なぜ顧客満足にこだわり始めたのか、KDDIの「大きく、変わります。」宣言の真意

なぜ顧客満足にこだわり始めたのか、KDDIの「大きく、変わります。」宣言の真意

2016.06.07

先月末開催の新製品発表会で『この夏auは「大きく、変わります。」』と宣言したKDDI。その取組みを突き詰めれば、顧客満足度の向上という言葉にたどり着く。なぜ今になって顧客満足度を重視するのか。背景を探ることで、同社の事情や今回の宣言の意味合いがいろいろと見えてくる。

宣言で何が変わるのか

KDDIが打ち出した「大きく、変わります。」宣言。全顧客に"auでよかった"と感じてもらえる企業に進化するための宣言だという。発表会に登壇した田中孝司社長は「これからは、お客さん一人ひとりのニーズを理解して体験価値を提供していきたい」と話す。

その取組みとして行うのが、カスタマージャーニーの総点検。「店舗での待ち時間が長いのは嫌だ」「初期設定の方法がわからず不安」「長く使うほどいいことがあったらいい」といった端末購入前から後までのあらゆるプロセスにおいて、顧客の声に耳を傾け、対応していく取組みだ。

スマホに興味を持つ、購入、使用のすべての局面における顧客の声に耳を傾けて対応していくという

もちろん、宣言だけでなく、発表会では、上記の問題をいくつか解消する具体的な取組みを発表している。それが今夏から順次スタートする「au STAR」プログラムだ。

同プログラムは大きく3つに分かれる。まずは、ネットを通じて店舗予約を行い、あらかじめ用件を伝えておくことで、来店時に各人に応じたスムーズな応対を実現する「au STARパスポート」がある。

ネットを通じて店舗予約を行い、あらかじめ用件を伝えておくことで、来店時に各人に応じたスムーズな応対を実現する「au STARパスポート」

次に、4年以上の長期利用者に、契約年数や契約内容に応じてWALLET ポイントを付与する「au STAR ロイヤル」。そして、3つ目がプログラム会員にエンタメコンテンツの無料視聴や契約更新時にギフト券の贈呈などを行う「au STAR ギフト」である。

4年以上の長期利用者に、契約年数や契約内容に応じてWALLET ポイントを付与する「au STAR ロイヤル」
プログラム会員にエンタメコンテンツの無料視聴や契約更新時にギフト券の贈呈などを行う「au STAR ギフト」

これらは店舗における最適な接客の実現や、長期利用者の優遇につながるプログラムとなり、auユーザーには喜ばしい取組みとなるだろう。

しかし、なぜ今こうした宣言をしたのだろうか。今回の取組みは、一言でいえば顧客満足度の向上である。そもそも、顧客満足度の向上とは、多くの企業が日常的に取り組んでいる取組みに過ぎない。それを対外的に宣言する必要はあったのだろうか。

田中社長が挙げる2つの理由

それについて、KDDIの田中孝司社長は理由を2つ挙げる。ひとつは、単にスマホを持ちたいという人ばかりが来店するのではなく、顧客によってニーズが変化していることだ。

田中社長は「お客さんの声を本当に聞いて対応しているのかという大反省がある。会社を大きく変えていこうと。地道なところからかもしれないし、急にはいかないけれども、そのように会社を変えていきたい」と話す。さらに「対外的に宣言することで、会社全体が本気で改善に取り組もうという意識のあらわれ」などとコメントしている。

今回の取組みについて経営上の何らかの危機感のあらわれかという質問に対し、「お客さんの声を本当に聞いて対応しているのかという大反省がある」と回答した田中社長(写真中央)

田中社長の言うとおり、スマホを持つ人の意識が変化しているのは事実だろう。ただし、顧客満足や長期利用者の優遇については、携帯電話業界全体を見てもこれまであまり触れられなかった面がある。それが一転、そこを重視しはじめたのは、もうひとつの理由のほうが大きな影響を与えると見たほうがよさそうだ。

それは田中社長も指摘するタスクフォースの影響だ。タスクフォースの影響とは、総務省主導で進めてきた携帯料金値下げの議論とそれにともなった一連の措置のこと。最終的に、多額のキャッシュバックをつけて実質ゼロ円に近い形でのスマホの販売は禁止に、利用者の公平性の観点から、長期利用者に対する優遇策の策定も、大手携帯電話会社に求められることになった。

これらを踏まえて予測されるのは、大手携帯電話会社間での顧客流動の減少である。いままで、大手携帯電話会社は、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)利用者に、多額のキャッシュバックを付け、契約者を増加させることで、通信収益の増加を図ってきたが、これが事実上不可能となったわけだ。さらに、KDDIほか、ドコモ、ソフトバンクが長期利用者の優遇策を打ち出したことで、3社間での利用者の移動は減ると見込まれている。

ざっくり言えば、顧客が通信料金の安いMVNO(仮想移動体通信事業者)に流れても、入ってくることはなく、大手携帯電話会社は今いる顧客をがっちりホールドする必要性が著しく高まった。いままで以上に現在の契約者を大切にすることが必要になってきたのだ。

「大きく、変わります。」宣言をどう見るか

もちろん、契約者の流出を減らすだけでは、経営上よろしくない。今いる顧客に、様々なサービスを提供して、採算向上を図るのがKDDIの戦略だ。

同社が取り組むのは「au経済圏の最大化」。これは顧客基盤をもとに、ビデオパスやブックパスなどのデジタルコンテンツ、嗜好性の高い食品や日用品といった物販、保険、ローンといった金融商品の販売など様々な分野に進出し、ネット、リアル店舗の両方から収益をあげようという戦略だ。

au経済圏の最大化を図るうえで「ライフデザイン企業への変革」を図り様々な分野へ進出。そこから収益を上げていく方針だ

そして、今回発表された「au STAR」プログラムはこの戦略に結び付けて考えられそうだ。特に、今後販売拡大を目指す金融商品については、その購入・契約にあたって、対面販売が有効と見られる。今回発表された「au STARパスポート」は、auショップの店舗予約、その用件をネットで選択して、スムーズな顧客対応を実現を目指す取組みであり、ダイレクトな店舗誘導策とまでは言えないが、auショップへの来店促進の一環と位置づけられるだろう。

長期利用者に「WALLETポイント」を付与する「au STARロイヤル」も、戦略上生きてくる施策だ。WALLETポイントはauの利用料金への充当、デジタルコンテンツの支払いのほか、嗜好性の高い商品や日用品を扱う「au WALLET market」でも利用することができ、WALLETポイントを介してau経済圏の活性化につながるだろう。

さて、本来のテーマに戻ると、KDDIの「大きく、変わります。」宣言は、顧客に向き合わざるを得ない状況に追い込まれたためと見ることができる。そのために、au STARプログラムが発表され、その第一弾が今回の施策となる。今後も第二弾、第三弾の取組みが発表されると思われるが、それらをKDDIの戦略と照らし合わせて見ると、各施策の真意が鮮明に見えてくるのではないだろうか。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。