働き方改革は「昭和型オフィス」の見直しから? 家具のオカムラに聞く

働き方改革は「昭和型オフィス」の見直しから? 家具のオカムラに聞く

2018.09.19

働き方改革は、働く人の拠点「オフィス空間」に影響している?

フリーアドレスや立つデスクワーク、定着している?

オフィス家具のオカムラから見た「変化」を聞いた。

2018年7月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立した。そんな働き方改革に数年前から熱心に取り組んでいるのが、オフィス家具でその名が知られるオカムラだ。

同社は、社内のメンバーを中心に多様な視点と専門性を持つメンバーが集結した働き方改革プロジェクト「WORK MILL」(ワークミル)を立ち上げ、新しい仕事場をデザインし、よりよい働き方を引き出すさまざまな活動を行っている。

今回は、WORK MILLの中心メンバーである、同社マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 はたらくの未来研究所 所長・エバンジェリストの遅野井宏氏に、日本のオフィス空間と働き方にまつわる潮流について、お話を伺った。

「WORK MILL」に携わる遅野井宏氏(右)と、社会においてワークインライフをどのように実現していくかを探り、情報発信する「Work in Life Labo.(ワークインライフラボ)」の研究所長・薄良子氏(左)

──オカムラと言えば「オフィス家具を中心に展開されている企業」というイメージですが、働き方全体を扱うプロジェクト「WORK MILL」を立ち上げたいきさつを教えて下さい。

こうした取り組みを始めるまでは、弊社では会社の総務部門の方々に対し、新しい家具の入れ替え提案などをするのが主な業務でした。変化のきっかけは、東日本大震災をきっかけに「働き方」への意識が世間で高まったことです。

例えば、営業担当者がお客様から「働き方に対する提案」を求められるなど、ビジネス上、働き方に関する情報を発信していく必要が出てきました。そこでスタートさせたのが、WORK MILLというプロジェクトです。

WORK MILLの「MILL」にはふたつの意味があります。ひとつ目は働き方を多面的に見てみようという意味を込めて日本語の"見る"。そして本質的な価値を引き出していこうという意味での英語の「MILL」で、期待を込めてWORK MILLという名前になりました。

オカムラ マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 はたらく未来の研究所 所長・エバンジェリストの遅野井宏氏

2015年12月にWebメディアを開設。書籍は2回の創刊準備号を経て2017年9月に初刊を出しました。空間を生業とする会社として、実際に場を持ってセミナーイベントを開催し、特定のテーマに対しての働き方を議論しています。

Webと書籍の両メディアでは取材ベースで働き方を議論するのに対し、「共創空間」と呼んでいる実際の場では対話をベースに特定のテーマで働き方を議論するといったことを、数多く手がけるようになっています。2015年に開始した当初、メンバーは10人ぐらいでしたが、年を追うごとにどんどん増えていきました。

──開始からわずか3年で、プロジェクトとして大きくなっているのですね。

そうですね。「社内の働き方改革」についてもこの3年間、WORK MILLのチームが直接関与したりアドバイザーという形で関与したりしながら、積極的に推進してきました。

ラボオフィス「CO-Do LABO」の一角にある「共創空間"Sea"」では、これからの「はたらく」のヒントがある場として、働き方に関するさまざまなセミナーやワークショップを開催している

──政府が大号令をかけて「働き方改革」を推進している中で、オカムラのビジネスに変化は何かありましたか?

我々のショールームやセミナーにお越しいただくお客様の傾向を見ると、今までは総務や施設に携わる方、すなわち「家具や空間を買っていただける方」が多かったのですが、色々な情報発信をしていく中で、総務以外の方々が我々と接点を持つ機会を増やしていただけるようになりました。

例えばIT関連の方々、情報システム系、人事関連、あるいは現場で改革を牽引していく方々からの問い合わせをたくさん受けるようになりました。我々は家具の会社なのに、ITの使いこなしについての相談まで受けることもあります。

──顧客からみて、オカムラのイメージが変わってきているのですね。

そうですね。そのように仰っていただけることが増えてきました。

──逆に、御社が長年取り扱ってこられたオフィス家具に関して、ここ数年の傾向はいかがですか?

我々が展開していく家具のバリエーションもだんだんカジュアルになってきていますし、オフィス空間での対話を重視するモノが増えてきています。家具に対する関心は高まっていると感じています。

これまでの傾向として、「いかに効率よく、多くの人数をワンフロアに詰め込むか」という方針のもと、家具を選ばれるお客様が多かったです。今は「1人で集中する場所」や「チームで効果的に対話する場所」など、多様な場所に対する関心が高まってきています。

──ということは、レイアウトに関しても変化があったのでしょうか。

はい、あります。「高密度で効率だけを考えて入れる」というのが今までの主流だとするならば、そこに対して何らかの「遊び」を設けて、縦横単純なレイアウトだけでなく、いかに従業員の対話を増やすか、偶然の出会いを増やすかといったことを想定して、動線を豊かに設計しています。

オカムラのラボオフィス。中央に円形のワークスペースを置き、導線に変化を持たせている。

また、「窓際」が上級管理職の人たちの場ではなくなってきたというのも傾向のひとつかもしれません。現在、窓際はコミュニケーションの場、あるいは集中の場など従業員に開放するケースが増えてきています。

