門外漢だから起こせた技術革新-丸めて光る「魔法の紙」量産化への道

門外漢だから起こせた技術革新-丸めて光る「魔法の紙」量産化への道

2018.09.05

くるくる丸めると光る魔法の紙「PAPER TORCH」

”9千種から選ばれた紙”と”導電性金属インク”が技術の鍵

分野の違うプレイヤーが手を組み生まれたヒット商品

くるくる丸めると懐中電灯のように光る、不思議な紙。どこか”ひみつ道具”のような製品「PAPER TORCH」が2018年7月より販売を開始した。価格は1万800円(税込)で、紙専門商社の竹尾、東大発ベンチャーのエレファンテック(旧AgIC)、デザインチーム nendoの3社が開発した紙だ。

2017年に、限定50個で販売済みの同製品だが、今回は量産化を実現したという。同製品の開発の経緯や、今後の展望について、竹尾 営業開発部 機能材営業課の三瀬 俊樹氏、エレファンテック 取締役副社長の杉本 雅明氏に話を聞いた。

PAPER TORCH。くるくる丸めると光る不思議な紙だ
竹尾 営業開発部 機能材営業課 三瀬 俊樹氏(左)、エレファンテック 取締役副社長 杉本 雅明氏(右)

PAPER TORCHの仕組み、開発の経緯は?

――まずはPAPER TORCHの仕組みについて教えてください

竹尾 三瀬氏(以下、三瀬) : 同製品は、エレファンテックが技術として持っている導電性の金属インクを、当社で提供している紙に印刷したものです。この市松模様が”回路”としての役割を担っており、紙を丸めることで金属インク同士が接触すると、回路がつながり、ボタン電池からLEDへと電気が流れることで発光する仕組みになっています。

紙上に搭載された7つのLEDチップ
くるくる巻くとLEDに電気が流れて光る。紙を丸めるだけで光が灯るという、不思議な感覚を味わえる商品だ

――通常は筐体などで隠されている基板が前面に出ているのが特徴的ですね。何も聞かされていなければ、紙に印刷された市松模様が回路の役割を担うとは思いません。この製品の開発に至った経緯を教えてください

三瀬 : DoT.において、「エレファンテックの技術を用いた製品を作る」というプロジェクトが起こり、そこにnendoが加わったところから、開発がスタートしました。

(※DoT.=デザインオフィス nendoをクリエイティブディレクターとして、ソフトバンク コマース&サービスが運営する「+Style」と共同で取り組む、デザイン特化型のIoT商品開発プラットフォーム)

もともと当社とエレファンテックは共同で展示会を行うなど、深い関わりがありました。その中で、nendoから「PAPER TORCH」の原案を提案いただき、協力することになりました。

「限定販売」で見えた”落とし穴”

――そこから開発に至ったというわけですね。今回の量産化に先立ち、2017年には数量限定でPAPER TORCHを販売していました

三瀬 : 2017年に数量限定(50個)で販売しました。当時も量産化を検討していたのですが、体制を整えることが難しく「量産化を待っているようではあまりに時間がかかってしまう」と、数量限定という縛りのもとで販売を開始しました。

――その際のユーザーからの反響はどうでしたか?

三瀬 : DoT.で販売を開始したところ、多くのメディアに取り上げていただいたこともあり、用意していた製品は発売後3週間ほどで売り切れました。新しい技術に興味を持つ方々に購入していただいたと感じております。その後「気付いたら売り切れていた」という声も聞き、手ごたえを感じましたね。

――1年ほどかかって量産体制を整え、ようやく今回の販売に至った訳ですが、以前発表した時から「PAPER TORCH」がどう変化したのか教えてください

三瀬 : 導電性金属インクが剥がれにくくなっていることが変化の1つです。実は、2017年に数量限定販売をした後に、ある購入者から「突然点灯しなくなった」というフィードバックを受け、その後何度も設計を改良しております。

その方には新しい物をすぐにお送りしたのですが、戻ってきた製品を調べてみた結果、一部のインクが剥がれてしまっており、電池からLEDまでの電気が流れなくなっている部分があるとわかりました。

エレファンテック 杉本氏(以下、杉本) : 水や汗で濡れた手で、プリントされた基板を触ると、すぐにインクが剥がれてしまうことが原因でした。これは私達の予想していなかった問題でしたね。量産化を検討している段階であったため、これは早急に解決すべき問題だと感じ、剥がれにくくするために、どうにか基板とインクが強力にくっつくよう、印刷方法を大幅に変更しました。

具体的には、従来は紙の両面に1回ずつ、合計2回の印刷で作っていたところを、裏表2回ずつ、合計4回にわたって印刷をするようにしました。インクと紙の間に”接着層”と呼ばれる透明な層を入れ込むことで、より強力に結びつくようにしました。

――限定販売したことで、問題点に気づくことができたのですね

三瀬 : はい、その意味では限定販売に踏み切ったのは良かったように思います。そのほかにも、従来品と現行品では、回路そのもののデザインを変更したり、3Dプリンターで作成していたボタン電池用のカバーを専用の型で作成したりと、さまざまな改良を施しております。

2017年に限定50個で販売されたもの(左)と、量産化したもの(右)。左で見られるギザギザは電気抵抗の役割を果たしているが、量産版は市松模様の配置を変え、電気が流れる道を長くすることにより、従来品と同様の調光性能を実現した
現行品の回路図

