働き方改革は「昭和型オフィス」の見直しから? 家具のオカムラに聞く

働き方改革は「昭和型オフィス」の見直しから? 家具のオカムラに聞く

2018.09.19

働き方改革は、働く人の拠点「オフィス空間」に影響している?

フリーアドレスや立つデスクワーク、定着している?

オフィス家具のオカムラから見た「変化」を聞いた。

2018年7月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立した。そんな働き方改革に数年前から熱心に取り組んでいるのが、オフィス家具でその名が知られるオカムラだ。

同社は、社内のメンバーを中心に多様な視点と専門性を持つメンバーが集結した働き方改革プロジェクト「WORK MILL」(ワークミル)を立ち上げ、新しい仕事場をデザインし、よりよい働き方を引き出すさまざまな活動を行っている。

今回は、WORK MILLの中心メンバーである、同社マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 はたらくの未来研究所 所長・エバンジェリストの遅野井宏氏に、日本のオフィス空間と働き方にまつわる潮流について、お話を伺った。

「WORK MILL」に携わる遅野井宏氏(右)と、社会においてワークインライフをどのように実現していくかを探り、情報発信する「Work in Life Labo.(ワークインライフラボ)」の研究所長・薄良子氏(左)

──オカムラと言えば「オフィス家具を中心に展開されている企業」というイメージですが、働き方全体を扱うプロジェクト「WORK MILL」を立ち上げたいきさつを教えて下さい。

こうした取り組みを始めるまでは、弊社では会社の総務部門の方々に対し、新しい家具の入れ替え提案などをするのが主な業務でした。変化のきっかけは、東日本大震災をきっかけに「働き方」への意識が世間で高まったことです。

例えば、営業担当者がお客様から「働き方に対する提案」を求められるなど、ビジネス上、働き方に関する情報を発信していく必要が出てきました。そこでスタートさせたのが、WORK MILLというプロジェクトです。

WORK MILLの「MILL」にはふたつの意味があります。ひとつ目は働き方を多面的に見てみようという意味を込めて日本語の"見る"。そして本質的な価値を引き出していこうという意味での英語の「MILL」で、期待を込めてWORK MILLという名前になりました。

オカムラ マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 はたらく未来の研究所 所長・エバンジェリストの遅野井宏氏

2015年12月にWebメディアを開設。書籍は2回の創刊準備号を経て2017年9月に初刊を出しました。空間を生業とする会社として、実際に場を持ってセミナーイベントを開催し、特定のテーマに対しての働き方を議論しています。

Webと書籍の両メディアでは取材ベースで働き方を議論するのに対し、「共創空間」と呼んでいる実際の場では対話をベースに特定のテーマで働き方を議論するといったことを、数多く手がけるようになっています。2015年に開始した当初、メンバーは10人ぐらいでしたが、年を追うごとにどんどん増えていきました。

──開始からわずか3年で、プロジェクトとして大きくなっているのですね。

そうですね。「社内の働き方改革」についてもこの3年間、WORK MILLのチームが直接関与したりアドバイザーという形で関与したりしながら、積極的に推進してきました。

ラボオフィス「CO-Do LABO」の一角にある「共創空間"Sea"」では、これからの「はたらく」のヒントがある場として、働き方に関するさまざまなセミナーやワークショップを開催している

──政府が大号令をかけて「働き方改革」を推進している中で、オカムラのビジネスに変化は何かありましたか?

我々のショールームやセミナーにお越しいただくお客様の傾向を見ると、今までは総務や施設に携わる方、すなわち「家具や空間を買っていただける方」が多かったのですが、色々な情報発信をしていく中で、総務以外の方々が我々と接点を持つ機会を増やしていただけるようになりました。

例えばIT関連の方々、情報システム系、人事関連、あるいは現場で改革を牽引していく方々からの問い合わせをたくさん受けるようになりました。我々は家具の会社なのに、ITの使いこなしについての相談まで受けることもあります。

──顧客からみて、オカムラのイメージが変わってきているのですね。

そうですね。そのように仰っていただけることが増えてきました。

──逆に、御社が長年取り扱ってこられたオフィス家具に関して、ここ数年の傾向はいかがですか?

我々が展開していく家具のバリエーションもだんだんカジュアルになってきていますし、オフィス空間での対話を重視するモノが増えてきています。家具に対する関心は高まっていると感じています。

これまでの傾向として、「いかに効率よく、多くの人数をワンフロアに詰め込むか」という方針のもと、家具を選ばれるお客様が多かったです。今は「1人で集中する場所」や「チームで効果的に対話する場所」など、多様な場所に対する関心が高まってきています。

──ということは、レイアウトに関しても変化があったのでしょうか。

はい、あります。「高密度で効率だけを考えて入れる」というのが今までの主流だとするならば、そこに対して何らかの「遊び」を設けて、縦横単純なレイアウトだけでなく、いかに従業員の対話を増やすか、偶然の出会いを増やすかといったことを想定して、動線を豊かに設計しています。