フリーアドレスの成否をわけるポイントは

──少し前に、主にIT企業の間で「フリーアドレス」の導入がトレンドになりました。導入の成否をわける傾向などあれば教えてください。

まず、「よそでやっているから…」というような動機で始まった「目的のないフリーアドレス」は、基本的に失敗しています。

コストダウンだけを目的としたフリーアドレスは失敗するケースが多いですし、チームメンバーと適切なタイミングでコミュニケーションが取れる仕組みがなければ同じく失敗しますね。

逆に、何のためのフリーアドレスなのか、目的をしっかり設定している組織は成功しています。複数のプロジェクトを掛け持ちしてチームを渡り歩く働き方が主流となっている一方で、オフィスは固定席に縛られるというケースが増えていますが、こうしたプロジェクト型の仕事にシフトするとか、業務の内容を見直しながらフリーアドレスを導入するのであれば、成功に近づくのではないかと考えています。これには、ITがコミュニケーションを支えているかどうかも重要になっています。

ここでもうひとつ問題なのは、中間管理職の意識です。「自分の目の前に部下がいないと不安」「部下がどこで何をしているのか気になる」という意識がある場合、うまくいきません。フリーアドレスを成功させるには、中間管理職の意識が変わることが大きな要素となります。すなわち、総務、IT、人事制度という3つがしっかりと連携していなければ、フリーアドレスは成功しないと思っています。

──なるほど、抜本的に改革しないと頓挫するということですね。フリーアドレスの相談というのはここ数年でどれ位ありましたか?

我々は直接プロジェクトに関わる立場ではありませんので、はっきりとした件数はわかりませんが、基本的にフリーアドレスを想定した上でオフィス作りをするケースが多いです。ただし、仕事上どうしても固定席が必要だったとしても、固定席を持ちながらも多用の場をオフィスに作るということが行われています。

また、いまはフリーアドレスよりも「ABW」を導入することも多いです。ABWとは「アクティビティ・ベースド・ワーキング」の略称で、仕事内容やその日のコンディションに応じて働く場所や時間を自由に選択して、主体的、自立的に働く方法のことです。

会議スペースのほか、集中して作業するためのブースや、「スノーピーク」のキャンピング用品を置いたアウトドア感あるスペースなど、多様な場が用意されている

例えば「今は集中してこの資料を2時間で作りたい」という時には個人の集中ブースに入ったり、「チームメンバーとカジュアルに進捗を共有するためにブリーフィングをしたい」といった場合は立ち会議のような場所で30分程度、手早く打ち合わせをして終わらせるというように、仕事の内容に応じて場所を選び、適切に時間を使って仕事を終わらせるということの方が主流になってきています。したがって、多様な場所が存在しているというのが今のオフィスのトレンドとなっています。

「立って行うデスクワーク」の広がり

──2016年~2017年頃にオカムラをはじめオフィス家具メーカーが昇降型デスクを提案され、大手では楽天が一斉導入してスタンディングワークを提唱するという流れがありました。現在、昇降型デスクやスタンディングワークは定着した感はありますか?

完全に市民権は得たと感じています。認知率は非常に上がっていて、まさに楽天のケースは非常にセンセーショナルでしたし、それ以降も大きなオフィスで数千台単位で導入するケースもあります。

お客様から強い関心をいただくことから、我々も上下昇降デスクのバリエーションをどんどん増やしています。個人用のデスクもさまざまなタイプが出てきましたし、チームで打ち合わせするような場所にも上下昇降タイプが使われています。オフィスだけではなく、学校や実験室など業界や業種を問わず上下昇降による姿勢の変化が色々なところでもたらされるようになってきました。

──御社はオフィスチェアに定評がありますが、昇降型デスクの流行を後押しする情報として、「座りすぎが病気のリスクが増大する」といった海外研究が広がりつつあります。

「椅子の会社」である我々は、椅子に座ることのメリットもリスクも研究した上で商品を展開していますし、「正しく座ることの大切さ」をお伝えするようにしています。浅く座ったり、猫背で座ったりすると、椅子の機能がいくら高くてもサポート力が得られません。結果的に身体に負担が掛かり、生産性を下げる要因になりかねませんし、ヘルニアになるなどの健康面でもリスクを抱えます。そのため、正しい座り方が重要になってくるのです。

一方で、我々は昇降型デスクなどを用いて、立って仕事をするメリットも訴求しています。どの姿勢が「正しい」かではなく、どんなシーンに適しているかという視点が大切です。

以前、メガネ型デバイス「JINS MEME」を使って、仕事中の集中力を計測する検証を行いましたが、私は立って仕事をしたときのほうが瞬発力の高い集中力を発揮できることがわかりました。逆に、座って仕事をしたすると一定の集中力が長く保たれたのです。そのため、じっくり資料を作りたいときは私は座って作業します。

これは私個人の体験ですが、皆さんがそれぞれ、立ったときと座ったときの集中力が把握できれば、仕事内容に応じて姿勢を変えていくということが前向きにできるのではないでしょうか。

働く場所にもバリエーションを

──話は変わりますが、同じ備品がずらっと並ぶ典型的な日本のオフィスと、御社が今提案しているようなオフィスとでは、インテリアの雰囲気がまったく違います。働く人に与える心理的な効果などがあればお教えください。

ラボオフィス「CO-Do LABO」エントランスの「WORK MILL」ブースは、いわゆる昭和型の無機質なオフィスとは正反対の、カラフルでありながらもどこか温もりのある色使いが印象的

典型的な、いわゆる昭和型のオフィスというのは、グレーの壁に濃いグレーのカーペットが敷いてあり、明るめの色の天板の机と、青いオフィスチェアが置かれているというスタイルですよね。ちなみに、オフィスに導入されているチェアの色で一番多いのが「青」なんですよ。