”丈夫さ”より”デザイン性”「壊れても知りませんよ?」

――製品を作るにあたって苦労したことはどのようなことでしょうか

杉本 : 「これまで世の中に存在しなかったものをつくる」という作業だったので、苦労は多くありました。そもそも基板って、通常はあまり表に出るものではないんです。基板を扱っている私達からすると、隠さずに表に出してしまったら、錆びるし、剥がれてしまうのは当たり前なこと。極端な話、紙を折り曲げてしまえば、電気が通らなくなってしまいますからね。

「通常、絶対にやらないこと」をこのPAPER TORCHではいくつもやっているんです。しかしこの製品はnendoがデザインしたもので、”丈夫さ”よりも”デザイン性”や”新たな体験”が求められる、デザインドリブンなものでした。

でもこれって、iPhoneなんかもそうですよね。日本の携帯会社は当時、「落とすと簡単に割れてしまう携帯」がここまで広く、人々に受け入れられるとは考えられなかった。「ポケットに入れていると曲がってしまう」というような、「そんなのありなの?」ということが起こりますからね。しかし、iPhoneの人気は爆発的に広がりました。

これは1つの例ですが、私たちは、一般的な「こうあるべきこと」が、必ず人々が欲しがるものと一致するとは限らないということを体験しているんですよね。言ってみれば、花瓶だって割れるからプラスチックの方がいいか、というとそれだと味が出ない。

今回、nendoがデザインした製品を作るためには、私たちにとっては”やってはいけないことをたくさんやる”必要がありました。だから私たちは、「壊れても知りませんよ?」と言いながら製品の開発に臨んでいましたね。

三瀬 : 竹尾としては、「プリントするための紙」の選定に苦労しました。巻くことで機能する製品なので、何度も巻かれることを前提として、紙を選ぶ必要がありました。

そのためには、柔らかく、かつ巻かれても元の形状に戻る紙を選ぶ必要があります。薄すぎると元の形に戻りにくいし、かといって厚すぎると反発が強い。こういったいくつもの要求を満たす紙を選定するために、まずは私たちが扱っている約9千種類の紙の中から、材質や機能をもとに仮説を立てて100種類の紙を選定しました。

その後、それぞれの紙で実験を行い、試行錯誤を繰り返したのちに、最終的には「ユポ」という、ポリプロピレンを主原料とする合成紙を選びました。この紙は巻き癖がつきにくく、曲げても元の形に戻りやすいという特徴から、選挙のポスターなどにも使われているものです。耐水性もあり、かつ破れにくいため、用途にあった紙を選択できたと考えています。

門外漢だからこそ起こせたイノベーション

――非常に苦労して作られた製品であったようですね

杉本 : 本当に苦労しました。実際に今回、PAPER TORCHを製品化にまでもっていったことは、すごいことだと思っています。製品化を実現するまでには、時間的、技術的なコストが多く存在しましたから。

”基板を表に出す”ということは、本来はあり得ないことであったので、特に私達のように、電気の分野に近い人ほど、こういったチャレンジをすることは恐れてしまいます。安全性については行政にも相談しながら進めましたから、常識的に考えると問題はないのですが。

ただ、「やったことがない」から、そこに入り込むことには躊躇してしまう。一方で、竹尾さんのように、電気の世界から離れている人からしたら、そもそも基板を取り扱う時点ですでに「やったことがないこと」。いい意味で「前提知識が少ない」からこそ、今回のプロジェクトを進めることができたのではないかと思っています。

ーー専門の知識がなかったからこそ、業界のバイアスに囚われず、PAPER TORCHが誕生したんですね

PAPER TORCHが新たな需要を生み出すキッカケに

――今後の展望について教えてください

三瀬 : ひとまずPAPER TORCHは今回のプロジェクトの集大成、1つの完成形だと捉えています。また、今回利用した技術はさらに応用が利くものであると感じています。

紙に電気を流すという試みは、当社の119年の歴史の中で初めてのことでした。私達が扱っている様々なファインペーパーと、エレファンテックの導電性インクが組み合わさることで、今まで誰も作ったことのないものが作れる可能性を秘めていると思います。

PAPER TORCHから見えてきた、”紙と導電性インクの組み合わせ”から広がる可能性が、さまざまな人に伝わり、新たな価値を生む製品が誕生すれば幸いです。

杉本 : 今回の製品から、回路の基材を変化させるという新たな選択肢ができたのかな、と考えています。例えば、ギターのエフェクター。エフェクターって、自作の文化があるんです。基板に自分の名前を書いたり、色を変えたりして遊んでいる人がいるんですが、そこに”材料自体を変える”という発想は、今まで起こり得ませんでした。

基板はそもそも外に見せるものではなくて、機能さえすればよいもの。そのため、基板の色にこだわることって、基本的にはないんです。しかし今回、基板を前面に出す製品を開発したことで、基板を考える上で、従来は見向きもされなかった”質感”という新たなパラメータが関与するようになりました。

竹尾のさまざまな紙の展示を見てみると、同じ白色でも、300銘柄を超える紙の種類があり、質感が違ったり、少々の色の違いがあったりする。もしかすると今後、「もっといい質感の基板が欲しい」といった、新たな欲求が生まれるようになるかもしれません。

今回のように、業界が異なり、関与することのなかった企業が参入することによって、新たな領域が誕生する可能性があるということは、非常に面白いことだと感じています。

――紙や基板には、まだまだ可能性がありそうです。PAPER TORCHの今後、そして今回生まれた技術の今後が楽しみです。ありがとうございました

【製品の概要はコチラから。】

PAPER TORCH 販売ページ(DoT.)

【PAPER TORCH(動画)】

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。