10回に1回、コーヒーチェーンから“浮気”してもらう 台湾ティーカフェ「ゴンチャ」快進撃の裏側

10回に1回、コーヒーチェーンから“浮気”してもらう 台湾ティーカフェ「ゴンチャ」快進撃の裏側

2018.09.05

近年、茶をメインとした台湾系のカフェチェーンが増えている

中でも「ゴンチャ」は2020年までに100店舗を目指し急拡大

台湾本土にはあるコーヒーをあえて出さない狙いとは?

近頃、都内近郊でじわじわと数を増やしている、コーヒーではなく茶を中心に提供する「ティーカフェ」。大きな黒いタピオカが入った「タピオカミルクティー」は、昨今のブームを知らない人でも、90年代のスイーツブームで見聞きしたことがあるかもしれない。

ティーカフェ市場の中でも勢いがあるのが、台湾で生まれたブランド「ゴンチャ」。日本上陸から3年弱で17店舗と数を伸ばしており、今後2020年末までに100店舗を目指すという。

コーヒーを中心としたメニューが主流のカフェ市場において、あえて台湾の茶で勝負をかけた理由はどこにあったのか。今回は、ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COOの葛目良輔氏に、ゴンチャの日本展開のきっかけから、同社のこだわり、経営方針について伺った。

ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COO
葛目良輔(くずめりょうすけ)氏
1993年にケンウッドへ入社。その後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、スターバックス コーヒー ジャパン、日本マクドナルドで主に店舗営業、事業開発に従事。CCCとスターバックス コーヒー ジャパンの共同事業「Book & Café」では事業リーダーを務めた。2015年2月リヴァンプに参画。フードチームリーダーとして、台湾ティーカフェ「ゴンチャ」の日本法人設立のタイミングからCOOとして業務執行に携わる

――日本国内で「ゴンチャ」のフランチャイズ展開を手がけられるようになった経緯を教えてください。

まず、「ゴンチャ」ブランドそのもののご説明をしますと、台湾で生まれ、商品のクオリティに力を入れるカフェブランドとして、アジア、オセアニア、北⽶エリアにおいて約 1,400 店舗(2017年12月現在)を展開しています。

当初、本国の経営陣は、日本への参入は難しいと尻込みしていたそうです。その不安の背景には、カフェ市場の熾烈な競争や、独自の日本茶文化を持っていることなどがあります。

日本展開のきっかけは、韓国で大きな成功を収めたことです。

3年で300店舗規模まで急成長しました。日本と同様カフェ大国である韓国の首都・ソウルでゴンチャが受け入れられたことが自信に繋がったようです。私はそうした日本進出の意向を受けて、2015年よりゴンチャ ジャパンの陣頭指揮を執っています。

――これまでマクドナルド、スターバックスと大手外食チェーンでキャリアを積まれてきた葛目さんですが、ゴンチャのどこに魅力を感じ、日本法人の設立に携わられるようになったのでしょうか?

前職でスターバックス さん(以下、「スタバ」)に10年ほど関わっていたのですが、その中で「コーヒーは苦手だけど、スタバは好きだ」というお客様や従業員がたくさんいらっしゃることを知りました。

なぜそうした人が多くいらっしゃるかと言えば、スタバは飲食ビジネスだけれども、本質的にはブランドビジネスだからです。ブランドに共感するからこそ、1杯500~600円という価格帯を高いと思わずに来店されている。でも、実はコーヒーが好きなわけではない。

そこで、スタバで支持されるような価値を、「お茶」という商材を用いて提供すれば、競争が激しい日本のマーケットでも、一定の機会があるのではないか、と考えました。

ゴンチャで提供している飲料の例。タピオカの入ったミルクティー以外にも、ストレートティーやスムージーなどがある

――ゴンチャのメインターゲットは?