こうしたオフィスでは、使われている色のカラーパレットを作ると片手で終わることが多いです。それって、無機質な空間ですよね。

そんな場所に人を閉じ込めておきながら、創造性高く働かせるというのは無理があるように思いませんか? 五感に何も刺激が無い状態でクリエイティビティを発揮しろというのは無理な注文だと思います。

大量生産や効率が重視された時代のオフィスでは、均一に同じものを管理しやすい形で並べるということが重要だったのです。現在のように労働人口が少なくなっている中では、個々の生産性を高めることが急務です。

いかに人間らしく、心身ともに健康で働けるかを考えた場合には、やはり自然光がたくさん入ったり、木目調など素材感のあるものを配置したり、カラフルな空間にしたりとか、言ってしまえば当たり前の空間ですが、そういった形にオフィスが変わってきているというのがひとつの大きな傾向だと思います。

──カラーパレットが片手で足りてしまうというのは、非常にわかりやすい例えですね。

それと、日本のオフィスは自席と会議室しか居場所がないところが多いんです。働く場所がそのふたつしか選択肢がないんですよね。

パーティションも取り外されていることが多く、確かにチームのコミュニケーションには良い状態だとは思うのですが、自分の仕事に集中したいときには周りがうるさかったり、視線が気になったり、さらには電話が鳴ったら取らなければいけないなど、仕事のリズムを邪魔するものが多く出てきます。

もちろん、そんな環境でも高い集中力を持って働ける人も中にはいますが、全員がそうではありません。そうなると会議室しか逃げ場がなくなりますが、会議室の予約は引っ張りだこなことが多く、ひとりで使うことはなかなか難しい。

結局、働く内容についてはバリエーションに富んできたにも関わらず、働く場所の選択肢がふたつしかないということに、もともと無理があった、不自然だったと思うのです。総務からすれば「同じような部屋を、たくさん」用意したほうが管理しやすいのですが、それが従業員の生産性を大きく損ねているのです。

そういった事実を我々が提案するときは意識して伝えるようにしていますし、お客様からも気づいていただけるようになりました。そういった所が大きく変化した部分だと思います。

過ごしやすいオフィスは「コストでなく投資」

──これからいわゆる昭和型のオフィスから現代向けのオフィスに移行したいと考えたとき、実現のために必要なことは?

これはなかなか難しい話ですが、ワークプレイスというのは「コストではなく投資」だということへ意識を変えていくことが非常に大きいと思います。コストだけを追求する意識から抜け出して、いかに従業員の状態が良くなるか、という点に目を向けることが一番のポイントではないでしょうか。

また、これは働き方改革の成否に大きく関わるのですが、せっかく新しいオフィスを作ったとしても、うまく活用しないと元の木阿弥なんです。上司が「目の前にいろ」と指示する、上級管理職がフリーアドレスやABWの働き方を実践しない、あるいはそういった考え方で働かない人が評価され昇進したりすると、現場のモチベーションは一気に下がってしまいます。

まずはオフィスを投資と捉えることと、その中で新しい行動を取ったり新しい価値を創出しようとしたりする人たちが正当に評価されることが、その新しいオフィスの成否を分ける大きなポイントになるのではないかと思います。

ただ、オフィスが変わることで、行動が変わり、その結果、意識が変わってくることもあります。ですので、投資という形で思い切ってオフィスを変えて、新しい行動が生まれてくれば、現場の意識は相当変わってくるという実感があります。

──なるほど。とてもわかりやすくお答えいただき、ありがとうございました。

ここまでは、オカムラから見た多くの日本企業に関するエピソードを聞いてきた。続いて公開する後編では、オカムラ社内での「働き方改革」とその結果について聞いていく。

マツダが新型車「MAZDA3」を発売! ブランド戦略の成否を占うクルマに?

マツダが新型車「MAZDA3」を発売! ブランド戦略の成否を占うクルマに?

2019.05.24

「MAZDA3」はハッチバックとセダンの2タイプ

まるで歩いているような運転感覚を目指したと開発主査

狙うは中~高価格帯? プレミアムブランド化の試金石

マツダは「アクセラ」の後継モデルとなる新型車「MAZDA3」(マツダ・スリー)を発売した。ボディタイプはハッチバック(マツダは「ファストバック」と呼称)とセダンの2種類、価格は218万8,100円~362万1,400円。マツダにとっては新世代商品群の先陣を切るクルマであり、マツダブランドがプレミアム化路線に舵を切っていけるかどうかの試金石となる商品でもある。

マツダが発売した「MAZDA3」。左がセダン、右がファストバック

新世代商品群の口火を切る「MAZDA3」

マツダは2012年に発売したSUV「CX-5」を皮切りに、「新世代商品群」(マツダにとって“第6世代”にあたる商品群)のラインアップを拡充してきた。今回のMAZDA3は、同社にとって“第7世代”にあたる商品群の幕開けとなるクルマだ。このクルマから、次の「新世代商品群」が始まる。

開発主査を務めたマツダ 商品本部の別府耕太氏によれば、MAZDA3で目指したのは「マツダブランドを飛躍させる」こと。そのために、クルマとしての基本性能を「人の心が動くレベル」まで磨き上げ、「誰もが羨望するクルマ」に仕上げたとのことだ。MAZDA3は「徹底的な人間研究」に基づいて作ったクルマであり、乗れば「まるで自分の足で歩いているような」運転感覚を味わえるという。その人馬一体の感覚は、助手席と後部座席でも体感できるそうだ。