オカムラのラボオフィス。中央に円形のワークスペースを置き、導線に変化を持たせている。

また、「窓際」が上級管理職の人たちの場ではなくなってきたというのも傾向のひとつかもしれません。現在、窓際はコミュニケーションの場、あるいは集中の場など従業員に開放するケースが増えてきています。

フリーアドレスの成否をわけるポイントは

──少し前に、主にIT企業の間で「フリーアドレス」の導入がトレンドになりました。導入の成否をわける傾向などあれば教えてください。

まず、「よそでやっているから…」というような動機で始まった「目的のないフリーアドレス」は、基本的に失敗しています。

コストダウンだけを目的としたフリーアドレスは失敗するケースが多いですし、チームメンバーと適切なタイミングでコミュニケーションが取れる仕組みがなければ同じく失敗しますね。

逆に、何のためのフリーアドレスなのか、目的をしっかり設定している組織は成功しています。複数のプロジェクトを掛け持ちしてチームを渡り歩く働き方が主流となっている一方で、オフィスは固定席に縛られるというケースが増えていますが、こうしたプロジェクト型の仕事にシフトするとか、業務の内容を見直しながらフリーアドレスを導入するのであれば、成功に近づくのではないかと考えています。これには、ITがコミュニケーションを支えているかどうかも重要になっています。

ここでもうひとつ問題なのは、中間管理職の意識です。「自分の目の前に部下がいないと不安」「部下がどこで何をしているのか気になる」という意識がある場合、うまくいきません。フリーアドレスを成功させるには、中間管理職の意識が変わることが大きな要素となります。すなわち、総務、IT、人事制度という3つがしっかりと連携していなければ、フリーアドレスは成功しないと思っています。

──なるほど、抜本的に改革しないと頓挫するということですね。フリーアドレスの相談というのはここ数年でどれ位ありましたか?

我々は直接プロジェクトに関わる立場ではありませんので、はっきりとした件数はわかりませんが、基本的にフリーアドレスを想定した上でオフィス作りをするケースが多いです。ただし、仕事上どうしても固定席が必要だったとしても、固定席を持ちながらも多用の場をオフィスに作るということが行われています。

また、いまはフリーアドレスよりも「ABW」を導入することも多いです。ABWとは「アクティビティ・ベースド・ワーキング」の略称で、仕事内容やその日のコンディションに応じて働く場所や時間を自由に選択して、主体的、自立的に働く方法のことです。

会議スペースのほか、集中して作業するためのブースや、「スノーピーク」のキャンピング用品を置いたアウトドア感あるスペースなど、多様な場が用意されている

例えば「今は集中してこの資料を2時間で作りたい」という時には個人の集中ブースに入ったり、「チームメンバーとカジュアルに進捗を共有するためにブリーフィングをしたい」といった場合は立ち会議のような場所で30分程度、手早く打ち合わせをして終わらせるというように、仕事の内容に応じて場所を選び、適切に時間を使って仕事を終わらせるということの方が主流になってきています。したがって、多様な場所が存在しているというのが今のオフィスのトレンドとなっています。

「立って行うデスクワーク」の広がり

──2016年~2017年頃にオカムラをはじめオフィス家具メーカーが昇降型デスクを提案され、大手では楽天が一斉導入してスタンディングワークを提唱するという流れがありました。現在、昇降型デスクやスタンディングワークは定着した感はありますか?

完全に市民権は得たと感じています。認知率は非常に上がっていて、まさに楽天のケースは非常にセンセーショナルでしたし、それ以降も大きなオフィスで数千台単位で導入するケースもあります。

お客様から強い関心をいただくことから、我々も上下昇降デスクのバリエーションをどんどん増やしています。個人用のデスクもさまざまなタイプが出てきましたし、チームで打ち合わせするような場所にも上下昇降タイプが使われています。オフィスだけではなく、学校や実験室など業界や業種を問わず上下昇降による姿勢の変化が色々なところでもたらされるようになってきました。

──御社はオフィスチェアに定評がありますが、昇降型デスクの流行を後押しする情報として、「座りすぎが病気のリスクが増大する」といった海外研究が広がりつつあります。

「椅子の会社」である我々は、椅子に座ることのメリットもリスクも研究した上で商品を展開していますし、「正しく座ることの大切さ」をお伝えするようにしています。浅く座ったり、猫背で座ったりすると、椅子の機能がいくら高くてもサポート力が得られません。結果的に身体に負担が掛かり、生産性を下げる要因になりかねませんし、ヘルニアになるなどの健康面でもリスクを抱えます。そのため、正しい座り方が重要になってくるのです。

一方で、我々は昇降型デスクなどを用いて、立って仕事をするメリットも訴求しています。どの姿勢が「正しい」かではなく、どんなシーンに適しているかという視点が大切です。