メインターゲットは20代の女性と設定しました。この年代の方々は「お茶」や「タピオカ」が好きな人が多く、ゴンチャの商品に関連した嗜好の傾向があったためです。

ターゲット層もそうですが、出店にあたってさまざまな指標などを考えるなかで、「10回コーヒーチェーンに行く中で、1回ゴンチャに浮気してもらう」ことを念頭に置くことを考えました。ゴンチャが日本に進出した2015年当時、日本には大手コーヒーチェーンが1000店舗ほどあったので、その10分の1、つまり100店舗は行けるだろう、と踏んだのです。

――なるほど、2020年までに100店舗という出店目標はそこから出されたのですね。

ええ、ですがあくまでも仮説のひとつです。来年以降は出店のアクセルをぐっと踏んでいきたいですね。2018年内に名古屋・大阪・福岡の都市圏において、店舗密度をあげていく計画です。

――日本進出からおよそ3年が経過して、「10回に1回ゴンチャに浮気」してもらうという狙いは当たっていましたか? データなどあれば教えてください。

端的に言えば、イエスです。ゴンチャでは毎月、外部機関による覆面調査を実施し、店舗にフィードバックしています。そこでは必ず、「今日の店舗体験は、いつも行くお店と比べてよかったですか? 比較したお店の名前と良かったかどうかを教えてください」という問いを設けています。

この設問に対して、2人に1人は「スタバ」と回答されます。春水堂、パールレディなど、タピオカ入りのドリンクを提供されているティー専門店の回答は全体の3割程度で、7割はスタバをはじめとしたカフェチェーンです。お客様は、ゴンチャをカフェとして見ているんですね。

「スタバと比べて客席が少ない」とマイナス評価を受けるときもあれば、「お茶の香りがスタバより良い」「コーヒーよりコストパフォーマンスが高い」という評価をいただくこともあります。ですので、先に述べた仮説も、あながち間違っていなかったと確信できました。

――台湾本国のゴンチャと日本のゴンチャを比較すると、本国にあるコーヒーがメニューから外されています。コーヒーはカフェ業態の主力選手ですが、なぜメニューから外したのでしょうか?

日本進出にあたって、まず「やらないこと」を決めました。それがコーヒーを扱わないという決断です。

実は、各国にあるゴンチャで、コーヒーを扱っていない市場は日本だけなんです。逆に、他国のゴンチャがコーヒーを置くのは本国の方針です。カップルでご来店される場合、コーヒーがないと男性側が不満を持つことが多く、機会損失を起こさないためにメニューに加えているんです。私はそこに関してまったく同意しません。

日本でコーヒーを飲もうと思ったら、カフェだけでなくコンビニでも、手軽においしいものが飲める。コーヒーを出すことで、お茶専門カフェとしての地位や認識が薄まるならば、提供しないほうがいい。なので、コーヒーは今日現在も扱っていません。

ミルク・ストレートの違いだけでなく多様なメニューを展開しているが、コーヒーは差別化のためにあえて提供していない

――グローバルの方針に反してメニューを絞るのは、勇気が要ったのではないですか? 

その逆です。日本の競争の激しいマーケットの中で、「本格的なお茶を気軽に飲めるカフェ」としてのプレゼンスを獲得することが重要です。今でこそスムージーなどを置いていますが、進出当初はティーメニューのみに絞っていました。

もちろん、「コーヒーないの?」だとか、「韓国にあるスムージーは日本で出さないの?」など、残念がっていただくこともありますので、今後ブランド価値が確立したら、そういった声にお応えし、全方位的にラインアップを拡充する可能性はあります。ですが、最初から八方美人的にすべてを取りそろえてしまうと「何屋」かわからなくなり、ブランドビジネスとしては自殺行為です。

――取材前に原宿の店舗に立ち寄ったのですが、かなりの行列ができていました。やはり第1号店の原宿が一番混み合っているのでしょうか?

ゴンチャ 原宿表参道店(平日 午後16時ごろ)の様子。店の外まで行列ができていた

いいえ、違います。原宿表参道店の客数は全17店舗の中では中くらいです。

今のところ、一番お客様が多いのは渋谷です。渋谷、新宿、池袋、あとは横浜と続きます。こういった都市部への出店は、お店の規模というより、マーケットの大きさ、集まる人が多いからこそ必然的にそれが反映されて来店客が多くなっています。

面白いのが、2号店のビーンズ阿佐ヶ谷店は年を追うごとに客数が増え、今では開店時の約2倍にまで増えたことです。阿佐ヶ谷駅の駅ビルに入っているのですが、駅の乗降客数に変化はないです。阿佐ヶ谷が生活圏の方々が、新宿など都市部の店舗でゴンチャを体験して、地元の店舗を「再発見」する流れが起きたのです。

これは出店戦略通りの動きで、中核になるエリアに店舗を出店すると、そこから周辺マーケットに広がっていく。中心となる出店エリアがハブで、広がっていくところはスポーク。自転車の車輪のような関係になります。

ハブを出せば、スポークが潤う。また、スポークの地域で暮らす人がハブに遊びに行ったとき、そこでもゴンチャを利用する、という相乗効果が生まれます。お客様のブランド認知をあげるためには、出店戦略も大切な要素と思います。

――先ほどお話しされていたように、大阪​、福岡にも出店されましたね。これから地方でも展開を強化していきますか?

