門外漢だから起こせた技術革新-丸めて光る「魔法の紙」量産化への道

門外漢だから起こせた技術革新-丸めて光る「魔法の紙」量産化への道

2018.09.05

くるくる丸めると光る魔法の紙「PAPER TORCH」

”9千種から選ばれた紙”と”導電性金属インク”が技術の鍵

分野の違うプレイヤーが手を組み生まれたヒット商品

くるくる丸めると懐中電灯のように光る、不思議な紙。どこか”ひみつ道具”のような製品「PAPER TORCH」が2018年7月より販売を開始した。価格は1万800円(税込)で、紙専門商社の竹尾、東大発ベンチャーのエレファンテック(旧AgIC)、デザインチーム nendoの3社が開発した紙だ。

2017年に、限定50個で販売済みの同製品だが、今回は量産化を実現したという。同製品の開発の経緯や、今後の展望について、竹尾 営業開発部 機能材営業課の三瀬 俊樹氏、エレファンテック 取締役副社長の杉本 雅明氏に話を聞いた。

PAPER TORCH。くるくる丸めると光る不思議な紙だ
竹尾 営業開発部 機能材営業課 三瀬 俊樹氏(左)、エレファンテック 取締役副社長 杉本 雅明氏(右)

PAPER TORCHの仕組み、開発の経緯は?

――まずはPAPER TORCHの仕組みについて教えてください

竹尾 三瀬氏(以下、三瀬) : 同製品は、エレファンテックが技術として持っている導電性の金属インクを、当社で提供している紙に印刷したものです。この市松模様が”回路”としての役割を担っており、紙を丸めることで金属インク同士が接触すると、回路がつながり、ボタン電池からLEDへと電気が流れることで発光する仕組みになっています。

紙上に搭載された7つのLEDチップ
くるくる巻くとLEDに電気が流れて光る。紙を丸めるだけで光が灯るという、不思議な感覚を味わえる商品だ

――通常は筐体などで隠されている基板が前面に出ているのが特徴的ですね。何も聞かされていなければ、紙に印刷された市松模様が回路の役割を担うとは思いません。この製品の開発に至った経緯を教えてください

三瀬 : DoT.において、「エレファンテックの技術を用いた製品を作る」というプロジェクトが起こり、そこにnendoが加わったところから、開発がスタートしました。

(※DoT.=デザインオフィス nendoをクリエイティブディレクターとして、ソフトバンク コマース&サービスが運営する「+Style」と共同で取り組む、デザイン特化型のIoT商品開発プラットフォーム)

もともと当社とエレファンテックは共同で展示会を行うなど、深い関わりがありました。その中で、nendoから「PAPER TORCH」の原案を提案いただき、協力することになりました。

「限定販売」で見えた”落とし穴”

――そこから開発に至ったというわけですね。今回の量産化に先立ち、2017年には数量限定でPAPER TORCHを販売していました

三瀬 : 2017年に数量限定(50個)で販売しました。当時も量産化を検討していたのですが、体制を整えることが難しく「量産化を待っているようではあまりに時間がかかってしまう」と、数量限定という縛りのもとで販売を開始しました。

――その際のユーザーからの反響はどうでしたか?

三瀬 : DoT.で販売を開始したところ、多くのメディアに取り上げていただいたこともあり、用意していた製品は発売後3週間ほどで売り切れました。新しい技術に興味を持つ方々に購入していただいたと感じております。その後「気付いたら売り切れていた」という声も聞き、手ごたえを感じましたね。

――1年ほどかかって量産体制を整え、ようやく今回の販売に至った訳ですが、以前発表した時から「PAPER TORCH」がどう変化したのか教えてください

三瀬 : 導電性金属インクが剥がれにくくなっていることが変化の1つです。実は、2017年に数量限定販売をした後に、ある購入者から「突然点灯しなくなった」というフィードバックを受け、その後何度も設計を改良しております。

その方には新しい物をすぐにお送りしたのですが、戻ってきた製品を調べてみた結果、一部のインクが剥がれてしまっており、電池からLEDまでの電気が流れなくなっている部分があるとわかりました。

エレファンテック 杉本氏(以下、杉本) : 水や汗で濡れた手で、プリントされた基板を触ると、すぐにインクが剥がれてしまうことが原因でした。これは私達の予想していなかった問題でしたね。量産化を検討している段階であったため、これは早急に解決すべき問題だと感じ、剥がれにくくするために、どうにか基板とインクが強力にくっつくよう、印刷方法を大幅に変更しました。

具体的には、従来は紙の両面に1回ずつ、合計2回の印刷で作っていたところを、裏表2回ずつ、合計4回にわたって印刷をするようにしました。インクと紙の間に”接着層”と呼ばれる透明な層を入れ込むことで、より強力に結びつくようにしました。

――限定販売したことで、問題点に気づくことができたのですね

三瀬 : はい、その意味では限定販売に踏み切ったのは良かったように思います。そのほかにも、従来品と現行品では、回路そのもののデザインを変更したり、3Dプリンターで作成していたボタン電池用のカバーを専用の型で作成したりと、さまざまな改良を施しております。

2017年に限定50個で販売されたもの(左)と、量産化したもの(右)。左で見られるギザギザは電気抵抗の役割を果たしているが、量産版は市松模様の配置を変え、電気が流れる道を長くすることにより、従来品と同様の調光性能を実現した
現行品の回路図