コックピットの設計では、誰もが適切なドライビングポジションを取ることができることにこだわったという

マツダの新世代車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHETECTURE」(スカイアクティブ ビークル アーキテクチャー)が相当に進化している様子だが、その違いは素人でも分かるくらい、劇的なものなのだろうか。この問いに別府氏は、「走り出して交差点を曲がる10mくらい、低速域のシンプルな動作でも動きの違いが分かってもらえると思う。動きを滑らかにした。その一言に尽きる」と自信ありげな様子。進化の度合いは「テレビがアナログからデジタルに変わったくらい」とのことだった。

「MAZDA3」の滑らかな運転感覚は少し走るだけで分かると別府開発主査は話す

MAZDA3が搭載するエンジンは4種類。ガソリンは直列4気筒直噴エンジンの1.5Lと2.0L、ディーゼルは直列4気筒クリーンディーゼルターボエンジンの1.8L、そして、マツダが独自技術で開発した新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」の2.0Lだ。このうち、1.5リッターガソリンエンジンはハッチバックのみの設定となる。

1.5Lガソリンエンジンと1.8Lディーゼルエンジンは5月24日販売開始。2.0Lガソリンエンジンは5月24日予約受注開始、7月下旬販売開始予定だ。「SKYACTIV-X」は7月に予約受注を開始し、10月に売り出す計画(画像はファストバック)

どのエンジンを選ぶかで当然、価格帯も違ってくる。1.5Lは218万8,100円~250万6,080円、2.0Lは247万円~271万9,200円、1.8Lディーゼルは274万円~315万1,200円、SKYACTIV-Xは314万円~362万1,400円だ。ちなみに、同じグレードだとセダンとハッチバックの間に価格差はないが、バーガンディー(赤)の内装が備わるハッチバックのみの特別なグレード「Burgundy Selection」は、同一グレード内で最も高い価格設定となる。上に記した価格帯は同グレードを含めたものだ。

1.5Lガソリンは最高出力111ps(6,000rpm)、最大トルク146Nm(3,500rpm)、2.0Lガソリンは同156ps(6,000rpm)/199Nm(4,000rpm)、1.8Lディーゼルは116ps(4,000rpm)/270Nm(2,600rpm)。「SKYACTIV-X」の数値はまだ判明していない(画像はセダン)

182万5,200円~331万200円だったアクセラと比べると、MAZDA3の価格設定からは高価格化の印象を受ける。この点について、MAZDA3のマーケティングを担当するマツダ 国内営業本部の齊藤圭介主幹は、「アクセラでは低~中価格帯の市場にアプローチしていたが、MAZDA3では中~高価格帯へとステップアップしたい」との考えを示した。

セダンは「凛」、ハッチバックは「艶」

デザイン面では、マツダが第6世代商品群で取り入れた「魂動」というコンセプトをさらに深化させた。チーフデザイナーを務めたマツダ デザイン本部の土田康剛氏は、「引き算の美学」で「日本の美意識を表現したい」と考えたという。

セダンでは「凛とした伸びやかさ」で「大人に似合う成熟した」クルマを志向。ハッチバックでは「色気のあるカタマリ」をコンセプトに据えた。「セダンはあえて枠にはめて、ファストバックでは枠を外した」というのが土田氏の表現だ。周囲の景色や光を映し出すMAZDA3のエクステリアは、マツダが2017年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「VISION COUPE」(ビジョンクーペ)で印象的だった「リフレクション」(反映)を体現しているようだ。

「MAZDA3」では全8色のエクステリアカラーが選べる。「ポリメタルグレーメタリック」(画像、2019年1月の東京オートサロンにて撮影)はファストバック専用の新色だ

MAZDA3のエクステリアはスタイリッシュだし、ハッチバックの方はクルマの“肩”の部分が張り出していないので、アクセラに比べ室内が狭くなっていそうに見える。そのあたりについて別府氏に聞いてみると、「人にとっての空間は、部位によって多少の加減はあるが、現行(アクセラ)に対してほぼ同等。視覚的に、室内空間が狭そうに感じたとすれば、それはマツダのデザイン手法により、スタイリッシュさ、前後の伸びやかさ、力強さといったようなものを実現できているためとご理解いただきたい」との回答だった。

荷室については、ファストバックは基本的に「アクセラ スポーツ」(アクセラのハッチバック)と同等で、セダンは容量が拡大している。セダンの方は、アクセラよりも80mm延びた全長の大部分をトランクルームの容量拡大に充てたそうだ。

2輪駆動(FF)のハッチバックで比べると、ボディサイズは「アクセラ」が全長4,470mm/全幅1,795mm/全高1,470mm/ホイールベース2,700mm、「MAZDA3」が同4,460mm/1,795mm/1,440mm/2,725mm。フロントヘッドルームなどの数値を見比べると、数ミリ単位でMAZDA3の方が狭くなっているようだが、開発主査によれば「ほぼ同等」だという

MAZDA3には他にも多くのトピックスがあるものの、全ては書ききれないので、あと2点ほど挙げておくと、まず、このクルマは同社で初めてのコネクティッドカーとなる。車両自体の通信機能でマツダのサーバーと交信することで、24時間体制のサポートが受けられるのだ。例えば「アドバイスコール」という機能では、車両トラブルの際の初期対応から修理まで、幅広いサポートを受けることが可能。コネクティッド機能には使用料がかかるが、最初の3年間は無料だ。

