日本アニメが世界で勝つために必要なことは、国産化と異業種連携である

日本アニメが世界で勝つために必要なことは、国産化と異業種連携である

2018.09.04

近年トレンドになっている“非写実的”なCG表現

丁寧な仕事や高いクオリティは世界でも認められる

今後は異業種と組んで新たなマネタイズモデルの構築が必要

2018年8月21日、“Pop & Tech”をテーマにしたイベント「YouGoEX」において、アニメ関連企業と異業種のマッチングを目指すABPF(アニメビジネス・パートナーズフォーラム)と、CiP(コンテンツ・イノベーション・プログラム)協議会が、「世界にチャレンジする日本のデジタルアニメーション」というカンファレンスを開催。ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役の塩田周三氏と、神風動画 代表取締役の水崎淳平氏の2人が、CGのトレンドやアニメ業界の未来について意見を交わした。

CGのトレンドは“Non-Photoreal”

カンファレンスの冒頭、まずは両氏から自社の紹介が行われた。

ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役の塩田周三氏

塩田氏「ポリゴン・ピクチュアズはコンピューターグラフィックスを用いてアニメーションを作るという目的のために作られた会社。1983年に創業し、今年で35周年を迎えました。私の認識が正しければ、世界最長寿のデジタルアニメーションスタジオです」

ポリゴン・ピクチュアズはCGアニメーションを作るアプリケーションの開発や、エンターテインメントにおけるアニメーションの本格的活用、日本アニメにおけるCGの活用を行ってきた。最近の作品では、アニメーション映画『GODZILLA』三部作を手がけており、2018年11月には第三章『GODZILLA 星を喰う者』を公開する予定だ。

『GODZILLA 星を喰う者』予告映像
神風動画 代表取締役の水崎淳平氏

水崎氏「神風動画は“紙を使わないでアニメーションは作れるのか”という命題のもとで事業をスタートさせた会社です。法人としては15年、個人事業として2~3人でやっていた時期をカウントすれば、約20年が経過しました。テレビアニメのオープニングやミュージックビデオ(MV)など3~4分の映像制作が多く、最近ようやくアニメ映画『ニンジャバットマン』で長編にもチャレンジしたところです」

紙を使わないアニメーション制作に挑戦している神風動画。社内には、アニメを描くための紙が1枚もないのだという。

『ニンジャバットマン』予告映像

両社ともデジタルでスタートした映像制作会社だが、近年はデジタルツールによる作画が一般的になってきたこともあり、デジタルとアナログの境界はあいまいになってきた。新しいタッチのアニメ作品が生まれ、今までにないような表現の可能性も生まれているそうだ。

塩田氏「アメリカで行われるCGの国際会議・SIGGRAPH(シーグラフ)では、最近『NPR(Non-Photorealistic Rendering)』について取り上げられることが増えました。Non-Photorealとは“非写実的”ということ。これまでCGの世界では、実際の世界に存在するものをいかにして描写するかを競ってきていましたが、今はいかにして手描きのような絵を描写するかを競うように変化しています。これはおもしろい展開でしょう」

たしかに、アニメやゲームでは手描きイラストのようなCGが増えてきた。おそらく、バーチャルYouTuberなども、Non-PhotorealなCG表現に含まれるのだろう。

最近では『BLAME!』や『亜人』シリーズ、『シドニアの騎士』など、Non-PhotorealなCGアニメ作品を手がけているポリゴン・ピクチュアズだが、最初から非写実的な表現を目指していたのだろうか。

塩田氏「私が会社にジョインしたのは1996年です。ちょうどデジタルコンテンツバブルとでも言いますか、PlayStationが発売されたあとで、日本が市場をけん引している“ワクワク”のさなか。しかし、バブルは続かず、次に挑戦したハリウッドフィルムでも思うような成果を上げることができませんでした。まともにやっちゃ勝てん。そう思いましたね」

それでも勝つための手段を模索した塩田氏。そこで、Non-Photorealに行き着いたという。

塩田氏「CGの得意なリアルな表現より、ちょっとハズすほうが勝てるのではないかと考えました。あえてガチガチのポリゴンのままにしたり、動きをカクカクに作ったりと、試行錯誤を繰り返しているうちに1つの完成形が見つかりました」

その完成形が『ストリートファイター』シリーズにおける絵画調の映像だ。

塩田氏「『ストリートファイター』の映像が世界的な反響を呼び、海外からの受注も増えていきました。そこで、ディズニーの『トロン:ライジング』という映像を手がけることになるのですが、同作で目指したのが『描き手のデザインをいかにCGらしくないように見せるか』ということ。なかなか大変でしたが納得のいく作品が完成し、これができるなら日本のアニメもCGでできるのではないかと思っていたところ、アニメ『シドニアの騎士』の制作が始まったのです」

こうして、コミック原作『シドニアの騎士』のアニメ制作を担当することになったポリゴン・ピクチュアズ。さまざまなチャレンジを繰り返すことで、「ハリウッドに正面から立ち向かうのではなく、2Dらしいルックで勝負したほうが勝てる」と、Non-PhotorealなCG表現に行き着いた。

水崎氏「私たちは20年前から、ポリゴンに絵を貼り付けてみたり、セル画に見えるようなレンダリングの仕上げをしてみたりして、手描きで嫌われがちな瓦礫をアニメ的なCGで表現するなど、実験的な取り組みをしていました」

神風動画は「アニメ表現をデジタルで制作できるのか」という考えでスタートしたため、当初からNon-Photorealな表現を目指していたという。

水崎氏「レギュラー案件のような形でゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズのお仕事をいただくようになったのですが、鳥山明先生のキャラクターデザインを再現するためには2D的な映像を作る必要がありました」

