での苦難もありました。その反省から、現在は目標管理や評価制度の再構築や個別面談の設定、全社の懇親会を増やすなど組織改革に力を入れています。

―M&Aはメリットもある反面、こうした課題も意識しておかなければなりませんね。
 僕は以前、設立した会社を売却した経験もあります。その際、売却後に多くの従業員が去ってしまったと聞き、非常に後悔の念を感じました。売却先が上場企業というのもあって、どちらが正しいということではなく、経営管理体制や意思決定の仕組みが中小企業とは大きく異なっていたことも原因になっていたと思います。

 また、とくにベンチャー企業の場合、会社が経営者に依存しすぎてしまうという傾向があります。以前の会社はまさにそうで、僕は強いリーダーシップで従業員を引っ張っていました。だから会社が売られて、僕がいなくなったのと同時に、「社長について来たのに」ということで、従業員も離れて行ってしまったのだと思います。この経験によって経営者としての未熟さを痛感しましたし、「会社が継続する本質的な要因とは何か」という問いが生まれました。

 そこで、イタンジでは自分がいなくても回る「仕組み」を重視しています。これは自分が楽をするためではなく、トップダウンの強いリーダーシップを発揮するよりも、あえて従業員の後ろからついていくマネジメント方法をとっています。いわば「羊飼い方式」ですね。トップが指揮命令をしなくても変化に対応できる継続可能な会社をつくるためには、優秀な人が自走できる環境を整え、細かい指示をせずにゴールを明確にすることに注力すべきです。

 さきほどご紹介したFacebook向けのAIチャットサービスは、開発ツールを無償提供するというFacebookの発表から、わずか2日で完成させました。それは、従業員のみんなが「テクノロジーで不動産取引を滑らかにする」というイタンジのビジョンを共有し、ユーザーとのインターフェースの重要性を理解しているからこそできたことであり、自然発生的に組織が変化に対応した事例とも言えます。

●P/LだけでなくB/Sで勝負する

―伊藤代表は企業を売る、事業を買うという両方の経験をお持ちですが、ベンチャー企業のM&Aに対して伊藤代表のように柔軟な考え方をされる経営者は少ないのではないでしょうか。
 確かに、日本では特に上場前のベンチャー企業の間でM&Aをするということはあまりないと思います。そもそもベンチャーへの投資案件数も米国と比べたら10分の1くらい。米国では大手に事業を売却した資金で新事業を立ち上げつつ、ほかのベンチャーにも投資するという流れもできています。ただ、日本でも3年ほど前から米国のようなベンチャーのM&Aも出始めています。

―伊藤代表ご自身、今後もM&Aをしようというお気持ちはありますか?
 はい、あります。もちろん、資金と良い案件があればの話ですが。P/L(損益計算書)をつくることも大事ですが、B/S(バランスシート)で勝負するベンチャーがもっと増えてもいいのではと考えています。資本で事業や収益を生み出すという視点の重要性を理解すればビジネス拡大の打ち手は増えます。私自身、資本の力を駆使するという感覚は、ファイナンスMBAを取得しているというバックグラウンドや、不動産売買の経験によって培われてきたと思います。

―ここまでお話を聞いてくると、伊藤代表の行動原理やそのバックグラウンドにもとても興味が湧きます。その点についてもぜひお聞かせください。

<人生編>経営者に大金は毒!? 会社売却資金の使い道とは?に続く

イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー(1:ビジネスモデル前編)を読む

この話の前半部分;イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー(2:M&A前編)を読む

編集:MAOnline編集部

伊藤 嘉盛(いとう・よしもり)略歴紹介 イタンジ株式会社 代表取締役CEO

1984年生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。父も兄も不動産業という生粋の不動産一家に生まれ育ち、幼少期より不動産に関するノウハウを 叩き込まれる。大学卒業後、大手不動産管理会社に入社し、賃貸管理業の受託営業を担当。2008年に、たった1人で独立し、都心の不動産仲介業務を行う不 動産会社を設立。わずか4年間で都内3店舗(日本橋、麻布、渋谷)まで事業を拡大。その後、上場企業グループ会社へのバイアウトを実現。仲介業務を自ら行 う中で業界の非効率性を痛感し、業界変革への熱い志を立てる。2度目の起業として、2012年6月、共同創業者としてイタンジ株式会社を設立(イタンジ企業HPより抜粋)

イタンジ企業URL:http://itandi.co.jp/member/
根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。