もうひとつ、マツダが強調していたのが「静粛性」と「サウンドシステム」、つまり、MAZDA3車内の「音」に関する部分だ。このクルマはアクセラに比べ、静粛性と「音の伝わる時間と方向のリニアさ」が大幅に向上している。スピーカーは低音域、中音域、高音域それぞれに用意し、最適な場所に配置した。

高音域スピーカーは人の耳に近いドア上部、中音域スピーカーは乗員の体の横、低音域スピーカーは車室外のカウルサイドというところに配置。マツダ社内には「MAZDA3」を「走るオーディオルーム」と呼ぶ人もいるとのこと

MAZDA3の販売目標は、全世界で年間35万台。日本では月間2,000台を目指す。ボディタイプの内訳はファストバックが7割、エンジン構成は1.5Lガソリンが10%、2.0Lガソリンが40%、1.8Lディーゼルが20%、SKYACTIV-Xが30%を想定する。ちなみに、アクセラは2018年(暦年)で約38万7,000台が売れていて、その内訳は最も多い中国が11万7,000台、その次が北米で9万1,000台だった。

グレードにもよるが、MAZDA3は同クラスの輸入車であるフォルクスワーゲン「ゴルフ」やメルセデス・ベンツ「Aクラス」などと肩を並べるか、あるいはそれらを凌駕しかねない価格となる。直列6気筒エンジンの復活を宣言するなど、プレミアム化路線に舵を切ろうとしているマツダとすれば、ゴルフやAクラスなどの市場にMAZDA3で乗り込みたいところだろう。一方、1.5Lのガソリンエンジンでは、若年層に訴求できるかどうかもポイントとなりそうだ。

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経済の低迷が顕著な時代、ゲームは3Dへ

平成6年、インターネットの情報閲覧で欠かせないブラウザにおいて最初期に広く一般に普及した「Netscape Navigator」、検索サービス老舗の「Yahoo!」、World Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ)関連技術の標準化を推進する団体「W3C」が発足するなど、現在のインターネットを活用した諸活動の基盤となる技術が生まれました。

翌年の平成7年にはWindows95が発売。PCがビジネスシーンのみならず一般家庭へと広がり始めます。さらに平成8年にはヤフー、平成9年には楽天と、現在も日本のインターネットサービスを牽引する企業が続々と設立されました。そしてついに平成10年2月、日本におけるインターネット人口が1000万人を突破したのです。

このように、国内のデジタル空間は破竹の勢いで成長と拡大の一途をたどりますが、現実社会には未曽有の危機が訪れます。

平成6年の松本サリン事件と平成7年の地下鉄サリン事件というオウム真理教が起こした一連の事件では、心の拠り所になるはずの宗教が反社会的組織となって、罪のない人々に凶行し得ることを日本人に示しました。現代日本人が漠然と持つ宗教に対する不信感は、これら一連の事件に根差していると言っても過言ではないでしょう。

また、地下鉄サリン事件が起きる直前の平成7年1月17日、阪神・淡路大震災が関西を襲いました。結果的に経済活動も低迷します。GDP成長率は平成7年に2.7%、8年には3%を超えたものの、失業者はこの時期増加の一途をたどり、まさに「失われた20年」前半期の真っ只中でした。

平成6年に人気だったテレビドラマ『家なき子』の「同情するなら金をくれ!」というセリフは、この時期の厳しい世相を示していたと言えます。

一方で、忘れてはならないのは、映画館数が平成5年の1734館から、以降は長期的に上昇していくことです。同一の施設に複数のスクリーンがある「シネマコンプレックス」が台頭するのもこの頃。つまり、「インドアエンターテインメント」という楽しみ方が定着し始めたと言えるのです。

このように、デジタルと現実が相反する様相を示す日本において、ゲーム産業はデジタル側。家庭用ゲーム機では、「セガサターン」が平成6年11月22日に、「PlayStation」が平成6年12月3日に発売されます。いずれもCD-ROMの活用と、3D描画能力が話題になりました。さらに平成8年6月23日に「ニンテンドウ64」が発売されます。

平成6年11月22日に発売された「セガサターン」
©SEGA
平成6年12月3日に発売されたPlayStation®
©2014 Sony Interactive Entertainment Inc.

PCにおいても、さまざまな周辺機器が発売され、ゲームプレイに最適なハードとして強化できる環境が生まれました。CD-ROMドライブの本格的普及、Creative Technologyなどによるサウンドカードの誕生、そして、3dfx VoodooやNvidia RIVAをはじめとする3Dグラフィックアクセラレーターによって、PCの3DCGはリアルタイムレンダリング能力が向上しました。いわゆる「マルチメディア」をキーワードにさまざまなコンテンツが提供されるようになったのです。

欧米PCゲームカルチャー発展の契機となった『DOOM』

主観視点/1人称視点シューティングゲーム(英語名First Person Shooting Game、略称FPS、以下、FPS)では、アタリの『Battlezone』や『Star Wars』など、ワイヤーフレームを用いた作品がいくつか発売されていましたが、現在のFPS系譜の元祖は1992年、id Softwareにより発売された『Wolfenstein 3D』だと言われています。

同作は、日本アイ・ビー・エムが発表したパーソナルコンピュータ用のオペレーティングシステム「DOS/V」版で、『ウルフェンシュタイン3D』として、平成5年3月1日にイマジニアよって日本でも発売されました。

しかし、ゲームカルチャーへのインパクトという視点では、平成5年12月10日に北米でリリースされ、その後北米から欧州へと爆発的に広がり、FPSという一大ジャンルを発展させていった『DOOM』の存在感が圧倒的でしょう。