ゲームやアニメのオープニングなどを中心に手がけている神風動画にとって、原作や本編のイメージを再現するためにも、Non-Photorealな表現は自然なことだったのだろう。

ちなみに、本稿の内容とは関係ないが、神風動画の作品で個人的におススメしたいのがアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』後半のオープニング。映像の迫力もさることながら、物語がクライマックスに近づくと、従来のオープニングとは最後の部分だけ異なり、ディオが突然オープニング中に「ザ・ワールド」を使うのだ。何を言っているのかわからないと思うが、ここにはありのまま起きたことを書いている。

国産の作品を意識し、他業界と連携していくことが、日本アニメの生きる道

NPRという手描き風CGを武器にアニメーションを制作している両社。ポリゴン・ピクチュアズは海外作品の映像を手がけたり、神風動画は『ニンジャバットマン』が海外で話題を読んだりと、活躍の場は国内に留まらない。日本のアニメが世界で認められるためには、何が必要なのだろうか。

塩田氏「我々はアニメとは完全に別物だと思われていたので、ゲーム業界やイベント映像などが主な取引先でした。そのため、海外に販路を求めたのです。丁寧な仕事、納期の順守、付加価値の提供によるコストパフォーマンスの高さなどが評価されたように思います。そして、いざ日本で『シドニアの騎士』をやろうと考えたとき、Netflixが大きな力をつけており、そこに注目しました」

ポリゴン・ピクチュアズが『シドニアの騎士』を手がけようとしていた頃は、Netflixが「日本のアニメを世界に流してみよう」と考えていたタイミングでもあった。

塩田氏「ビデオの配達からネット上での映像配信に事業を移行させる際、Netflixでは多くのテレビ関係者を採用しました。そのなかには我々が海外で一緒に仕事をしたことのある知り合いが多かったこともあり、Netflixとスムーズに連携することができました。世界に向けたネット配信は非常にいいチャンスだと思います。今まで海外のオタクは、ネットの違法ダウンロードで日本のアニメを探すしかありませんでした。しかし、それは作品を届けられていなかった日本の業者にも問題があったように思います。ようやくリーガルに視聴できる環境が整ったことで、アンダーグラウンドに潜んでいたオタクたちが出てきているのではないでしょうか」

海外の仕事で得ていた信頼がNetflixとの連携につながり、『シドニアの騎士』は世界へ配信されたのだ。

水崎氏「私は元々、国内アニメの低い予算で、無理して生活を切り詰めながら制作をすることに違和感を覚えていたので、国内発案のアニメに乗っかるつもりはあまりありませんでした。密度高く詰め込むという神風動画ポリシーを維持しながら長編を作成するのは無理だと考えていたため、『ニンジャバットマン』もはじめは乗り気ではなかったのですが、説得されてパイロットの5分映像を制作したところ、『本編楽しみにしているよ』と言われ、いつの間にかやる流れになって……。とりあえず20分のものを作ってみようとスタートし、最後のほうは引くに引けなくなってしまい、完成してしまいました」

Netflixをきっかけに世界へアニメを配信した塩田氏と、『ニンジャバットマン』で海外で名が知れ渡った水崎氏。形は違えど、「丁寧な仕事が評価されてネットワークが構築される」「密度の高いハイクオリティな映像描写が認められる」と、どちらもコンテンツに対する妥協のない姿勢が生み出した結果と見て取れるのではないだろうか。

また、海外でアニメが認められるようになると、世界中で「アニメっぽいけどアニメではない」作品が制作されるのだという。

塩田氏「寿司のようなものです。江戸前寿司職人からすると、カリフォルニアロールは寿司ではないと感じるかもしれませんが、現地の人からすれば寿司ですからね。そのため、今後日本の制作者は、差別化をするだけでなく、海外と組んで新たなジャンルを創造するなど、試行錯誤が求められるようになるでしょう。私としては、アニメというジャンルから出たいと考えています。アニメと名前が付いた途端、予算が限定的になってしまうので」

水崎氏「たしかに、アニメも寿司のようになっていくかもしれません。ただ、『アニメってどの国のものだっけ』と思われるようになるのが怖いですね。我々は元祖として、『日本アニメはやっぱ違うわ』と思われるように、存在感を示していきたいと思います。そのために必要なことは“国産”にこだわることではないでしょうか。最近ではアニメの制作工程を海外に発注することが一般的ですが、その結果、日本のクリエイターが育たなくなってきている気がします。海外に発注する理由はもちろん安いから。徐々にアニメは安いという考えはなくなってきていますが、しっかりと予算を考えていただき、業界を育てていきたいですね」

塩田氏「アニメーション業界の状況はよくなってきていますが、私はコンテンツを作る身として、視聴する行為に対して金銭的な価値が生まれにくくなっていることに危機感を覚えています。配信などで月額制が普及するにしたがって、個別のコンテンツを視聴することに対してお金を払う行為が少なくなってきましたよね。そのため、今後は映像を届けるだけでなく、体験などに変えて、マネタイズしていくことが重要だと思います。ゲーム業界やプロダクト業界などとつながっていかなければ、未来はないでしょう。この国でできることはまだまだあります。他業界と組みながらコンテンツおよびその入れ物を再定義しながら、世界に展開していければと考えています」

海外で認められるからこそ、世界中でアニメが制作されるという状況が生まれる可能性がある。そのときに、「これが日本アニメだ」と絶対的なポジションを確立できるかは、クリエイターの腕にかかっているだろう。高い予算を獲得すること、新たなマネタイズの仕組みを構築することなどを通じて、才能を伸ばす場を整えて、多くのスタークリエイターが生まれることを願うばかりだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。