家電の常識を破った、アイリスオーヤマ「モップ付き」掃除機

モノのデザイン 第43回

家電の常識を破った、アイリスオーヤマ「モップ付き」掃除機

2018.09.19

家電の常識を破った「モップ付き」スティック掃除機

アイリスオーヤマならではの、家電と日用品の垣根を越えた製品

そのデザイン上の工夫や開発秘話を聞いた

アイリスオーヤマから6月に発売された「極細軽量スティッククリーナー KIC-SLDCP5」。最大の特徴は"モップ付き"であることだ。

本体にモップを入れるケースが装着されており、ホコリを取りたい際にはその場でサッとモップを取り出し、モップがけの手作業がスムーズに行えるというアナログ思想のアイディア製品。モップを入れるケースには静電気を発生させる素材を採用し、ホコリを効率的に吸着できる仕組みを持つ。さらに、付いたホコリはそのままスタンドで吸引できるという仕様だ。

まさに、家電のみならず、食品から生活用品まで、幅広い商材を取り扱うアイリスオーヤマならではと言える製品だが、どのような経緯でこのハイブリッドな仕様が生まれたのだろうか。開発秘話やデザイン上のこだわりを、同社デザインセンター・マネージャーの宮脇将志氏に伺った。

アイリスオーヤマの「極細軽量スティッククリーナー KIC-SLDCP5」。"極細"や"軽量"にこだわりを持つ、同社のスティック型掃除機の中でもプレミアムモデルであり、これまで市場になかった要素を持つユニークな製品だ

家電と日用品の垣根を越えた「時短ツール」

スティッククリーナーにモップを合体させるという、ありそうでなかった斬新な発想。宮脇氏によると、そのアイディアの源泉や経緯となったのは、"掃除"という、より大きなカテゴリーからのアプローチだったという。

「弊社はもともと日用品のメーカーで、回転モップなど掃除に関する製品を古くから扱っています。一方で、掃除機に関しては、近年、"極細"や"軽量"を切り口にした製品を多数開発しています。そうした中で、掃除のための便利なツールであって、時短につながるような切り口はないだろうかと考えた際に、注目したのが"ハンディモップ"。今回の製品のアイディアはそうした流れでつながっていきました」と宮脇氏。

"なるほど家電"を標榜する、アイリスオーヤマらしい+αのアイディアは"モップ付き"。スティック部分にケースを備え、その中にモップを常備することで、掃除機をかけながら気になる場所をその都度モップ掛けできるという、効率的な掃除動線を実現した

しかし、一口に"モップ付き"と言っても、さまざまな形状やスタイルがあるものだ。そうした中、初期の段階で着目されたのは、実はまったく別の企画だった。

新製品のスティッククリーナーのモップ部分の仕組みを独立させたかたちで、当初は卓上タイプの製品として手作りで試作を繰り返したという。

難しかったのはモップに付いたホコリの除去。宮脇氏は「モップ=静電気でホコリを吸着する仕組み。逆に、モップについたホコリを除去するためには静電気を剥がす必要があるのですが、それをどのようにして行うかが大きな課題でした」と明かす。

そこで思いついたのが、金属のプレートに接触させて放電することで除電を行う仕組み。新製品の極細軽量スティッククリーナーのスタンド下部には、金属のプレートが備えられているが、この部分にモップを挿し込むことで除電を行い、「どうせなら掃除機の力も使って吸い取ってしまおう」と、セットしたクリーナーヘッドに搭載したパワーブラシがホコリを掻き取り、同時に吸引も行うというスタイルが自ずと決まったのだという。

逆説的な言い方だが、まさにモップと掃除機という2つのアイテムを融合させたからこそ生まれた製品とも言える。

ホウキのような「極細」を目指して

充電台の下にはモップ用のクリーナー部も搭載。金属のプレートで除電を行いながら、クリーナーヘッドでホコリを吸い取れる

こうして結実したモップ一体型のスティッククリーナーだが、モップの収納に関してはパイプ部分に収めるというアイディアも検討されていた。しかし、パイプ部分にはスイッチがあるため、電気をつなぐ必要がある。すると、自ずと太くなってしまうため、"細い"という切り口を阻害してしまうという理由から断念するに至ったという。

「デザイン上はもちろんモップが中に納まったほうがよかったのですが、消耗品として別に付けたほうがかえって使いやすいのかなという結論になりました。最終的にはユーザーさんが使いやすいほうがいいということで、デザインよりも使いやすさが優先されました」

そして、性能や機能とデザインを両立するために、"軽量極細"というもう1つのコンセプトにも苦心したとのこと。「デザイン上、本来はホウキみたいなスティック状の極細にしたかった」と話す宮脇氏だが、掃除機において不可欠なモーターの直径が、どうしてもデザイン上の制約になってしまうのは避けられない要素だと話す。

「新製品はヘッド内部に縦回転のサイクロン気流を発生させるパワーヘッドの搭載などにより、従来モデルよりも吸引力が約3倍もアップするなど性能面でも自信があります。しかし、本体の細さはそのままモーターの径になるので、これ以上のスリム化は望めませんでした」

しかし、それでも極力細く見せようとデザイン面でもさまざまな工夫が試みられている。モーター部分は膨らませたままにし、それ以外の部分をギリギリまでそぎ落として細くする一方、部分的に色を切り替えるなどの視覚効果を利用してできるだけ細く見せるようデザインされている。

モーター部分以外をそぎ落とすデザイン処理。これは、アイリスオーヤマの軽量極細スティッククリーナーのシリーズに共通したデザイン意匠でもあるのだ。

「ホウキみたいな極細を目指した」というデザイン。細さはモーターの直径までが限界ではありながらも、それ以外の部分はギリギリまでそぎ落とし、配色などの工夫によりメリハリを付ける視覚効果で、よりほっそりとしたイメージを持たせている
パイプを外せばハンディクリーナーとしても利用できる2ウェイ方式

さらに、発売時の市場想定価格が2万6,800円(税別)と、"値ごろ感"も訴求ポイントに掲げるアイリスオーヤマとしては、高価格帯の製品でもある。同社では従来から設定した価格のもとで、性能、機能、デザインのすべての面において可能な限り最適・最良の製品を目指すことを製品開発のポリシーに掲げているが、同製品でもそれが貫かれている。

「当社の掃除機のラインアップでは、ハイエンドなモデルにあたります。そこで、高級感を出すためにフル塗装するなど仕上げに関してもこだわりました」と宮脇氏。また、外観上は機能的に見せるため、「全体的には一直線につないだデザインにすることで先進的なイメージを出しつつも、あえてところどころに"角"を出すことで道具っぽさを醸し、機能的なイメージを強調しました」と説明する。

同製品のカラーにはローズゴールドとマッドブラックの2トーンを採用。「2トーンにより機能的イメージを訴求すると同時に、ローズゴールドには少し色気があり、さりげないインテリアのアクセントになる」というのが理由だそうだ。

「極細軽量スティッククリーナー KIC-SLDCP5」の企画・設計・デザインなど製品化の秘話を明かしてくれた、アイリスオーヤマのデザインセンター・マネージャーの宮脇将志氏

"モップ付き"という斬新さが史上に絶大なインパクトを与えた、アイリスオーヤマの新製品。しかし、開発の舞台裏や製品に込められた開発者の思いは想像以上に大きいものを感じた。

同社はもとは日用品から出発したメーカーで、家電業界では新参者とされている。だが、それゆえに可能な製品カテゴリーや業界またぎの自由な発想で企画・開発された独自の製品や発明品の誕生が、今後も期待できそうだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu