ガチャ並みの大博打になっている「保育所不足問題」

カレー沢薫の時流漂流 第5回

ガチャ並みの大博打になっている「保育所不足問題」

2018.09.03

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第5回は、「保育所不足問題」について

今回のテーマは「保育所不足問題」である。

「保育所ガチャ」が実装されている国、日本

保育所不足と言えば2016年の「保育園落ちた日本死ね」騒動が記憶に新しいのではないだろうか。言葉のチョイスが若干ロックすぎて賛否両論を引き起こしてしまったが、そんなオブラートに包まなさすぎな文章だったからこそ切実さが伝わり、大きな話題になったとも言える。

もし私みたいなのに書かせたら、「日本おタヒりになられた方がよろしいのではないかと思わなくもないような気がする」等のフニャフニャ文章になって、何にも伝わらなかっただろう。

今までのコラムでも再三言ってきたが、日本は深刻な少子高齢化により、年金問題や労働力不足などの問題を抱えている。それを打開するために、国はまず少子化の改善をめざしており、そして働ける奴は老いも若きも全員働いてくれと言っているのだ。

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しかし「保育所不足」というのは、その両方を頓挫させる話である。

まず、子どもを産んだは良いが預けられる保育所が見つかるかどうかわからないという「保育所ガチャ」が実装されていて、それに挑むのが常識になっているのがすごい。いきなりギャンブルである。この時点で、慎重な人は「やめておこう」となってもおかしくない。

それを押して「大博打の始まりじゃあ!」と「真田丸」の草刈正雄並の気合いで子どもを産み、「保育所落ちた、頼る実家などもない、困った」という状況になると、「なぜそうなる可能性があるとわかっていたのに、ちゃんと準備をせず子どもを産んだのか、自己責任だ」と、少子化に直接的貢献をした人に対し、まるで貧乏人が無計画にぜいたく品を買ったかのような責め方をするのがこの国である。これは「半分、青い」級の「死んでくれ」が出てもおかしくない。

「子どもを持つと生きづらくなる国」というイメージ

少子化の一番の原因は、価値観と選択肢が多様化したためであろう。よって、どう頑張っても「大人になったら結婚して子供を産むこと」が当たり前だった時代まで出生率が戻ることはないだろうが、それとは別に、上記のような「この国で子どもを作ったらひでえ目に遭う」というイメージがあるのも問題な気がする。

日本というのは、保育所はないわ、ベビーカーは舌打ちされるわ、育休取ろうとしたら机に花置かれるわ、妊婦が外に出ようものなら、腹にローリングソバットを食らう国なのだ。

もちろんこれは、私がインターネットの中でも地獄中の地獄であるツイッターに一日64時間張り付いているが故の偏見なのだが、こういった「子どもを持つと生きづらくなる国」というイメージが日本にあるのは確かなのである。

イメージ、というのは大事だ。世の中、「絶対子ども作る勢」と「作らない勢」だけではできていない。「どっちでもいい勢」からすれば、「良さそうな方」を取りたいものだ。

そこに「子どもを持つとこんな嫌なことがありますよ」と地獄のモデルケースばかりを見せられたら、「やめておこう」となってしまうだろう。今の日本は子どもを持つことによる良い例より、悪い例の方が目立っているのだ。

そんな地獄例の一つが、冒頭の「保育所不足問題」である。何故そんなに子どもを保育所に預けて働きたいか、というと理由はさまざまにあるだろうが、多くが「生活のため」。つまり、保育所が見つからない=働けない=貧困という、凄まじくわかりやすい地獄が展開されてしまうのだ。

「やってられるか」と言わせてしまう保育士の現状

先述の通り、「少子化解消と労働力の確保」に対しこの「保育所不足」は相反しすぎなため、国も保育所不足解消には乗り出しているようだ。施設自体の不足も原因のひとつだが、「保育士の不足」が大きな問題になっているという。

だが保育士の資格を持っている人が少ないのか、というとそうではなく、資格は持っているが保育士の仕事をしていない「潜在保育士」が76万人もいるという。

何故、資格を持っていながら保育士をやっていないか、というと理由は諸般あるだろうが、「やってられるか」となってしまった人が多いのでは、と目されている。

何故なら、保育士という仕事は、アレルギー、発達の遅れ、身体・精神障害など広範な医療的ケア、長時間保育など、昔よりも求められることが格段に増えているのである。しかし、給料は変わらない。つまり「給料が安くてきつい仕事」になっているのだ。そのため、一度保育士になっても、その割の合わなさから保育士業界から離れてしまう人が多いのではと言われている。

単純に、保育士にその業務に見合った給料を支払えば、状況は改善するだろう。だが、これから子どもの数は確実に減ると言われているのだ。保育所の運営自体、景気が良い状態とは言いがたいだろう。少なくとも、個々の園の力で保育士の待遇を改善する、というのは不可能な気がする。何にせよ「保育所不足問題」は、国の施策なしでは解決しない問題だ。

ともかく、生まれた瞬間、一世一代の大博打が始まったり、「運よく近くに面倒を見てくれる親がいる」などの“選ばれし者”にしか余裕を持って育てられないというイメージが日本にあるうちは、少子化改善は難しいだろう。

あの地獄のツイッターさんで、連日「まだ子供持つのが大変とか言ってるの?」などという煽りが見られる国にならなければいけない。

■本連載は毎週月曜更新です。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

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