DOS/V版は平成6年2月1日に『ウルフェンシュタイン3D』と同じくイマジニアから発売され、国内のコアゲーマーを中心に支持されました。ですが、若干粗い3D描画の中でのスピード感あふれるゲーム展開が、一部のユーザーに「3D酔い」を促してしまい、それがしばらくイメージとして定着してしまいました。

一方欧米では、ネットワーク対応の熱いマルチプレイヤー対戦が盛り上がり、週末にそれぞれのPCを持ち寄って、LANでつなぎ、ゲーム対戦を徹夜で行う「LAN Party」という独自のゲームの楽しみ方を生み出します。この先にあるのが、現在のPCゲームを中心としたeスポーツトーナメントです。

このほかに、「シェアウェア」という無料でゲームの一部を提供する概念や、ゲームエディターをユーザーに解放し、独自のゲームステージを開発し共有することを奨励する「MODカルチャー」も本作を契機に広がっていきました。このゲームエディターのカルチャーが、ゲームエンジンのサードパーティへのライセンス提供というビジネスモデルへと発展していきます。

『MYST(ミスト)』が示した、「マルチメディア」で実現する不可思議な世界

当時、コンピュータ(デジタル)メディアがほかと差別化できるものは、「文字、CG、画像、映像、音声といった複数の要素を一体化したコンテンツとして表現できる点」だとされ、それを言葉で表すうえで「マルチメディア」という言葉が頻繁に使われるようになっていました。

この、いわゆる「マルチメディア」ブームの寵児となったのが米国Cyanによるパズルアドベンチャーゲーム『MYST(ミスト)』でした。そして、その日本語版がセガサターン向けソフトとして平成6年11月22日、つまり、ローンチタイトルの1作として選ばれたのです。

同作は、画面の鍵となる部分をクリックして謎を解き、次のシーンに進む、というアドベンチャーゲームの流れを組むもの。当時の欧米ゲームよろしく、細かい解説やチュートリアルのようなものがなく、プレイヤーはいきなりゲームの舞台であるMYST(ミスト)島に放り込まれます。

近代とも中世とも未来とも判別のつかない建築物のある不思議な空間のなかで、プレイヤーは暗号や謎を解きながら物語を展開させていきます。謎解きをする際も、建築物のなかに残された日記やそこに描かれたマップ、本のなかで再生されるアトラスという人物からのメッセージを読み解くといった、テキスト、映像、画像をプレイヤーがフルに活用するようにデザインされており、まさに「マルチメディアブーム」を代表する作品に仕上がっています。このグラフィックデザインや謎解きの仕組みは、のちの数多くのゲームにインスピレーションを与えました。

MYSTのゲーム画面

乙女ゲームの源流になったコーエーの『アンジェリーク』

恋愛/育成シミュレーションのような作品が台頭するなかで、そのゲームメカニクスを女性向けに構想するという「発想」はある意味、自然と言えます。ただ、経営者がそこに予算を割り当てて実行に移すのは別の話。それを行ったのが光栄(コーエー、現・コーエーテクモゲームス)です。

歴史シミュレーションゲームで既にブランド名を確立していた同社でしたが、平成6年9月23日に発売された『アンジェリーク』は、“女性が宇宙を統べる”という世界で、守護聖と呼ばれる存在から助けを得ながら、女王になるべく惑星の大陸を育成します。

『アンジェリーク』のパッケージ
イラスト/由羅カイリ
©1996 コーエーテクモゲームス All rights reserved.

ただ、プレイヤーにとっての楽しみは、守護聖とのロマンス。キャラクターの性格の違いや声優が吹き込む甘いセリフに、プレイヤーは釘付けになりました(ゲーム内で声優によるセリフが付いたのは、平成7年に発売されたPC-FX用ソフトから。平成6年にはドラマCDがリリースされた)。

『アンジェリーク』のゲーム画面。ゲーム画面は「my GAMECITY クラシックゲーム館」でプレイ可能な『アンジェリークSpecial』版のもの
イラスト/由羅カイリ
©1996 コーエーテクモゲームス All rights reserved.

これを契機にコーエーは『アンジェリーク』シリーズを発展させていき、以降は「和」をテーマとした『遥かなる時空の中で』シリーズ、学園モノの『金色のコルダ』シリーズとラインアップを増やし、これらを「ネオロマンス」シリーズとしてブランド化していきます。「乙女ゲーム」という一大ジャンルは、現在スマホゲームのなかでも非常に重要な位置づけになっていますが、その源流がここにあるわけです。

“ニンテンドウイズム”を世界へと広げた『スーパードンキーコング』

平成6年11月26日に発売されたスーパーファミコン用ソフト『スーパードンキーコング』の革新的要素は、スーパーファミコンというハードの制約のなかで、疑似3D的キャラクターモデルをスムーズに動かすことができたという点です。

シリコングラフィックスによる3DCGソフト「Power Animator」によりレンダリングが行われたキャラクターを、同ハードの制限で落とし込めるよう調整しただけでなく、美麗な背景も同様の作業が行われました。

ゲームデザインそのものは、『スーパーマリオブラザーズ』シリーズから築き上げられた横スクロールアクションゲームの1つの到達点として位置づけられるソフトと言えるでしょう。そのような意味では、そこまでの革新性はありませんでした。

しかし驚きなのは、本タイトルが英国のレア社によって開発されたという点。任天堂側からのアドバイスによって、ゲームバランスが絶妙に調整された同作をプレイした当時の筆者は、完全に日本の任天堂(具体的に言えば宮本茂氏)によって作られたものだと思っていました。