”丈夫さ”より”デザイン性”「壊れても知りませんよ?」

――製品を作るにあたって苦労したことはどのようなことでしょうか

杉本 : 「これまで世の中に存在しなかったものをつくる」という作業だったので、苦労は多くありました。そもそも基板って、通常はあまり表に出るものではないんです。基板を扱っている私達からすると、隠さずに表に出してしまったら、錆びるし、剥がれてしまうのは当たり前なこと。極端な話、紙を折り曲げてしまえば、電気が通らなくなってしまいますからね。

「通常、絶対にやらないこと」をこのPAPER TORCHではいくつもやっているんです。しかしこの製品はnendoがデザインしたもので、”丈夫さ”よりも”デザイン性”や”新たな体験”が求められる、デザインドリブンなものでした。

でもこれって、iPhoneなんかもそうですよね。日本の携帯会社は当時、「落とすと簡単に割れてしまう携帯」がここまで広く、人々に受け入れられるとは考えられなかった。「ポケットに入れていると曲がってしまう」というような、「そんなのありなの?」ということが起こりますからね。しかし、iPhoneの人気は爆発的に広がりました。

これは1つの例ですが、私たちは、一般的な「こうあるべきこと」が、必ず人々が欲しがるものと一致するとは限らないということを体験しているんですよね。言ってみれば、花瓶だって割れるからプラスチックの方がいいか、というとそれだと味が出ない。

今回、nendoがデザインした製品を作るためには、私たちにとっては”やってはいけないことをたくさんやる”必要がありました。だから私たちは、「壊れても知りませんよ?」と言いながら製品の開発に臨んでいましたね。

三瀬 : 竹尾としては、「プリントするための紙」の選定に苦労しました。巻くことで機能する製品なので、何度も巻かれることを前提として、紙を選ぶ必要がありました。

そのためには、柔らかく、かつ巻かれても元の形状に戻る紙を選ぶ必要があります。薄すぎると元の形に戻りにくいし、かといって厚すぎると反発が強い。こういったいくつもの要求を満たす紙を選定するために、まずは私たちが扱っている約9千種類の紙の中から、材質や機能をもとに仮説を立てて100種類の紙を選定しました。

その後、それぞれの紙で実験を行い、試行錯誤を繰り返したのちに、最終的には「ユポ」という、ポリプロピレンを主原料とする合成紙を選びました。この紙は巻き癖がつきにくく、曲げても元の形に戻りやすいという特徴から、選挙のポスターなどにも使われているものです。耐水性もあり、かつ破れにくいため、用途にあった紙を選択できたと考えています。

門外漢だからこそ起こせたイノベーション

――非常に苦労して作られた製品であったようですね

杉本 : 本当に苦労しました。実際に今回、PAPER TORCHを製品化にまでもっていったことは、すごいことだと思っています。製品化を実現するまでには、時間的、技術的なコストが多く存在しましたから。

”基板を表に出す”ということは、本来はあり得ないことであったので、特に私達のように、電気の分野に近い人ほど、こういったチャレンジをすることは恐れてしまいます。安全性については行政にも相談しながら進めましたから、常識的に考えると問題はないのですが。

ただ、「やったことがない」から、そこに入り込むことには躊躇してしまう。一方で、竹尾さんのように、電気の世界から離れている人からしたら、そもそも基板を取り扱う時点ですでに「やったことがないこと」。いい意味で「前提知識が少ない」からこそ、今回のプロジェクトを進めることができたのではないかと思っています。

ーー専門の知識がなかったからこそ、業界のバイアスに囚われず、PAPER TORCHが誕生したんですね

PAPER TORCHが新たな需要を生み出すキッカケに

――今後の展望について教えてください

三瀬 : ひとまずPAPER TORCHは今回のプロジェクトの集大成、1つの完成形だと捉えています。また、今回利用した技術はさらに応用が利くものであると感じています。

紙に電気を流すという試みは、当社の119年の歴史の中で初めてのことでした。私達が扱っている様々なファインペーパーと、エレファンテックの導電性インクが組み合わさることで、今まで誰も作ったことのないものが作れる可能性を秘めていると思います。

PAPER TORCHから見えてきた、”紙と導電性インクの組み合わせ”から広がる可能性が、さまざまな人に伝わり、新たな価値を生む製品が誕生すれば幸いです。

杉本 : 今回の製品から、回路の基材を変化させるという新たな選択肢ができたのかな、と考えています。例えば、ギターのエフェクター。エフェクターって、自作の文化があるんです。基板に自分の名前を書いたり、色を変えたりして遊んでいる人がいるんですが、そこに”材料自体を変える”という発想は、今まで起こり得ませんでした。

基板はそもそも外に見せるものではなくて、機能さえすればよいもの。そのため、基板の色にこだわることって、基本的にはないんです。しかし今回、基板を前面に出す製品を開発したことで、基板を考える上で、従来は見向きもされなかった”質感”という新たなパラメータが関与するようになりました。

竹尾のさまざまな紙の展示を見てみると、同じ白色でも、300銘柄を超える紙の種類があり、質感が違ったり、少々の色の違いがあったりする。もしかすると今後、「もっといい質感の基板が欲しい」といった、新たな欲求が生まれるようになるかもしれません。

今回のように、業界が異なり、関与することのなかった企業が参入することによって、新たな領域が誕生する可能性があるということは、非常に面白いことだと感じています。

――紙や基板には、まだまだ可能性がありそうです。PAPER TORCHの今後、そして今回生まれた技術の今後が楽しみです。ありがとうございました

【製品の概要はコチラから。】

PAPER TORCH 販売ページ(DoT.)

【PAPER TORCH(動画)】

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事
【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

関連記事