それらの地域への出店イコール、地方に大きく舵を切るということではないです。今回の大阪(梅田・茶屋町)と福岡(天神)は、特に大きなマーケットに出店するご縁をいただけた結果ですね。

東名阪福という4エリアを中心に、ハブ・アンド・スポークで進めていきたいと考えています。

――話が戻りますが、コーヒーの販売をやめたこと以外に、ゴンチャのシステムを日本向けにカスタマイズした部分があれば教えてください。

カスタマイズと言う言葉がまさにそれで、メニューを固定せず、お客様の好みに応じてカスタマイズするということをしています。

ドリンクは4つのベースのお茶から、アイスかホットか、サイズは3種類、甘さ、氷の量、トッピング、こういった要素を選んでいただいています。全部で2000種類くらいになるカスタマイズを、お客様の気分や体調、好みにあわせてカスタマイズいただくセルフカフェという概念をあえて強調しているんです。

ドリンクのベースは、ブラックティー(紅茶)、ジャスミン グリーンティー、ウーロンティー、阿里山 ウーロンティーの4種類

とはいえ、広く親しまれている「タピオカミルクティー」のイメージから、ゴンチャのドリンクに必ずタピオカは入っていると思っている方はまだまだ多く、それでお叱りの声をいただく場合もあります。ですが、カスタマイズという基本は変えませんし、「選ぶ楽しみ」を強調していることは、多くのお客様からもポジティブに受け取っていただいています。

――いわゆる「タピオカミルクティー」を求めてゴンチャに来店される方はどれくらいいますか?

ゴンチャにおけるタピオカミルクティーは「タピオカの入ったブラック ミルクティー」になりますが、全体の3~4割の注文率です。3人に1人はそれを頼むということになるので、かなり大きい割合になります。それでも、メニューとして固定はしません。

「ブラック ミルクティーのタピオカ入り」が、ゴンチャにおける"タピオカミルクティー"

ちなみに、タピオカの入ったブラック ミルクティーを頼む人の割合は、上陸当時はもっと多くて2人に1人でした。だんだんその割合が変わってきているということは、ほかの選び方をお客様に楽しんでいただいている証と考えています。

ターゲットは女性と先ほどお話ししましたが、来店客の男性比率も、当初2割程度だったのが、今や3割を超えています。お店に行かれると確かに女性が大勢いらっしゃっているのですが、確実に男性比率も上がっています。彼女と一緒に、というケースもよく耳にしますが、表参道のお店を3年間見ていて、男性だけでいらっしゃる方も、とても増えてきたなと思います。

――来店客の幅が広がってきたということでしょうか。

そうですね。外国人の方も、当初はアジア系の方が多かったのですが、欧米系の方の比率も著しく増えています。お茶という商材自体のマーケットが広がっているというのは、定点観察していると強く実感します。

なので、私達はあまりステレオタイプのターゲット層にこだわらず、「台湾ティーカフェ」として、お客様好みに自由なカスタマイズをしていただくようにしています。

――店舗ではかなり長い行列ができていますが、実際並んでみると想像より回転が速かったので驚きました。オペレーションの効率化と味の担保はどのように両立されているのでしょうか?

そこは日本が持つ優れた部分、オペレーションエクセレンスとでもいうのでしょうか。スタッフの習熟や細かな改善というのが半分。もう半分はお客様の慣れです。最初は「何を頼んだらいいんだろう」と悩まれる方が多いですが、年月を経ると注文を確定するまでの時間が短くなります。

現在は、お客様と従業員双方の変化が相乗効果を生み、20人並んでいたら20分あれば買えるような速度で提供しています。私もそうですが、スタッフの中にもカフェチェーンの経験者は多いです。そうした経験者たちがノウハウを生かしてくれていると感じます。

――多様なカスタマイズがある一方、お茶の作り置きなどに難しさがあるように思います。おいしさのために採っているルールなどあれば教えてください。

お茶については、必ず抽出後4時間以内に提供するように徹底しています。それを超えたら廃棄する。これはゴンチャのグローバルスタンダードです。

また、ゴンチャのアイスティーは、アツアツのお茶を1杯ずつ氷で急速に冷まして作っています。お茶が濃いと評価いただく要因のひとつには、風味がぎゅっと閉じ込められるこの製法にあると思います。一杯ずつお作りするので手間はかかりますが、この製法を採るのは、「おいしさ」の要素の中で「新鮮さ」が大きいと考えるからです。

ゴンチャでは熱いお茶を1杯ずつ氷で締めて提供している

――主力商材のタピオカですが、どのように調達されていますか?