のちに本作がイギリスで開発されたと聞いて驚いたことを覚えています。つまり“ニンテンドウイズム”が確実に世界へと広がっていくさまを、筆者を含む世界中のプレイヤーが目撃したのです。

ブリザードの『ウォークラフト』は、グローバル規模でPCゲームカルチャーを定着させた

平成6年11月15日(Moby Gamesによる)、『ウォークラフト』が北米でブリザードからリリースされました。敵軍の戦略や戦術が常に変化するなかで、自軍のリソースを獲得して軍備や研究機関などを増設していき、敵側と激戦を交わし本拠地の占拠を目指すという、”リアルタイム”戦略ゲームの傑作です。その後、DOS/V版も国内で展開されました。

その前に発売された、映画『デューン/砂の惑星』の世界観をベースとした『Dune II』が、このジャンルを確立したと言われていますが、ファンタジー世界を舞台に、人類とオークの戦いという白兵戦を生臭く示した『ウォークラフト』のインパクトで、同ジャンルが浸透したと言えるでしょう。

CPUを相手にストーリーを進行させる「キャンペーンモード」と、LANを通じた複数人プレイの「マルチプレイヤーモード」がありましたが、当時からマルチプレイヤーモードに熱中していたのを記憶しています。同作で紡ぎあげられた世界観が、ブリザードによる以降のゲームの方向性を決定づけたとともに、欧米のゲームカルチャーに対しても影響を与えることになりました。

JRPGの金字塔『クロノ・トリガー』では、作家性の重要さが明らかに

平成7年3月11日に発売された『クロノ・トリガー』は、日本ファルコムや、エニックス、そしてスクエアなどが確立した「8ビットおよび16ビット時代」における“ドット絵の日本製ロールプレイングゲーム(JRPG)の到達点”と言っても過言ではありません。

『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親である坂口博信氏がエクゼクティブプロデューサーを、『ドラゴンクエスト』(以下、『ドラクエ』)シリーズの生みの親である堀江雄二氏がシナリオを、前述の『ドラクエ』シリーズに加えて、マンガ『ドラゴンボール』や『Dr.スランプ』で日本中を虜にしていた鳥山明氏がキャラクターデザインを務めるというドリームプロジェクトが実現。この3人がいかなる作品を生み出すのかという点でも注目の的となりました。まさに“作家性”を全面的に押し出したプロモーションが行われたのです。

『クロノ・トリガー』のパッケージ画像。キャラクターデザインは鳥山明氏
©1995 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
Illustration: ©1995 BIRD STUDIO / SHUEISHA
Story and Screenplay: ©1995, 2008 ARMOR PROJECT / SQUARE ENIX

果たしてリリースされた作品も、ファンの予想をはるかに上回る出来となりました。従来のファンタジーにタイムトラベルの要素を加え、恐竜人類と人類の祖先が共存する原始時代から世紀末、そして未来が描かれます。

鳥山明氏によってデザインされた、クールな主人公「クロノ」から、コミカルな外見をした「ロボ」や「カエル」といったキャラクターまで、しっかりとドット絵で表現。16ビット時代におけるグラフィック表現の最高峰に到達したと言えるでしょう。さらに、光田康典氏によるBGMも、16ビットサウンドの魅力を徹底的に引き出しました。同氏の作曲家としてのデビュー曲にして代表作の1つに数えられています。

『クロノ・トリガー』のゲーム画面
©1995 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
Illustration: ©1995 BIRD STUDIO / SHUEISHA
Story and Screenplay: ©1995, 2008 ARMOR PROJECT / SQUARE ENIX

メディアミックス戦略の源流『ポケットモンスター 赤・緑』

平成8年2月27日、日本を皮切りに、最終的に全世界において社会現象となる作品がリリースされました。『ポケットモンスター 赤・緑』です。

『ポケットモンスター 赤・緑』のパッケージ
©1995 Nintendo /Creatures inc. /GAME FREAK inc.

幼年時の「虫取り体験」からインスピレーションを受けたとされるポケモンを捕まえるスリル、捕まえたポケモンが図鑑に記録されるコレクション要素、「通信ケーブル」でポケモンを交換するドキドキ感など、子供たちがさまざまなシーンで体験したリアルな遊びが、1本のゲームに昇華されたのが本作です。

ゲーム中の画面
©1995 Nintendo /Creatures inc. /GAME FREAK inc.

さらに、マンガ、カードゲーム、テレビアニメ、そして劇場版アニメと、次々と『ポケモン』のタッチポイントを増やし、それぞれで相乗効果が生まれたという点でも当時としては画期的でした。これまでもメディアミックスはさまざまな作品で行われてきましたが、『ポケモン』のインパクトは比べ物にならないほど絶大だったのです。

もちろん、ゲームバランスも秀逸。カジュアルプレイでも十分楽しめるデザインでありながら、パーティのポケモンを選別する戦略性や、対戦相手との絶妙な駆け引きなど、対戦プレイを競技ととらえてプレイする人にも対応しうる奥深さを兼ねそなえた作品でもあったのです。

映画並みのストーリテリングをゲームでも実現できることを示した『バイオハザード』

平成8年3月22日、カプコンからリリースされた『バイオハザード』ほど、当時のゲームプレイヤーを驚かせた作品はないでしょう。

謎の洋館、ゾンビ、そしてその先に存在するさまざまな異形の存在など、ジョージ・A・ロメロが手がけた映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』や『ゾンビ』などからインスピレーションを受けたシーンも数多くあり、それを3Dでかつゲームにおいて完全に再現したことが多くのユーザーに衝撃を与えました。

ゲームというものが、映画に匹敵または凌駕する可能性があるメディアだと実感させた最初期の作品が、本作だったのではないでしょうか。『バイオハザード』以降もシリーズは発展していき、現在も多くの人に愛されるIPであることは誰もが認めるところでしょう。リモコンのようにキャラクターを操作する操作性もむしろホラー感を引き出す「演出」として高く評価されました。

『バイオハザード』のパッケージ画像
©CAPCOM CO., LTD. 1996 ALL RIGHTS RESERVED.
『バイオハザード』のゲーム画面
©CAPCOM CO., LTD. 1996 ALL RIGHTS RESERVED.