以前、メガネ型デバイス「JINS MEME」を使って、仕事中の集中力を計測する検証を行いましたが、私は立って仕事をしたときのほうが瞬発力の高い集中力を発揮できることがわかりました。逆に、座って仕事をしたすると一定の集中力が長く保たれたのです。そのため、じっくり資料を作りたいときは私は座って作業します。

これは私個人の体験ですが、皆さんがそれぞれ、立ったときと座ったときの集中力が把握できれば、仕事内容に応じて姿勢を変えていくということが前向きにできるのではないでしょうか。

働く場所にもバリエーションを

──話は変わりますが、同じ備品がずらっと並ぶ典型的な日本のオフィスと、御社が今提案しているようなオフィスとでは、インテリアの雰囲気がまったく違います。働く人に与える心理的な効果などがあればお教えください。

ラボオフィス「CO-Do LABO」エントランスの「WORK MILL」ブースは、いわゆる昭和型の無機質なオフィスとは正反対の、カラフルでありながらもどこか温もりのある色使いが印象的

典型的な、いわゆる昭和型のオフィスというのは、グレーの壁に濃いグレーのカーペットが敷いてあり、明るめの色の天板の机と、青いオフィスチェアが置かれているというスタイルですよね。ちなみに、オフィスに導入されているチェアの色で一番多いのが「青」なんですよ。

こうしたオフィスでは、使われている色のカラーパレットを作ると片手で終わることが多いです。それって、無機質な空間ですよね。

そんな場所に人を閉じ込めておきながら、創造性高く働かせるというのは無理があるように思いませんか? 五感に何も刺激が無い状態でクリエイティビティを発揮しろというのは無理な注文だと思います。

大量生産や効率が重視された時代のオフィスでは、均一に同じものを管理しやすい形で並べるということが重要だったのです。現在のように労働人口が少なくなっている中では、個々の生産性を高めることが急務です。

いかに人間らしく、心身ともに健康で働けるかを考えた場合には、やはり自然光がたくさん入ったり、木目調など素材感のあるものを配置したり、カラフルな空間にしたりとか、言ってしまえば当たり前の空間ですが、そういった形にオフィスが変わってきているというのがひとつの大きな傾向だと思います。

──カラーパレットが片手で足りてしまうというのは、非常にわかりやすい例えですね。

それと、日本のオフィスは自席と会議室しか居場所がないところが多いんです。働く場所がそのふたつしか選択肢がないんですよね。

パーティションも取り外されていることが多く、確かにチームのコミュニケーションには良い状態だとは思うのですが、自分の仕事に集中したいときには周りがうるさかったり、視線が気になったり、さらには電話が鳴ったら取らなければいけないなど、仕事のリズムを邪魔するものが多く出てきます。

もちろん、そんな環境でも高い集中力を持って働ける人も中にはいますが、全員がそうではありません。そうなると会議室しか逃げ場がなくなりますが、会議室の予約は引っ張りだこなことが多く、ひとりで使うことはなかなか難しい。

結局、働く内容についてはバリエーションに富んできたにも関わらず、働く場所の選択肢がふたつしかないということに、もともと無理があった、不自然だったと思うのです。総務からすれば「同じような部屋を、たくさん」用意したほうが管理しやすいのですが、それが従業員の生産性を大きく損ねているのです。

そういった事実を我々が提案するときは意識して伝えるようにしていますし、お客様からも気づいていただけるようになりました。そういった所が大きく変化した部分だと思います。

過ごしやすいオフィスは「コストでなく投資」

──これからいわゆる昭和型のオフィスから現代向けのオフィスに移行したいと考えたとき、実現のために必要なことは?

これはなかなか難しい話ですが、ワークプレイスというのは「コストではなく投資」だということへ意識を変えていくことが非常に大きいと思います。コストだけを追求する意識から抜け出して、いかに従業員の状態が良くなるか、という点に目を向けることが一番のポイントではないでしょうか。

また、これは働き方改革の成否に大きく関わるのですが、せっかく新しいオフィスを作ったとしても、うまく活用しないと元の木阿弥なんです。上司が「目の前にいろ」と指示する、上級管理職がフリーアドレスやABWの働き方を実践しない、あるいはそういった考え方で働かない人が評価され昇進したりすると、現場のモチベーションは一気に下がってしまいます。

まずはオフィスを投資と捉えることと、その中で新しい行動を取ったり新しい価値を創出しようとしたりする人たちが正当に評価されることが、その新しいオフィスの成否を分ける大きなポイントになるのではないかと思います。

ただ、オフィスが変わることで、行動が変わり、その結果、意識が変わってくることもあります。ですので、投資という形で思い切ってオフィスを変えて、新しい行動が生まれてくれば、現場の意識は相当変わってくるという実感があります。

──なるほど。とてもわかりやすくお答えいただき、ありがとうございました。

ここまでは、オカムラから見た多くの日本企業に関するエピソードを聞いてきた。続いて公開する後編では、オカムラ社内での「働き方改革」とその結果について聞いていく。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。