本国の台湾から冷蔵で直輸入しています。それをお店で1時間かけて調理しています。世界共通のレシピで、大鍋のお湯でタピオカを戻した後に煮て、冷まし、最後に三温糖を和えていますが、これが結構大変です。業務用材料には、お湯に入れると10分で戻せるものや、レンジで温めて使うタピオカもあって、そういった企業様からの売り込みもありました。

ですが、そういったものは採用しません。「おいしさ」のために、効率ではなく、面倒くさい方をとりましょう。そのかわり、やらないことを決めましょう、ということです。

おかげさまで、スタンダードでは調理から5時間以内に提供することとなっていますが、実際は2時間以内に提供し切ってしまうことが大半です。

――ゴンチャが日本で本格展開されていることを含め、1990年代以来の「タピオカ」ブームがきている、とも言われています。春水堂系列のスタンド「TP TEA」が上陸するなど台湾発のチェーンも増えてきており、競争は過熱していますが、こうした「お茶カフェ」の競合と比較した際のゴンチャの「強み」を教えてください。

それもやはり「ブランド」に集約されます。美味しいお茶ならどこ? 美味しいタピオカミルクティーなら、台湾ティーならどのお店? と聞いていった時、第一想起になれるかどうかです。差別化というよりも、一番当たり前のことを愚直にやっていれば、「ティーカフェ」という市場の第一想起になるだろうと思います。

なので、市場が広がり、似たような業種・業態が増えるのは大歓迎です。偉そうな言い方になってしまいますが、パイを取り合いたいのではなくて広げたいので、健全な参入は本当に嬉しく思います。

――「ティーカフェ」市場、どれくらい広がりそうだと考えていますか?

私達の独自調査ですが、およそ300~400億円というのが現状です。シンクタンク系のデータを引っ張ってきて調べました。これには、コーヒーチェーンのティーメニューも、ティー専門のカフェも含みます。

その一方で、別に行った独自調査によれば、コーヒーチェーンにティーメニューがあることを知っている人は、回答者中15%に留まりました。100人いて15人しか、知らない。ましてや体験した割合となると、半分以下になるでしょう。

まず「外食でお茶が飲める」ことの認知拡大が重要になります。ですから、スタバが2016年からはじめた「TEAVANA」ブランドなどのティーメニュー拡大は大歓迎です。彼らがお茶を知らしめていただくほどに、お茶を専門としている我々のような存在の付加価値が増していくと考えています。

――出店を拡大する中で、座席のある店も増えています。今後は台湾本国のようにテイクアウト中心の出店を強化するか、着席前提のカフェ的な出店を強化するか、方針をお聞かせいただけますか?

座席の有無について明確な方針を作ってはいません。お客様からみた私達の価値は、「一杯のお茶」だからです。それをどのように楽しむかが重要なので、「何」を出すかにフォーカスすべきと考えています。

あとは商品以外の体験、お茶を買うまでの時間自体がお客様からするとブランド体験なので、それを長くすればするほどブランド理解は深まります。

たとえば郊外のお店は客席が多く設計されていますが、これはブランド理解のための施策です。郊外型店舗では、隣で300円くらいの「タピオカミルクティー」が売られているので、ブランドを正しく理解していただかないと、「Mサイズのブラックミルクティーにパールのトッピングを入れた」ものが529円というのは、高く感じてしまうのです。

ただ、現段階の出店戦略では都市部が多く、調理の時間もかかることから、キッチンを広くとって、大勢のお客様に商品を提供できる体制を整えることを優先する場合が多いです。なるべくお客様をお待たせしないように、まずは店内のキッチンを強化していきたいですね。

――ありがとうございました。

関連記事
訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事
【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出典:M&A online データベース

関連記事