ローンチタイトルにして3Dアクションに必要な要素を網羅した『スーパーマリオ64』

平成8年6月23日に「ニンテンドウ64」がリリースされましたが、その際、ローンチタイトルとして展開された『スーパーマリオ64』に当時のユーザーは衝撃を受けました。

ジャンプする、探検する、潜る、飛ぶといった、従来の『スーパーマリオ』シリーズでのプレイ感覚を「忠実に」3D空間で再現していたのです。さらに重要だったのはアナログスティック。自然に3D空間を自由に動き回れるあの操作感には誰もが驚かされました。

さらに特筆すべき点は、デモの際に現れるクローズアップのマリオの顔。まるで平成7年に上映されたばかりの劇場用フル3DCGアニメ『トイ・ストーリー』のキャラクターかと見紛うような豊かな表情のマリオが、画面一杯に表示されているのです。コントローラーを使って顔にイタズラをすると、ちゃんとリアクションもしてくれました。当時はそんなところにミライを感じたものです。つまり、ゲームといる領域を超えたアミューズメントがそこにあったと言えるでしょう。

ゲームが「あらゆるエンターテインメントの複合体」であることを示した『サクラ大戦』

平成8年9月27日、セガサターン向けに開発された同作は、ゲームがまさに「あらゆるエンターテインメントの複合体」であることを実感させられる作品でした。『天外魔境』をはじめ、数々のゲームやアニメを手がけてきた広井王子氏、『逮捕しちゃうぞ』などで人気を博していたマンガ家の藤島康介氏がキャラクターデザイナーとして、そして『ドラゴンボール』をはじめ錚々たるアニメ作品の音楽をつくりあげてきた田中公平氏が結集して作成されました。

『サクラ大戦』のパッケージ画像
©SEGA

大正浪漫と蒸気技術が融合された独自のレトロフューチャー的な世界感のなか、プレイヤーは、「平時は帝国歌劇団」「有事は帝国華撃団」という秘密部隊の隊長として、女性団員をまとめ上げながら、悪の組織と戦うゲームです。

アドベンチャーパートでストーリーを展開させながら、敵との対戦パートはオーソドックスなターン制ウォーシミュレーションゲームとして進める本作は、アニメファン、ゲームファン双方が納得する出来でした。のちにアニメ化、ドラマCD化、そして舞台化まで行われ、ゲームを原作とした2.5次元ライブエンターテインメントの先駆け的な役割を果たしたと言えるでしょう。

対戦パートの様子。「霊子甲冑」と呼ばれるメカを操縦して戦う
©SEGA
本作には、女性隊員とコミュニケーションを図るアドベンチャーパートを搭載。隊員の信頼度によって、攻撃力や防御力が変化し、戦闘パートに影響する
©SEGA

アートと遊びが見事に融合した『アクアノートの休日』と『パラッパラッパー』

また、ゲームの多様性を象徴しうる傑作が、この時期に多数生まれました。その代表的な作品の1つが平成7年6月30日に発売された、『アクアノートの休日』です。アーティスト・飯田和敏氏がゲームデザイナーとして取り組んだ本作は、ゲームクリアの概念が限りなく希薄な、海洋探索型ゲーム。その不思議で幻想的な海洋世界に魅了されたプレイヤーも多く、「目的もなく自由に異世界に没入する」行為自体が、ゲーム体験において重要な要素であることを示しました。

『アクアノートの休日』のゲーム画面
©1995, ARTDINK. All Rights Reserved.

もう一方は、平成8年12月6日に生まれた『パラッパラッパー』です。原色を多用した背景デザインのもと、脱力系とも言える紙っぺらのような2Dキャラクターがダンスバトルを繰り広げるという異色作。ただし、もともとの生みの親である松浦雅也氏が、「PSY・S」として活動していたミュージシャンであったこともあり、ゲームのために準備された楽曲はどれも秀逸で、国内のみならず世界的に評価を受けました。

『パラッパラッパー』のパッケージ画像
©1996 Sony Interactive Entertainment Inc. ©Rodney A. Greenblat / Interlink
『パラッパラッパー』のゲーム画面
©1996 Sony Interactive Entertainment Inc. ©Rodney A. Greenblat / Interlink

これらはいずれも本格的なアーティストが「ゲーム」という課題に対することで、従来のゲームデザイナーでは思いもよらなかった新たな体験をもたらした一例と言えるでしょう。

わずか3年で一気に広がった“デジタルゲームのカンブリア紀”

以上、わずか3年の間で、現在にもつながる多種多様なゲームが生まれました。その生態系の爆発はまさにカンブリア紀を彷彿とさせます。

ただ、ゲームの発展はここでは終わりません。次回は、インターネットシーンにおけるゲーム体験を生み出した作品群を紹介していきます。

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